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第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第12話
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どちらかというと、ロヌマが訝しげな目で見ている。
その隣のゴドーさんは、『ふぇっ、へっへぇぃ』と余韻を引きずって笑っていて、その傍の大きな体格のシンさんは無表情の様でいて、ずっと憮然としているようでもあった。
ミリアも、そんな彼らの様子を見ていて、ちょっと瞬いたかもしれないけれど。
その視線に気が付いてるのか、いないのか、ゴドーさんが砕けた調子でミリアに話しかけてきた。
「よぉ、俺は『こいつ』と同じ、バーク隊のもんでゴドウってんだ。こいつはシン、まあ悪いヤツじゃあない、無口だがな、」
『こいつ』と軽く親指で示されるのはロヌマと、それから彼の名前は正しくは『ゴドウ』らしくて、そして隣の大きな彼は『シン』さんで間違いないようだ。
「私はファミリネァ・・、ミリアです。」
「ミリアだな、知ってる知ってる。初めましてか。お前らの事はよく聞くぜ、」
ってなんか、最近そう言われることが多い気がする・・・。
「ん?」
私を見ているゴドーさんがちょっと、なにかを気になったようで。
えっと・・。
「どんなですか?」
ガイが、素直に聞いてたけど。
「あん?みんなが知ってるような話をな。ちょっと前に『外』で大活躍しただとか。他にもいろいろあるか。1番若い『A』のルーキー、あとは・・、まああれだよ。最近にぎわすニュースによく出くわす期待のルーキーか大物か?って感じだろ?」
って、口端《こうたん》の片方を上げて言われたけど・・『大物か』って、大袈裟な言い方は揶揄なのか皮肉なのか・・・。
「そんな目立ったつもりは無いんですけどね」
そう言ってチラッとこっちを見るガイには、小さく肩を竦めておいたミリアだ。
「噂に出やすい体質ってことか?けはっはっは、今朝もミーティングに顔出さなかったんだろ、話に少し出てたぜ」
やっぱり、噂に尾ひれでもたくさんついていそうな口ぶりだ。
「事情があったもんで。行きたかったんですけどね、『A』を中心に集まる機会なんてなかなか貴重そうだし。な、ミリア?」
「そうだね。」
「知り合いも少なさそうだな、機会があったら紹介してやるよ」
「どうもっす、」
ガイは朗らかに会話してるし、お礼も言ってるけど。
「いま『向こう』に行ったら何があったとか質問攻めにされるかもしれないけどな」
「はは、それはちょっと困りますね」
「活躍したんだろ?自慢しちまえよ、」
別に、大した事なんてしてないと思うんだけど、自慢って。
否定した方がいいんだろうか・・?でも、補外区の事件などは機密だし、ブルーレイクの事を詳しく話すわけにもいかないから。
それに・・・。
―――――それに私は・・・―――――――ブルーレイクで、戦いがあったとき――――活躍なんか・・していない―――――あのとき・・暗闇しか見えない闇の中で、異質な・・緊張感の・・・硝煙《しょうえん》の匂いと・・人が、たくさん・・・血を―――――――
――――――俺はガイ、って呼んでください。あっちのモノ食ってるのがケイジで、ぁぁ・・、」
って、・・ガイが自己紹介を始めていた。
・・振り返れば・・・ケイジの次のリースは、あそこのソファでずっとリラックスしているので、ガイは紹介を諦めたようだけど。
「で、こいつがガーニィ、」
「どうも、」
「あ?メンバー変わったのか?」
「いや、そこにいるんですけどね、」
「ぁあ、あいつか。」
こっちを見もしないリースを目で確認するゴドーさんは、私たちの顔は知っているようだ。
そういえば、ロヌマも出会ってすぐに私の名前を呼んでいた。
ふむ・・・そんなロヌマは、さっきからゴドーさんの傍で訝しげに、ジト目でゴドーさんをじぃっー・・・と見ているのが、なんだか気になるけど。
「まあ、今日は仲良くやろうや、」
ゴドーさんはそう、私にも言ってくれるけど・・・。
・・なんか気になる・・・――――――って、ミリアがロヌマと目が、バチっと合ってた。
「あ!」
今気が付いたような『その子』、というか『ロヌマ』が。
「あたしはっ!『ロヌマ』どぁっ!」
って、お腹の底からの宣言して、とても覇気があって、やっぱり『ロヌマ』らしい。
「ぁ、よろしく、」
一応、ミリアも返事を。
「ロヌマちゃんか、よろしくな、」
ガイがにこやかな笑顔みたいで。
「うん!」
「あん?自己紹介してなかったのか?」
ゴドーさんが、ちょっと驚いてた。
まあ、確かに、自己紹介もしていないってのは非常識と言えば、そうだとは思う。
「ヌマドァ?変な名前だな?」
って、つっかかり屋のケイジが後ろから来てた。
「ロ・ヌ・マ、だァ!」
ロヌマが大声で怒ってるけど。
「ドンマドンマ?だ?」
「ロ・ヌ・マ!!」
変なからかい方を見つけてしまったようだ、ケイジは。
