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第三章 Hello, my friend
第68話 夢が夢なら
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記憶を取り戻した丹代さんに関しては、今後十一夜家による聞き取り調査が飛躍的に進むことになるだろう。そうなれば自動的にわたしのTS事情も明らかにされる。
ここはわたしも腹を括らねばなるまい。いよいよ十一夜君に本当のことを洗い浚い話すときが来たのだ。
そこでわたしは、丹代さんと別れてからすぐに、十一夜君と二人だけで会う算段を付けた。
丹代さんが帰った後、十一夜君がレストランまで迎えに来てくれて、バイクでいつものスタバに来た。
「それで、どうだった、丹代さんの話は?」
席に着くなり十一夜君が切り出してきた。
恐らくお得意の盗聴も盗撮もなしだったので、気になって仕方なかったであろうことは容易に想像できる。
それでわたしも覚悟を決めて十一夜君にすべて話すことにした。
「うん……十一夜君……」
「ん?」
十一夜君はコーヒーに手をやってから顔を上げ、少し首を傾げている。
「丹代さんのことを話す前に、まずわたしのことを話す必要があって……いいかな?」
「おお、どうしたの?」
鷹揚な雰囲気でそう訊かれると、これから話すことで十一夜君との関係がどうなってしまうのか怖くなる。
「十一夜君が前に、女子から男子に変わってしまったことを話してくれたじゃない?」
「え? あぁ、うん」
「黙ってたけど、わたしも同じなんだ……」
「は?」
まあそうなるわな。さあいよいよ言うよ。
「わたしは元々男だったのに、高校に上がる前に何故か女子化してしまったんだよ……」
「……っ! 何だって? 華名咲さんが性転換者?」
流石に十一夜君も面食らったのか、表情が驚いたまま固まっている。
「黙っていてごめんね。……わたしが元男だと分かったら、十一夜君は気楽に話し難くなるんじゃないかと思って、言えなかったんだ」
十一夜君は氷漬けにされた海産物のようにカチンコチンに固まったままピクリとも動かない。呼吸すらも止まってしまったのではないだろうかと心配になるほどだ。
わたしは電子レンジで生ものを解凍しているような心持ちで、十一夜君が解れるの待った。
「……っ、ごめん。びっくりし過ぎて再起動するのに時間が掛かった。まさかそんな冗談を言うとも思わないけど、本当のことなんだよね?」
「うん、本当のことだよ。……最初は太ったのかと思って走り込みをしていたんだけど、その後何日か高熱が続いてね、その間に女の子になっちゃったんだよ……まあ完全に今の体になるのには暫くかかったんだけど。それで、本当は父の仕事の都合で家族と一緒にパナマに引っ越す事になってたのに、わたしだけ残って、中学まで通った翔華学院から同系列の桜桃学園に編入することになったの」
場をもたせようとしてか、或いは分かって欲しい一心だったのか、わたしは訊かれもしないのに、自分の体が変化したときのことについてペラペラと話した。
「何だって? たったの何日かで、華名咲さんの体は女子化したのか?」
意外にも十一夜君の反応は、わたしの変化に要した時間に対するものだったようだ。
「……そうだけど……もしかして、十一夜君は違ったの?」
「うん、僕は小学校四年生から五年生に掛けてだったかな。徐々に徐々に……その……股間に変化が……」
十一夜君は、女子の前という意識からか、言い難そうにしている。わたしはこう見えてこの前まで男だったのだから、全然平気なんだけど。
「あ、言い難いかもしれないけど、ついこの間まで男だったから、割と平気だよ」
そう伝えて、十一夜君には気にしないで話すようにしてもらった。
話を聞けば十一夜君の場合、ちょうど第二次性徴期の期間に、少しずつゆっくりと変化が表れたらしい。
