やさぐれ令嬢は高らかに笑う

どてら

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悪役令嬢の居ぬ間に⑵

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 お嬢様が傍にいない。それだけで今日何をすればいいのか分からず困り果ててしまった。お嬢様の部屋で立ち尽くす、主の居ないこの部屋同様自分の心もどこか空っぽになってしまったような寂しさが.......。
「邪魔ですよルイ、そんな所に立ってないで暇なら手伝って下さい!!」
「お嬢様の居ない今、自分など不要ということですね」
「被害妄想甚だしいです! ほらそっちのシーツ持って、午前中は洗濯に部屋の掃除新しいお洋服の新調に大忙しなんですから。それにお嬢様ならアルフレッド様とお出かけ中でしょう? すぐ帰ってきますよ」


 今日はいつも通りお嬢様と過ごそうと浮き足立っていた所を雇い主であるアルフレッド公爵に呼び出された。
「アイリーンと二人で出掛けてくるから今日は休んでいて構わないよ」
突然の休暇宣告、一瞬クビになったのかと身構えたが本当に今日だけ必要ないと言われてしまい黙って従うしかなかった。自分の仕事はお嬢様の護衛と監視、つまりお嬢様がいなければ仕事が始まらない。そして自分には趣味という趣味、いや休みという休みを取ったことがなかった。何をしていいのか分からない。それどころか何をしたいのかすら思いつかない。本当につまらない人間だと苦笑してしまう。

「あっ、そこのシーツはもっとシワを伸ばしてください」
「かしこまりました」
サラの手伝いぐらいしかやることが無い。

「午後から私は出掛けますがルイはどうしますか? 買い物についてきます?」
買い物.......。
「そういえばお嬢様の誕生日が近いですね」
「えぇ。アイザック様が人を集めてサプライズパーティなるものを計画しているらしいですよ、微笑ましいです。私たちは使用人なので影で見守るぐらいでしょうが」
ならお嬢様の誕生日は予定があるという事か。

お嬢様はパーティや人の集まる場所に赴くのが好きじゃない、自分が祝われる日ぐらい嫌な事はしたくないという本人の希望から今までアイザック様にだけ祝われてきた。父親であるアルフレッド様は後日プレゼントだけを渡しているようだがレベッカ様に至ってはノータッチ。自分やサラはその日祝いの言葉を述べたりささやかながらお嬢様の希望を一日聞いたりして過ごしていた。

だがそうなると今年は自分など不要だろう。憂鬱な気持ちがまた募っていく。

「そんな辛気臭い顔するなら連れていきませんよ」
「じ、自分もお嬢様の誕生日プレゼントを用意してみたいです」
喜んで貰える自信はないけれど。












サラに連れてこられたのは彼女がよく通っているらしいメルーナという店。異国の品を手当り次第集めている風変わりな店主がいるらしい。
「ユエル様は少々おかしな方ですが優しくて素敵ですよ」
お嬢様曰く春の到来らしい二人の関係性は自分にはよく分からない。店に入るとユエルさんらしき人物が笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃい。おや今日は連れがいるんだね? 弟さん?」
明らかに似ていない自分とサラを敢えて兄弟にする事にどこか思惑を感じる。気のせいか?
「いいえ同じお嬢様に仕える同僚です。今日はそのお嬢様の誕生日が近いので何かプレゼントをと思いまして」
「同僚の方でしたか、初めましてユエルと申します。サラ様にはいつもご贔屓にして頂いているので大変助かってるんですよ」
「ルイです。サラには自分もよく助けられてます」
初対面の方と話すのは苦手なのでとにかくサラを話題に上げておく。これで大丈夫だろうと安堵した矢先ユエルさんの鋭い眼光が突き刺さった。何故睨まれてるんだ!?
こんな時お嬢様がいれば今相手がどう思っているのか説明してくれるのに.......。サラが仲良くしている人物に失礼を働いてしまっては彼女にも申し訳ない、慌てて頭を回し次を考える。
「ゆ、ユエルさんの話はサラからもよく聞いていて.......凄く素敵な方だと」
「ちょっとルイ!? 本人の前でそんな恥ずかしい話」
「是非詳しく聞かせて下さい。お時間を取らせる代わりに商品は値引きしますので」
あれ何か機嫌が良くなった? 上手くいったようだ。少し思考が読めないけれど割引きもしてくれるなんて優しい方なのかもしれない。サラの話をたどたどしくしていると真っ赤な顔をした本人が「目的を忘れてませんか?」なんて怒り気味に言ってきたので慌てて店内を見渡した。名前も知らないような商品がほとんどで何の用途に使われるのかすら想像出来ない。
「これは何でしょう?」
「将棋盤ですね、将棋という東方に伝わる盤ゲームがあるんですよ。チェスと似ていますが」
お嬢様はチェス好きだったなぁ。自分がやるとすぐ負けるので相手にならなかったが。
「これ買えばお嬢様が一緒に遊んでくれますかね」
「貴方ちょっとはお嬢様離れしなさい。あらこっちのアクセサリーお嬢様によく似合うんじゃないかしら」
「そちらは簪です。確かお嬢様というのは黒髪でしたよね? ならよく映えると思いますよ」
サラは早くもかんざし? というものをプレゼントに決めたらしい。自分はどうしよう.......。いっそ派手な服でも、いやお嬢様の喜びそうな装いが分からない。
「これは?」
目に止まったのは数十本の細い木材を束ね、柄の入った紙を貼られている摩訶不思議な物。
「扇子ですね。これは竹と呼ばれる木を骨組みに使い、こうやって風を仰ぐための道具になっています」
そう言ってユエルさんはその扇子とやらを広げて見せてくれた。扇形の紙は赤を基調として骨組みは黒のシックな見た目になっている。お嬢様、似合いそうだなぁ。これを扇ぎながら「邪魔ですのよ愚民共」なんて高笑いしてそうだ。

「これください」
「はいお買い上げありがとうございます」
プレゼント用に包んでもらい、まだ話したそうなサラだけを残し自分は一人帰路につく。これを渡した時のお嬢様を想像すればいつの間にか空虚だった気持ちが晴れていた。これでもう寂しくなんて、あぁそうか。

自分はどうやら今日一日寂しかったらしい、なんて気づくのにこんなに時間がかかってしまった。
お嬢様に話したら笑われる。早く帰ろう、もうアルフレッド様と帰宅している頃だ。






 アルフレッド様の書斎に直接足を運んでいるはずのお嬢様を探した。
「アルフレッド様、ルイが戻りました」
書斎にはアルフレッド様だけが居る。肝心のお嬢様はもう自室に戻られたのか姿が見えなかった。
「やぁルイ、いい所に帰ってきたね。ちょうど君を呼び出そうとしていたんだ」
やけに顔つきが真剣なアルフレッド様。嫌な予感が身体を冷やしていく。





「アイリーンが攫われたらしい」

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