「バークって・・、」
って、ガーニィが。
「どうした?」
「ああいや、バークってあの『Class - A』のバークかなぁって・・、」
「ん、あいつの事を知ってんのか?お前は・・『A』じゃ見ない顔だな?」
「ああ、俺は『B』で。よろしくっす。まぁ、話はいろいろ、」
「知ってんのか?」
「ぁぁ・・、」
「なんだ?」
ガーニィがちょっと珍しく、もじっとしたような。
「遠慮する事ないぜ?」
「・・いや、ものすっごい、トレーニングに来て、迷惑な酔っ払いがいたって・・・」
「なんだそりゃ」
「なんだそれ」
ゴドーさんとガイが同じような声を出してた。
「かっかっかか、」
って、ゴドーさんは笑ってるけど。
「二日酔いが残ってたのか?まあやりそうだな、バークなら。」
二日酔いって・・。
「他にも変な噂を聞いてんだろ?」
「いやあ、」
「まあいいや。だが、言っておくぞ。俺は、あのチームの中じゃ一番『マトモ』な方だ」
って・・宣言してる、『マトモな方』・・・本人が言う事じゃない気もする。
「うっす、」
でも素直に頷いたガーニィだ。
「けっはっはっは、」
って、ゴドーさんが笑ってる。
でも、『バーク』・・という名前は聞いた事がある。
たしか以前、『Class - A』のリーダーの会合に大きな声で目立っていた人がいて。
そのときに『バーク』って名前を聞いたような、そこで賑やかにワーワーやっていたような。
このゴドーさんがその『バーク』さんのチームメンバーということなら、・・もちろんこの子もその『Class - A』のメンバーということなのか―――――。
「ぁん?ヌマーダ?」
「ロ・ヌ・マ・だぁっ!」
―――――・・ケイジと、ロヌマはまだやってるけど。
「ヌマヌヌマヌ・・・、」
「ロ・ヌ・マぁっ!!」
子供っぽい意地悪をするケイジに、ずっと怒《おこ》ってるロヌマなわけで・・・。
・・・本当に『この子たち』は『Class - A』なんだろうか・・・?・・いや、ケイジは絶対にそうなんだけれど・・・チームメンバーなんだから・・なんだか恥ずかしいけど。
「ケイジ、」
いい加減にからかってるケイジに、ちょっと、睨みつけるつもりで、仕方なく、ミリアは窘《たしな》めておいた。
「そう聞こえたんだよ、聞こえたろ?」
「そういうことじゃなくて。」
「あん?」
「ロヌマ、遊んでんなよ?」
「遊んでないワい!」
注意したゴドーさんがニヤニヤしてる、なんか、やっぱりちょっと、その笑みも胡散臭いかもしれない。
「こいつなんなんだよ?」
って、ケイジのクレームはゴドーさんへ向けられてた。
「こういうヤツなんだよな、別に大して害があるわけじゃなし、俺らが暇じゃなかったらお守りに来るわけでもねぇし、なぁ?シン、」
「・・・」
「おモりってナンダぁあ!」
って、言うロヌマに、ケイジがペチンとロヌマの頭を軽く叩いてた。
「ちょっと、ケイジ・・・」
頭を押さえるロヌマが、ケイジを見て、止まっていた。
「お?つい。」
ミリアが口を開くのと同時に、ケイジと。
「おいおい・・、」
って、彼女の仲間のゴドーさんが急に、少しトーンの低い声になってた、怒ったのか、ケイジがからかい過ぎたかもしれない・・――――――。
「がつんとやっちまえよ、ロヌマぁあ、負けてっぞ、おいー、」
「ぬガぁっ!!」
ロヌマが怒った。
―――――ちょっと大きな声なので、びくっとするけど、周りの人もこっちを見るし。
って、後ろからガッシって、シンさんが大きな手でロヌマの腕を掴んで、鎖の役になったようだ。
「ほれ、今だぞ、なんか言い返せ、なんか、」
というか、ゴドーさんは楽しんでるのか・・・。
止める気も全然ないみたいだし。
「ウざう!」
ロヌマが自由に動けないままゴドーさんに怒ってた、握りこぶしを振りかぶってるし。
「いいから連れて帰れよ、」
そう、ケイジが一番まともな事を言ってる、気がしてくる、積極的にからかってたのはケイジなんだけど。
「ぬぁ゛ーあ゛ーっ!」
ロヌマはケイジにも、彼、ゴドーさんにも怒ってるようだ。
両方を威嚇していて、怒り倍増の様だ、まあ、気持ちはわかるけど。
「お前、態度でけぇな、」
って、ゴドーさんがケイジへ。
「へはっはぁ、まあ訓練で当たったらよろしくな、」
ゴドーさんはサムズアップして、ケイジに『いいね』ってしてた。
「うっせぇ、」
ケイジがいい加減、口が悪いとか抜きに、うざったくなっているようだ。
まあ、ケイジには最初から礼儀も何もないんだけれど。
「ぬ゛ぁー!態度《たいど》でかいゾ!」
ロヌマが正直でまっすぐだ。
「うッせぇ、」
そんな一連《いちれん》の様子を見てて、ミリアはちょっと、ため息を吐きたくなる気持ちになったけれど。
とりあえず、踵を返して、テーブルの方へ、なんだか喉が渇いたので余ってる飲み物と、サンドイッチかなにかを物色しようと思った。
「おまえら、食い過ぎるとゲー吐《は》くぞ」
「・・・」
って、ゴドーさんは、ケイジを見て言ったようだったけど。
いつの間にかケイジが、パンをまた手に持ってたみたいだ。
私が見たので3つ目だ、確かに食べ過ぎか。