小学生のうちに男になったので、今や感覚はほぼ男だそうだ。ただ、女の子だったときのセンスがなくなったわけでもなく、文字だったり、かわいいもの好きだったりするところが、女子のときのままな部分があるらしい。
だから、もし戻れるものなら女子に戻りたいのだが、恐らくそれが実現するときには、女子に戻る感覚よりは寧ろ、わたしが女子になった感覚に近いのではないかと思うとのことだ。
それにしても、丹代さんはMSの実験台にされて女子化してしまったというが、十一夜君は一体どうしてそんな目に遭ってしまったのだろう。わたしと同様、謎の性転換なのだろうか。MSが言うところの神秘というやつなのか、或いは何らかの人為的なものなのか……疑問だ。て言うか抑々わたしのTSが一番謎じゃんね。
因みにわたしも十一夜君も、今のところ戸籍などの公的な書類上は、元の性別のままだ。そんなようなTSあるある的な話でちょっと盛り上がる。さっきまでの十一夜君のフリーズ状態とわたしの緊張感は何処へやらだ。
でもよかった。わたしのことを話したら、十一夜君にとって心を許せる女友だちがいなくなってしまうのじゃないかと心配していたのだが、蓋を開けてみれば寧ろ距離が近くなったような気がする。
それからわたしは、MSの人体実験のこと、丹代さんの男子化との関係、ご両親のこと、そして手紙のことなど、丹代さんと話したことをすべて十一夜君に伝えた。
「これがわたしが丹代さんから聞くことができたすべて」
「かなりの情報を引き出せたね。何より丹代さんの記憶を呼び戻せたのは大きい。更に詳細な情報を引き出すことも可能だと思うよ」
「よかった。丹代さんはわたしの女子化のことをどうしても確かめたいって言う気持ちが、それだけ強かったんだね……。結果的に期待を裏切っちゃったけど……」
「う~ん。まあでも、それはしょうがないだろうね」
「ねぇ、丹代さん……これからどうなるの?」
「あぁ、本人の意思も確認した上でだけど、まだ当分は保護が必要なんじゃないかな。丹代さんの父方の祖父は亡くなっていて、祖母に預けるのは少し心許ない。組織から保護するという面でね。母方の方は祖父母とも健在だし、大企業の経営者だ。問題は、丹代さんの母親との繋がりが強いってことだ。母親はその会社でバリバリ働いているからね。丹代さんのご両親を何とかしないことには、丹代さんも安全を得られないな。皮肉なことだけど……」
十一夜君はそう言いながらも、何処か距離を置いているように感じる。つまり、丹代さんの家庭の事情にまでは踏み込んで何かをするようなことはしないというはっきりした意思を感じた。
きっと以前の自分なら、そんな十一夜君の様子を冷たいと感じたかもしれない。でも今は何となく分かる。
十一夜君は自分の領分でないことをきちんと線引できる。あれもこれもとできることもできないこともごちゃ混ぜにして、ものごとを有耶無耶にしたりしないのだ。そうではなく、できることをきちんと責任をもって果たす。
それから暫く他愛もない話をして、十一夜君に家まで送ってもらった。
今後、麻由美ちゃんや進藤君の義妹さん辺りの情報も集まってくるはずだが、丹代さんから得た情報はそれらを結ぶ鍵になるに違いない。
そう言えば、細野先生のじっちゃんの武蔵さんも協力してくれるのだった。
じっちゃんはあの後早速十一夜君に連絡してきたそうだ。今日のこともすぐに情報共有されるだろう。
まだ何一つ解決したわけではないが、気持ちの上では今日は大きな節目になるような気がしている。大きな荷が一つ降りたような、そんな心持ちだ。
その晩、久し振りに夢を見た。夢の中には十一夜君が登場したのだが、具体的な内容はちょっと自分としては恥ずかしくて明かせない。決してエロとかそういうことじゃないのだけど、やっぱり恥ずかしい。
だけど心地よい眠りだったのか、珍しく寝過ごしてしまい、朝の習慣であるジョギングをサボってしまった。
