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新しい話、始めました。
結構残酷な表現入りますが、大丈夫な方どうぞ。
*∽*∽*∽*∽*
自分は、どうしようもない愚か者だった。
髪や目の色素が濃いほど魔力があるこの世界。
身分が高いほど魔力が高く、平民より貴族、貴族の中でも下位より高位、そして王族は、黒に近い色彩を持っていた。現王と王太子は濃紺の髪と目を持ち、それ以外の王族も、多少の濃淡はあれ、紺色の色彩を持つ。
王族ですら黒を持つ者のない中、なんと伯爵という地位の嫡男が、漆黒の色を持って生まれてきた。
国王はすぐに伯爵家に王命を出した。
“マティクァリ国第二王女ヒンディルとアローカ伯爵家嫡男ドゥマの婚約を命じる。”
数ヶ月先に生まれていた第二王女と生まれたばかりのドゥマは、婚約者となった。
互いを知り、絆を、深い縁を結ばせるために、幼い内から交流を重ねた。
だが。
このドゥマ、中身がひどく虚ろであった。
何にも興味がない。
何にも心が動かない。
対して王女ヒンディルは、誰に対しても傲慢で高慢だった。反応の薄いドゥマに、会う度ヒステリックに喚き散らしたり、バカにしたりしていたが、それでも漆黒の髪と目を持つ美しい婚約者が自慢だった。自分に見合った最高の男だという、ステータスを持つ者として。
どんなにドゥマを粗雑に扱っても態度は変わらないし、離れていくこともない。それが何年も続けば、ヒンディルの中で都合良く解釈されていく。王命により結ばれているはずなのだが、ドゥマがヒンディルを望んでいるからだ、と。世界に類を見ない、美しい漆黒の色を持つ男が、自分に惚れている。そんな男が自分の婚約者であると言うことで、あらゆる者から羨望の眼差しを向けられることに、ヒンディルの欲は満たされた。どんなに会話がなくても、何一つ贈り物もなく、何もない、虚ろな目を向けられていてさえも。惚れられているという思い込みの前には、すべてが見えなくなっていた。
変わらぬ態度と離れていかない事実、ただそれだけがあれば、ヒンディルが都合良く勘違いするには充分だったのだ。
十五歳になる頃、月に一度のお茶会で、ヒンディルは虚ろな婚約者に癇癪混じりに言った。
「ねぇ、おまえ、このわたくしといるのだから、そのつまらなそうな顔はどうにかならないの?」
扇でテーブルを叩きながら口を開いたヒンディルに、ドゥマはやはり虚ろな目を向けた。
「さあ。つまらない、とも思ったことないな」
楽しいも嬉しいも哀しいも淋しいも、何もない。感情を揺さぶるものに、出会ったことがない。
「嘘おっしゃい!何も感じないなんてあり得ないわ!」
バシバシとより強くテーブルを叩くヒンディルにも、
「そうか」
と、ただ一言発するだけ。
「毎回毎回何故わたくしが話題を振らなくてはならないのよ!わたくしを楽しませなさい、これは命令よ!」
ドゥマはチラリとヒンディルに目を向けただけで、すぐにまたどこを見ているかわからなくなった。このように、ヒンディルが何かしらつっかかってくることはいつものことだった。しかし、今回の彼女は余程虫の居所が悪かったのだろう。
「何よ、その態度は!」
立ち上がってドゥマの方へドスドスと足音荒く近付くと、扇を振り上げ、躊躇いもなく打ち下ろす。
しかし、ヒンディルはさらに怒りに顔を歪めた。
「おまえ!使用人の分際でわたくしの邪魔をするなんて!これだから躾のなっていない薄汚い平民は嫌なのよ!」
最近ヒンディル付きとして配属された、歳の近い痩せ細った少女が扇とドゥマの間に入り、その身を挺して凶行からドゥマを守ったのだ。
「おまけに!わたくしの婚約者に触れるなんて、処刑されても文句は言えないわよ!」
少女は、咄嗟にドゥマの頭を抱き抱えていた。それが、自分のものに触れられたと、ヒンディルの怒りを加速させる。少女はすぐにドゥマから離れたが、もう遅い。ヒンディルはあらゆる罵詈雑言を吐きながら、少女に何度も扇を振り下ろす。それでも、少女は一言の悲鳴も上げず、頭を庇うように蹲っていた。
少女の名は、ノノと言った。
ノノは、とある公爵家の庶子だった。
下町で働くノノの母を見初めた公爵が、無理矢理無体を働いた結果、ノノが生まれた。元々あまり丈夫ではなかったノノの母は、産後の肥立ちが悪く、ノノが五歳になる頃には儚くなった。公爵家の血を引く者を放置も出来ず仕方なく引き取ったものの、その扱いは自ずと知れたものだった。
ノノが十歳になると、行儀見習いと称して、体のいい厄介払いをされた。王宮で下働きをしていたが、時が経ち、十四になる頃、誰もが持て余す王女ヒンディル付きとなる。ノノがいれば、ヒンディル付きの女官たちに被害が及ばない。癇癪持ちである王女のストレスの捌け口として選ばれたようなものだった。
「本当に不快よ!おまえのせいで折角のお茶会が台無しだわ!今日から三日間食事は抜きよ!いいわね!」
こうして、一時間のお茶会は終了した。
ヒンディルは足音荒く、その場を去ったため、気付けなかった。
自慢の婚約者が、ノノをジッと見つめていることに。
