29 / 75
序章 ある研究員の記録『ZERO』IS SLEEPING
第22話 player
しおりを挟む
「MBを乗っ取った『何か(アンノウン)』はどうやって戦略情報ネットワークに侵入したんだろう・・・」
イラクスはそう呟いた。
「どうやってって?」
「え? いや、その・・・戦略情報ネットワークにどうやって魔力を通してリンクしたんでしょうか。『点』であるウィザードコンピューターと、それを繋ぐ魔力、つまり『線』。この二つで戦略情報ネットワークは構成されていますが、この技術は戦技研の独自技術なんです」
「確かにな・・・魔力を一本の『線』のようにして繋ぐ事自体、すごく難しい事だからな」
「そうなんですか?・・・私はあまり知らないんですが・・・」
「簡単に説明すると、魔力って言うのは拡散するものなんだ。それを線にするっていうのは非常に高度な技術がいる・・・俺も一回やった事があるよ」
地脈の仕組みなんかを解析したりして、色々とやったけど、
「まあ、失敗したんだが」
5月9日 木曜日 4時13分
山城基地Aプラント メインサーバールーム
俺達は例のハッキング対策を練っていた。ちなみに、茜と浅葱はメアリー副司令に呼ばれていない。何の用だろうか?
まあ仕方が無いので俺と交野、ラビラトス、イラクスで作業している訳だが。
「それに、戦略情報ネットワークって、情報公開レベルなんかも設定されているから、それに対応する新しく回線が必要だ。よく作ったよ全く」
「そしてそれら全てをウィザードブレインが管理しているのがまた凄いところだよ」
そう言うのはラビラトスだ。学校指定のブレザーの上から白衣を羽織っている。
「情報を『思考』にするだけでも大変な筈なのにね。その上ウィザードシステムの管理もやっているんでしょ。本当に凄いよ」
「同感だ」
どうやってこんなもの作ったかね・・・
「あ、そうそう。侵入経路が分かったよ」
「分かったのか!?」
「うん。今『接続』している四人から連絡が入った。侵入時の痕跡が見つかって」
俺は右の席を見る。
四人の人間がヘルメットを被り、『接続』している。
茜と浅葱、交野、それからアレサだ。
魔力空間へ慣れつつ、侵入時の痕跡を探してもらっていたのだ。
「出してくれ」
俺達は部屋の奥にある大型の仮想ディスプレイを起動する。
そこに、データが送られ、立体表示された。
「これは・・・魔力空間から来てますね」
イラクスが言う。
「ほら、ここ。サーバーの外殻部分、ここから侵入していますね」
「外殻部分に取り付いた瞬間にMBの制御が乗っ取られている?・・・どういうことだと思う、朽木君」
「・・・ここのサーバーは、情報経路を分断、独立することで情報の流出を防いでる。WGに対する情報はWG専用の情報経路を使う。航空艦に対する情報は航空艦専用の情報経路を使う。WGや航空艦からの情報も同じだ。それも、かなり細かく分けられている。恐らくそれを的確に当てられた」
「ピンポイントでMBの情報系回路に侵入されたってことですか?でもどうやって」
「どこも同じだろうけど、ここの情報経路って全てウィザードブレインが管理しているんだ。だから、核であるウィザードブレインに入るだけでいい。そこからMBの情報系の乗り込んで終わり。いたって簡単だ」
サーバー内に『防壁』なんてあるわけないしな。
「それも対策にいれないと、だね・・・でもそもそも、どうやってサーバーに侵入したんだろう。『思考』を送るための魔力の『線』は繋がれてないようだけど」
ラビラトスの指摘通りだった。
仮想ディスプレイの表示には、サーバー外部からの魔力が送られていない。あるのは前からあった魔力の線だ。
「『線』に介入したのか?」
「さすがに難しいのでは、でも、これをやった相手は相当なウィザードコンピューターを持っていますよ。少なくとも航空艦クラスでないと」
「そこらへん照合できてる?」
「はい。見事にありませんでした。これをやった相手は、極東連合の如何なる拠点、航空艦、WGにあるウィザードコンピュータを使用していません」
「・・・とすると、例のアンノウンってことになるのかな?」
「・・・さあな」
輸送作戦で入手したアンノウンの遺骸の解析を戦生研がやっている。が、その解析が終わるのはまだまだ先の話らしい。
解析と言えば・・・
「そうだ、ラビー、これ何か分かるか?」
俺が見せたのは、
「・・・短刀?」
「ギガル皇国の・・・地位の高い人から貰ったんだが・・・何でできているか分かるか?」
「これは・・・霊鉱石だと思うよ。HAKの個人聖装でも使われているど…」
ラビーは短刀を様々な角度から見て、
「こんなに多く使っているのははじめて見たよ」
「・・・そうか」
まあ出所が出所だからな。
「対策については・・・取り合えず、色々と試してみるか」
「そうだね…でも実験しようにもね…」
「『母』に頼んでみましょうか?」
「…気になっていたんだけどさ、イラクスのお母さんって」
瞬間、アラート(警報)が鳴った。探知術式が魔力空間で何かを捕らえたのだ。
『先輩、聞こえますか!? 先輩!!』
「交野か!!」
交野の緊迫した声、魔力空間からの通信だ。
「何があった!?」
「『声』が!!」
交野は言った。
「『声』が聞こえました!!」
波だ。
魔力空間に『接続』した俺はそれをそう思った。
緑色に光る、粒子、
魔力粒子。
それが、波のように、来ていた。
「イラクス、作戦室と繋いでくれ!!」
「分かりました」
イラクスが仮想ディスプレイを操作した、同時に目の前にディスプレイが表示された。
『こちら作戦室、レオスだ。そっちの状況を!!』
「状況は掴めません。ヤバイ事は確かなので戦略情報ネットワークを全閉鎖してください!!」
『分かった。一分待て!!』
突如、後ろにあった緑色の光球。山城基地のサーバーから伸びていた『線』が消滅し出した。
『各拠点への通達、及びスタンドアローンシステムの起動を確認した。頼んだぞ!!』
「了解!!」
俺は下の方にいる、白衣を羽織った男子生徒。交野に近づいた。
「どうなってる!?」
「・・・『声』です」
交野が言う。
「さっきいきなり『声』が聞こえて・・・次の瞬間こうなっていて・・・」
俺は付近の魔力空間を見渡す。さっきより魔力粒子の濃度がだんだん上がっている。
「とにかくまずいことは確かなようだ。ラビー、聖術でもなんでもいい。結界術式張れるか!?」
「まだ試していないけど、多分いける」
「それでサーバーを覆えるか!?」
「え!?・・・分かった、やってみる。アレサちゃん、手伝ってくれない!?」
「分かりました」
メイド服姿のアレサがラビーと共に仮想ディスプレイを操作し出す。
「先輩、一体何が!?」
「分からない。でも一応の策だ。イラクス、防御術式を展開してくれ、なるべく多く頼む!!」
「分かりました・・・え!?」
「どうした!?」
「あれは!?」
交野の驚く声、交野の見ている方を見る。そこには魔方陣、イラクスが展開した探知術式だ。
それが、揺れている。何かに侵されている。いや、
「食われている!?」
違うと思ったときには既に、俺は行動していた。
魔方陣に手を触れる。
イメージ、F‐14と同じだ。
(枝だ・・・本体の枝はどこだ?)
