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番外編
囚われの身の上 2
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エリアストが取調室に入ると、女を連れて来た看守が恐ろしく緊張しながら敬礼をした。
「矯正監、本日収監となりました囚人の資料になりますっ」
「出て行け」
渡された資料を見ることなく、エリアストは看守に退室を言い渡す。通常であれば資料に目を通し、質問などを交えながら囚人の情報を共有する。しかし、エリアストはそれをしない。看守は再度敬礼をして、部屋を後にした。
エリアストはゆっくり囚人の女を見た。幾分顔色は悪いが、毅然と顔を上げ、背筋を伸ばして座っている。エリアストは、机越しに女の顎を掴んだ。
「名を言え」
微かに震える女は、それでも真っ直ぐにエリアストを見て言った。
「アリス・コーサ・ファナトラタと申します」
優しい、穏やかな声、そして黎明の瞳がエリアストを捉えた。目深に被る帽子でその目は見えないが、口元は確かに笑っていた。
「美しい女だ」
アリスは何を言われたかわからなかった。微かに首を傾げる。エリアストはアリスから手を離した。
「こちらへ来い、アリス」
アリスはわからないながらも、言われるままに立ち上がり、恐る恐るエリアストの側へ行く。
「もっとこっちだ。私の手の届くところへ来るんだ」
アリスは怖ず怖ずと近付いた。途端、エリアストはアリスを机に押し倒し、その両手を顔の横で押さえつける。驚きに目を見開くアリス。
「なぜ、こんなところに来た、アリス」
エリアストの質問に、アリスは悲しそうに眉を下げた。それを見たエリアストは、アリスの唇を塞いでいた。
「ふ、ぅっ」
真っ赤な顔で、苦しそうな息を漏らすアリス。エリアストは嬉しそうに笑うと、アリスの唇から離れる。
「そんな顔をするな、アリス。襲ってしまいたくなる」
再び唇を重ねた。
エリアストの思うままに、アリスの口内は蹂躙される。アリスがいよいよ酸欠になりかけた頃、ようやくエリアストの唇が離れた。互いの唾液が伝うアリスの頬を拭う。手袋を外すと、真っ赤に熟れた果実のようになったその唇を、愛おしそうに指でなぞる。苦しそうに肩で息をするアリスは、涙で潤む目で、それでも毅然とエリアストを見た。
「なぜ、このようなことを。わたくしを、辱めたいのですか」
「おまえの声は、美しい」
アリスはキョトンとした。
「おまえのその、真っ直ぐに私を見る目が美しい」
不思議そうに首を傾げるアリスを、エリアストはゆっくり抱き起こす。そしてその首筋に顔を埋め、舌を這わせた。
「お、お止めくださいませ、ディレイガルド様」
真っ赤になりながら、震える声でアリスが言うと、エリアストは止まった。
「私を知っているのか」
「先程、看守の方が、矯正監と、お呼びしておりました」
「ふむ、そうか」
エリアストはアリスから顔を離すと、目深に被った帽子を取る。美しいダイヤモンドのような髪が現れる。春の空のように澄んだ水色の瞳は、なぜか真冬の凍てつく海に見える。とても美しい、言葉では表せない美しさだと聞いてはいた。しかしアリスには、恐ろしい人にしか見えない。それでも、アリスはその恐ろしい男から目を離さなかった。
「やはりおまえは美しいな、アリス」
その顎に手を添え、顔を近付ける。
「名を呼べ、アリス。私の名を」
逆らうことは許さない。強い目がアリスを捕らえる。
「え、り、あすと、さま」
「エル。エル、だ、アリス」
顔がさらに近付く。
「え、エル、様」
「よく出来た、アリス。おまえは私のものだ」