目を覚まそうとシャワーを浴びていて、ふと思い出した。
「あ、そう言えば丹代さんに、秘密結社うさぎ屋のことを訊くの忘れてた」
ここはわたしも腹を括らねばなるまい。いよいよ十一夜君に本当のことを洗い浚い話すときが来たのだ。
そこでわたしは、丹代さんと別れてからすぐに、十一夜君と二人だけで会う算段を付けた。
丹代さんが帰った後、十一夜君がレストランまで迎えに来てくれて、バイクでいつものスタバに来た。
「それで、どうだった、丹代さんの話は?」
席に着くなり十一夜君が切り出してきた。
恐らくお得意の盗聴も盗撮もなしだったので、気になって仕方なかったであろうことは容易に想像できる。
それでわたしも覚悟を決めて十一夜君にすべて話すことにした。
「うん……十一夜君……」
「ん?」
十一夜君はコーヒーに手をやってから顔を上げ、少し首を傾げている。
「丹代さんのことを話す前に、まずわたしのことを話す必要があって……いいかな?」
「おお、どうしたの?」
鷹揚な雰囲気でそう訊かれると、これから話すことで十一夜君との関係がどうなってしまうのか怖くなる。
「十一夜君が前に、女子から男子に変わってしまったことを話してくれたじゃない?」
「え? あぁ、うん」
「黙ってたけど、わたしも同じなんだ……」
「は?」
まあそうなるわな。さあいよいよ言うよ。
「わたしは元々男だったのに、高校に上がる前に何故か女子化してしまったんだよ……」
「……っ! 何だって? 華名咲さんが性転換者?」
流石に十一夜君も面食らったのか、表情が驚いたまま固まっている。
「黙っていてごめんね。……わたしが元男だと分かったら、十一夜君は気楽に話し難くなるんじゃないかと思って、言えなかったんだ」
十一夜君は氷漬けにされた海産物のようにカチンコチンに固まったままピクリとも動かない。呼吸すらも止まってしまったのではないだろうかと心配になるほどだ。
わたしは電子レンジで生ものを解凍しているような心持ちで、十一夜君が解れるの待った。
「……っ、ごめん。びっくりし過ぎて再起動するのに時間が掛かった。まさかそんな冗談を言うとも思わないけど、本当のことなんだよね?」
「うん、本当のことだよ。……最初は太ったのかと思って走り込みをしていたんだけど、その後何日か高熱が続いてね、その間に女の子になっちゃったんだよ……まあ完全に今の体になるのには暫くかかったんだけど。それで、本当は父の仕事の都合で家族と一緒にパナマに引っ越す事になってたのに、わたしだけ残って、中学まで通った翔華学院から同系列の桜桃学園に編入することになったの」
場をもたせようとしてか、或いは分かって欲しい一心だったのか、わたしは訊かれもしないのに、自分の体が変化したときのことについてペラペラと話した。
「何だって? たったの何日かで、華名咲さんの体は女子化したのか?」
意外にも十一夜君の反応は、わたしの変化に要した時間に対するものだったようだ。
「……そうだけど……もしかして、十一夜君は違ったの?」
「うん、僕は小学校四年生から五年生に掛けてだったかな。徐々に徐々に……その……股間に変化が……」
十一夜君は、女子の前という意識からか、言い難そうにしている。わたしはこう見えてこの前まで男だったのだから、全然平気なんだけど。
「あ、言い難いかもしれないけど、ついこの間まで男だったから、割と平気だよ」
そう伝えて、十一夜君には気にしないで話すようにしてもらった。
話を聞けば十一夜君の場合、ちょうど第二次性徴期の期間に、少しずつゆっくりと変化が表れたらしい。
小学生のうちに男になったので、今や感覚はほぼ男だそうだ。ただ、女の子だったときのセンスがなくなったわけでもなく、文字だったり、かわいいもの好きだったりするところが、女子のときのままな部分があるらしい。