探す。探す。探す。
「・・・それか!!」
俺は、枝を切った。
魔方陣の揺れが収まった。
「先輩、いまのって、紫苑がやってた・・・」
「ああ」
交野の言おうとしていることは正しい。今のは、
「術式解離!?」
一報を受け、作戦室に急行した戦略機動隊技術研究局局長。エルメス・アーノイドは、朽木研究員からの報告に驚愕した。
術式解離。
古今東西において、魔方陣や呪詛、聖書によって構成される魔法術式や聖術式は、擬似魔術回路や聖痕とも言われる聖術回路と古代魔法文字、または古代神聖文字を複雑に組み合わせている物だ。
術式解離と言うのは、その複雑な組み合わせを解除、分離することだ。ただ、そのためには高度な魔術回路と持ち前の才能がいる。
それを持ち合わせていたとしても、成功する確率は0に限りなく近い。古代、近代魔法の歴史において術式解離に成功した記録は無い。
非常に高度な魔術技法だ。
「そんな・・・嘘だろう!? そんな高度なことできるのか!?」
『俺の弟が前にやったことがあります!! 可能です!!』
「君の弟は何者だ!?」
『千年に一度の天才魔術師です!!』
「本当に何者だ!?」
エルメスの脳内では、朽木研究員の弟に対する疑問が噴出していた。だが、それは今この場において思考すべき事ではないとエルメスは結論した。
「何か対策できるか!?」
『今ラビラトスが聖術の結界術式でメインサーバーを覆っています。ウィザードシステムと魔力空間をダイレクトコネクト、特化運用して防御術式を展開なんてできますか!?』
「理論上可能だがそれをするには」
「僕が話を通す。やれ」
『了解!!』
「レオス、正気か!?」
レオス・オブライエンの発言にエルメスは食いつく、
「そんな事したら・・・」
「うちのサーバーはウィザードブレインと直結している。やられたら元も子もない」
レオスは真剣な表情で言った。
「出し惜しみは無しだ!!」
「権限譲渡を確認!!」
「ラビーはアレサと結界術式を、イラクスと俺で対処、交野逆探!! 任した!!」
「「「了解!!!」」」
交野は魔力空間の上の方に行った。距離を取って見極めるらしい。
「イラクス、お前魔女って言ってたな。いつも術式とかどうやってる!?」
「ウィザードシステムに頼りっぱなしです。朽木さんは!?」
「そんな経験は無い!!」
俺は仮想ディスプレイを展開し、操作する。
辺りの魔力粒子がどんどんその濃度を上げている。
(最大展開。指定術式防御。レベルS)
ウィザードシステムとダイレクトコネクト。それはつまり、ウィザードシステムが提供するありとあらゆる魔法、術式を無制限に展開することが可能になる事だ。
「・・・全部突っ込む!!」
ばら撒けるものは全部ばら撒く。
「イラクス!!」
「どうぞ!!」
俺は仮想ディスプレイの『展開』を押した。
「「展開ッ!!」」
魔力空間に壁が生まれた。
それは、大量の防御術式系魔方陣によって構成されていた。
その数、約一億。
一層では無く、二層、三層・・・何層も重ねて展開している。
そして、片っ端から弾けていった。
「!!!」
敵の戦術が変わった。
さっきと方法が違う。
「・・・なんですかこれ? 術式が・・・暴走している!?」
「違う!! 魔力が飽和している!!」
魔方陣から緑色の光が溢れている。見れば、魔方陣一つ一つに緑色の線が付いている。
これは、魔力だ。
「過剰魔力で術式を壊しているぞ!!!」
耐えられなくなった擬似魔術回路が侵食し、壊れていく。
強引すぎる。
「魔力を直で送り込んでいるんだ!!」
「そんな!!」
返答するより前に早く俺は術式の追加展開の操作を行った。
「ラビー!! 結界は!?」
「もう少し待ってくれ!! アレサちゃん!!」
「終わりました」
瞬間。背後にあった光球。山城基地のメインサーバーが、光の壁で覆われた。
「擬似聖術回路を形成して補強するけど長く持たない!! それまでになんとか!!」
「交野!!『線』を辿れ!!」
「了解!!」
上の方にいた交野が、無数の線が来ている方に向かって行った。
「イラクス、防御術式の追加展開を!! 総力戦だ!!」
「は、はい!!」
イラクスがディスプレイを操作し、魔方陣が更に展開・・・されなかった。
「!!!」
イラクスの体に何かが巻きついた。
黒い、どす黒い、何か。それに該当するのは、
「イラクスッ!!」
俺はイラクスのほうに飛び、それを引き剥がす。だが、それは硬く、複雑に絡み合っていた。
「ッ・・・くう・・・助け・・・」
イラクスの苦しい声、まずい。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
訳が分からないまま、俺は懐の短剣を引き抜き、切りつけた、
切れた。
「切れたァ!?」
考える暇は無い。俺はそれに対して、がむしゃらに切りつけて、切断した。
「イラクス!! 大丈夫か!」
「はい・・・なんとか・・・でも、今のは・・・」
イラクスに応答するより早く、俺は防御術式を一点に集中させた。
それを、緑色の光線、強力な魔力が砕いていく。
「一点突破に集中し始めたやがった!!」
術式を再度展開させ、対応する。だが間に合わない。
押される。
「・・・交野ォ!!!」
交野勝は、緑色の光線を辿っていた。
さっきまでは細分されていたものの、今は一つになっている。
(でもこれで見つけやすく・・・!!)
