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櫻花荘に吹く風~205号室の愛~ (23)
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小田桐組の現組長さんは、前組長の娘さんとの結婚を期に、裏の世界に入る事を決めたのだという。
昼の世界で生きてきた人間が夜の世界に身を置くというのは、苦労もあったのだと思う。その度にうちのじいちゃんが、押し付けがましくない程度の気晴らしへと連れ出していたのだそうだ。
そんな交流を持つ中で、末孫の俺が誕生した。一番最後に生まれた俺を、じいちゃんはそりゃあ可愛がってくれていた。
だからこそ、成績が伸び悩んでいた俺を心配もしていたのだろう。ある日、そう、忘れもしない、あれは受験の差し迫った秋口。
『試しに一晩付き合ってみねえか? 天国につれてってやるぜ』
出会いの瞬間、俺を見た郁人さんが言ってのけたひと言だ。
まだ中坊のガキにだぜ? 冗談にしてもタチが悪い。
勿論そこは丁重にお断り申し上げたので、当然大輔への説明からは省略する。
俺の受験が終わった以降も、郁人さんは度々家へ訪れた。
そればかりか、じいちゃんのお供で組長さんのところへ顔を出せば、ほぼ毎回のように郁人さんもその場にいて。
いつ会っても郁人さんからは、からかわれてばかりいた俺。ヤクザというより、どこのチャラ男だよと呆れさせられる事ばかりだったと、少しばかり懐かしく過去を思い出す。
恐らくは、彼が身を置く世界の重圧から解放される空間が、そうさせてくれるじいちゃんの人柄が気に入っていたからこそ、多忙な仕事の合間を縫って顔を出していたのだろうと、今になって思う。
そんな彼に今回のような、仕事の顔を思い出させるお願い事をするのは若干気が引けたのだけれど、背に腹は変えられぬだ。
数日後には京都へ出向くと言っていた郁人さんのスケジュールが、このタイミングに空いていてくれて本当に良かった。
「あの男じゃねえけどさ、バックに大きな組が付いてるって分かれば、あいつももうたかりに来ようなんて思わねえだろ?」
「………すっげえ、マジック見せられた気分……ふは、はははっ、イテッ」
にやっと笑いながら悪戯めいて告げれば、堪え切れないとばかりに大輔が笑い出す。緊張と憤りから強張っていた先ほどまでの顔とは違う安心した表情に、見ているこちらも安堵に胸を撫で下ろした。
傷に障ったのだろう、顔を顰める大輔の口の端には、真新しい傷口。
「見せてみろよ……ああ、派手に切れてるな。ったく、何で俺の事庇ったりしたんだよ? 商売道具が台無しじゃねえか」
僅かに腫れた頬にそっと触れれば、庇われた事への苛立ちと罪悪感が沸いて来る。きっとこの後、もっと腫れてくるはずだ。
「これじゃまた暫く仕事出来なくなるな」
わざと力を入れて血の痕を拭ってやれば、目の前の顔が情けなく歪められた。
「イテッ、痛いってみっちゃん! だってさ、好きな人が殴られんの黙って見てるなんて、男として出来るはずないと思わない?」
「なっ、おま、何でそういうこと、さらっと言うかな――」
「だって本心だし……観月が怪我しなくて良かった。みっちゃんが出て来た時、心臓が止まるかと思ったよ」
「大輔――」
「でも、ありがとう。本当言うと、来てくれて、嬉しかった……心配掛けてごめん」
頬に置いた手を握り取られ、大輔が何の飾りも無い真摯な表情で、そんな言葉を言って寄越す。
その瞳があまりに真剣だったから、瞳の奥に見える俺への気持ちがあまりにも伝わってくるから、悪態のひとつも返してやる事が出来なかった。
取られた手を引き寄せられて大輔の胸元へと納まれば、トクトクと聞こえてくる心音に、こいつが無事だった事が実感出来た。
「みっちゃん、ちょっとだけ待っててくれる?」
「え?」
生きている証を感じてホッと息を吐き出す俺の耳元で、大輔もまたひとつ、小さく息を吐き出した。
