TS女子になるって、正直結構疲れるもんですよね。

星加のん

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第四章 Love And Hate

第107話 これは恋ではない

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 友紀ちゃんと楓ちゃんとのグループトークで一緒に宿題をやろうという話が出たのが一昨日。
 それから場所をどこにするかなかなか決まらず結局図書館でということになったのが今日。
 足掛け三日がかりでようやく決まったのだった。

 なぜ場所が決まらなかったのかと言えば、お互いが譲り合ったというのが原因だ。

 友紀ちゃんのうちも楓ちゃんのうちもそれは大そうなセレブだ。我が家はそれを上回るセレブということになっているんだけど、言うほど気取った家じゃないので気楽に来てもらえると思っていた。
 ところが何故か二人からは滅相もございませんと言われてしまった。

 どうも華名咲家の敷居は相当高いと思われている嫌いがある。
 彼女たちの家みたいに執事もいなけりゃ運転手もいないんだけどなぁ……うちって。

 それで結局二人の家のどちらかにわたしが行くと言えば、今度は恐れ多いと言われてしまった。
 普段恐れ多いなんで感情は微塵も見せたことがないくせに何を今更と思ったら、自分たちが気にしていなくても家族がそうはいかないのだとか。

 本当は友達同士でお泊まり会とかちょっと憧れていたりするのに寂しい。

 そういえば聖連ちゃんのうちでお泊まり会したのになぁ……。
 あの時のことが思い出される。

 聖連ちゃんが逆上せて鼻血出したんだっけ。ププッ。
 聖連ちゃん可愛かったなぁ……。
 それでティッシュを取りに出て戻ろうとしたところで十一夜君が帰ってきて全裸を見られたんだったっ。

 あぁ~、あの頃はまだ女子になったばっかりだったし、そんなに恥ずかしく思わなかったのに……。
 今ごろになって十一夜君に裸を見られたことが恥ずかしくなって耳の先まで真っ赤になった。

 くぅっ。十一夜君には全裸を晒しているんだった。
 責任取れって言っときゃよかったわ、他の女に取られる前に……。

————ん? 今なんと?

…………ふぁーーーーーっ!?
 ちょっちょっちょっ。
 うっかり何てこと考えてんの!?
 この場合責任取れとは? え? どういう意味だ?
 他の女に取られる!?

 油断……油断してただけだよね。うっかり、うっかり口が……じゃないな、脳が滑った、みたいな?

 あーーっ。
 考えるのをやめようとすればするほど脳裏に色んな記憶が甦る。

 バイクで後ろのシートに乗った時……。
 痩せてる割に大きな背中……。
 ヘルメット越しに頬をピッタリつけて両腕を回すと安心する背中。

 耳をくすぐる少しだけハスキーだけど魅力的な声。
 いつも眠そうな目で言葉少なく話す時の喉仏の動き。骨張ってるけど繊細で器用そうな手も、赤ちゃんみたいないい匂いも……。

 まるで目の前にいるみたいに鮮明に思い浮かべることができる。
 そうするとキューっと胸の奥が締め付けられるような気持ちがした。

 十一夜君……。

 この気持ちは…………変?
 変だよね? 変に違いない!
 変だわー、わたし。

 変なこと考えてないで図書館行こっと。
 宿題に必要な勉強道具をまとめて約束の図書館に向かうこととした。

 図書館へは駅で待ち合わせて三人一緒に行った。
 中に入ると空調が程よく効いていて涼しい。
 この図書館には学習室が併設されていて、夏休みということもあり学生が大勢集まっている。

 わたしは数学の宿題として出されているプリントの山をとにかくやっつけるつもりで机の上に積んだ。

「うわっ、まさか夏葉ちゃん、今日それ全部やる気?」

 遠慮がちな声量だが驚いた様子で楓ちゃんが積まれたプリントを見ている。

「そのつもりだけど、変かな?」

 あれ、やっぱりわたしって変?

「いや、変じゃないけどそんなにやれるのかなと思って……」

 分量的な心配か。まぁ、これくらいはこなせるかなと思ってるんだけどな。

「英語のプリントは終わっちゃったし、数学はわたし早いから大丈夫じゃないかな。ま、無理だったら無理でまだ夏休みは始まったばっかしだし?」

「さ、さすが学年一位ね……」

 楓ちゃんだって確か学年で二十位以内には入ってたはずだから結構優秀な方だと思うけど。

「ここまでスペックに差があると妬む気も起こらないわ」

 そう言う友紀ちゃんもこれで成績はまあまあいい方だったはずだ。
 上位陣は点差的にはそう開きはないだろうから友紀ちゃんが言うほどのスペック差はないはずだ。

 おしゃべりをしていても時間が無駄だし周りに迷惑なので、それぞれ集中して宿題に取り組む。
 スマホのお陰で分からない点などはすぐにネットで調べられるのでそうした面では集まって勉強する意味も薄れるが、お互いに勉強している姿を見合って取り組めば頑張る気力にもなる。
 お陰でかなりいいペースで進めることができたと思う。

「ほんっとに終わらせたわ、この人……」

 楓ちゃんが驚愕の表情を向けている。

「スペックヤバい……かわいいし頭いいし最近じゃ体もエロいし……なんでも優秀すぎじゃない? 夏葉ちゃんっ」

  どさくさに紛れて体エロいって言ってるのが友紀ちゃんらしい。
 エロいってか下半身がヤバいことになってるけど、これはどっちかっていうとグロいからなぁ。

「日曜日のプールが楽しみじゃ……ひひひ」

 そういえばプールだったな。水着は買ったし防水のテーピングも届いたし準備万端だけど、友紀ちゃんのセクハラだけが不安っちゃ不安。

「友紀ちゃんのひんぬーにも一定の需要があるらしいからな。大きいお友達がいっぱいできるといいね」

「ぐぬぬっ、おのれナイスバディ怪獣めっ!」

「当日友紀ちゃんはスク水枠かなーひゃっひゃっ」

 反撃してやったら歯軋りして悔しがっているようだ。こっちは子供の時から秋菜と舌戦を繰り広げてきたのだよ。その気になれば友紀ちゃんごときに負ける気がしないのだ。

「ねぇねぇ、お腹空いたし何か食べて行かない?」

 楓ちゃんの提案に時計を見ればとっくに正午は回ってしまっている。

「そうだね。なんか食べよっか」

 わたしたちは勉強を切り上げて図書館を出た。
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