交野の進行方向に、黒い球が見えた。
薄暗い魔力空間の中、それは周りの黒よりも黒かった。そしてその中心に、赤い球があった。
「目?」
交野はそう連想した。
しかし、どうであろうと、交野はどうするか決めていた。
「触れれば・・・」
至近距離まで近づき、決心して、触れた。
「!!!」
交野の脳に、大量の情報が流れる。それは、文字かできない、情報。
(受け流せ・・・)
交野は、探す。
情報の塊を、魔力の塊を、探査する。
それは奥へ、奥へ、奥へ、
深く、深く、深く、
入っていく。
その核へ、
「 」
違う。同時に、見えた。
「・・・そこかッ!!!」
手を放した。
同時に、交野の頭に激痛が走る。
だが、痛いと言う前に、交野は、自分の尊敬する先輩に通信を送った。
「・・・東京・・・湾・・・」
途切れ途切れになりながらも、交野は己の任務を達成しようと、
「座標・・・東京湾・・・目標(ターゲット)・・・フリークス・・・」
最後の力を振り絞って、叫んだ。
「アンノウンッ!!!」
房総半島を抜け、厚木航空基地にて補給。その後、『東海道』と言われる飛行ルートを南下し、山城基地に帰還する。
それが、山城基地所属二式WG380号機、コールサイン『サーチャー』の任務だった。
だが、東京湾と呼ばれる入江を通過中、『サーチャー』に通信が入った。山城基地からだった。
『『サーチャー』、こちら『ヤマシロタワー』、大まかな現在位置を報告せよ』
声の主は、山城基地作戦室に所属する管制官。その管制は非常に的確であり、WGパイロットから信頼され、ラミちゃんと言われ親しまれているラミアだ。
いつもは親しみやすい声で接し、WGパイロットを安心させているが、今日は全く違った。すごく真剣な声だ。
(・・・まーた、何かヤバイ事になってるようだな・・・)
『サーチャー』はそう思い、いつもは無線で茶化すのを控え、状況を伝えた。
「こちら『サーチャー』、現在東京湾上空を通過中。どうぞ」
『・・・『サーチャー』、現在進行中の作戦を全て中断。直ちに5時方向右旋回(ライトターン)、索敵行動に入れ』
「・・・『サーチャー』了解・・・一つ聞かせてくれ、対空か、対地か、どちらだ?」
『・・・武蔵野第三の報告では、『対水』」
「・・・了解した」
『サーチャー』のパイロットはそう応答し、通信を切り、五時方向に右旋回を開始した。
そして脚部に搭載された全長約5メートルの『ゲイボルグ』ミサイルのモードを雷撃に切り替えた。
ラファーズ・ミレニアム製の多目的誘導弾。『ゲイボルグ』
対空、対地、対水上、対潜、あらゆる任務に対応可能な多目的誘導弾。
その搭載可能兵器はWGのみならず、航空艦にも装備でき、一部では超汎用弾と言われている。
「強行偵察機なんだがな・・・」
ピンガーを放つ。
「・・・来た!!」
レーダーに感、10時の方向。距離5000。水中だ。
スキャンする。フリークスだ。だが、
「アンノウン?・・・そういうことか」
通信を入れる。
「『ヤマシロタワー』。こちら『サーチャー』。フリークスを確認、アンノウンだ。指示を請う」
『『サーチャー』、アンノウンを直ちに撃破せよ』
「『サーチャー』了解、これより、戦闘行動に入るッ!!」
パイロットがトリガーを引き絞った。
脚部に搭載されたゲイボルグミサイルが投下された。三秒後、水中に白い線が浮かび上がった。
ゲイボルグミサイルだ。それがどんどん伸びていき、水柱が上がった。
「終りょ・・・な訳無いよな」
水柱から、何かが海上に飛び上がった。
フリークス。
「まず重しを捨てるッ!!」
ゲイボルグミサイルを対空にリセットし、三発、残弾を全て発射した。
同時に加速を掛け、突撃する。
着弾。煙が上がり、飛び出してきた。ワイバーン型に似ている。
「単調だなッ!!」
牽制でライフルを連射、そしてサブアームに懸架されたバズーカを放った。だが、
「避けた!?」
通常ではない。いや尋常ではない。そしてそのまま突っ込んできた。
「回避(ブレイク)ッ!!」
間に合わない。
背部バックパックにあるサブアームに懸架された盾を前面に、受ける。
「ッ!!」
蹴られた。機体に衝撃が走る。盾が落ちた。
だが、『サーチャー』はバズーカをパージし、加速した。そして旋回する。
「・・・重いッ!!」
『サーチャー』のパイロットは、戦技研の局長、即ちこの機体を作った張本人の言葉を思い出す。
『ああそうそう。この機体、外付け方の大型ブースターをくっつけて突撃能力を高めたばっかりに、旋回能力が『ちょっと』低くなっているから気をつけろよ』
(ちょっととかそういうレベルじゃあないぞコレ!!)