「マネージャーに怒られてくる。ついでに休みも貰って来るから、今日は、観月も櫻花荘には帰らないで」
「は? え?」
「約束したろ? この件が片付いたら、気持ち、聞かせてくれるって――じゃあちょっと行ってくるね」
「っ! お前、ここ、路上!」
戸惑う間に離れていく温もりが少しだけ切ない、と思った瞬間、掠め取られた唇の感触に鼓動が跳ねた。告げられた言葉の意味を理解したのは、大輔が店の中へと消えてから。
「うっわ……マジかよ、どうすんの、俺?」
ぶっきら棒に告げたあの時の精一杯の言葉を、大輔が覚えているとは思わなかった。
熱を持った頬へ両手で風を送りつつ、それでも緩む口元は、多分……きっと、俺も期待していたという事なのだろう。
「朝飯は要らないって、春海にメール、入れとくか……」
呟いた声が自分で思っていたより弾んでいる事に、ほんの少しの気恥ずかしさを感じながら空を仰ぎ見る。
先ほどまで翳っていた雲が取れ、浮かぶ丸い月の光が柔らかに煌いて見えた。
大輔が再び店から出てきたのは、十分ほど時間が過ぎてからだった。
傷が癒えるまで顔を出すなと、こっ酷く怒られて来た。そう告げる大輔の表情は、その割りに落ち込んでいる風でもなく。
訝しむ俺に向かって『仕事休める分、みっちゃんとゆっくり出来るじゃん?』と笑顔で言い放ちやがった。
そのストレート過ぎる愛情表現、いい加減勘弁してくれよ。と、心の中だけでひとりごちる。今まで想う事ばかりで過ごして来た俺にとって、想われるという慣れない行為は、正直叫び出したくなる位恥ずかしいのだ。
「ちょ、手! 肩!」
「平気平気、この時間だもん、酔っ払いが肩組んでるようにしか見えないって」
照れ臭さに言葉を返せずにいる間に、俺の肩へと回された腕。そのまま引き摺られるように、歩き出す大輔について歩いた。
振り払おうとすれば振り払う事も出来たのに、そうしなかったのは、鼻歌交じりに告げた大輔の手が、微かに震えている事に気付いたから。
(ああ、こいつも、緊張してんだ……)
想われる事に慣れていない、その言葉はそのまま大輔にも当て嵌まるのだという事に、そこで初めて気付いた。
職業上どうしても色恋沙汰は経験豊富に思えるけれど、店での擬似恋愛とは違う、本当の意味での愛し愛されるという想いの交感。
その事に、大輔も戸惑っているのだと気付いたから。
「お前、ここに泊まってたのか……」
「あはは、引いた?」
大輔に引き摺られながら連れて来られたのは、俺の店の直ぐ傍。道路を挟んだ斜め前に建つ、シティホテルだった。
だからあの時、すぐに追い駆けたのにも拘わらず、既に大輔の姿が見えなかったのかと納得する。灯台下暗しってのはこの事なのかもしれない。
「引いたっつうか……何で」
「ちらっとでも、みっちゃんの姿が見れたら良いなって、思って」
「……ばぁーか」
こんなに近くにいたのに、擦れ違っていた日々。
ひとりやきもきさせられていた数日間を思うと悔しいけれど、そんな感情も大輔のひと言に吹き飛んで行ってしまう。
カードキーで開錠して中へと入れば、意外にこじんまりとしているツインの部屋だった。
二つあるうちのひとつのベッドの上には、仕事用のスーツが何着か、皺にならないように伸ばした状態で広げてあった。
「取り敢えずそこ座れよ、傷の手当しないと――っ、大……」
「手当てなんて後でいいよ」
消毒薬の味のするキスなんて嫌だと額が合わさるほど間近で囁かれ、大輔が腰を下ろしたベッドの上、その膝を跨ぐように抱え上げられ、抱き締められる。
近過ぎる距離、ふわりと漂う大輔の香りに、心臓が忙しなく脈打ち始めた。
「キス、していい? ちゃんとしたキス、したい」
ほんの少しの不安と、溢れ出しそうな情欲を秘めた瞳に問い掛けられ、背筋に小波のような震えが走る。
馬鹿だな、お前は。
俺がどうして素直にここまで付いて来たのか、この期に及んで分かってねえのか?
