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第五章 パラレル
第139話 逃亡者
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「M/F値?」
「うん。そのガジェットに確か表示されていた項目で、僕も詳しくは知らないけどM/F値っていう値で異世界度? みたいなものを判断できるようになってるんだ。ナントカ・フリーケンシーだったと思うんだけど、表示はM/FってなってたはずからひょっとしたらMagnetic Fieldとでも解釈したのじゃないかな」
「Magnetic Field……磁場、かぁ……なるほどぉ。ちょっと恥ずかしい勘違いだけどあり得る」
そのアーティファクトに表示されているM/Fを勝手な解釈で磁場と言ってしまってたのか。だとしたらちょっとお間抜けな話だ。あのおっさん、自信満々に磁場が違うとか抜かしおってイタい。プゲラ。
「M/F値っていうのは、言ってみればアルキメデスの原理みたいなもので、この世界をバスタブに貯めた水だと仮定したら、異世界から入ってきた僕の分だけ溢れてしまう値があるんだ。それを計測するシステムなんだよ」
なるほど例えとして分かりやすい。けど、驚いたのは意外と別のところだった。
「そっちでもアルキメデスがその原理発見したんだ」
「あぁ、そう言われてみればそうだね。その部分はこの世界と重なっていたってことだね。でも言ってみればいろんなタイムラインがこの世界の時間軸の至るところと交差しているんだ。だから理屈の上ではそのタイムラインの交差点を利用して時間も遡ったり進めたりといったことができるはずで、僕がいた世界ではそういう研究もされていた。もっとも実現には程遠い状態だったけど、どこかの世界にはそれが可能な技術を持つタイムラインもあるだろうね」
はぁ~、何とも壮大な話だ。最早完全にSF。SNSのタイムラインを想像しながら、異なる世界同士が繋がっていくイメージが浮かんだ。何だか凄い話だなぁ。
てか向こうのアルキメデスさんも「エウレカ!」って叫んだんだろうか? どうでも良いか。
「ねぇ、黛君。黛君の世界からこっちの世界に渡ってくる時って、やっぱり何か大掛かりなカプセル的な物に入るとか、そういうの?」
何だろ。語彙が乏し過ぎて巧いこと言えないんだけど、何となくタイムマシンカプセルとかそういう雰囲気の大掛かりな装置を想像してしまう。
「あ~、本体部分の形状的にはリクライニングシートみたいなもんだね。そして脳波の周波数計測とそこへの干渉が主だったシステムで、後は実際の移動に当たっては膨大なエネルギーを発生させる装置が使わていて、それは国家規模の施設にしかない大規模なものだった」
「へぇ。見たことないから想像付かないけど、きっと壮大なものなんだろうねぇ」
「うーん。まぁ、そのエネルギー発生装置に限って言えばとんでもないくらい大規模なものだった。でもパラレルワールドの概念自体は割とシンプルなんだけどね」
「そんなもん?」
「うん。そうだなぁ、例えば目の前の道が二股に別れていて、君はどちらの道かを選択する。その選択自体は君が自分の脳で考えて決定することだよね。でもその時点で右の道を選択した場合の世界と左の道を選択した世界という2つの世界が存在するんだ。まぁ、もっと言えばどちらも選ばないとかバックして戻っちゃうとか選択肢は他にもたくさんある。だからパラレルワールドと人間の脳というのは非常に深く関わっている。でも実際には人間の考えも及ばないような選択肢が無限に存在していて、強制的にその世界に進むためには時空を捻じ曲げるような大きなエネルギーが必要なわけだ」
うん? いよいよ何だか哲学者の話でも聞かされているような難しい話になって、私の頭ではすっかりついていけなくなった。だけどなるほど。MSがエントロピーエンジンだの重力がどうだの何だのと言っているのはそこなんだろう。