機体を垂直に傾ける。同時にブースターのリミッターを切った。規格外の推力で、二式が飛翔する。
二式のフレームが軋んだ。
術式で緩衝されきれなかった負荷がかかった。コックピットにアラートが鳴る。だが、パイロットは無視した。
(一式よりは!!!)
スタピライザーを格納し、邪魔な空気抵抗を可能な限り無くした。
歯を食いしばり、姿勢を低く、頭を低く後は・・・根性だ。
二式の周りに気圧の断層が生じ、それが白い、空気の壁を生んだ。
「曲がれええええええええええええええッッ!!!」
右脚を強引に振り下げ、蹴り上げた。
当たらない。失速した。だが、右脚に遠心力が働き、機体の方向が大きく変わった。
曲がった。
スタピライザーを緊急起動し、姿勢制御。海面すれすれで姿勢を取り戻した。
その前方に・・・アンノウン。
「!!!」
パイロットの判断は一瞬だった。左腕に格納されたブレードを展開し、すれ違いざまに切りつけた。
アンノウンが真っ二つに切れて、落ちた。
「・・・交野!! 交野!!」
交野の体を揺さぶる。何回かした後、目を開けた。
「・・・先・・・輩・・・先輩、大丈夫ですか?」
「・・・お前が言うな」
交野は床に手を付き、立ち上がった。が、よろめいて膝を付いた。
「交野!!」
「大丈夫・・・です・・・でも、頭が・・・」
「・・・今イラクス達が医療局のスタッフを呼びに行っている。それまでそこで寝ておけ」
「分かり・・・ました・・・」
交野を床に寝かせ、俺も壁を背に座った。
「ハッキング、は・・・?」
「阻止に成功した。先ほど安全が確認され、封鎖が解かれた・・・お前のお陰だ。ありがとう」
まったく、
「・・・どうしてお前は、そう無茶するかね・・・・」
「・・・本当に、誰の受け売りでしょうか」
一時の沈黙、その後、交野は言った。
「付いて行きますよ」
「・・・付いて行く?」
「はい」
俺は質問する。
それはお前が、自分で考え、決めたことか?」
「はい」
「誰かの意見では無いか?」
「いいえ、違います」
「浅葱には?」
「昨日話してめっちゃくちゃ怒られました」
「勇気は?」
「あります多分」
「覚悟は?」
「とっくの昔にしています」
最後の質問だ。
「この決断は・・・お前の夢か?」
「違います」
交野は続ける。
「夢は・・・まだありません。でも、上を向いていこうと思うんです」
交野は言う。
「上を向いて、歩いていこうと思うんです。分からない事だらけでも、恐れず、進んで行こうと思うんです」
「・・・・・」
誰の言葉だよ全く・・・
「・・・分かった。理由は問わない。だが、これだけは守れ」
俺は、一瞬考え、言った。
「泣いていい」
「・・・え?」
「泣きたい時は絶対に泣け。心の中に閉じ込めるな。苦しさを、悲しさを、閉じ込めるな。泣いて、悲しんで、怒れ。甘えろ。いつも・・・自分に正直に生きろ。自分の意思を、自分の道を、自分の夢を見つけたのなら、それに従うんだ。そして万が一、俺が・・・愚かな行為をしようとしたら、その時は」
俺は言った。
「俺を殺してでも止めろ」
「・・・分かりました。でも」
俺の頼れる後輩は言った。
「それは茜先輩の仕事ですよ」
後輩の言うとおりだった。
(・・・危なかった・・・)
『サーチャー』のパイロットはそう思いながら安堵した。
厚木の飛行場で、消火班が火を消し止めるまでの間、パイロットは滑走路沿いの芝生で寝転がっていた。
「地に足が付くっていいことだな」
そう言いつつ、彼は、山城基地に帰還したら有給をとって温泉に行ってやろうと、今後の計画を練り始めた。
そんな彼の作戦用端末に通信が入った。山城基地からの秘匿回線。
躊躇わず出る。
『はいはーいレオスでーす、どう? 無事?』
「・・・無事です」
総司令の態度にいらっととしたが、用件を聞くのを先にする。
「何の用件で?」
『・・・単刀直入に聞くけどさ・・・どう思う? アンノウンを』
さっきの戦闘を思い返し、パイロットは感想を述べた。
「『異常』ですね・・・」
一瞬の沈黙、
『・・・北極は?』
「今のは何も、ただ・・・嫌な予感がします」
『二十年前か?』
「似ています」
パイロットは聞いた。
「始まったんでしょうか?」
総司令は言った。
『可能性は大きい』
パイロットは、ため息をついた。
「また出張ですか?」
『行ってもらう事になるだろう。それまで休んでくれ』
「・・・有給取っていいですか」
『無論』
パイロットは心の中でガッツポーズを取って、しかしそんな事を微塵にも表に出さなかった。
「それでは山城基地に戻ります。ですが」
『分かってる・・・さっきエルメスがショックのあまり気絶したよ。どうも相当な額をつぎ込んだらしい』
「そうですか」
(ざまあ見やがれ)
パイロットは凄く悪役な笑顔を作った。そして、それを見た消火班の隊員が軽く引いた。
「・・・あ、報告書、届きましたか?」
『ああ、届いたよ・・・すごく分かりやすい。ありがとう』
「いえいえ、ではまた、山城基地で」
『ああ、報告を楽しみにしているよ・・・戦略機動隊情報局局長。三八十(みやと)』
イラクスはそう呟いた。
「どうやってって?」
「え? いや、その・・・戦略情報ネットワークにどうやって魔力を通してリンクしたんでしょうか。『点』であるウィザードコンピューターと、それを繋ぐ魔力、つまり『線』。この二つで戦略情報ネットワークは構成されていますが、この技術は戦技研の独自技術なんです」
「確かにな・・・魔力を一本の『線』のようにして繋ぐ事自体、すごく難しい事だからな」
「そうなんですか?・・・私はあまり知らないんですが・・・」
「簡単に説明すると、魔力って言うのは拡散するものなんだ。それを線にするっていうのは非常に高度な技術がいる・・・俺も一回やった事があるよ」
地脈の仕組みなんかを解析したりして、色々とやったけど、
「まあ、失敗したんだが」
5月9日 木曜日 4時13分
山城基地Aプラント メインサーバールーム
俺達は例のハッキング対策を練っていた。ちなみに、茜と浅葱はメアリー副司令に呼ばれていない。何の用だろうか?