「冷やさねえと、腫れるってのに……本当、馬鹿だな」
「――ッ」
「後悔すんなよ? 俺は一度惚れたら、しつこいからな?」
熱を持った頬に片手を添えて、傷付いた唇を舌先でぺろりと舐め上げる。大輔の肩へと置いたもう片方の手が微かな震えを刻むのは、俺も緊張しているからに他ならない。
「後悔なんてするはずない。最初に惚れたのは俺なんだから――」
「ん、ぅ」
言葉終わりと共に重ね合わされた唇。強引なまでに急いた仕草で入り込んで来た大輔の舌が、口腔内を掻き乱していった。
柔らかな頬を内側から辿り、舌を絡め取られて吸い上げられる。大輔の口の中へと引き込まれた舌先を甘く噛まれてひくりと身を竦ませれば、今度は労わるように優しく触れ合わされて。
再び押し戻されたかと思えば、絡み合う舌越しに粘膜の薄い上顎を擽られ、感じる箇所を次々と暴かれていく。
(う、わ……こいつ、上手過ぎ――)
鼻から抜け出ていく甘ったるい声、唾液の零れる濡れた音に、羞恥と快感を煽られる。
大輔の動きに必死で応酬してみても、与えられる快楽の大きさに敢え無く白旗が揚がってしまう。
「ふ、ぁ……ぅ、んぅ」
「みっちゃん、観月――やっべえ、可愛過ぎ」
余すところ無く俺の口腔を味わい尽くした唇から、熱い吐息が零れ落ちる。耳の付け根をやんわりと吸い上げつつ告げられた言葉に、激しいキスで酸欠気味の頭の中がくらくらとした。
「ッ、可愛いとか、言う、なっ…ん、あ」
反論の言葉は首筋を辿る濡れた感触に遮られた。時折歯を立てながら往復する唇が、辿り着いた耳朶を銜えて嬲り出す。
背を走り抜ける刺激に身を捩れば、互いに昂ぶり始めた熱が、布越しにゴリッと擦れ合った。たったそれだけの接触にすら煽られ、腰が揺れ動いた。
こくり、と小さく唾を飲み込む音が、聞こえた気がした。
昼の世界で生きてきた人間が夜の世界に身を置くというのは、苦労もあったのだと思う。その度にうちのじいちゃんが、押し付けがましくない程度の気晴らしへと連れ出していたのだそうだ。
そんな交流を持つ中で、末孫の俺が誕生した。一番最後に生まれた俺を、じいちゃんはそりゃあ可愛がってくれていた。
だからこそ、成績が伸び悩んでいた俺を心配もしていたのだろう。ある日、そう、忘れもしない、あれは受験の差し迫った秋口。
『試しに一晩付き合ってみねえか? 天国につれてってやるぜ』
出会いの瞬間、俺を見た郁人さんが言ってのけたひと言だ。
まだ中坊のガキにだぜ? 冗談にしてもタチが悪い。
勿論そこは丁重にお断り申し上げたので、当然大輔への説明からは省略する。
俺の受験が終わった以降も、郁人さんは度々家へ訪れた。
そればかりか、じいちゃんのお供で組長さんのところへ顔を出せば、ほぼ毎回のように郁人さんもその場にいて。
いつ会っても郁人さんからは、からかわれてばかりいた俺。ヤクザというより、どこのチャラ男だよと呆れさせられる事ばかりだったと、少しばかり懐かしく過去を思い出す。
恐らくは、彼が身を置く世界の重圧から解放される空間が、そうさせてくれるじいちゃんの人柄が気に入っていたからこそ、多忙な仕事の合間を縫って顔を出していたのだろうと、今になって思う。
そんな彼に今回のような、仕事の顔を思い出させるお願い事をするのは若干気が引けたのだけれど、背に腹は変えられぬだ。
数日後には京都へ出向くと言っていた郁人さんのスケジュールが、このタイミングに空いていてくれて本当に良かった。
「あの男じゃねえけどさ、バックに大きな組が付いてるって分かれば、あいつももうたかりに来ようなんて思わねえだろ?」
「………すっげえ、マジック見せられた気分……ふは、はははっ、イテッ」
