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本編
第2話 ファイヤーボールってどんな魔法?
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「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
時田は中央噴水広場全体に響き渡るほどの大声をあげた。
中央噴水広場は巨大な円を描く三段の石段で形成されていて、この一芸大学の中心的な場所として日頃から皆に親しまれている。
各段には等間隔でベンチや一人用の椅子が並んでいて、昼や夕方などは多くの人がこの広場へやってきてそれぞれの時間を過ごす。
当然、昼休みであるこの瞬間は中央噴水広場に人が多く集まっていて、静かに過ごしていた他の学生や先生が白い目でこちらを睨みはじめた。
「うるさい。急に大声出すな」
「周りの迷惑ってものを考えられないの? ほんとそれやめてくれない?」
静かな声で時田を叱るのは鷲津。軽蔑を声色に乗せて、時田にはっきりと文句をぶつけたのは巻原真希。
巻原は時田の先輩だ。彼女も非公認ゲーム制作サークル『フールズゲーム』の一員である。グラフィック担当。
フールズゲームは非公認ゆえに専用のサークル室はあてがわれておらず、大学にいる間はこうしてキャンパス内のどこかに集まって活動している。
学校帰りや、土日祝日については時田の住むアパートでゲーム制作を進めている。大学からアパートまでは徒歩十分の距離なので、時田の住処はメンバー間で非常に重宝していた。
「え、外だし良くないですか?」
二人の指摘に時田は気まずそうな表情を浮かべる。
「ダメだな」
「ダメでしょ」
二人の一律した態度に時田は申し訳なさそうにこめかみを指で掻いた。
「で、ファイヤーボールがなんだって?」
トムフォードの黒縁眼鏡をきらりと光らせた鷲津に、
「というか正しくはファイアーボールでしょ? “ヤ“じゃなくて“ア“」
と巻原が口を挟む。
「まあどっちもあるんですよね。ファイヤーって言ってるゲームもあるし、ファイアーって言ってるゲームもある。オレはファイヤーの方が言ってて気持ちいいから好きですけど」
時田はそう言って腕を組んだ。考え込むように目を閉じて、うーんと唸る。
「ひとまず呼び方は置いといて。そもそもファイヤーボールってどんな魔法なのかなって思ったんですよ。だから叫んでみたんです」
「なるほど」
「いや、なるほどじゃないだろ。意味が分からん」
納得する鷲津に巻原がすかさずツッコミを入れた。
すると鷲津はまさかあんた、分からないのか? という風な表情で巻原を見る。
「まさかあんた、分からないのか? みたいな顔でこっちみんな」
「オレとコイツは小学校からの幼なじみですからね。あれ取ってと言ったら、そのあれを取ってきてくれる仲です」
と、時田が補足する。
「夫婦なの?」
そんな巻原の言葉に、鷲津が今度はやれやれとかぶりを振った。
「お前さっきからなんなの?」
「まあまあ。ファイヤーボールの話を続けますよ」
そう言って時田は立ち上がり、天に掌をかざした。
「はぁぁぁぁぁ⋯⋯!!!」
そして声を振り絞る。周りの白い目は奇異なモノを見る目へと変わり、やがて呆れたように時田から視線を外していった。
「お、なんだ今度は」
「鷲津。あんた楽しそうね」
「ファイヤーァァア⋯⋯」
時田は天にかざしていた掌を腰に運び、もう一つの掌をそこに持ってくる。まるでボールを抱え、前に押し出そうとするようなポーズだった。
「ボォォオォォォルッ!」
そしてジャケットが翻る音とともに、時田の両腕が前に押し出される。
巻原が目をじとりとさせて言った。
「あー⋯⋯それ知ってる。金髪の人が放つ青白い光線」
「正確には気の波動だ」
そこにすかさず鷲津が補足する。
「ズギュウウゥゥゥン⋯⋯シュオオオォォォ」
「効果音やめろ」
巻原のツッコミを一切気にせず、時田は平然とした顔で再び直立になった。
「次行きます」
そう言って時田は水晶玉に両手をかざす占い師のような仕草をしはじめた。
「ファイヤー⋯⋯ボール」
まるで呪術を行使する老婆のように、掠れた声で魔法を唱える。
「ふんぬっ!」
ガバッと両腕を広げ、人に覆い被さる時のような構えを取る時田。おもむろに両腕を怪しく上下運動し始め、両手の指をわきわきと動かし始める。
「ふんじゃかほんじゃかうんたらかんたら ⋯⋯ハァァッ!」
巻原はしばらく時田の行動を静観していたが、ついに耐えられなくなった。巻原は奇怪な行動をする人が嫌いで、目にするだけで気持ちが悪くなる。彼女にとって品性は非常に重要なパラメーターである。
「鷲津⋯⋯こいつはいったいなにをしてるの?」
「俺にも分からない」