食らいつくように、アリスの唇を貪る。再び机に押し倒し、アリスの両手を頭の上で一つにまとめて片手で押さえつける。空いた片手で自身の制服のボタンを外していく。後ろに撫で付けた髪が乱れ、一房額に落ちる。
苦しそうに眉を寄せるアリスも、羞恥に顔を染めるアリスも、漏れる声を必死にとめようとするアリスも。何もかもがエリアストの欲情を煽る。
そしてアリスの服に手をかけたとき。
アリスは頭を強く振り、エリアストの唇から逃れる。
「は、あ、エル、さま、おやめ、ください」
潤む瞳が羞恥と怯えに揺らめく。その複雑な揺らめきに、エリアストは息を呑んだ。
「エル様。このまま、わたくしを、辱めるのであれば、わたくしは、舌を噛みます」
エリアストは目を見開く。アリスは尚も毅然と告げる。
「もし。もし、戯れではなく、わたくしを、望んでくださるのであれば、正当な手順を、踏んでくださいませ」
ただでさえ伯爵家と公爵家。家格が違いすぎる。況して罪人に堕とされた自分が、筆頭公爵家の嫡男と結ばれることはない。罪人になど手を出してしまっては、エリアストが嗤われてしまう。信用を失いかねない。戯れにしては、リスクが大きい。一時の気まぐれなんぞで失うには大きすぎる。アリスのそんな思いに気付いたのか。エリアストはアリスの手を解放し、抱き締めるように起き上がらせた。
「アリス」
低く名前を呼ばれ、ゾクリと背中に何かが這い上がる。
耳にくちづけられ、甘く噛まれ、舐められる。
「え、える、さま」
羞恥にビクリと肩を震わせるアリスが愛おしい。首筋を舐め、強く吸う。所有の証に、エリアストは満たされる。
「気高い女だ。なあ、アリス」
首筋に息がかかり、無意識にピクリと体が反応してしまう。
「私に我慢をさせるとは」
ククッ、と喉の奥で笑うと、再びアリスの唇を塞いだ。
淫靡な水音が響く。
腕の中には愛しい人。
エリアストは笑う。
「なあ、アリス」
私から逃げられると思うなよ。
*3につづく*
「矯正監、本日収監となりました囚人の資料になりますっ」
「出て行け」
渡された資料を見ることなく、エリアストは看守に退室を言い渡す。通常であれば資料に目を通し、質問などを交えながら囚人の情報を共有する。しかし、エリアストはそれをしない。看守は再度敬礼をして、部屋を後にした。
エリアストはゆっくり囚人の女を見た。幾分顔色は悪いが、毅然と顔を上げ、背筋を伸ばして座っている。エリアストは、机越しに女の顎を掴んだ。
「名を言え」
微かに震える女は、それでも真っ直ぐにエリアストを見て言った。
「アリス・コーサ・ファナトラタと申します」
優しい、穏やかな声、そして黎明の瞳がエリアストを捉えた。目深に被る帽子でその目は見えないが、口元は確かに笑っていた。
「美しい女だ」
アリスは何を言われたかわからなかった。微かに首を傾げる。エリアストはアリスから手を離した。
「こちらへ来い、アリス」
アリスはわからないながらも、言われるままに立ち上がり、恐る恐るエリアストの側へ行く。
「もっとこっちだ。私の手の届くところへ来るんだ」
アリスは怖ず怖ずと近付いた。途端、エリアストはアリスを机に押し倒し、その両手を顔の横で押さえつける。驚きに目を見開くアリス。
「なぜ、こんなところに来た、アリス」
エリアストの質問に、アリスは悲しそうに眉を下げた。それを見たエリアストは、アリスの唇を塞いでいた。
「ふ、ぅっ」
真っ赤な顔で、苦しそうな息を漏らすアリス。エリアストは嬉しそうに笑うと、アリスの唇から離れる。
「そんな顔をするな、アリス。襲ってしまいたくなる」
再び唇を重ねた。