「じゃあ、ひょっとして黛君はこちらから元の世界に戻るとか、更に別の世界に移動するとかはできない覚悟で来たわけ?」
「あぁ、もちろんその覚悟で来た。理論上、移動先の世界は元いた世界とそう大きく違わないはずだけど、ほんの僅かな差異で世界線の移動技術のない世界になってしまう可能性は十分あったからさ。実際この世界にはまだそんな技術はないよね」
なるほど、そんなもんか。
「ところで、それほどの覚悟の世界線の移動ってさぁ。向こうのご家族は納得してるの?」
なんていうところが気に掛かってしまった。
私は女子化してしまった際に、家族から本当に助けてもらったから、黛君が本当に異世界から独りでやって来たというならご家族も彼自身もさぞ辛いことじゃないのだろうか。
「あぁ……僕より前にこの世界に来た人間がいたって話したでしょ。それ、実は僕の祖父でさ。祖父はこの技術の研究者であり開発者だったんだ」
「えっ!?」
「僕は小さい頃お爺ちゃんっ子でね。祖父を追っかけてこっちに来たようなもんさ。残念ながら会えなかったけどね」
「そうだったんだぁ」
そんな裏話を聞かされると何とも言えない気持ちになるなぁ。
「そして両親は向こうじゃ反体制のレジスタンス活動家でさ。父は母と一緒にもう長いこと逃亡生活を送っていて長く会ってない。でもこっちに渡る決意を伝える機会があって。そしたらやりたいことを思い切りやれって……実のところ向こうの日本じゃやりたいことを思い切りやれなんて言ってもらえるご時世じゃなかったんだけど、うちの両親はそんな人たちだった」
「そっかぁ……素敵なご両親だったんだね……」
こうして彼の話を聞いている内に、いつの間にか疑う気持ちなんてどこかへ行ってしまった。彼の話はきっと本当なんだろうな。とそう思った。
「うん……そう思う。で、実は転移装置は祖父が封印してしまっていて祖父の転移以来実動はなかったんだ。ただ僕は祖父から封印の解除方法を教えてもらっていて、こっそり装置を使ってこの世界にやってきた。向こうじゃ今頃親子揃ってお尋ね者さ。ハハ」
黛君はそう言って力無く笑った。
「うん。そのガジェットに確か表示されていた項目で、僕も詳しくは知らないけどM/F値っていう値で異世界度? みたいなものを判断できるようになってるんだ。ナントカ・フリーケンシーだったと思うんだけど、表示はM/FってなってたはずからひょっとしたらMagnetic Fieldとでも解釈したのじゃないかな」
「Magnetic Field……磁場、かぁ……なるほどぉ。ちょっと恥ずかしい勘違いだけどあり得る」
そのアーティファクトに表示されているM/Fを勝手な解釈で磁場と言ってしまってたのか。だとしたらちょっとお間抜けな話だ。あのおっさん、自信満々に磁場が違うとか抜かしおってイタい。プゲラ。
「M/F値っていうのは、言ってみればアルキメデスの原理みたいなもので、この世界をバスタブに貯めた水だと仮定したら、異世界から入ってきた僕の分だけ溢れてしまう値があるんだ。それを計測するシステムなんだよ」
なるほど例えとして分かりやすい。けど、驚いたのは意外と別のところだった。
「そっちでもアルキメデスがその原理発見したんだ」
「あぁ、そう言われてみればそうだね。その部分はこの世界と重なっていたってことだね。でも言ってみればいろんなタイムラインがこの世界の時間軸の至るところと交差しているんだ。だから理屈の上ではそのタイムラインの交差点を利用して時間も遡ったり進めたりといったことができるはずで、僕がいた世界ではそういう研究もされていた。もっとも実現には程遠い状態だったけど、どこかの世界にはそれが可能な技術を持つタイムラインもあるだろうね」
はぁ~、何とも壮大な話だ。最早完全にSF。SNSのタイムラインを想像しながら、異なる世界同士が繋がっていくイメージが浮かんだ。何だか凄い話だなぁ。
てか向こうのアルキメデスさんも「エウレカ!」って叫んだんだろうか? どうでも良いか。