まあ仕方が無いので俺と交野、ラビラトス、イラクスで作業している訳だが。
「それに、戦略情報ネットワークって、情報公開レベルなんかも設定されているから、それに対応する新しく回線が必要だ。よく作ったよ全く」
「そしてそれら全てをウィザードブレインが管理しているのがまた凄いところだよ」
そう言うのはラビラトスだ。学校指定のブレザーの上から白衣を羽織っている。
「情報を『思考』にするだけでも大変な筈なのにね。その上ウィザードシステムの管理もやっているんでしょ。本当に凄いよ」
「同感だ」
どうやってこんなもの作ったかね・・・
「あ、そうそう。侵入経路が分かったよ」
「分かったのか!?」
「うん。今『接続』している四人から連絡が入った。侵入時の痕跡が見つかって」
俺は右の席を見る。
四人の人間がヘルメットを被り、『接続』している。
茜と浅葱、交野、それからアレサだ。
魔力空間へ慣れつつ、侵入時の痕跡を探してもらっていたのだ。
「出してくれ」
俺達は部屋の奥にある大型の仮想ディスプレイを起動する。
そこに、データが送られ、立体表示された。
「これは・・・魔力空間から来てますね」
イラクスが言う。
「ほら、ここ。サーバーの外殻部分、ここから侵入していますね」
「外殻部分に取り付いた瞬間にMBの制御が乗っ取られている?・・・どういうことだと思う、朽木君」
「・・・ここのサーバーは、情報経路を分断、独立することで情報の流出を防いでる。WGに対する情報はWG専用の情報経路を使う。航空艦に対する情報は航空艦専用の情報経路を使う。WGや航空艦からの情報も同じだ。それも、かなり細かく分けられている。恐らくそれを的確に当てられた」
「ピンポイントでMBの情報系回路に侵入されたってことですか?でもどうやって」
「どこも同じだろうけど、ここの情報経路って全てウィザードブレインが管理しているんだ。だから、核であるウィザードブレインに入るだけでいい。そこからMBの情報系の乗り込んで終わり。いたって簡単だ」
サーバー内に『防壁』なんてあるわけないしな。
「それも対策にいれないと、だね・・・でもそもそも、どうやってサーバーに侵入したんだろう。『思考』を送るための魔力の『線』は繋がれてないようだけど」
ラビラトスの指摘通りだった。
仮想ディスプレイの表示には、サーバー外部からの魔力が送られていない。あるのは前からあった魔力の線だ。
「『線』に介入したのか?」
「さすがに難しいのでは、でも、これをやった相手は相当なウィザードコンピューターを持っていますよ。少なくとも航空艦クラスでないと」
「そこらへん照合できてる?」
「はい。見事にありませんでした。これをやった相手は、極東連合の如何なる拠点、航空艦、WGにあるウィザードコンピュータを使用していません」
「・・・とすると、例のアンノウンってことになるのかな?」
「・・・さあな」
輸送作戦で入手したアンノウンの遺骸の解析を戦生研がやっている。が、その解析が終わるのはまだまだ先の話らしい。
解析と言えば・・・
「そうだ、ラビー、これ何か分かるか?」
俺が見せたのは、
「・・・短刀?」
「ギガル皇国の・・・地位の高い人から貰ったんだが・・・何でできているか分かるか?」
「これは・・・霊鉱石だと思うよ。HAKの個人聖装でも使われているど…」
ラビーは短刀を様々な角度から見て、
「こんなに多く使っているのははじめて見たよ」
「・・・そうか」
まあ出所が出所だからな。
「対策については・・・取り合えず、色々と試してみるか」
「そうだね…でも実験しようにもね…」
「『母』に頼んでみましょうか?」
「…気になっていたんだけどさ、イラクスのお母さんって」
瞬間、アラート(警報)が鳴った。探知術式が魔力空間で何かを捕らえたのだ。
『先輩、聞こえますか!? 先輩!!』
「交野か!!」
交野の緊迫した声、魔力空間からの通信だ。
「何があった!?」
「『声』が!!」
交野は言った。
「『声』が聞こえました!!」
波だ。
魔力空間に『接続』した俺はそれをそう思った。
緑色に光る、粒子、
魔力粒子。
それが、波のように、来ていた。
「イラクス、作戦室と繋いでくれ!!」
「分かりました」
イラクスが仮想ディスプレイを操作した、同時に目の前にディスプレイが表示された。
『こちら作戦室、レオスだ。そっちの状況を!!』
「状況は掴めません。ヤバイ事は確かなので戦略情報ネットワークを全閉鎖してください!!」
『分かった。一分待て!!』
突如、後ろにあった緑色の光球。山城基地のサーバーから伸びていた『線』が消滅し出した。
『各拠点への通達、及びスタンドアローンシステムの起動を確認した。頼んだぞ!!』
「了解!!」
俺は下の方にいる、白衣を羽織った男子生徒。交野に近づいた。
「どうなってる!?」
「・・・『声』です」
交野が言う。
「さっきいきなり『声』が聞こえて・・・次の瞬間こうなっていて・・・」
俺は付近の魔力空間を見渡す。さっきより魔力粒子の濃度がだんだん上がっている。
「とにかくまずいことは確かなようだ。ラビー、聖術でもなんでもいい。結界術式張れるか!?」
「まだ試していないけど、多分いける」
「それでサーバーを覆えるか!?」
「え!?・・・分かった、やってみる。アレサちゃん、手伝ってくれない!?」
「分かりました」
メイド服姿のアレサがラビーと共に仮想ディスプレイを操作し出す。
「先輩、一体何が!?」
「分からない。でも一応の策だ。イラクス、防御術式を展開してくれ、なるべく多く頼む!!」
「分かりました・・・え!?」
「どうした!?」
「あれは!?」
交野の驚く声、交野の見ている方を見る。そこには魔方陣、イラクスが展開した探知術式だ。
それが、揺れている。何かに侵されている。いや、
「食われている!?」
違うと思ったときには既に、俺は行動していた。
魔方陣に手を触れる。
イメージ、F‐14と同じだ。
(枝だ・・・本体の枝はどこだ?)