「んじゃあ、こいつは連れて行く。どうしてもクレームを入れたいってんならバークの方に頼《たの》むぜー、」
「パン、くれ!」
って、ロヌマが早速、ケイジの目の前にいるけど。
「あれ?おい、ロヌマぁ・・・」
ゴドーさんも参ってるようだけど、ロヌマはいつの間にかシンさんの手からすり抜けたようだ。
「オレんだ。」
「手を離すんじゃねぇよ、シン。おい、お前はゲーしても知らねぇぜ?」
「そいつだっていろいろ食ってんじゃねぇの?」
「こいつは、言っても聞かないからな。」
「きいてたまっカ!」
ロヌマは、ゴドーさんに対してはけっこう反抗的みたいだ。
「言うコと聞かなせタきゃ・・、『オニギリ』もってこいヨー?」
さっきの、食べられなかったオニギリの事だ、ロヌマは覚えていたようだ、というかちょっと挑発的だ。
「バークの真似《まね》か?つうかなんだよオニギリって」
ロヌマが急に言葉遣《ことばづか》いが変わったし、横揺れのリズムを取っていたりで、誰かのモノマネでもしてるのかもしれない。
というか、言うとおりにオニギリを持ってきたら、ロヌマは食べるに決まってると思うんだけど。
「んジゃ、クれ!」
って、ケイジのパンを堂々と欲しがるロヌマで。
「・・・。やるくらいなら、俺が喰《く》う!」
ケイジが、っぱぁんっと袋を開けてた。
「ぬがぁあー!」
「んだこら・・っ」
ロヌマとケイジ、2人がまた、何に張《は》り合ってるかはわからないけども・・・。
「ケイジ・・・」
ちょっと呆《あき》れてるミリアが名前を呼んだら、ケイジが一応は一瞥してきたけど。
ロヌマにまだちょっかいを出したい様子なのは見て取れる。
またロヌマを見ているし。
「がぁーっ」
牙《きば》をむくようなロヌマだし。
「そっちから吹《ふ》っ掛《か》けてきたんだぞ、」
って、ケイジがまだ余計な事を。
「んダってンだーっ?」
もう、めんどくさくなってきたな・・・。
「オラ行くぞロヌマ、」
ゴドーさんが手を伸ばして、もう首根っこを掴まれたロヌマが引きずられていく。
「お前はあたしがボっコボコーっ!にっぃー!してやんよ!あたしが話してんだローっ!」
「オニギリな、」
って、ケイジがロヌマへ。
「ぬっ?」
「自分で探せよ、」
「がぁー!」
ロヌマがさすがにまた怒《おこ》ってた。
「おい、服《ふく》伸びるぞ」
って、ゴドーさんに言われてる、抵抗《ていこう》しているロヌマの運動着の後ろ襟の伸縮性が高い。
「ケイジ、」
すぐに怒らせることができるケイジもすごいというか、アレだけど。
「やめな、」
「なんだよ、」
「意地悪しちゃダメでしょ」
ミリアはもう、ケイジをしっかり窘《たしな》めるしかない。
「あっちに言えよ、」
「まったく・・、」
・・見てて思ったけど、ケイジがなんだか生き生きしているような・・・、ある種、ロヌマと波長が合うのかもしれない・・・とか思ってもみたミリアだけども。
というか、ロヌマがこっちを難しい顔して、じぃっと見てた。
ちょっと、瞬いたミリアだけど。
なんだかそのロヌマの姿も見慣れてきた、くりくりしたロヌマの目は大きくてキレイだとは思うけど。
「早く連れてけよ、」
って、ケイジが。
「あいつガー!ーアーイつーがーっ・・!・・!」
「なあ。あんまりこいつをからかわない方がいいぜ・・?」
って、怒ってるロヌマを引っ張っているゴドーさんが、ちょっと声を低くして、こっちへ言っていた。
さすがに仲間をからかい過ぎたのか・・。
「なんだよ?」
「こいつに絡まれると・・、すっげぇめんどくせぇ、次からな・・・、」
・・まあ、そうなんだろうな、ってミリアも想ったけども。
「あん?」
ケイジは変な声を出してた。
「まあ、こいつの気が済んだらもう無害だ。気にすんな、」
って、どっちだ。
「もうとっくにめんどくせぇよ、」
ってケイジは。
「んだロ!」
って、言い返すロヌマが、なぜか元気で。
甲高い威嚇か、胸を張って得意げなのか、もしくはその両方みたいだった。
「・・・」
珍しくケイジが、そんなロヌマに黙ってて、何も言えなかったのかもしれない。
憮然としてたけど。
―――――――って、急に、ロヌマの後ろ、ゴドーさんの背後から、現れたと思った、大きな男の人、さっきから佇んでいたシンさんが、その頭一つ分は高い彼が、ロヌマを見下ろしていた・・・。
真上を見上げるロヌマが、その大きな影になった彼を見つけて。
「あ、シン!」
って、ロヌマのその後ろから大きな手が、むんず、とロヌマの首根っこを、しっかり捕《つか》まえて。
そのまま引きずる、のかと思ったら、足も持って両手で軽々とひょんと持ち上げてた。
その大きな肩に担《かつ》いだロヌマを、ちゃんとしっかり持って帰るようだ。
「ぬぁああぁ、シンーっ、まだ話してんのぉー!?」
気が付いたロヌマがジタバタしているけど、既に遅くて、無言の彼はびくともしないし、手慣れているような。
暴《あば》れようとするロヌマを気にすることなく、ひっくり返したり担ぎ直したりして、微調整して背中を向けて歩き出してた。