*つづく*
結構残酷な表現入りますが、大丈夫な方どうぞ。
*∽*∽*∽*∽*
自分は、どうしようもない愚か者だった。
髪や目の色素が濃いほど魔力があるこの世界。
身分が高いほど魔力が高く、平民より貴族、貴族の中でも下位より高位、そして王族は、黒に近い色彩を持っていた。現王と王太子は濃紺の髪と目を持ち、それ以外の王族も、多少の濃淡はあれ、紺色の色彩を持つ。
王族ですら黒を持つ者のない中、なんと伯爵という地位の嫡男が、漆黒の色を持って生まれてきた。
国王はすぐに伯爵家に王命を出した。
“マティクァリ国第二王女ヒンディルとアローカ伯爵家嫡男ドゥマの婚約を命じる。”
数ヶ月先に生まれていた第二王女と生まれたばかりのドゥマは、婚約者となった。
互いを知り、絆を、深い縁を結ばせるために、幼い内から交流を重ねた。
だが。
このドゥマ、中身がひどく虚ろであった。
何にも興味がない。
何にも心が動かない。
対して王女ヒンディルは、誰に対しても傲慢で高慢だった。反応の薄いドゥマに、会う度ヒステリックに喚き散らしたり、バカにしたりしていたが、それでも漆黒の髪と目を持つ美しい婚約者が自慢だった。自分に見合った最高の男だという、ステータスを持つ者として。
どんなにドゥマを粗雑に扱っても態度は変わらないし、離れていくこともない。それが何年も続けば、ヒンディルの中で都合良く解釈されていく。王命により結ばれているはずなのだが、ドゥマがヒンディルを望んでいるからだ、と。世界に類を見ない、美しい漆黒の色を持つ男が、自分に惚れている。そんな男が自分の婚約者であると言うことで、あらゆる者から羨望の眼差しを向けられることに、ヒンディルの欲は満たされた。どんなに会話がなくても、何一つ贈り物もなく、何もない、虚ろな目を向けられていてさえも。惚れられているという思い込みの前には、すべてが見えなくなっていた。
変わらぬ態度と離れていかない事実、ただそれだけがあれば、ヒンディルが都合良く勘違いするには充分だったのだ。
十五歳になる頃、月に一度のお茶会で、ヒンディルは虚ろな婚約者に癇癪混じりに言った。
「ねぇ、おまえ、このわたくしといるのだから、そのつまらなそうな顔はどうにかならないの?」
扇でテーブルを叩きながら口を開いたヒンディルに、ドゥマはやはり虚ろな目を向けた。
「さあ。つまらない、とも思ったことないな」
楽しいも嬉しいも哀しいも淋しいも、何もない。感情を揺さぶるものに、出会ったことがない。
「嘘おっしゃい!何も感じないなんてあり得ないわ!」
バシバシとより強くテーブルを叩くヒンディルにも、
「そうか」
と、ただ一言発するだけ。
「毎回毎回何故わたくしが話題を振らなくてはならないのよ!わたくしを楽しませなさい、これは命令よ!」
ドゥマはチラリとヒンディルに目を向けただけで、すぐにまたどこを見ているかわからなくなった。このように、ヒンディルが何かしらつっかかってくることはいつものことだった。しかし、今回の彼女は余程虫の居所が悪かったのだろう。
「何よ、その態度は!」
立ち上がってドゥマの方へドスドスと足音荒く近付くと、扇を振り上げ、躊躇いもなく打ち下ろす。
しかし、ヒンディルはさらに怒りに顔を歪めた。
「おまえ!使用人の分際でわたくしの邪魔をするなんて!これだから躾のなっていない薄汚い平民は嫌なのよ!」
最近ヒンディル付きとして配属された、歳の近い痩せ細った少女が扇とドゥマの間に入り、その身を挺して凶行からドゥマを守ったのだ。
「おまけに!わたくしの婚約者に触れるなんて、処刑されても文句は言えないわよ!」
少女は、咄嗟にドゥマの頭を抱き抱えていた。それが、自分のものに触れられたと、ヒンディルの怒りを加速させる。少女はすぐにドゥマから離れたが、もう遅い。ヒンディルはあらゆる罵詈雑言を吐きながら、少女に何度も扇を振り下ろす。それでも、少女は一言の悲鳴も上げず、頭を庇うように蹲っていた。
少女の名は、ノノと言った。
ノノは、とある公爵家の庶子だった。
下町で働くノノの母を見初めた公爵が、無理矢理無体を働いた結果、ノノが生まれた。元々あまり丈夫ではなかったノノの母は、産後の肥立ちが悪く、ノノが五歳になる頃には儚くなった。公爵家の血を引く者を放置も出来ず仕方なく引き取ったものの、その扱いは自ずと知れたものだった。
ノノが十歳になると、行儀見習いと称して、体のいい厄介払いをされた。王宮で下働きをしていたが、時が経ち、十四になる頃、誰もが持て余す王女ヒンディル付きとなる。ノノがいれば、ヒンディル付きの女官たちに被害が及ばない。癇癪持ちである王女のストレスの捌け口として選ばれたようなものだった。
「本当に不快よ!おまえのせいで折角のお茶会が台無しだわ!今日から三日間食事は抜きよ!いいわね!」
こうして、一時間のお茶会は終了した。
ヒンディルは足音荒く、その場を去ったため、気付けなかった。
自慢の婚約者が、ノノをジッと見つめていることに。
*つづく*
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