探す。探す。探す。
「・・・それか!!」
俺は、枝を切った。
魔方陣の揺れが収まった。
「先輩、いまのって、紫苑がやってた・・・」
「ああ」
交野の言おうとしていることは正しい。今のは、
「術式解離!?」
一報を受け、作戦室に急行した戦略機動隊技術研究局局長。エルメス・アーノイドは、朽木研究員からの報告に驚愕した。
術式解離。
古今東西において、魔方陣や呪詛、聖書によって構成される魔法術式や聖術式は、擬似魔術回路や聖痕とも言われる聖術回路と古代魔法文字、または古代神聖文字を複雑に組み合わせている物だ。
術式解離と言うのは、その複雑な組み合わせを解除、分離することだ。ただ、そのためには高度な魔術回路と持ち前の才能がいる。
それを持ち合わせていたとしても、成功する確率は0に限りなく近い。古代、近代魔法の歴史において術式解離に成功した記録は無い。
非常に高度な魔術技法だ。
「そんな・・・嘘だろう!? そんな高度なことできるのか!?」
『俺の弟が前にやったことがあります!! 可能です!!』
「君の弟は何者だ!?」
『千年に一度の天才魔術師です!!』
「本当に何者だ!?」
エルメスの脳内では、朽木研究員の弟に対する疑問が噴出していた。だが、それは今この場において思考すべき事ではないとエルメスは結論した。
「何か対策できるか!?」
『今ラビラトスが聖術の結界術式でメインサーバーを覆っています。ウィザードシステムと魔力空間をダイレクトコネクト、特化運用して防御術式を展開なんてできますか!?』
「理論上可能だがそれをするには」
「僕が話を通す。やれ」
『了解!!』
「レオス、正気か!?」
レオス・オブライエンの発言にエルメスは食いつく、
「そんな事したら・・・」
「うちのサーバーはウィザードブレインと直結している。やられたら元も子もない」
レオスは真剣な表情で言った。
「出し惜しみは無しだ!!」
「権限譲渡を確認!!」
「ラビーはアレサと結界術式を、イラクスと俺で対処、交野逆探!! 任した!!」
「「「了解!!!」」」
交野は魔力空間の上の方に行った。距離を取って見極めるらしい。
「イラクス、お前魔女って言ってたな。いつも術式とかどうやってる!?」
「ウィザードシステムに頼りっぱなしです。朽木さんは!?」
「そんな経験は無い!!」
俺は仮想ディスプレイを展開し、操作する。
辺りの魔力粒子がどんどんその濃度を上げている。
(最大展開。指定術式防御。レベルS)
ウィザードシステムとダイレクトコネクト。それはつまり、ウィザードシステムが提供するありとあらゆる魔法、術式を無制限に展開することが可能になる事だ。
「・・・全部突っ込む!!」
ばら撒けるものは全部ばら撒く。
「イラクス!!」
「どうぞ!!」
俺は仮想ディスプレイの『展開』を押した。
「「展開ッ!!」」
魔力空間に壁が生まれた。
それは、大量の防御術式系魔方陣によって構成されていた。
その数、約一億。
一層では無く、二層、三層・・・何層も重ねて展開している。
そして、片っ端から弾けていった。
「!!!」
敵の戦術が変わった。
さっきと方法が違う。
「・・・なんですかこれ? 術式が・・・暴走している!?」
「違う!! 魔力が飽和している!!」
魔方陣から緑色の光が溢れている。見れば、魔方陣一つ一つに緑色の線が付いている。
これは、魔力だ。
「過剰魔力で術式を壊しているぞ!!!」
耐えられなくなった擬似魔術回路が侵食し、壊れていく。
強引すぎる。
「魔力を直で送り込んでいるんだ!!」
「そんな!!」
返答するより前に早く俺は術式の追加展開の操作を行った。
「ラビー!! 結界は!?」
「もう少し待ってくれ!! アレサちゃん!!」
「終わりました」
瞬間。背後にあった光球。山城基地のメインサーバーが、光の壁で覆われた。
「擬似聖術回路を形成して補強するけど長く持たない!! それまでになんとか!!」
「交野!!『線』を辿れ!!」
「了解!!」
上の方にいた交野が、無数の線が来ている方に向かって行った。
「イラクス、防御術式の追加展開を!! 総力戦だ!!」
「は、はい!!」
イラクスがディスプレイを操作し、魔方陣が更に展開・・・されなかった。
「!!!」
イラクスの体に何かが巻きついた。
黒い、どす黒い、何か。それに該当するのは、
「イラクスッ!!」
俺はイラクスのほうに飛び、それを引き剥がす。だが、それは硬く、複雑に絡み合っていた。
「ッ・・・くう・・・助け・・・」
イラクスの苦しい声、まずい。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
訳が分からないまま、俺は懐の短剣を引き抜き、切りつけた、
切れた。
「切れたァ!?」
考える暇は無い。俺はそれに対して、がむしゃらに切りつけて、切断した。
「イラクス!! 大丈夫か!」
「はい・・・なんとか・・・でも、今のは・・・」
イラクスに応答するより早く、俺は防御術式を一点に集中させた。
それを、緑色の光線、強力な魔力が砕いていく。
「一点突破に集中し始めたやがった!!」
術式を再度展開させ、対応する。だが間に合わない。
押される。
「・・・交野ォ!!!」
交野勝は、緑色の光線を辿っていた。
さっきまでは細分されていたものの、今は一つになっている。
(でもこれで見つけやすく・・・!!)