にやっと笑いながら悪戯めいて告げれば、堪え切れないとばかりに大輔が笑い出す。緊張と憤りから強張っていた先ほどまでの顔とは違う安心した表情に、見ているこちらも安堵に胸を撫で下ろした。
傷に障ったのだろう、顔を顰める大輔の口の端には、真新しい傷口。
「見せてみろよ……ああ、派手に切れてるな。ったく、何で俺の事庇ったりしたんだよ? 商売道具が台無しじゃねえか」
僅かに腫れた頬にそっと触れれば、庇われた事への苛立ちと罪悪感が沸いて来る。きっとこの後、もっと腫れてくるはずだ。
「これじゃまた暫く仕事出来なくなるな」
わざと力を入れて血の痕を拭ってやれば、目の前の顔が情けなく歪められた。
「イテッ、痛いってみっちゃん! だってさ、好きな人が殴られんの黙って見てるなんて、男として出来るはずないと思わない?」
「なっ、おま、何でそういうこと、さらっと言うかな――」
「だって本心だし……観月が怪我しなくて良かった。みっちゃんが出て来た時、心臓が止まるかと思ったよ」
「大輔――」
「でも、ありがとう。本当言うと、来てくれて、嬉しかった……心配掛けてごめん」
頬に置いた手を握り取られ、大輔が何の飾りも無い真摯な表情で、そんな言葉を言って寄越す。
その瞳があまりに真剣だったから、瞳の奥に見える俺への気持ちがあまりにも伝わってくるから、悪態のひとつも返してやる事が出来なかった。
取られた手を引き寄せられて大輔の胸元へと納まれば、トクトクと聞こえてくる心音に、こいつが無事だった事が実感出来た。
「みっちゃん、ちょっとだけ待っててくれる?」
「え?」
生きている証を感じてホッと息を吐き出す俺の耳元で、大輔もまたひとつ、小さく息を吐き出した。
「マネージャーに怒られてくる。ついでに休みも貰って来るから、今日は、観月も櫻花荘には帰らないで」
「は? え?」
「約束したろ? この件が片付いたら、気持ち、聞かせてくれるって――じゃあちょっと行ってくるね」
「っ! お前、ここ、路上!」
戸惑う間に離れていく温もりが少しだけ切ない、と思った瞬間、掠め取られた唇の感触に鼓動が跳ねた。告げられた言葉の意味を理解したのは、大輔が店の中へと消えてから。
「うっわ……マジかよ、どうすんの、俺?」
ぶっきら棒に告げたあの時の精一杯の言葉を、大輔が覚えているとは思わなかった。
熱を持った頬へ両手で風を送りつつ、それでも緩む口元は、多分……きっと、俺も期待していたという事なのだろう。
「朝飯は要らないって、春海にメール、入れとくか……」
呟いた声が自分で思っていたより弾んでいる事に、ほんの少しの気恥ずかしさを感じながら空を仰ぎ見る。
先ほどまで翳っていた雲が取れ、浮かぶ丸い月の光が柔らかに煌いて見えた。
大輔が再び店から出てきたのは、十分ほど時間が過ぎてからだった。
傷が癒えるまで顔を出すなと、こっ酷く怒られて来た。そう告げる大輔の表情は、その割りに落ち込んでいる風でもなく。
訝しむ俺に向かって『仕事休める分、みっちゃんとゆっくり出来るじゃん?』と笑顔で言い放ちやがった。
そのストレート過ぎる愛情表現、いい加減勘弁してくれよ。と、心の中だけでひとりごちる。今まで想う事ばかりで過ごして来た俺にとって、想われるという慣れない行為は、正直叫び出したくなる位恥ずかしいのだ。
「ちょ、手! 肩!」
「平気平気、この時間だもん、酔っ払いが肩組んでるようにしか見えないって」
照れ臭さに言葉を返せずにいる間に、俺の肩へと回された腕。そのまま引き摺られるように、歩き出す大輔について歩いた。
振り払おうとすれば振り払う事も出来たのに、そうしなかったのは、鼻歌交じりに告げた大輔の手が、微かに震えている事に気付いたから。
(ああ、こいつも、緊張してんだ……)
想われる事に慣れていない、その言葉はそのまま大輔にも当て嵌まるのだという事に、そこで初めて気付いた。
