やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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少年よ違和感を抱け

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 アイリーン・ベーカーの名前は一日に必ず一度は耳にする。それは父上からの「最近アイリーン嬢とはどうだ? 仲良くやれてるのか?」といった子供同士の距離感を掴みたい質問だったり、母上からの「娘が出来たら一緒に行きたい所があるのよね~」なんていう早すぎる相談だったりする。

だからせんせーからその名前が出てきても特に驚きはしなかった。

「そういやお嬢は元気してんのかね?」
ハワード・ランドルフせんせー。魔法学の分野において最年少の天才と世間を騒がした苦学生。現在は俺の家庭教師としてここギルバート家に住み込みで働いている。
「元気みたい、手紙に書いてたし」
「ほぉよくあの汚ぇ字で読んでもらえるな~」
「せんせーのいじわる!!」
これでも少しは上手くなったはずだ。アイリーンに以前解読不可とだけ返事を出され堪えた俺は何度も書き取りの練習をしてちょっと汚いかな程度には書けるようになった。
「お嬢は普段手紙に何書いてんだ? どうせ小難しい言葉並べてんだろ、ブラウンに理解出来んのかねぇ」
「大丈夫だ、読めない字は読み仮名振ってもらってる」
「それはそれはご丁寧に」
どうしてせんせーは肩をふるわせてるんだろう? 寒いのか?

「この前ワイアット家に遊びに行ったって書いてあった」
俺はワイアット家と交流ないけどその家には俺より一つ下の男の子がいると父上から聞いていた。カイスだったか? そいつと仲良くなったらしいアイリーンはアイザック義兄上を連れてよく訪れているようだ。
「何だしょぼくれて、拗ねてんのかい」
「拗ねてねぇし!」
ただ俺ばかり会えないのがずるいだけだ。ベーカー家とギルバート家は結構距離があるので頻繁には遊びに行けない。


 最近アイリーンの周りに人が増えた気がする。ワイアットの坊ちゃんもそうだが元々家同士仲のいいダミアン家にもよくお邪魔しているらしい。ダミアン家は確か二人兄妹だった、妹の方はうろ覚えだけど兄貴の方はしっかり記憶に残っている。

クロード・ダミアン。義兄上と仲がいいので目立つのだ。直接話したことはない。
聞けば剣術の腕もいいらしい。一度手合わせ願いたくて覚えていたのだ! 強いだろうな~まぁ負ける気しねぇけど。
「せんせー、クロードって奴のこと知ってる?」
「あぁダミアン家のか。何でも文武両道に出来る秀才児らしいな」
あいつ勉強も出来るのかよ!?
「お、俺とどっちが」
「そりゃダミアン家の坊ちゃんだろうな」
それはまずい、とてもまずい気がする。アイリーンはきっと頭のいい方が好きだ。「お馬鹿な方はちょっと.......虫唾が走るので」なんて言われかねない!!

「せんせー俺勉強するっ!!」
「そうかそうか」
これがせんせーの作戦だと気づくのはもう少し後のこと。









 俺はアイリーンのことをどう思っているのか、正直自分でもよく分からない。

良い奴だとは知っている。

この前だってギルバート家で盗難事件が起こった時力を貸してくれた。あの事件のてんまつを誰も教えてくれないので詳しくは分からないが、父上は「お嬢様に感謝状を出しておいたよ」と言っていたのでアイリーンが噛んでいるのはまず間違いない。教えて貰えないのはきっと俺がまだ子供だからだ。でも、アイリーンも同い歳なはずなのに。そこを思うと少しだけ情けなくなる。
それでもアイリーンから貰ったアドバイス通り俺からも父上母上にプレゼントしたら凄く喜ばれた、俺も嬉しかった。あいつは本当に周りをよく見ている。
俺の気づかないことや俺だけじゃない誰かが自分でも気づいていないような事までしっかり見ていてくれる。あいつは自分を優しい人間じゃないと言っていたが俺からすれば十分すぎるくらい温かく優しい.......これは褒めすぎたな、やめよう。




逆にアイリーンは俺の事好きだろうか?  うん、絶対ないな。あいつ俺の事子供扱いしてるし会う度に成長を喜んでいるから多分親戚の子供みたいな立ち位置なんだろう、腹立つ。



悪人面のアイリーン。
悪巧みした時の顔がアルフレッド公にそっくりなアイリーン。
義兄上が大好きすぎるアイリーン。
従者と仲がいいアイリーン。
褒められるのに慣れてないアイリーン。
照れた顔は結構幼いアイリーン。

色んなアイリーンを俺は知っているのに、最近俺の知らないアイリーンの話ばかり耳にする。




 アイザック義兄上に近づいた人を虐めた、アイリーンのワガママのせいでせっかくのパーティーが台無しになった。難癖をつけて女の子を泣かした。

アイリーンのせいで、アイリーンのワガママが、アイリーンは悪女だ悪いヤツだ。そんな噂ばかりが流れている。

「せんせーアイリーンってもしかして二人いるのか?」
「何馬鹿な事言ってんだ?」
俺のナイスな仮説は即効で否定されてしまった。



でも、本当にこれが真実ならあいつに新しい友達なんて出来るものか?
俺は疑問に思うとどうもそればかりに気を取られてしまうようで、今日もぼーっとしてるぞ、ってせんせーに沢山叱られた。

「アイリーンのやつ何考えてんだろ」



俺の知らないアイリーンがまだまだいる。それはきっとあいつが意図的に知らせようとしてないのだ。

仮にも婚約者なのに相談もなしかよ。今日も平和に穏やかな気持ちで過ごしたなんて書かれた手紙に目をやりながらため息をつく。
少しくらい頼ってくれたっていいのに。



そしたら俺だって協力すんのに、全部自分で考えて全部一人でやっちまうんだから。

「頭の良い奴ってずるいよな」
「そんなこと言うなら勉強しろ」


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