TS女子になるって、正直結構疲れるもんですよね。

星加のん

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第五章 パラレル

第141話 ラブシック・ジェラート

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 十一夜君は自分からやっときながらなぜか自分の方が気持ちよさそうにしている。
 この人は猫でもじゃらしている気分でいるのか?

 そんな変な空気になってるところに注文の品が届いた。
 八朔のジェラート、酸味と香り、そして仄かな苦味。それも絶妙なバランス。これはリカーとかも入っているのか、大人のジェラートって感じがする。

 十一夜君はまずブリオッシュを割ってジェラートを盛って齧り付いている。豪快。

「美味しい?」

「ほら」

 食べかけのジェラート乗せブリオッシュをぐいと差し出してきた。
 パクリと齧り付くと、ブリオッシュの芳醇なバターの風味が鼻腔に広がり、ジェラートのレモンの酸味と香り、そしてピールの苦味が織りなす調和が素晴らしい!

「ん~、美味しいぃ~」
 
 十一夜君も物欲しそうな顔で窺っているので私のジェラートもひと匙掬って差し出すとパクッと食い付いた。

「八朔か。初めてだけど、これもいいな」

「でしょでしょ。これは注文して正解だった。あ、そういえば新しい情報があるって?」

「あぁ。恭平さんからの情報なんだけど、進藤杏奈の動きにはどうやら背後で兎も関わっていたらしい」

「え、でも確かあの子はMSっていうか須藤さんに利用されてたんじゃ?」

「まぁそれもそうなんだけど、当時どうも兎がMSと共闘していたみたいなんだ。あいつらはどこでもくっついたり離れたりだからな」

「ふーん……あっ、そう言えばだいぶ前に進藤さんの差し金で丹代さんが私を脅してきたことがあったんだけど、その時使われてた便箋に秘密結社兎屋の透かしが入ってたのよね。そして、学校に入ってるトラットリアのピーターラビットが使ってるペーパーナプキンにも秘密結社兎屋のロゴが入っていて、調べたら保護者から寄付されたものだったんだよね。それでその秘密結社について調べていて偶然見つけたのが、甘味処うさぎ屋だったんだけど。アハハ」

「秘密結社兎屋……か。なるほど、兎にもいろんな派閥があるからなぁ。いろんなところに兎の手が伸びていても不思議はないか。秘密結社兎屋について調べておくか……」

 ほら、私また役に立ったんじゃないの?

「……分かったよ。ほら、よーしよしっ」

 十一夜君の手が伸びてきて、今度はおざなりに撫でられた。
 さっきも何となく猫扱いされた気がするけど、これは何となくムツゴロウ的な? 私猫でも犬でもないしっ。
 しかもさっきと違って何かそこはかとなく馬鹿にされてる感があるんだけど……。

「そうなると、その便箋は、出所の兎から進藤杏奈経由で丹代花澄に渡ったってことだな」

「つまりそれは、兎が進藤君の妹さんにやらせたってこと?」

「うん、端的に言えばそういうことになるだろうな。兎としてはMSとの絡みでやらされたのか、或いは兎は兎の思惑があって、そのためにMS信者関係の生徒を上手いこと利用したのか、その辺はまだ分からないが……兎が絡んでくるとどうにも話がややこしくなるなぁ、いっつも」

 そう言って十一夜君は大きく溜息を吐く。うんざりとでも言わんばかりだ。
 話を聞いていると、例の兎集団は何かと掻き回してくる厄介な集団らしい。朧さんに以前聞いた話だと便利に利用できる側面もあるみたいだけど。だけどきっとそれだけにややこしいのだろう。そうでなければはなから関わらないようにすれば済む話だ。

「うーん。兎、かわいいのは名前だけなんだねぇ」

「ピーターラビットにしたって因幡の白兎にしたって、かわいいばかりじゃないんだよ、兎って奴は」

「ふーん、そう言えば因幡の白兎のことは朧さんもそんなようなこと言ってた」

「あぁ、色々面倒な奴らなんだ」

「新しい情報って、それくらい?」

 というのも、いつもならそれくらいでわざわざここまでしない。集まるのはもうちょっと情報が集まってからとか、よほどの緊急事態とかそういう時だ。じゃなきゃメールとか、最近だとLINEとかで情報共有してくれる程度なんだけど。

「今の所話せるのはこのくらいかな。でも華名咲さんからの情報も得られたし、十分に役に立ったよ」

「そっか。だったらよかったけど」

「けど、って?」

 いや、何となくこんなところまでわざわざ移動して話す意味あったのかなとか、最初ちょっと不機嫌な気がしたなとか思ったりして? ま、だからどうって訳でもないけど。

「別に何でもないよ?」

「…………はぁ~。ごめん、何となく面白くなかったんだよ」

「はぁ?」

 私が何か嫌なことをしたか言ったかしたんだろうか……。何となくってぼかした言い方してるけど。

「何て言うか……上書きしたかったんだ」

「何を?」

「何でもない」

「何でもないことはないでしょうよぉ~?」

 はっきり言ってくれたらいいのに、何かモヤモヤするじゃん。スッキリしなくて気持ち悪いし。

「言いたくない。この話はここまで」

「はぁ、何よそれ。感じ悪いんだぁ、十一夜君」

「…………」

 もうこれ以上は何も話す気ないという断固とした意志を感じる十一夜君の沈黙。まぁ、何らかの事情で言いたくないんだろうなとは思うけど、何となく腹立たしい。

「ふーんだ。ここ十一夜君の奢りね」

「あぁ……元々そのつもりだし」

「むぅ……このトルタサケルとカッサータとズコッタも追加で! 自棄喰やけぐいしてやるぅっ!」

「どうぞ」

 十一夜君と来たらどこ吹く風とでも言った風だ。くぅーーーっ。何か理不尽に悔しい。

「フンだ」

「お腹壊すなよ」

 うぬぅっ。十一夜君にしては珍しい余計な一言。

「大きなお世話ですぅ。子供じゃないしっ」

「クックック」

 おかしくて堪らないといった感じで笑いを押し殺している十一夜君。
 私だけ悔しがってキーーってなっていると、また十一夜君の大きくて骨張った手が伸びてきて、優しく優しく頭を撫でられた。
 何よ、もぉ。そうしとけば誤魔化せるとか思っちゃってるところがまた悔しい。
 罰として暫くそうしとけ、もぉ。

 暫くの間そうしていた十一夜君の右手がそっと降りてくる。手がおっきいから頬だけじゃなく耳も顎も包み込むように覆われてあったかい。優しく頬を撫でる彼の無骨な親指がくすぐったくて目を閉じた。

 もう……しょうがないなぁ。
 今日のところは勘弁してやるとするか。
 これだけは言っとくけど、誤魔化されたんじゃないからね、まったく。以上。
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