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番外編
人騒がせなクピド1
ディレイガルド邸の日常の中で起こった、とある一コマの話です。
モブ?たちの話です。
*∽*∽*∽*∽*
私には、お慕いしている方がいる。
その方が幸せになるためならば、私の想いは、届かなくて、良いのです。
*~*~*~*~*
~モノウ・ハルケイス伯爵令嬢の初恋~
栗色の髪に、僅かに緑がかった茶色の瞳。突出したものがあるわけでもない、極々平凡、ありふれた娘。
「お肌だって、侍女たちのおかげで綺麗ではあるけれど、透き通るような白さもないわ」
鏡の前に座って、侍女が整えてくれる髪を見ながら、ハルケイス伯爵家の一人娘モノウは、溜め息を吐いた。その様子に、侍女は困ったように笑う。
「お嬢様はいつもそればかり。もっと自信をお持ちください。わたくしは、お嬢様が一番愛らしいと思っていますよ」
「うん。ありがとう。でも、その、あの」
モジモジとするモノウに、侍女は微笑ましく見つめた。
「ディレイガルド公爵令息様ですか?」
その名を出しただけで、モノウは頬を染めた。恥ずかしそうに俯きながら、そう、と小さく呟く。
モノウはエリアストの一つ上の学年だった。学園でエリアストを見て、一瞬で恋に落ちた。けれど、自分なんかが釣り合うわけがないと、遠くからその姿を見つめる日々。
そんなモノウは、エリアストの残酷さに衝撃を受ける。けれど、恐ろしいその本性さえ、モノウがエリアストを避ける理由にはならなかった。
エリアストが入学して半年ほどして、婚約者がいるという噂が流れ始めた。
あんなに素敵な人の婚約者ですもの。とてもとても素敵な人に違いありませんわ。
そう思いつつも、あれほど恐ろしい人に婚約者がいることが信じられず、女性を避けるための嘘ではないか、そうであったなら、もしかしたら自分が隣に立てる可能性もあるのではないか、と思ったくらいだ。
その微かな希望は、呆気なく砕かれる。
コカトリテア伯爵子息タイカ。モノウの一つ下、エリアストと同い年の彼が、エリアストを怒らせた。その理由が、エリアストの婚約者を侮辱したとのことだ。
婚約者のことで怒ったという事実が、モノウの心を沈ませた。誰に対しても冷たくて、心を動かさなかったエリアスト。それが、婚約者のために感情を動かしたということが、モノウには悲しかった。エリアストの心がどこにあるのか、はっきりとわからされたからだ。
決定打は、自分と同い年の公爵家次男の弟がやらかした事件だ。この事件をきっかけに、公爵位から伯爵位へ落とされ、元凶である弟は貴族籍剥奪となった。
この事件で、モノウは初めてエリアストの婚約者を目にした。モノウだけではない。きっと、殆どの人が、エリアストの婚約者である、アリス・コーサ・ファナトラタを初めて見ただろう。とびきりの美人ではないが、間違いなく美しい部類に入る。だがその声は、間違いなく一番美しい。
そんな彼女への、溺愛の片鱗を見てしまった。
アリスの姿を認めたエリアストは、聞いたこともない嬉しそうな声でアリスを愛称で呼んだ。そして、誰にも触れることのない、誰かが触れることすら許さないエリアスト自らが、アリスを抱き締めたのだ。それだけではない。アリスの首筋に、その美しい顔を埋めたのだ。
ショックだった。
隣に立てる可能性を考えてしまった分、夢を、甘い夢を見てしまった分、モノウの心は軋んだ。
自分など、こんな平凡な、ありふれた自分など、見てもらえるはずがない。
そう考えていたのに、微かな希望が捨てきれなくて。分不相応な夢を見てしまった。
家に帰って、モノウは泣いた。思い切り、泣いた。
それを、四つ上の幼馴染みトノイアは、そっと見ていた。
*つづく*
モブ?たちの話です。
*∽*∽*∽*∽*
私には、お慕いしている方がいる。
その方が幸せになるためならば、私の想いは、届かなくて、良いのです。
*~*~*~*~*
~モノウ・ハルケイス伯爵令嬢の初恋~
栗色の髪に、僅かに緑がかった茶色の瞳。突出したものがあるわけでもない、極々平凡、ありふれた娘。
「お肌だって、侍女たちのおかげで綺麗ではあるけれど、透き通るような白さもないわ」
鏡の前に座って、侍女が整えてくれる髪を見ながら、ハルケイス伯爵家の一人娘モノウは、溜め息を吐いた。その様子に、侍女は困ったように笑う。
「お嬢様はいつもそればかり。もっと自信をお持ちください。わたくしは、お嬢様が一番愛らしいと思っていますよ」
「うん。ありがとう。でも、その、あの」
モジモジとするモノウに、侍女は微笑ましく見つめた。
「ディレイガルド公爵令息様ですか?」
その名を出しただけで、モノウは頬を染めた。恥ずかしそうに俯きながら、そう、と小さく呟く。
モノウはエリアストの一つ上の学年だった。学園でエリアストを見て、一瞬で恋に落ちた。けれど、自分なんかが釣り合うわけがないと、遠くからその姿を見つめる日々。
そんなモノウは、エリアストの残酷さに衝撃を受ける。けれど、恐ろしいその本性さえ、モノウがエリアストを避ける理由にはならなかった。
エリアストが入学して半年ほどして、婚約者がいるという噂が流れ始めた。
あんなに素敵な人の婚約者ですもの。とてもとても素敵な人に違いありませんわ。
そう思いつつも、あれほど恐ろしい人に婚約者がいることが信じられず、女性を避けるための嘘ではないか、そうであったなら、もしかしたら自分が隣に立てる可能性もあるのではないか、と思ったくらいだ。
その微かな希望は、呆気なく砕かれる。
コカトリテア伯爵子息タイカ。モノウの一つ下、エリアストと同い年の彼が、エリアストを怒らせた。その理由が、エリアストの婚約者を侮辱したとのことだ。
婚約者のことで怒ったという事実が、モノウの心を沈ませた。誰に対しても冷たくて、心を動かさなかったエリアスト。それが、婚約者のために感情を動かしたということが、モノウには悲しかった。エリアストの心がどこにあるのか、はっきりとわからされたからだ。
決定打は、自分と同い年の公爵家次男の弟がやらかした事件だ。この事件をきっかけに、公爵位から伯爵位へ落とされ、元凶である弟は貴族籍剥奪となった。
この事件で、モノウは初めてエリアストの婚約者を目にした。モノウだけではない。きっと、殆どの人が、エリアストの婚約者である、アリス・コーサ・ファナトラタを初めて見ただろう。とびきりの美人ではないが、間違いなく美しい部類に入る。だがその声は、間違いなく一番美しい。
そんな彼女への、溺愛の片鱗を見てしまった。
アリスの姿を認めたエリアストは、聞いたこともない嬉しそうな声でアリスを愛称で呼んだ。そして、誰にも触れることのない、誰かが触れることすら許さないエリアスト自らが、アリスを抱き締めたのだ。それだけではない。アリスの首筋に、その美しい顔を埋めたのだ。
ショックだった。
隣に立てる可能性を考えてしまった分、夢を、甘い夢を見てしまった分、モノウの心は軋んだ。
自分など、こんな平凡な、ありふれた自分など、見てもらえるはずがない。
そう考えていたのに、微かな希望が捨てきれなくて。分不相応な夢を見てしまった。
家に帰って、モノウは泣いた。思い切り、泣いた。
それを、四つ上の幼馴染みトノイアは、そっと見ていた。
*つづく*
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