すべてが覆る日

らがまふぃん

文字の大きさ
1 / 9

しおりを挟む
新しい話、始めました。
結構残酷な表現入りますが、大丈夫な方どうぞ。


*∽*∽*∽*∽*


 自分は、どうしようもない愚か者だった。





 髪や目の色素が濃いほど魔力があるこの世界。
 身分が高いほど魔力が高く、平民より貴族、貴族の中でも下位より高位、そして王族は、黒に近い色彩を持っていた。現王と王太子は濃紺の髪と目を持ち、それ以外の王族も、多少の濃淡はあれ、紺色の色彩を持つ。
 王族ですら黒を持つ者のない中、なんと伯爵という地位の嫡男が、漆黒の色を持って生まれてきた。
 国王はすぐに伯爵家に王命を出した。

 “マティクァリ国第二王女ヒンディルとアローカ伯爵家嫡男ドゥマの婚約を命じる。”

 数ヶ月先に生まれていた第二王女と生まれたばかりのドゥマは、婚約者となった。
 互いを知り、絆を、深いえにしを結ばせるために、幼い内から交流を重ねた。
 だが。
 このドゥマ、中身がひどく虚ろであった。
 何にも興味がない。
 何にも心が動かない。
 対して王女ヒンディルは、誰に対しても傲慢で高慢だった。反応の薄いドゥマに、会う度ヒステリックに喚き散らしたり、バカにしたりしていたが、それでも漆黒の髪と目を持つ美しい婚約者が自慢だった。自分に見合った最高の男だという、ステータスを持つ者として。
 どんなにドゥマを粗雑に扱っても態度は変わらないし、離れていくこともない。それが何年も続けば、ヒンディルの中で都合良く解釈されていく。王命により結ばれているはずなのだが、ドゥマがヒンディルを望んでいるからだ、と。世界に類を見ない、美しい漆黒の色を持つ男が、自分に惚れている。そんな男が自分の婚約者であると言うことで、あらゆる者から羨望の眼差しを向けられることに、ヒンディルの欲は満たされた。どんなに会話がなくても、何一つ贈り物もなく、何もない、虚ろな目を向けられていてさえも。という思い込みの前には、すべてが見えなくなっていた。
 変わらぬ態度と離れていかない事実、ただそれだけがあれば、ヒンディルが都合良く勘違いするには充分だったのだ。





 十五歳になる頃、月に一度のお茶会で、ヒンディルは虚ろな婚約者に癇癪混じりに言った。
 「ねぇ、おまえ、このわたくしといるのだから、そのつまらなそうな顔はどうにかならないの?」
 扇でテーブルを叩きながら口を開いたヒンディルに、ドゥマはやはり虚ろな目を向けた。
 「さあ。つまらない、とも思ったことないな」
 楽しいも嬉しいも哀しいも淋しいも、何もない。感情を揺さぶるものに、出会ったことがない。
 「嘘おっしゃい!何も感じないなんてあり得ないわ!」
 バシバシとより強くテーブルを叩くヒンディルにも、
 「そうか」
 と、ただ一言発するだけ。
 「毎回毎回何故わたくしが話題を振らなくてはならないのよ!わたくしを楽しませなさい、これは命令よ!」
 ドゥマはチラリとヒンディルに目を向けただけで、すぐにまたどこを見ているかわからなくなった。このように、ヒンディルが何かしらつっかかってくることはいつものことだった。しかし、今回の彼女は余程虫の居所が悪かったのだろう。
 「何よ、その態度は!」
 立ち上がってドゥマの方へドスドスと足音荒く近付くと、扇を振り上げ、躊躇いもなく打ち下ろす。
 しかし、ヒンディルはさらに怒りに顔を歪めた。
 「おまえ!使用人の分際でわたくしの邪魔をするなんて!これだから躾のなっていない薄汚い平民は嫌なのよ!」
 最近ヒンディル付きとして配属された、歳の近い痩せ細った少女が扇とドゥマの間に入り、その身を挺して凶行からドゥマを守ったのだ。
 「おまけに!わたくしの婚約者に触れるなんて、処刑されても文句は言えないわよ!」
 少女は、咄嗟にドゥマの頭を抱き抱えていた。それが、自分のものに触れられたと、ヒンディルの怒りを加速させる。少女はすぐにドゥマから離れたが、もう遅い。ヒンディルはあらゆる罵詈雑言を吐きながら、少女に何度も扇を振り下ろす。それでも、少女は一言の悲鳴も上げず、頭を庇うように蹲っていた。
 少女の名は、ノノと言った。
 ノノは、とある公爵家の庶子だった。
 下町で働くノノの母を見初めた公爵が、無理矢理無体を働いた結果、ノノが生まれた。元々あまり丈夫ではなかったノノの母は、産後の肥立ちが悪く、ノノが五歳になる頃には儚くなった。公爵家の血を引く者を放置も出来ず仕方なく引き取ったものの、その扱いは自ずと知れたものだった。
 ノノが十歳になると、行儀見習いと称して、ていのいい厄介払いをされた。王宮で下働きをしていたが、時が経ち、十四になる頃、誰もが持て余す王女ヒンディル付きとなる。ノノがいれば、ヒンディル付きの女官たちに被害が及ばない。癇癪持ちである王女のストレスの捌け口として選ばれたようなものだった。
 「本当に不快よ!おまえのせいで折角のお茶会が台無しだわ!今日から三日間食事は抜きよ!いいわね!」
 こうして、一時間のお茶会は終了した。
 ヒンディルは足音荒く、その場を去ったため、気付けなかった。
 自慢の婚約者が、ノノをジッと見つめていることに。



*つづく*
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

嘘コクのゆくえ

キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。 生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。 そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。 アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで…… 次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは…… 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。 作者は元サヤハピエン主義を掲げております。 アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

王太子殿下が欲しいのなら、どうぞどうぞ。

基本二度寝
恋愛
貴族が集まる舞踏会。 王太子の側に侍る妹。 あの子、何をしでかすのかしら。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

処理中です...