だから、もし戻れるものなら女子に戻りたいのだが、恐らくそれが実現するときには、女子に戻る感覚よりは寧ろ、わたしが女子になった感覚に近いのではないかと思うとのことだ。
それにしても、丹代さんはMSの実験台にされて女子化してしまったというが、十一夜君は一体どうしてそんな目に遭ってしまったのだろう。わたしと同様、謎の性転換なのだろうか。MSが言うところの神秘というやつなのか、或いは何らかの人為的なものなのか……疑問だ。て言うか抑々わたしのTSが一番謎じゃんね。
因みにわたしも十一夜君も、今のところ戸籍などの公的な書類上は、元の性別のままだ。そんなようなTSあるある的な話でちょっと盛り上がる。さっきまでの十一夜君のフリーズ状態とわたしの緊張感は何処へやらだ。
でもよかった。わたしのことを話したら、十一夜君にとって心を許せる女友だちがいなくなってしまうのじゃないかと心配していたのだが、蓋を開けてみれば寧ろ距離が近くなったような気がする。
それからわたしは、MSの人体実験のこと、丹代さんの男子化との関係、ご両親のこと、そして手紙のことなど、丹代さんと話したことをすべて十一夜君に伝えた。
「これがわたしが丹代さんから聞くことができたすべて」
「かなりの情報を引き出せたね。何より丹代さんの記憶を呼び戻せたのは大きい。更に詳細な情報を引き出すことも可能だと思うよ」
「よかった。丹代さんはわたしの女子化のことをどうしても確かめたいって言う気持ちが、それだけ強かったんだね……。結果的に期待を裏切っちゃったけど……」
「う~ん。まあでも、それはしょうがないだろうね」
「ねぇ、丹代さん……これからどうなるの?」
「あぁ、本人の意思も確認した上でだけど、まだ当分は保護が必要なんじゃないかな。丹代さんの父方の祖父は亡くなっていて、祖母に預けるのは少し心許ない。組織から保護するという面でね。母方の方は祖父母とも健在だし、大企業の経営者だ。問題は、丹代さんの母親との繋がりが強いってことだ。母親はその会社でバリバリ働いているからね。丹代さんのご両親を何とかしないことには、丹代さんも安全を得られないな。皮肉なことだけど……」
十一夜君はそう言いながらも、何処か距離を置いているように感じる。つまり、丹代さんの家庭の事情にまでは踏み込んで何かをするようなことはしないというはっきりした意思を感じた。
きっと以前の自分なら、そんな十一夜君の様子を冷たいと感じたかもしれない。でも今は何となく分かる。
十一夜君は自分の領分でないことをきちんと線引できる。あれもこれもとできることもできないこともごちゃ混ぜにして、ものごとを有耶無耶にしたりしないのだ。そうではなく、できることをきちんと責任をもって果たす。
それから暫く他愛もない話をして、十一夜君に家まで送ってもらった。
今後、麻由美ちゃんや進藤君の義妹さん辺りの情報も集まってくるはずだが、丹代さんから得た情報はそれらを結ぶ鍵になるに違いない。
そう言えば、細野先生のじっちゃんの武蔵さんも協力してくれるのだった。
じっちゃんはあの後早速十一夜君に連絡してきたそうだ。今日のこともすぐに情報共有されるだろう。
まだ何一つ解決したわけではないが、気持ちの上では今日は大きな節目になるような気がしている。大きな荷が一つ降りたような、そんな心持ちだ。
その晩、久し振りに夢を見た。夢の中には十一夜君が登場したのだが、具体的な内容はちょっと自分としては恥ずかしくて明かせない。決してエロとかそういうことじゃないのだけど、やっぱり恥ずかしい。
だけど心地よい眠りだったのか、珍しく寝過ごしてしまい、朝の習慣であるジョギングをサボってしまった。
目を覚まそうとシャワーを浴びていて、ふと思い出した。
「あ、そう言えば丹代さんに、秘密結社うさぎ屋のことを訊くの忘れてた」
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