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エリアストとアリスの形編
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「も、もう一度、もう一度言ってくれるかい、リズ」
アリスの兄カリスの言葉に、アリスは微笑んだ。
アリスの誕生日。ディレイガルド邸に招かれたファナトラタ家は、アリスの言葉に目を大きく開いた。
嫁入り前と同じように接してあげて欲しい、その方が、アリスが安心出来るだろうから、とのディレイガルドからの申し出に、最初こそ首を振ったが、ディレイガルドが良しとしなかった。そのため、今ではすっかり今まで通り接することにしているファナトラタ家。
カリスも所帯を持ち、その妻は今三人目を出産するため、二人の子どもを連れて里帰り中だ。嫁いだ者を里帰りで出産をさせてくれることは珍しい。カリスもまた、嫁至上主義のため、一番負担にならないようにしてもらっている。出産に向けて、一週間後にはカリスもお嫁さんのところへ向かう予定だ。
その直前でのアリスからの嬉しい報告に、カリスの目は潤んでいる。
「ふふ。はい。子どもを、授かりましたのよ、お兄様」
カリスは瞬き一つせず、滂沱した。
「うう、ううううぅ」
ボロ泣きのカリスの背を、アリスたちの母が優しく撫でる。
「おめでとう、おめでとう、りず」
袖でぐしぐしと涙を拭いながら、カリスは聞き取りづらい言葉だったが、そう言った。
「りずも、お母さんになるんだなあ。兄は嬉しい。嬉しいよ、りず」
「おめでとう、リズ。おめでとう、ぐぅぅ」
アリスたちの父も、袖で目を覆っている。
「おめでとう、アリス。ディレイガルド公爵様、ディレイガルド公爵夫人様、ディレイガルド小公爵様。どうぞこれからもアリスを、よろしくお願い申し上げます」
母は丁寧に頭を下げた。
母は、覚えている。
“ご心配をおかけしていることは重々承知しております。ですが親不孝なわたくしのわがまま、どうか聞き入れてくださいませ”
初めてディレイガルド邸に招かれ、酷い仕打ちをされた。それでもアリスは、恐怖からではなく、自分の意志で、ディレイガルドに嫁ぐと決めた。
たった、十三歳のアリス。
アリスも、忘れはしない。
エリアストに嫁ぐと決めたときに、誓ったこと。
“不幸を望む親などいない。苦労するとわかっているのに送り出さねばならない親の気持ちを、いつか本当の意味でわかる日が来るのだろう。親不孝な自分を赦せとは言わない。幸せになって、あなたたちが血を吐く思いで送り出してくださったから今の幸せがあります、と胸を張って言わせて欲しい”
母と、アリス。
穏やかに見つめ合った。
「ディレイガルド小公爵様」
母がエリアストを呼ぶ。エリアストは母に視線を合わせる。
「失礼を承知で申し上げます」
真摯な瞳が、真っ直ぐにエリアストを見つめる。
「あなた様に、アリスを託して良かった」
母の頬に、涙が伝う。
「お母様」
アリスからも、涙が零れる。
「ありがとう、ございます、エリアスト様」
母は、“小公爵様”、ではなく、最大限の感謝を込めてエリアストの名を呼ぶと、もう一度、頭を下げた。
「これからも、アリスを、どうぞ、どうぞ、よろしく、お願い申し上げます」
*つづく*
アリスの兄カリスの言葉に、アリスは微笑んだ。
アリスの誕生日。ディレイガルド邸に招かれたファナトラタ家は、アリスの言葉に目を大きく開いた。
嫁入り前と同じように接してあげて欲しい、その方が、アリスが安心出来るだろうから、とのディレイガルドからの申し出に、最初こそ首を振ったが、ディレイガルドが良しとしなかった。そのため、今ではすっかり今まで通り接することにしているファナトラタ家。
カリスも所帯を持ち、その妻は今三人目を出産するため、二人の子どもを連れて里帰り中だ。嫁いだ者を里帰りで出産をさせてくれることは珍しい。カリスもまた、嫁至上主義のため、一番負担にならないようにしてもらっている。出産に向けて、一週間後にはカリスもお嫁さんのところへ向かう予定だ。
その直前でのアリスからの嬉しい報告に、カリスの目は潤んでいる。
「ふふ。はい。子どもを、授かりましたのよ、お兄様」
カリスは瞬き一つせず、滂沱した。
「うう、ううううぅ」
ボロ泣きのカリスの背を、アリスたちの母が優しく撫でる。
「おめでとう、おめでとう、りず」
袖でぐしぐしと涙を拭いながら、カリスは聞き取りづらい言葉だったが、そう言った。
「りずも、お母さんになるんだなあ。兄は嬉しい。嬉しいよ、りず」
「おめでとう、リズ。おめでとう、ぐぅぅ」
アリスたちの父も、袖で目を覆っている。
「おめでとう、アリス。ディレイガルド公爵様、ディレイガルド公爵夫人様、ディレイガルド小公爵様。どうぞこれからもアリスを、よろしくお願い申し上げます」
母は丁寧に頭を下げた。
母は、覚えている。
“ご心配をおかけしていることは重々承知しております。ですが親不孝なわたくしのわがまま、どうか聞き入れてくださいませ”
初めてディレイガルド邸に招かれ、酷い仕打ちをされた。それでもアリスは、恐怖からではなく、自分の意志で、ディレイガルドに嫁ぐと決めた。
たった、十三歳のアリス。
アリスも、忘れはしない。
エリアストに嫁ぐと決めたときに、誓ったこと。
“不幸を望む親などいない。苦労するとわかっているのに送り出さねばならない親の気持ちを、いつか本当の意味でわかる日が来るのだろう。親不孝な自分を赦せとは言わない。幸せになって、あなたたちが血を吐く思いで送り出してくださったから今の幸せがあります、と胸を張って言わせて欲しい”
母と、アリス。
穏やかに見つめ合った。
「ディレイガルド小公爵様」
母がエリアストを呼ぶ。エリアストは母に視線を合わせる。
「失礼を承知で申し上げます」
真摯な瞳が、真っ直ぐにエリアストを見つめる。
「あなた様に、アリスを託して良かった」
母の頬に、涙が伝う。
「お母様」
アリスからも、涙が零れる。
「ありがとう、ございます、エリアスト様」
母は、“小公爵様”、ではなく、最大限の感謝を込めてエリアストの名を呼ぶと、もう一度、頭を下げた。
「これからも、アリスを、どうぞ、どうぞ、よろしく、お願い申し上げます」
*つづく*
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