交野の進行方向に、黒い球が見えた。
薄暗い魔力空間の中、それは周りの黒よりも黒かった。そしてその中心に、赤い球があった。
「目?」
交野はそう連想した。
しかし、どうであろうと、交野はどうするか決めていた。
「触れれば・・・」
至近距離まで近づき、決心して、触れた。
「!!!」
交野の脳に、大量の情報が流れる。それは、文字かできない、情報。
(受け流せ・・・)
交野は、探す。
情報の塊を、魔力の塊を、探査する。
それは奥へ、奥へ、奥へ、
深く、深く、深く、
入っていく。
その核へ、
「 」
違う。同時に、見えた。
「・・・そこかッ!!!」
手を放した。
同時に、交野の頭に激痛が走る。
だが、痛いと言う前に、交野は、自分の尊敬する先輩に通信を送った。
「・・・東京・・・湾・・・」
途切れ途切れになりながらも、交野は己の任務を達成しようと、
「座標・・・東京湾・・・目標(ターゲット)・・・フリークス・・・」
最後の力を振り絞って、叫んだ。
「アンノウンッ!!!」
房総半島を抜け、厚木航空基地にて補給。その後、『東海道』と言われる飛行ルートを南下し、山城基地に帰還する。
それが、山城基地所属二式WG380号機、コールサイン『サーチャー』の任務だった。
だが、東京湾と呼ばれる入江を通過中、『サーチャー』に通信が入った。山城基地からだった。
『『サーチャー』、こちら『ヤマシロタワー』、大まかな現在位置を報告せよ』
声の主は、山城基地作戦室に所属する管制官。その管制は非常に的確であり、WGパイロットから信頼され、ラミちゃんと言われ親しまれているラミアだ。
いつもは親しみやすい声で接し、WGパイロットを安心させているが、今日は全く違った。すごく真剣な声だ。
(・・・まーた、何かヤバイ事になってるようだな・・・)
『サーチャー』はそう思い、いつもは無線で茶化すのを控え、状況を伝えた。
「こちら『サーチャー』、現在東京湾上空を通過中。どうぞ」
『・・・『サーチャー』、現在進行中の作戦を全て中断。直ちに5時方向右旋回(ライトターン)、索敵行動に入れ』
「・・・『サーチャー』了解・・・一つ聞かせてくれ、対空か、対地か、どちらだ?」
『・・・武蔵野第三の報告では、『対水』」
「・・・了解した」
『サーチャー』のパイロットはそう応答し、通信を切り、五時方向に右旋回を開始した。
そして脚部に搭載された全長約5メートルの『ゲイボルグ』ミサイルのモードを雷撃に切り替えた。
ラファーズ・ミレニアム製の多目的誘導弾。『ゲイボルグ』
対空、対地、対水上、対潜、あらゆる任務に対応可能な多目的誘導弾。
その搭載可能兵器はWGのみならず、航空艦にも装備でき、一部では超汎用弾と言われている。
「強行偵察機なんだがな・・・」
ピンガーを放つ。
「・・・来た!!」
レーダーに感、10時の方向。距離5000。水中だ。
スキャンする。フリークスだ。だが、
「アンノウン?・・・そういうことか」
通信を入れる。
「『ヤマシロタワー』。こちら『サーチャー』。フリークスを確認、アンノウンだ。指示を請う」
『『サーチャー』、アンノウンを直ちに撃破せよ』
「『サーチャー』了解、これより、戦闘行動に入るッ!!」
パイロットがトリガーを引き絞った。
脚部に搭載されたゲイボルグミサイルが投下された。三秒後、水中に白い線が浮かび上がった。
ゲイボルグミサイルだ。それがどんどん伸びていき、水柱が上がった。
「終りょ・・・な訳無いよな」
水柱から、何かが海上に飛び上がった。
フリークス。
「まず重しを捨てるッ!!」
ゲイボルグミサイルを対空にリセットし、三発、残弾を全て発射した。
同時に加速を掛け、突撃する。
着弾。煙が上がり、飛び出してきた。ワイバーン型に似ている。
「単調だなッ!!」
牽制でライフルを連射、そしてサブアームに懸架されたバズーカを放った。だが、
「避けた!?」
通常ではない。いや尋常ではない。そしてそのまま突っ込んできた。
「回避(ブレイク)ッ!!」
間に合わない。
背部バックパックにあるサブアームに懸架された盾を前面に、受ける。
「ッ!!」
蹴られた。機体に衝撃が走る。盾が落ちた。
だが、『サーチャー』はバズーカをパージし、加速した。そして旋回する。
「・・・重いッ!!」
『サーチャー』のパイロットは、戦技研の局長、即ちこの機体を作った張本人の言葉を思い出す。
『ああそうそう。この機体、外付け方の大型ブースターをくっつけて突撃能力を高めたばっかりに、旋回能力が『ちょっと』低くなっているから気をつけろよ』
(ちょっととかそういうレベルじゃあないぞコレ!!)