巻原は「えっ」と身じろいだ。
「本当にあれ取ってと言われたら、あれ取ってこれる仲なの?」
「実はたまに間違える」
「ダメじゃん」
「しかもその度に大喧嘩する」
「もうそれ離婚した方がいいわよ」
時田は中央噴水広場全体に響き渡るほどの大声をあげた。
中央噴水広場は巨大な円を描く三段の石段で形成されていて、この一芸大学の中心的な場所として日頃から皆に親しまれている。
各段には等間隔でベンチや一人用の椅子が並んでいて、昼や夕方などは多くの人がこの広場へやってきてそれぞれの時間を過ごす。
当然、昼休みであるこの瞬間は中央噴水広場に人が多く集まっていて、静かに過ごしていた他の学生や先生が白い目でこちらを睨みはじめた。
「うるさい。急に大声出すな」
「周りの迷惑ってものを考えられないの? ほんとそれやめてくれない?」
静かな声で時田を叱るのは鷲津。軽蔑を声色に乗せて、時田にはっきりと文句をぶつけたのは巻原真希。
巻原は時田の先輩だ。彼女も非公認ゲーム制作サークル『フールズゲーム』の一員である。グラフィック担当。
フールズゲームは非公認ゆえに専用のサークル室はあてがわれておらず、大学にいる間はこうしてキャンパス内のどこかに集まって活動している。
学校帰りや、土日祝日については時田の住むアパートでゲーム制作を進めている。大学からアパートまでは徒歩十分の距離なので、時田の住処はメンバー間で非常に重宝していた。
「え、外だし良くないですか?」
二人の指摘に時田は気まずそうな表情を浮かべる。
「ダメだな」
「ダメでしょ」
二人の一律した態度に時田は申し訳なさそうにこめかみを指で掻いた。
「で、ファイヤーボールがなんだって?」
トムフォードの黒縁眼鏡をきらりと光らせた鷲津に、
「というか正しくはファイアーボールでしょ? “ヤ“じゃなくて“ア“」
と巻原が口を挟む。
「まあどっちもあるんですよね。ファイヤーって言ってるゲームもあるし、ファイアーって言ってるゲームもある。オレはファイヤーの方が言ってて気持ちいいから好きですけど」
時田はそう言って腕を組んだ。考え込むように目を閉じて、うーんと唸る。
「ひとまず呼び方は置いといて。そもそもファイヤーボールってどんな魔法なのかなって思ったんですよ。だから叫んでみたんです」
「なるほど」
「いや、なるほどじゃないだろ。意味が分からん」
納得する鷲津に巻原がすかさずツッコミを入れた。
すると鷲津はまさかあんた、分からないのか? という風な表情で巻原を見る。
「まさかあんた、分からないのか? みたいな顔でこっちみんな」
「オレとコイツは小学校からの幼なじみですからね。あれ取ってと言ったら、そのあれを取ってきてくれる仲です」
と、時田が補足する。
「夫婦なの?」
そんな巻原の言葉に、鷲津が今度はやれやれとかぶりを振った。
「お前さっきからなんなの?」
「まあまあ。ファイヤーボールの話を続けますよ」
そう言って時田は立ち上がり、天に掌をかざした。
「はぁぁぁぁぁ⋯⋯!!!」
そして声を振り絞る。周りの白い目は奇異なモノを見る目へと変わり、やがて呆れたように時田から視線を外していった。
「お、なんだ今度は」
「鷲津。あんた楽しそうね」
「ファイヤーァァア⋯⋯」
時田は天にかざしていた掌を腰に運び、もう一つの掌をそこに持ってくる。まるでボールを抱え、前に押し出そうとするようなポーズだった。
「ボォォオォォォルッ!」
そしてジャケットが翻る音とともに、時田の両腕が前に押し出される。
巻原が目をじとりとさせて言った。
「あー⋯⋯それ知ってる。金髪の人が放つ青白い光線」
「正確には気の波動だ」
そこにすかさず鷲津が補足する。
「ズギュウウゥゥゥン⋯⋯シュオオオォォォ」
「効果音やめろ」
巻原のツッコミを一切気にせず、時田は平然とした顔で再び直立になった。
「次行きます」
そう言って時田は水晶玉に両手をかざす占い師のような仕草をしはじめた。
「ファイヤー⋯⋯ボール」
まるで呪術を行使する老婆のように、掠れた声で魔法を唱える。
「ふんぬっ!」
ガバッと両腕を広げ、人に覆い被さる時のような構えを取る時田。おもむろに両腕を怪しく上下運動し始め、両手の指をわきわきと動かし始める。
「ふんじゃかほんじゃかうんたらかんたら ⋯⋯ハァァッ!」
巻原はしばらく時田の行動を静観していたが、ついに耐えられなくなった。巻原は奇怪な行動をする人が嫌いで、目にするだけで気持ちが悪くなる。彼女にとって品性は非常に重要なパラメーターである。
「鷲津⋯⋯こいつはいったいなにをしてるの?」
「俺にも分からない」
巻原は「えっ」と身じろいだ。
「本当にあれ取ってと言われたら、あれ取ってこれる仲なの?」
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