エリアストの思うままに、アリスの口内は蹂躙される。アリスがいよいよ酸欠になりかけた頃、ようやくエリアストの唇が離れた。互いの唾液が伝うアリスの頬を拭う。手袋を外すと、真っ赤に熟れた果実のようになったその唇を、愛おしそうに指でなぞる。苦しそうに肩で息をするアリスは、涙で潤む目で、それでも毅然とエリアストを見た。
「なぜ、このようなことを。わたくしを、辱めたいのですか」
「おまえの声は、美しい」
アリスはキョトンとした。
「おまえのその、真っ直ぐに私を見る目が美しい」
不思議そうに首を傾げるアリスを、エリアストはゆっくり抱き起こす。そしてその首筋に顔を埋め、舌を這わせた。
「お、お止めくださいませ、ディレイガルド様」
真っ赤になりながら、震える声でアリスが言うと、エリアストは止まった。
「私を知っているのか」
「先程、看守の方が、矯正監と、お呼びしておりました」
「ふむ、そうか」
エリアストはアリスから顔を離すと、目深に被った帽子を取る。美しいダイヤモンドのような髪が現れる。春の空のように澄んだ水色の瞳は、なぜか真冬の凍てつく海に見える。とても美しい、言葉では表せない美しさだと聞いてはいた。しかしアリスには、恐ろしい人にしか見えない。それでも、アリスはその恐ろしい男から目を離さなかった。
「やはりおまえは美しいな、アリス」
その顎に手を添え、顔を近付ける。
「名を呼べ、アリス。私の名を」
逆らうことは許さない。強い目がアリスを捕らえる。
「え、り、あすと、さま」
「エル。エル、だ、アリス」
顔がさらに近付く。
「え、エル、様」
「よく出来た、アリス。おまえは私のものだ」
食らいつくように、アリスの唇を貪る。再び机に押し倒し、アリスの両手を頭の上で一つにまとめて片手で押さえつける。空いた片手で自身の制服のボタンを外していく。後ろに撫で付けた髪が乱れ、一房額に落ちる。
苦しそうに眉を寄せるアリスも、羞恥に顔を染めるアリスも、漏れる声を必死にとめようとするアリスも。何もかもがエリアストの欲情を煽る。
そしてアリスの服に手をかけたとき。
アリスは頭を強く振り、エリアストの唇から逃れる。
「は、あ、エル、さま、おやめ、ください」
潤む瞳が羞恥と怯えに揺らめく。その複雑な揺らめきに、エリアストは息を呑んだ。
「エル様。このまま、わたくしを、辱めるのであれば、わたくしは、舌を噛みます」
エリアストは目を見開く。アリスは尚も毅然と告げる。
「もし。もし、戯れではなく、わたくしを、望んでくださるのであれば、正当な手順を、踏んでくださいませ」
ただでさえ伯爵家と公爵家。家格が違いすぎる。況して罪人に堕とされた自分が、筆頭公爵家の嫡男と結ばれることはない。罪人になど手を出してしまっては、エリアストが嗤われてしまう。信用を失いかねない。戯れにしては、リスクが大きい。一時の気まぐれなんぞで失うには大きすぎる。アリスのそんな思いに気付いたのか。エリアストはアリスの手を解放し、抱き締めるように起き上がらせた。
「アリス」
低く名前を呼ばれ、ゾクリと背中に何かが這い上がる。
耳にくちづけられ、甘く噛まれ、舐められる。
「え、える、さま」
羞恥にビクリと肩を震わせるアリスが愛おしい。首筋を舐め、強く吸う。所有の証に、エリアストは満たされる。
「気高い女だ。なあ、アリス」
首筋に息がかかり、無意識にピクリと体が反応してしまう。
「私に我慢をさせるとは」
ククッ、と喉の奥で笑うと、再びアリスの唇を塞いだ。
淫靡な水音が響く。
腕の中には愛しい人。
エリアストは笑う。
「なあ、アリス」
私から逃げられると思うなよ。
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