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閑話その3
続々・宵闇通り
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宵闇通り。
野沢達が行きつけにしているおでん屋『宵でん』に、二人と一柱は腰を降ろしていた。予備皿と称して、余分に貰った皿にテラ公の分のおでんが積まれていく。
依代に喚ばれた時と、現世の生物に憑依している時以外、彼女は現世の物を食すことはできない。喚ばれた際はどういったわけか、彼女が食べたものは全て依代の胃の中に入る。
日頃、アマネのデザート道楽に付き合い、テラ公の菓子道楽に付き合っている野沢は、実は糖尿病待ったなしの状態である。
鳳仙がおでんの積まれた予備皿を、足元の地面に置いた。
「なるほどな。ウチもアマネの事情には暗いからなあ。なんとも言えんな」
野良猫に憑依したテラ公が、はぐはぐとおでんを食しながら言った。大根がお気に入りらしいが、猫の身体を気遣って一個だけ頼んでいた。おでんをかじっては、卵や牛すじに顔を伸ばしている。
幽奈が呑気に構えているテラ公を呆れた顔で見下ろす。
「人が死んでんだよ? もう少し慌てたらどうなの?」
「過ぎた事はもう仕方ない。大切なのは、次の一手」
テラ公の返しに、鳳仙が頷いた。
「仰る通りです。さっそく明日、アマネさんと野沢さんに本件を伝えましょう。強襲された挙げ句に惨殺されるなど、水面下で何らかの事件が動いているとしか思えません。次に狙われるのはアマネさんの可能性が非常に高い」
ひょこっとテラ公が顔を上げた。
「あーっとそうな。明日の夕方辺りにしやん? もうちと内容を整理してからでも遅くないじゃろ」
頬杖をつき、目を細くした幽奈が鳳仙を見やる。
彼は相変わらず凛々しい表情のままだ。ポーカーフェイスとでも言うのだろうか。職業柄なのか、鳳仙は感情を表に出すことは滅多になかった。
テラ公の意図に二人は気づいていた。確かに鳳仙はアマネを狂おしいほどに愛しているが、紳士道を歩む者でもある。野沢にしてはよく見せた漢気に免じ、今回は目を瞑ることにした。
「良いでしょう。しかし……夕方十七時きっかりです。夜は狼が出ますから。最悪の場合、始末しなければいけません」
目を瞑ることにはしたが、既に信念と本心の闘いが彼の中で巻き起こっているようだった。
「難儀な男やんなあ。ま、お前もやけど」
「な、なによ!? やんのかこら!」
傍らではじとりとした目で二人を見やるテラ公。顔を真っ赤にして怒鳴る幽奈。牙が剥き出しである。
「あんたら……さっきから誰と話してるんだ?」
そして、不審な色に顔を染めた『宵でん』の大将がいた。
野沢達が行きつけにしているおでん屋『宵でん』に、二人と一柱は腰を降ろしていた。予備皿と称して、余分に貰った皿にテラ公の分のおでんが積まれていく。
依代に喚ばれた時と、現世の生物に憑依している時以外、彼女は現世の物を食すことはできない。喚ばれた際はどういったわけか、彼女が食べたものは全て依代の胃の中に入る。
日頃、アマネのデザート道楽に付き合い、テラ公の菓子道楽に付き合っている野沢は、実は糖尿病待ったなしの状態である。
鳳仙がおでんの積まれた予備皿を、足元の地面に置いた。
「なるほどな。ウチもアマネの事情には暗いからなあ。なんとも言えんな」
野良猫に憑依したテラ公が、はぐはぐとおでんを食しながら言った。大根がお気に入りらしいが、猫の身体を気遣って一個だけ頼んでいた。おでんをかじっては、卵や牛すじに顔を伸ばしている。
幽奈が呑気に構えているテラ公を呆れた顔で見下ろす。
「人が死んでんだよ? もう少し慌てたらどうなの?」
「過ぎた事はもう仕方ない。大切なのは、次の一手」
テラ公の返しに、鳳仙が頷いた。
「仰る通りです。さっそく明日、アマネさんと野沢さんに本件を伝えましょう。強襲された挙げ句に惨殺されるなど、水面下で何らかの事件が動いているとしか思えません。次に狙われるのはアマネさんの可能性が非常に高い」
ひょこっとテラ公が顔を上げた。
「あーっとそうな。明日の夕方辺りにしやん? もうちと内容を整理してからでも遅くないじゃろ」
頬杖をつき、目を細くした幽奈が鳳仙を見やる。
彼は相変わらず凛々しい表情のままだ。ポーカーフェイスとでも言うのだろうか。職業柄なのか、鳳仙は感情を表に出すことは滅多になかった。
テラ公の意図に二人は気づいていた。確かに鳳仙はアマネを狂おしいほどに愛しているが、紳士道を歩む者でもある。野沢にしてはよく見せた漢気に免じ、今回は目を瞑ることにした。
「良いでしょう。しかし……夕方十七時きっかりです。夜は狼が出ますから。最悪の場合、始末しなければいけません」
目を瞑ることにはしたが、既に信念と本心の闘いが彼の中で巻き起こっているようだった。
「難儀な男やんなあ。ま、お前もやけど」
「な、なによ!? やんのかこら!」
傍らではじとりとした目で二人を見やるテラ公。顔を真っ赤にして怒鳴る幽奈。牙が剥き出しである。
「あんたら……さっきから誰と話してるんだ?」
そして、不審な色に顔を染めた『宵でん』の大将がいた。
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