「へっはっは、まるで引っ越し屋だな、」
ゴドーさんがニヤニヤ笑ってついてくけど。
「ンガァっ!」
ロヌマは怒ってるようだった。
無言の彼、シンさんは、彼はちらりとこっちを見たような。
・・でも、一瞥《いちべつ》しただけで向こうへ歩き出した。
「暴れ過ぎだっての、全然いびれてねーじゃんか、かっはっはは、」
「――――――ナぁっ、・・っーーーー!――――――――」
――――――・・・って、まだなにか言ってるロヌマたちの、というか、ロヌマの声の端っこがまだ聞こえているけれど。
向こうの人込みに元気な声も掻《か》き消されて・・いかないけど、離れてだいぶ遠くなっていった。
ミリアは、あのロヌマって子が肩に担がれているのを、ずっと見送っていたけど・・・。
「なんか・・、」
ミリアが、そう・・。
「・・すごいな、」
ガイが続きを言ってた。
同じ気持ちだったようだ。
「うん。」
ミリアは頷いて。
「なんであんなヤベぇのがいんだ?」
ケイジがそう、言ったので・・・ミリアはちょっと横目にジト目で見てたけど。
ケイジは暢気《のんき》にそのパンを最後まで口に入れていた。
「お前も大概だぞ、」
って、ガーニィがはっきり言ってくれた、けど、ケイジは意味が分からないといった顔で、きょとんとしているようだった、・・モグモグしながら。
まあ、あの子、訓練始まる前からあんなに元気でいいのかな、ってちょっと、逆に心配になるけど。
・・・・。
「たくさん食べ過ぎないでよ?」
「ぁん?これで終わりだよ、」
「ゲー吐くぞ、」
「吐かねぇえよ、」
って、ガイがからかってるみたいだけど。
『――――あっ、あれ、あったー!』
って、そんな、大きくて元気な声の一部も、まだこっちまで届いてて。
『オニギリー!』
向こうで、気が付いた誰かが、パッケージに入っている黒くて丸いそれを放り投げて、ロヌマが肩の上の高い所で、それを両手でキャッチしたようだ。
『ぉー・・!』
『ナイス、』
『よぉー』
って、ちょっと周りの人たちが湧《わ》いてた。
「ダーっ!」
キャッチしたのを、ロヌマは掲《かか》げてた。
えっと・・・。
うん。
とりあえず、解決したみたいだ。
あと、ノリがいい人たちがいっぱいだと思う。
あの子はどこにいても目立つみたいだ。
前にもどこかで見た事がある気がするんだけれど・・・まあ、それは別に良いんだけど。
・・『特能力者は変わり者が多い』、っていう流言があるけど。
科学的な根拠は無いし、私自身もそれは迷信に近いとは思っている。
個性は様々だから、けど、ふと思い出したのも本当で、不思議な彼らを見てたら。
口には出さないけど。
この言葉は、特能力者には否定的っぽいような、侮蔑な印象でもあるようだから。
ガイたちに聞こえても、あまり良くないし。
・・あ、彼女が特能力者なのかはわからないけど。
あと、ゴドーさんから『いびる』とかの単語もさっき聞こえて来てたけど、冗談だろうか。
あんまり、いびられた実感も無いし。
ロヌマは、ただ知らない子が、暇《ひま》だから、ちょっかいかけに来たって感じ・・うん、強ち間違ってないと思う。
というか、周りから注目されているみたいなのには気が付いてたけれど。
未だにこっちをチラチラ見てくるような人達もいるし、あのロヌマって子は凄いパワーだ。
ロヌマが大きな声を出す度にこっちを見られていた気がする。
『シンーっ、自分で歩ケ、んだゾ!!?』
って、向こうで大きな声でジタバタして、ようやく床におろされたロヌマが解放されてる後ろ姿に。
「マージューっ!」
ぴゅーっと、駆け去っていくロヌマは誰かの名前を呼びながら、元気みたいだ。
「賑《にぎ》やかだな、あのロヌマちゃんって、」
って、ガイの声に、ハっとした気分になったミリアは、いつの間にか目で追っていたみたいだ。
振り返れば、ガイは面白かったのか、朗らかに笑ってるけれど。
楽しそうなガイは面白い事が好きなんだろうな、とやっぱり思う。
・・ふとテーブルに目をやったら、パックされてるタマゴサンドイッチが目に入った。
「これ食べて良いの?」
「おう、」
だからミリアは、2つの内から1つ、適当に取った。
ロヌマを見ていたからか、なんだか食べたくなったのだ。
袋を開けて、口に運んでぱくっと、柔らかい不思議なタマゴの美味しいハーモニーを味わって―――――
『―――――あぁ、聞こえるな・・?準備が整った。今から集合をかける。大人しく集まってくれよ』
「――――・・おぉし、集合だー!」
「集合だぞー」
向こうから上がる声も、まだ大きい喧騒の中でもようやく次への声がかかったので。
ミリアは、左手に持ったタマゴサンドイッチをモグモグしながら、みんなの顔を見回して。
「もうやんなくていいんじゃねぇか?」
って、ケイジが、ジェリポンに口を付けながらぼやいてた。
ごくん、と一口目を飲み込んだミリアは、息を吸う、そして、みんなへ。
「行くよ、」
強めの声を、みんなの切り替えのために伝えた。
「へい、リース、こっち来い、」
「飲み物持ってっていいんだろ?」
「あいつらどこ行ったかな、集合しないとまずいよな?」
