乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

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日向透子との出会い ~ノーマside~

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 トーコを初めて目にしたとき、私は眉をひそめた。



 海を移動するのは一苦労だ。

 空港のない島に行くときは、船の移動だ。足場の悪い海上の護衛は、陸上を護衛するより難易度が高い。

 「遊びではないのですよ。好奇心から無理を通したのであれば、お帰りなさい。それは、他の方たちの命を軽んじる行為です」

 屈強な護衛たちの中、子供のような体格が交じっていたので注意をした。護衛は命懸け。そんな場所に、興味本位で子供が交じっていいはずがない。何が命取りになるかわからないのだ。

 私の言葉に少し驚いた顔をしたその子は、すぐに眉を下げた。すると、背後から慌てたように声がかかる。

 「ミュゲル様、彼女は今作戦の要なのです」

 護衛隊長がその子を紹介する。

 「トーコ・ヒムカイです。彼女なしに今回キメラに遭遇した場合の護衛生存率は、四割に満たないかと」

 護衛隊長の言葉に、今度は私が驚く。少年だと思っていたが、女性であることにも。

 「キミが、ヒムカイ?」

 父から聞いていた。近年、凄腕の護衛が入ったと。女性だとは聞いていたが、容姿まで詳しくは聞いていなかった。勝手に他の護衛たちと同じような、屈強な人物だと思っていた。

 「ご挨拶が遅れました。トーコ・ヒムカイです。今回ミュゲル様の護衛につく栄誉をたまわりました。安全な旅にはなりませんが、ミュゲル様を無事にこのお屋敷へお戻りいただけるよう尽力いたします」

 トーコの美しい髪が、サラリと揺れた。



 甲板かんぱんに設置されたいくつかのカメラの内、一つがトーコを映していた。背中には、空中を移動するためのエアーと呼ばれる物が装備され、何かあればいつでも海上に飛び出せる。彼女は前方を見据え、動かない。どれくらい時間が経っただろう。トーコがカメラから消えた。思わず背もたれから体を起こす。少しして、トーコの背丈ほどもある銃を背負ってきた。重量がありそうだが、彼女は軽々持ち上げ、前方を見据え、引き金を引いた。同時にその銃を持って海上へ飛び出し、見えなくなった。思わず部屋から出ると、扉前の護衛が阻止する。

 「ミュゲル様、お戻りを」
 「キメラですか」
 「いえ、大型の海洋生物です。獰猛どうもうな性格のモノなので、処理に向かっております」

 護衛は油断なく警戒している。私を甲板に出す気はない。それはそうだ。自身でも言った通り、何が命取りになるかわからないのだ。戦闘のド素人が、それこそ興味本位でウロウロされたら堪ったものではないだろう。その時、護衛が耳に手を当て、了承の言葉を口にした。小型無線機で連絡を取り合っている。

 「ミュゲル様。キメラが現れました。ヒムカイが海洋生物を討伐とうばつしたとのことで、そのままキメラ討伐に向かうとのことです。交代の者が来たら私も向かいます。どうぞ部屋にお戻りください」

 先程飛び出して行ったトーコが、もう討伐したという。足場のない海上で戦うことは、海を生活の場とする生物たちより遙かに不利だ。それを、いとも容易たやすく終わらせるとは。自身の気持ちが高揚こうようしているのがわかる。

 それからしばらくして、騒がしかった甲板が落ち着きを取り戻した頃。

 部屋から再び出ようとして、先程の護衛と交代した護衛が苦笑する。

 「どうぞ、ミュゲル様。脅威きょういは去りましたので、外の空気を吸われるのもよろしいかと」

 狭い廊下を進み、甲板へと続く扉を開ける。眩しさに一瞬くらんだ目に飛び込んできたのは、戻ったばかりのトーコの姿だった。その姿に、言い知れぬ感情が背中をう。

 トーコは返り血を浴びていた。

 海洋生物のものかキメラのものかはわからない。幼い顔に散る赤が、どうしようもなくなまめかしく見えた。

 トーコは汚れた自分を隠すように、軽く一礼だけすると、屈強な男たちに埋もれて見えなくなってしまった。

 私はトーコが消えた方を、見つめ続けた。




*つづく*
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