「ねぇ、黛君。黛君の世界からこっちの世界に渡ってくる時って、やっぱり何か大掛かりなカプセル的な物に入るとか、そういうの?」
何だろ。語彙が乏し過ぎて巧いこと言えないんだけど、何となくタイムマシンカプセルとかそういう雰囲気の大掛かりな装置を想像してしまう。
「あ~、本体部分の形状的にはリクライニングシートみたいなもんだね。そして脳波の周波数計測とそこへの干渉が主だったシステムで、後は実際の移動に当たっては膨大なエネルギーを発生させる装置が使わていて、それは国家規模の施設にしかない大規模なものだった」
「へぇ。見たことないから想像付かないけど、きっと壮大なものなんだろうねぇ」
「うーん。まぁ、そのエネルギー発生装置に限って言えばとんでもないくらい大規模なものだった。でもパラレルワールドの概念自体は割とシンプルなんだけどね」
「そんなもん?」
「うん。そうだなぁ、例えば目の前の道が二股に別れていて、君はどちらの道かを選択する。その選択自体は君が自分の脳で考えて決定することだよね。でもその時点で右の道を選択した場合の世界と左の道を選択した世界という2つの世界が存在するんだ。まぁ、もっと言えばどちらも選ばないとかバックして戻っちゃうとか選択肢は他にもたくさんある。だからパラレルワールドと人間の脳というのは非常に深く関わっている。でも実際には人間の考えも及ばないような選択肢が無限に存在していて、強制的にその世界に進むためには時空を捻じ曲げるような大きなエネルギーが必要なわけだ」
うん? いよいよ何だか哲学者の話でも聞かされているような難しい話になって、私の頭ではすっかりついていけなくなった。だけどなるほど。MSがエントロピーエンジンだの重力がどうだの何だのと言っているのはそこなんだろう。
「じゃあ、ひょっとして黛君はこちらから元の世界に戻るとか、更に別の世界に移動するとかはできない覚悟で来たわけ?」
「あぁ、もちろんその覚悟で来た。理論上、移動先の世界は元いた世界とそう大きく違わないはずだけど、ほんの僅かな差異で世界線の移動技術のない世界になってしまう可能性は十分あったからさ。実際この世界にはまだそんな技術はないよね」
なるほど、そんなもんか。
「ところで、それほどの覚悟の世界線の移動ってさぁ。向こうのご家族は納得してるの?」
なんていうところが気に掛かってしまった。
私は女子化してしまった際に、家族から本当に助けてもらったから、黛君が本当に異世界から独りでやって来たというならご家族も彼自身もさぞ辛いことじゃないのだろうか。
「あぁ……僕より前にこの世界に来た人間がいたって話したでしょ。それ、実は僕の祖父でさ。祖父はこの技術の研究者であり開発者だったんだ」
「えっ!?」
「僕は小さい頃お爺ちゃんっ子でね。祖父を追っかけてこっちに来たようなもんさ。残念ながら会えなかったけどね」
「そうだったんだぁ」
そんな裏話を聞かされると何とも言えない気持ちになるなぁ。
「そして両親は向こうじゃ反体制のレジスタンス活動家でさ。父は母と一緒にもう長いこと逃亡生活を送っていて長く会ってない。でもこっちに渡る決意を伝える機会があって。そしたらやりたいことを思い切りやれって……実のところ向こうの日本じゃやりたいことを思い切りやれなんて言ってもらえるご時世じゃなかったんだけど、うちの両親はそんな人たちだった」
「そっかぁ……素敵なご両親だったんだね……」
こうして彼の話を聞いている内に、いつの間にか疑う気持ちなんてどこかへ行ってしまった。彼の話はきっと本当なんだろうな。とそう思った。
「うん……そう思う。で、実は転移装置は祖父が封印してしまっていて祖父の転移以来実動はなかったんだ。ただ僕は祖父から封印の解除方法を教えてもらっていて、こっそり装置を使ってこの世界にやってきた。向こうじゃ今頃親子揃ってお尋ね者さ。ハハ」
黛君はそう言って力無く笑った。
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