話しながら動き始めるみんなもすぐに移動できるだろう。
振り返るミリアは、向こうで集まり始めて行く彼らの方を向き直り、歩き出した。
その隣のゴドーさんは、『ふぇっ、へっへぇぃ』と余韻を引きずって笑っていて、その傍の大きな体格のシンさんは無表情の様でいて、ずっと憮然としているようでもあった。
ミリアも、そんな彼らの様子を見ていて、ちょっと瞬いたかもしれないけれど。
その視線に気が付いてるのか、いないのか、ゴドーさんが砕けた調子でミリアに話しかけてきた。
「よぉ、俺は『こいつ』と同じ、バーク隊のもんでゴドウってんだ。こいつはシン、まあ悪いヤツじゃあない、無口だがな、」
『こいつ』と軽く親指で示されるのはロヌマと、それから彼の名前は正しくは『ゴドウ』らしくて、そして隣の大きな彼は『シン』さんで間違いないようだ。
「私はファミリネァ・・、ミリアです。」
「ミリアだな、知ってる知ってる。初めましてか。お前らの事はよく聞くぜ、」
ってなんか、最近そう言われることが多い気がする・・・。
「ん?」
私を見ているゴドーさんがちょっと、なにかを気になったようで。
えっと・・。
「どんなですか?」
ガイが、素直に聞いてたけど。
「あん?みんなが知ってるような話をな。ちょっと前に『外』で大活躍しただとか。他にもいろいろあるか。1番若い『A』のルーキー、あとは・・、まああれだよ。最近にぎわすニュースによく出くわす期待のルーキーか大物か?って感じだろ?」
って、口端《こうたん》の片方を上げて言われたけど・・『大物か』って、大袈裟な言い方は揶揄なのか皮肉なのか・・・。
「そんな目立ったつもりは無いんですけどね」
そう言ってチラッとこっちを見るガイには、小さく肩を竦めておいたミリアだ。
「噂に出やすい体質ってことか?けはっはっは、今朝もミーティングに顔出さなかったんだろ、話に少し出てたぜ」
やっぱり、噂に尾ひれでもたくさんついていそうな口ぶりだ。
「事情があったもんで。行きたかったんですけどね、『A』を中心に集まる機会なんてなかなか貴重そうだし。な、ミリア?」
「そうだね。」
「知り合いも少なさそうだな、機会があったら紹介してやるよ」
「どうもっす、」
ガイは朗らかに会話してるし、お礼も言ってるけど。
「いま『向こう』に行ったら何があったとか質問攻めにされるかもしれないけどな」
「はは、それはちょっと困りますね」
「活躍したんだろ?自慢しちまえよ、」
別に、大した事なんてしてないと思うんだけど、自慢って。
否定した方がいいんだろうか・・?でも、補外区の事件などは機密だし、ブルーレイクの事を詳しく話すわけにもいかないから。
それに・・・。
―――――それに私は・・・―――――――ブルーレイクで、戦いがあったとき――――活躍なんか・・していない―――――あのとき・・暗闇しか見えない闇の中で、異質な・・緊張感の・・・硝煙《しょうえん》の匂いと・・人が、たくさん・・・血を―――――――
――――――俺はガイ、って呼んでください。あっちのモノ食ってるのがケイジで、ぁぁ・・、」
って、・・ガイが自己紹介を始めていた。
・・振り返れば・・・ケイジの次のリースは、あそこのソファでずっとリラックスしているので、ガイは紹介を諦めたようだけど。
「で、こいつがガーニィ、」
「どうも、」
「あ?メンバー変わったのか?」
「いや、そこにいるんですけどね、」
「ぁあ、あいつか。」
こっちを見もしないリースを目で確認するゴドーさんは、私たちの顔は知っているようだ。
そういえば、ロヌマも出会ってすぐに私の名前を呼んでいた。
ふむ・・・そんなロヌマは、さっきからゴドーさんの傍で訝しげに、ジト目でゴドーさんをじぃっー・・・と見ているのが、なんだか気になるけど。
「まあ、今日は仲良くやろうや、」
ゴドーさんはそう、私にも言ってくれるけど・・・。
・・なんか気になる・・・――――――って、ミリアがロヌマと目が、バチっと合ってた。
「あ!」
今気が付いたような『その子』、というか『ロヌマ』が。
「あたしはっ!『ロヌマ』どぁっ!」
って、お腹の底からの宣言して、とても覇気があって、やっぱり『ロヌマ』らしい。
「ぁ、よろしく、」
一応、ミリアも返事を。
「ロヌマちゃんか、よろしくな、」
ガイがにこやかな笑顔みたいで。
「うん!」
「あん?自己紹介してなかったのか?」
ゴドーさんが、ちょっと驚いてた。
まあ、確かに、自己紹介もしていないってのは非常識と言えば、そうだとは思う。
「ヌマドァ?変な名前だな?」
って、つっかかり屋のケイジが後ろから来てた。
「ロ・ヌ・マ、だァ!」
ロヌマが大声で怒ってるけど。
「ドンマドンマ?だ?」
「ロ・ヌ・マ!!」
変なからかい方を見つけてしまったようだ、ケイジは。
「バークって・・、」
って、ガーニィが。
「どうした?」
「ああいや、バークってあの『Class - A』のバークかなぁって・・、」
「ん、あいつの事を知ってんのか?お前は・・『A』じゃ見ない顔だな?」
「ああ、俺は『B』で。よろしくっす。まぁ、話はいろいろ、」
「知ってんのか?」
「ぁぁ・・、」
「なんだ?」
ガーニィがちょっと珍しく、もじっとしたような。
「遠慮する事ないぜ?」
「・・いや、ものすっごい、トレーニングに来て、迷惑な酔っ払いがいたって・・・」
「なんだそりゃ」
「なんだそれ」
ゴドーさんとガイが同じような声を出してた。
「かっかっかか、」
って、ゴドーさんは笑ってるけど。
「二日酔いが残ってたのか?まあやりそうだな、バークなら。」
二日酔いって・・。
「他にも変な噂を聞いてんだろ?」
「いやあ、」
「まあいいや。だが、言っておくぞ。俺は、あのチームの中じゃ一番『マトモ』な方だ」
って・・宣言してる、『マトモな方』・・・本人が言う事じゃない気もする。
「うっす、」
でも素直に頷いたガーニィだ。
「けっはっはっは、」
って、ゴドーさんが笑ってる。
でも、『バーク』・・という名前は聞いた事がある。
たしか以前、『Class - A』のリーダーの会合に大きな声で目立っていた人がいて。
そのときに『バーク』って名前を聞いたような、そこで賑やかにワーワーやっていたような。
このゴドーさんがその『バーク』さんのチームメンバーということなら、・・もちろんこの子もその『Class - A』のメンバーということなのか―――――。
「ぁん?ヌマーダ?」
「ロ・ヌ・マ・だぁっ!」
―――――・・ケイジと、ロヌマはまだやってるけど。
「ヌマヌヌマヌ・・・、」
「ロ・ヌ・マぁっ!!」
子供っぽい意地悪をするケイジに、ずっと怒《おこ》ってるロヌマなわけで・・・。
・・・本当に『この子たち』は『Class - A』なんだろうか・・・?・・いや、ケイジは絶対にそうなんだけれど・・・チームメンバーなんだから・・なんだか恥ずかしいけど。
「ケイジ、」
いい加減にからかってるケイジに、ちょっと、睨みつけるつもりで、仕方なく、ミリアは窘《たしな》めておいた。
「そう聞こえたんだよ、聞こえたろ?」
「そういうことじゃなくて。」
「あん?」
「ロヌマ、遊んでんなよ?」
「遊んでないワい!」
注意したゴドーさんがニヤニヤしてる、なんか、やっぱりちょっと、その笑みも胡散臭いかもしれない。
「こいつなんなんだよ?」
って、ケイジのクレームはゴドーさんへ向けられてた。
「こういうヤツなんだよな、別に大して害があるわけじゃなし、俺らが暇じゃなかったらお守りに来るわけでもねぇし、なぁ?シン、」
「・・・」
「おモりってナンダぁあ!」
って、言うロヌマに、ケイジがペチンとロヌマの頭を軽く叩いてた。
「ちょっと、ケイジ・・・」
頭を押さえるロヌマが、ケイジを見て、止まっていた。
「お?つい。」
ミリアが口を開くのと同時に、ケイジと。
「おいおい・・、」
って、彼女の仲間のゴドーさんが急に、少しトーンの低い声になってた、怒ったのか、ケイジがからかい過ぎたかもしれない・・――――――。
「がつんとやっちまえよ、ロヌマぁあ、負けてっぞ、おいー、」
「ぬガぁっ!!」
ロヌマが怒った。
―――――ちょっと大きな声なので、びくっとするけど、周りの人もこっちを見るし。
って、後ろからガッシって、シンさんが大きな手でロヌマの腕を掴んで、鎖の役になったようだ。
「ほれ、今だぞ、なんか言い返せ、なんか、」
というか、ゴドーさんは楽しんでるのか・・・。
止める気も全然ないみたいだし。
「ウざう!」
ロヌマが自由に動けないままゴドーさんに怒ってた、握りこぶしを振りかぶってるし。
「いいから連れて帰れよ、」
そう、ケイジが一番まともな事を言ってる、気がしてくる、積極的にからかってたのはケイジなんだけど。
「ぬぁ゛ーあ゛ーっ!」
ロヌマはケイジにも、彼、ゴドーさんにも怒ってるようだ。
両方を威嚇していて、怒り倍増の様だ、まあ、気持ちはわかるけど。
「お前、態度でけぇな、」
って、ゴドーさんがケイジへ。
「へはっはぁ、まあ訓練で当たったらよろしくな、」
ゴドーさんはサムズアップして、ケイジに『いいね』ってしてた。
「うっせぇ、」
ケイジがいい加減、口が悪いとか抜きに、うざったくなっているようだ。
まあ、ケイジには最初から礼儀も何もないんだけれど。
「ぬ゛ぁー!態度《たいど》でかいゾ!」
ロヌマが正直でまっすぐだ。
「うッせぇ、」
そんな一連《いちれん》の様子を見てて、ミリアはちょっと、ため息を吐きたくなる気持ちになったけれど。
とりあえず、踵を返して、テーブルの方へ、なんだか喉が渇いたので余ってる飲み物と、サンドイッチかなにかを物色しようと思った。
「おまえら、食い過ぎるとゲー吐《は》くぞ」
「・・・」
って、ゴドーさんは、ケイジを見て言ったようだったけど。
いつの間にかケイジが、パンをまた手に持ってたみたいだ。
私が見たので3つ目だ、確かに食べ過ぎか。
「んじゃあ、こいつは連れて行く。どうしてもクレームを入れたいってんならバークの方に頼《たの》むぜー、」
「パン、くれ!」
って、ロヌマが早速、ケイジの目の前にいるけど。
「あれ?おい、ロヌマぁ・・・」
