幻想機動輝星

sabuo

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序章 ある研究員の記録『ZERO』IS SLEEPING

第33話 逃げ続けた結果、そして解決のための一歩。

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「はい!では三毛猫の仮完成を祝ってー!!」
「「「かんぱーい!!!」」
あれ、おかしい。
今まで俺は何をしていたんだっけ?
「なあ、オール、今俺達は何をやっているんだ?」
「え?」
きょとんとした顔でオールは答えた。
「三毛猫の仮完成祝いだけど」
「仮完成祝い?」
ああ、そうか完成したのか。
「今日は何日だっけ?」
「5月30日」
「ここは?」
「『ろまねすか』だよ…大丈夫? 光男君」
「あ、ああ」



「私の夢はね、世界中の空を飛ぶ事よ」
そう、メルトは言った。
「いきなりどうしてそんな事を?」
「あなた、昨日…その、助けてくれたじゃない。その報酬よ」
頬を赤らめながら言うメルト。だが、
「助けた?」
「え?」
意見が食い違う。
「覚えていないの?」
「ああ」
「昨日の事なのに?」
「ああ…何があったんだ?」
訝しげな顔をしながらメルトは言った。
「あなたは昨日」



「僕の夢は、友達を作る事だよ」
オールはそう言った。
「友達?」
「うん…昔から、僕には友達がいなかったんだ。オーク(豚人族)だからね…友達ができなかったんだ」
けど、とオールは続けた。
「最近、その夢が叶ってね」
「叶った…友達ができたのか?」
「うん」
「誰だ?」
それは光男君、とオールは笑顔で言った。
「君だよ」




「光男君? 光男君?」
何かやわらかい物が後頭部に当たっている。
俺は目を開けた。
逆さまの茜の顔が見えた。
「大丈夫?」
「俺は、いったい…」
体が重い、頭痛も激しい。
そして、すごく眠かった。
疲れている。
「光男君、なんだかフィーバーしてお茶を飲みまくって場酔いして倒れたんだけど…大丈夫?」
「大丈夫…じゃないな」
俺は起き上がり、立ち上がる。が、すぐよろけて座り込んだ。
バランスが取れない。
「ちょ、光男君。無理しないで」
「あ、ああ」
心配そうに俺を見る茜。俺の記憶が確かなら、こんな表情を俺に向けるのは初めての筈だ。
記憶?
そんな記憶、どこに?
「……」
「どうしたの?」
「いや」
そう言って、俺は探る。記憶を、
いままでの記憶を。
「…無い」
「?」
「無い、無いんだよ!! いままでの記憶が!!」
今日、何があったか、昨日、なにがあったか。
さっき、何があったか。昨日の夕食は、今朝の朝食は、昼食は、
なんだったか?
「どの記憶も、この世界に来てからの来てからの記憶が、まったく無いんだよ!!」
ぶつ切りにしか覚えていない。中途半端な所で記憶が無い。
ぶつぶつと、穴が開いている。
どうしてだ?
どうしてだ?
どうしてだ!?
「…逃げているんじゃないの?」
文字どおり頭を抱えた俺に茜は優しく言った。
「光男君、なにかから逃げているよ。うん」
「何から、逃げているんだ、俺は?」
さすがにそこまでは、と茜は微笑みながら言った。
「けど…光男君自身に関係がある事じゃない?」
「俺に、関係する事?」
「うん…過去とか」
過去、
過去の記憶。
過去、
過去の顔。
過去、
過去の嘘。
「!!」
「思い当たる節がったみたいだね…いや」
茜は訂正した。
訂正して、俺にその言葉を突き刺した。
「思い出したけど、『わざと忘れた』ことと言ったほうがいいのかもね」




そうだ。
その通りだ。
俺は知っていたんだ。
知っているんだ。
「自分の記憶が消えている原因を」
知っているんだ。
「あの『黒い何か』がなんであるか」
知っているんだ。
「こうなってしまった原因を」
知っている。
知っているんだ。
「自業自得だと」
俺は一回深呼吸して、茜に聞いた。
「分かりきっていることだけどさ…向き合わなくちゃだめだろうか」
「駄目だね」
茜は即答した。
「だって、いままで逃げてきたんでしょう。そしてそれも限界に近い…ここらあたりが落とし所じゃないの?」
そうだよな。
俺はその『落とし所』を逃したから、自分の向き合う機会を逃したからあんな事になったんだ。
俺のせいだ。だから、
「俺が、こんどこそ決着をつけないと駄目なんだな」
もう、今こうやって喋っているこの瞬間にも記憶は抜けていく、薄れていく、
消えていく。
消失する。

それは駄目だ。

「茜…また俺、数週間かそれぐらい寝ると思うからよろしく」
「思考の切り替えが早いんだね、まったく」
いいよ、と茜は呆れながら言った。
「毎回思うんだけどね光男君。あなたってどうして自分の事をぱっぱと決めて行って容赦なく自分を切り捨てていく事ができるの?」
この案件だって、あなたの根幹に関わる問題よね、と茜は続ける。
「その…どうして悩んだりしないわけ? 普通こういうのって小説何ページ分か、主人公の独白と悲壮な決意があってそういう決断にいたるよね、どうしてそんなに簡単に決めれるわけ?」
「そんな物、決まっているじゃないか」
俺は笑いながら言った。
「俺は馬鹿だからな、あんまり物事を深く考えたくないんだよ」
俺は後ろを振り向いた。
そこには、
『黒い何か』がいた

BOKUWA KOKONI IRUYO
「…ああ、そうだな」
俺は言った。
「おまえは、そこにいる」
俺の意識はそこで途切れた。



「君は、要らない」
俺は落ちる。
空を落ちる。
楽園から落ちる。
「なぜ…」
俺は、疑問に思う。しかしそれはもう絶望とかそういう域だった。
「なんで…?」
白髪赤目の彼に言われた言葉が頭の中を駆け巡る。
いらない。
「どうして?」
無能だから?
いなくても別にいいから?
嘘をついていたから?
「なんでなんだよう…」
俺は泣き出した。
落ちながら泣き出した。
「どうしてなんだよう…」
楽しかったあの時の記憶が、俺の中を流れる。
みんな一緒だったのに、
「なんで?」
答えは一つ。


「俺は、要らない奴。いても害にしかならない、ゴミ」
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