職業上どうしても色恋沙汰は経験豊富に思えるけれど、店での擬似恋愛とは違う、本当の意味での愛し愛されるという想いの交感。
その事に、大輔も戸惑っているのだと気付いたから。
「お前、ここに泊まってたのか……」
「あはは、引いた?」
大輔に引き摺られながら連れて来られたのは、俺の店の直ぐ傍。道路を挟んだ斜め前に建つ、シティホテルだった。
だからあの時、すぐに追い駆けたのにも拘わらず、既に大輔の姿が見えなかったのかと納得する。灯台下暗しってのはこの事なのかもしれない。
「引いたっつうか……何で」
「ちらっとでも、みっちゃんの姿が見れたら良いなって、思って」
「……ばぁーか」
こんなに近くにいたのに、擦れ違っていた日々。
ひとりやきもきさせられていた数日間を思うと悔しいけれど、そんな感情も大輔のひと言に吹き飛んで行ってしまう。
カードキーで開錠して中へと入れば、意外にこじんまりとしているツインの部屋だった。
二つあるうちのひとつのベッドの上には、仕事用のスーツが何着か、皺にならないように伸ばした状態で広げてあった。
「取り敢えずそこ座れよ、傷の手当しないと――っ、大……」
「手当てなんて後でいいよ」
消毒薬の味のするキスなんて嫌だと額が合わさるほど間近で囁かれ、大輔が腰を下ろしたベッドの上、その膝を跨ぐように抱え上げられ、抱き締められる。
近過ぎる距離、ふわりと漂う大輔の香りに、心臓が忙しなく脈打ち始めた。
「キス、していい? ちゃんとしたキス、したい」
ほんの少しの不安と、溢れ出しそうな情欲を秘めた瞳に問い掛けられ、背筋に小波のような震えが走る。
馬鹿だな、お前は。
俺がどうして素直にここまで付いて来たのか、この期に及んで分かってねえのか?
「冷やさねえと、腫れるってのに……本当、馬鹿だな」
「――ッ」
「後悔すんなよ? 俺は一度惚れたら、しつこいからな?」
熱を持った頬に片手を添えて、傷付いた唇を舌先でぺろりと舐め上げる。大輔の肩へと置いたもう片方の手が微かな震えを刻むのは、俺も緊張しているからに他ならない。
「後悔なんてするはずない。最初に惚れたのは俺なんだから――」
「ん、ぅ」
言葉終わりと共に重ね合わされた唇。強引なまでに急いた仕草で入り込んで来た大輔の舌が、口腔内を掻き乱していった。
柔らかな頬を内側から辿り、舌を絡め取られて吸い上げられる。大輔の口の中へと引き込まれた舌先を甘く噛まれてひくりと身を竦ませれば、今度は労わるように優しく触れ合わされて。
再び押し戻されたかと思えば、絡み合う舌越しに粘膜の薄い上顎を擽られ、感じる箇所を次々と暴かれていく。
(う、わ……こいつ、上手過ぎ――)
鼻から抜け出ていく甘ったるい声、唾液の零れる濡れた音に、羞恥と快感を煽られる。
大輔の動きに必死で応酬してみても、与えられる快楽の大きさに敢え無く白旗が揚がってしまう。
「ふ、ぁ……ぅ、んぅ」
「みっちゃん、観月――やっべえ、可愛過ぎ」
余すところ無く俺の口腔を味わい尽くした唇から、熱い吐息が零れ落ちる。耳の付け根をやんわりと吸い上げつつ告げられた言葉に、激しいキスで酸欠気味の頭の中がくらくらとした。
「ッ、可愛いとか、言う、なっ…ん、あ」
反論の言葉は首筋を辿る濡れた感触に遮られた。時折歯を立てながら往復する唇が、辿り着いた耳朶を銜えて嬲り出す。
背を走り抜ける刺激に身を捩れば、互いに昂ぶり始めた熱が、布越しにゴリッと擦れ合った。たったそれだけの接触にすら煽られ、腰が揺れ動いた。
こくり、と小さく唾を飲み込む音が、聞こえた気がした。
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