ゴドーさんも参ってるようだけど、ロヌマはいつの間にかシンさんの手からすり抜けたようだ。
「オレんだ。」
「手を離すんじゃねぇよ、シン。おい、お前はゲーしても知らねぇぜ?」
「そいつだっていろいろ食ってんじゃねぇの?」
「こいつは、言っても聞かないからな。」
「きいてたまっカ!」
ロヌマは、ゴドーさんに対してはけっこう反抗的みたいだ。
「言うコと聞かなせタきゃ・・、『オニギリ』もってこいヨー?」
さっきの、食べられなかったオニギリの事だ、ロヌマは覚えていたようだ、というかちょっと挑発的だ。
「バークの真似《まね》か?つうかなんだよオニギリって」
ロヌマが急に言葉遣《ことばづか》いが変わったし、横揺れのリズムを取っていたりで、誰かのモノマネでもしてるのかもしれない。
というか、言うとおりにオニギリを持ってきたら、ロヌマは食べるに決まってると思うんだけど。
「んジゃ、クれ!」
って、ケイジのパンを堂々と欲しがるロヌマで。
「・・・。やるくらいなら、俺が喰《く》う!」
ケイジが、っぱぁんっと袋を開けてた。
「ぬがぁあー!」
「んだこら・・っ」
ロヌマとケイジ、2人がまた、何に張《は》り合ってるかはわからないけども・・・。
「ケイジ・・・」
ちょっと呆《あき》れてるミリアが名前を呼んだら、ケイジが一応は一瞥してきたけど。
ロヌマにまだちょっかいを出したい様子なのは見て取れる。
またロヌマを見ているし。
「がぁーっ」
牙《きば》をむくようなロヌマだし。
「そっちから吹《ふ》っ掛《か》けてきたんだぞ、」
って、ケイジがまだ余計な事を。
「んダってンだーっ?」
もう、めんどくさくなってきたな・・・。
「オラ行くぞロヌマ、」
ゴドーさんが手を伸ばして、もう首根っこを掴まれたロヌマが引きずられていく。
「お前はあたしがボっコボコーっ!にっぃー!してやんよ!あたしが話してんだローっ!」
「オニギリな、」
って、ケイジがロヌマへ。
「ぬっ?」
「自分で探せよ、」
「がぁー!」
ロヌマがさすがにまた怒《おこ》ってた。
「おい、服《ふく》伸びるぞ」
って、ゴドーさんに言われてる、抵抗《ていこう》しているロヌマの運動着の後ろ襟の伸縮性が高い。
「ケイジ、」
すぐに怒らせることができるケイジもすごいというか、アレだけど。
「やめな、」
「なんだよ、」
「意地悪しちゃダメでしょ」
ミリアはもう、ケイジをしっかり窘《たしな》めるしかない。
「あっちに言えよ、」
「まったく・・、」
・・見てて思ったけど、ケイジがなんだか生き生きしているような・・・、ある種、ロヌマと波長が合うのかもしれない・・・とか思ってもみたミリアだけども。
というか、ロヌマがこっちを難しい顔して、じぃっと見てた。
ちょっと、瞬いたミリアだけど。
なんだかそのロヌマの姿も見慣れてきた、くりくりしたロヌマの目は大きくてキレイだとは思うけど。
「早く連れてけよ、」
って、ケイジが。
「あいつガー!ーアーイつーがーっ・・!・・!」
「なあ。あんまりこいつをからかわない方がいいぜ・・?」
って、怒ってるロヌマを引っ張っているゴドーさんが、ちょっと声を低くして、こっちへ言っていた。
さすがに仲間をからかい過ぎたのか・・。
「なんだよ?」
「こいつに絡まれると・・、すっげぇめんどくせぇ、次からな・・・、」
・・まあ、そうなんだろうな、ってミリアも想ったけども。
「あん?」
ケイジは変な声を出してた。
「まあ、こいつの気が済んだらもう無害だ。気にすんな、」
って、どっちだ。
「もうとっくにめんどくせぇよ、」
ってケイジは。
「んだロ!」
って、言い返すロヌマが、なぜか元気で。
甲高い威嚇か、胸を張って得意げなのか、もしくはその両方みたいだった。
「・・・」
珍しくケイジが、そんなロヌマに黙ってて、何も言えなかったのかもしれない。
憮然としてたけど。
―――――――って、急に、ロヌマの後ろ、ゴドーさんの背後から、現れたと思った、大きな男の人、さっきから佇んでいたシンさんが、その頭一つ分は高い彼が、ロヌマを見下ろしていた・・・。
真上を見上げるロヌマが、その大きな影になった彼を見つけて。
「あ、シン!」
って、ロヌマのその後ろから大きな手が、むんず、とロヌマの首根っこを、しっかり捕《つか》まえて。
そのまま引きずる、のかと思ったら、足も持って両手で軽々とひょんと持ち上げてた。
その大きな肩に担《かつ》いだロヌマを、ちゃんとしっかり持って帰るようだ。
「ぬぁああぁ、シンーっ、まだ話してんのぉー!?」
気が付いたロヌマがジタバタしているけど、既に遅くて、無言の彼はびくともしないし、手慣れているような。
暴《あば》れようとするロヌマを気にすることなく、ひっくり返したり担ぎ直したりして、微調整して背中を向けて歩き出してた。
「へっはっは、まるで引っ越し屋だな、」
ゴドーさんがニヤニヤ笑ってついてくけど。
「ンガァっ!」
ロヌマは怒ってるようだった。
無言の彼、シンさんは、彼はちらりとこっちを見たような。
・・でも、一瞥《いちべつ》しただけで向こうへ歩き出した。
「暴れ過ぎだっての、全然いびれてねーじゃんか、かっはっはは、」
「――――――ナぁっ、・・っーーーー!――――――――」
――――――・・・って、まだなにか言ってるロヌマたちの、というか、ロヌマの声の端っこがまだ聞こえているけれど。
向こうの人込みに元気な声も掻《か》き消されて・・いかないけど、離れてだいぶ遠くなっていった。
ミリアは、あのロヌマって子が肩に担がれているのを、ずっと見送っていたけど・・・。
「なんか・・、」
ミリアが、そう・・。
「・・すごいな、」
ガイが続きを言ってた。
同じ気持ちだったようだ。
「うん。」
ミリアは頷いて。
「なんであんなヤベぇのがいんだ?」
ケイジがそう、言ったので・・・ミリアはちょっと横目にジト目で見てたけど。
ケイジは暢気《のんき》にそのパンを最後まで口に入れていた。
「お前も大概だぞ、」
って、ガーニィがはっきり言ってくれた、けど、ケイジは意味が分からないといった顔で、きょとんとしているようだった、・・モグモグしながら。
まあ、あの子、訓練始まる前からあんなに元気でいいのかな、ってちょっと、逆に心配になるけど。
・・・・。
「たくさん食べ過ぎないでよ?」
「ぁん?これで終わりだよ、」
「ゲー吐くぞ、」
「吐かねぇえよ、」
って、ガイがからかってるみたいだけど。
『――――あっ、あれ、あったー!』
って、そんな、大きくて元気な声の一部も、まだこっちまで届いてて。
『オニギリー!』
向こうで、気が付いた誰かが、パッケージに入っている黒くて丸いそれを放り投げて、ロヌマが肩の上の高い所で、それを両手でキャッチしたようだ。
『ぉー・・!』
『ナイス、』
『よぉー』
って、ちょっと周りの人たちが湧《わ》いてた。
「ダーっ!」
キャッチしたのを、ロヌマは掲《かか》げてた。
えっと・・・。
うん。
とりあえず、解決したみたいだ。
あと、ノリがいい人たちがいっぱいだと思う。
あの子はどこにいても目立つみたいだ。
前にもどこかで見た事がある気がするんだけれど・・・まあ、それは別に良いんだけど。
・・『特能力者は変わり者が多い』、っていう流言があるけど。
科学的な根拠は無いし、私自身もそれは迷信に近いとは思っている。
個性は様々だから、けど、ふと思い出したのも本当で、不思議な彼らを見てたら。
口には出さないけど。
この言葉は、特能力者には否定的っぽいような、侮蔑な印象でもあるようだから。
ガイたちに聞こえても、あまり良くないし。
・・あ、彼女が特能力者なのかはわからないけど。
あと、ゴドーさんから『いびる』とかの単語もさっき聞こえて来てたけど、冗談だろうか。
あんまり、いびられた実感も無いし。
ロヌマは、ただ知らない子が、暇《ひま》だから、ちょっかいかけに来たって感じ・・うん、強ち間違ってないと思う。
というか、周りから注目されているみたいなのには気が付いてたけれど。
未だにこっちをチラチラ見てくるような人達もいるし、あのロヌマって子は凄いパワーだ。
ロヌマが大きな声を出す度にこっちを見られていた気がする。
『シンーっ、自分で歩ケ、んだゾ!!?』
って、向こうで大きな声でジタバタして、ようやく床におろされたロヌマが解放されてる後ろ姿に。
「マージューっ!」
ぴゅーっと、駆け去っていくロヌマは誰かの名前を呼びながら、元気みたいだ。
「賑《にぎ》やかだな、あのロヌマちゃんって、」
って、ガイの声に、ハっとした気分になったミリアは、いつの間にか目で追っていたみたいだ。
振り返れば、ガイは面白かったのか、朗らかに笑ってるけれど。
楽しそうなガイは面白い事が好きなんだろうな、とやっぱり思う。
・・ふとテーブルに目をやったら、パックされてるタマゴサンドイッチが目に入った。
「これ食べて良いの?」
「おう、」
だからミリアは、2つの内から1つ、適当に取った。
ロヌマを見ていたからか、なんだか食べたくなったのだ。
袋を開けて、口に運んでぱくっと、柔らかい不思議なタマゴの美味しいハーモニーを味わって―――――
『―――――あぁ、聞こえるな・・?準備が整った。今から集合をかける。大人しく集まってくれよ』
「――――・・おぉし、集合だー!」
「集合だぞー」
向こうから上がる声も、まだ大きい喧騒の中でもようやく次への声がかかったので。
ミリアは、左手に持ったタマゴサンドイッチをモグモグしながら、みんなの顔を見回して。
「もうやんなくていいんじゃねぇか?」
って、ケイジが、ジェリポンに口を付けながらぼやいてた。
ごくん、と一口目を飲み込んだミリアは、息を吸う、そして、みんなへ。
「行くよ、」
強めの声を、みんなの切り替えのために伝えた。
「へい、リース、こっち来い、」
「飲み物持ってっていいんだろ?」
「あいつらどこ行ったかな、集合しないとまずいよな?」
話しながら動き始めるみんなもすぐに移動できるだろう。
振り返るミリアは、向こうで集まり始めて行く彼らの方を向き直り、歩き出した。
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