機体を垂直に傾ける。同時にブースターのリミッターを切った。規格外の推力で、二式が飛翔する。
二式のフレームが軋んだ。
術式で緩衝されきれなかった負荷がかかった。コックピットにアラートが鳴る。だが、パイロットは無視した。
(一式よりは!!!)
スタピライザーを格納し、邪魔な空気抵抗を可能な限り無くした。
歯を食いしばり、姿勢を低く、頭を低く後は・・・根性だ。
二式の周りに気圧の断層が生じ、それが白い、空気の壁を生んだ。
「曲がれええええええええええええええッッ!!!」
右脚を強引に振り下げ、蹴り上げた。
当たらない。失速した。だが、右脚に遠心力が働き、機体の方向が大きく変わった。
曲がった。
スタピライザーを緊急起動し、姿勢制御。海面すれすれで姿勢を取り戻した。
その前方に・・・アンノウン。
「!!!」
パイロットの判断は一瞬だった。左腕に格納されたブレードを展開し、すれ違いざまに切りつけた。
アンノウンが真っ二つに切れて、落ちた。
「・・・交野!! 交野!!」
交野の体を揺さぶる。何回かした後、目を開けた。
「・・・先・・・輩・・・先輩、大丈夫ですか?」
「・・・お前が言うな」
交野は床に手を付き、立ち上がった。が、よろめいて膝を付いた。
「交野!!」
「大丈夫・・・です・・・でも、頭が・・・」
「・・・今イラクス達が医療局のスタッフを呼びに行っている。それまでそこで寝ておけ」
「分かり・・・ました・・・」
交野を床に寝かせ、俺も壁を背に座った。
「ハッキング、は・・・?」
「阻止に成功した。先ほど安全が確認され、封鎖が解かれた・・・お前のお陰だ。ありがとう」
まったく、
「・・・どうしてお前は、そう無茶するかね・・・・」
「・・・本当に、誰の受け売りでしょうか」
一時の沈黙、その後、交野は言った。
「付いて行きますよ」
「・・・付いて行く?」
「はい」
俺は質問する。
それはお前が、自分で考え、決めたことか?」
「はい」
「誰かの意見では無いか?」
「いいえ、違います」
「浅葱には?」
「昨日話してめっちゃくちゃ怒られました」
「勇気は?」
「あります多分」
「覚悟は?」
「とっくの昔にしています」
最後の質問だ。
「この決断は・・・お前の夢か?」
「違います」
交野は続ける。
「夢は・・・まだありません。でも、上を向いていこうと思うんです」
交野は言う。
「上を向いて、歩いていこうと思うんです。分からない事だらけでも、恐れず、進んで行こうと思うんです」
「・・・・・」
誰の言葉だよ全く・・・
「・・・分かった。理由は問わない。だが、これだけは守れ」
俺は、一瞬考え、言った。
「泣いていい」
「・・・え?」
「泣きたい時は絶対に泣け。心の中に閉じ込めるな。苦しさを、悲しさを、閉じ込めるな。泣いて、悲しんで、怒れ。甘えろ。いつも・・・自分に正直に生きろ。自分の意思を、自分の道を、自分の夢を見つけたのなら、それに従うんだ。そして万が一、俺が・・・愚かな行為をしようとしたら、その時は」
俺は言った。
「俺を殺してでも止めろ」
「・・・分かりました。でも」
俺の頼れる後輩は言った。
「それは茜先輩の仕事ですよ」
後輩の言うとおりだった。
(・・・危なかった・・・)
『サーチャー』のパイロットはそう思いながら安堵した。
厚木の飛行場で、消火班が火を消し止めるまでの間、パイロットは滑走路沿いの芝生で寝転がっていた。
「地に足が付くっていいことだな」
そう言いつつ、彼は、山城基地に帰還したら有給をとって温泉に行ってやろうと、今後の計画を練り始めた。
そんな彼の作戦用端末に通信が入った。山城基地からの秘匿回線。
躊躇わず出る。
『はいはーいレオスでーす、どう? 無事?』
「・・・無事です」
総司令の態度にいらっととしたが、用件を聞くのを先にする。
「何の用件で?」
『・・・単刀直入に聞くけどさ・・・どう思う? アンノウンを』
さっきの戦闘を思い返し、パイロットは感想を述べた。
「『異常』ですね・・・」
一瞬の沈黙、
『・・・北極は?』
「今のは何も、ただ・・・嫌な予感がします」
『二十年前か?』
「似ています」
パイロットは聞いた。
「始まったんでしょうか?」
総司令は言った。
『可能性は大きい』
パイロットは、ため息をついた。
「また出張ですか?」
『行ってもらう事になるだろう。それまで休んでくれ』
「・・・有給取っていいですか」
『無論』
パイロットは心の中でガッツポーズを取って、しかしそんな事を微塵にも表に出さなかった。
「それでは山城基地に戻ります。ですが」
『分かってる・・・さっきエルメスがショックのあまり気絶したよ。どうも相当な額をつぎ込んだらしい』
「そうですか」
(ざまあ見やがれ)
パイロットは凄く悪役な笑顔を作った。そして、それを見た消火班の隊員が軽く引いた。
「・・・あ、報告書、届きましたか?」
『ああ、届いたよ・・・すごく分かりやすい。ありがとう』
「いえいえ、ではまた、山城基地で」
『ああ、報告を楽しみにしているよ・・・戦略機動隊情報局局長。三八十(みやと)』
0
あなたにおすすめの小説
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話
カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
チートなんてない。
日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。
自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。
魔法?生活魔法しか使えませんけど。
物作り?こんな田舎で何ができるんだ。
狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。
そんな僕も15歳。成人の年になる。
何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。
になればいいと思っています。
皆様の感想。いただけたら嬉しいです。
面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。
よろしくお願いします!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。
続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる