リンゴカン

四季人

文字の大きさ
上 下
4 / 5

リンゴカン ソノヨン

しおりを挟む
 二週間ぶりのフリーな休日に、ふと思い立ち、やってきたのは県内一の広さを誇る、大きなショッピングモール。
 新しくオープンした、地方初出店のりんご飴専門店が、今日の目的地だった。
 スイーツは良い。私の経験上、失恋に一番良く効く薬は甘い物だ。
 ……まあ、つまりは、そういうこと。

 とはいえ、実はそこまでの期待はしてない。
 割り箸を突き刺したりんごを、赤い飴に潜らせただけの食べ物が、いくらか高級になったとして、そんなにもてはやされるなんて、というのが正直な感想だ。

 数分後。
 ショーケースに並んだりんご飴を前に、私は一転、うっとりと息を漏らしていた。
 そこには赤い飴でコーティングされた定番以外にも、ココアや抹茶、ヨーグルトなど、様々なフレーバーのシーズニングがくまなく塗された物があって、お腹とお金に余裕があれば、全部食べ比べてみたいくらい美味しそうだった。
 ……ここにもう一人居れば、はんぶんこできたのに。
 物悲しい気分を振り払って、私はシナモンシュガー味を注文する。
 食べやすくカットして容器に入れてもらう事もできたが、りんご飴のフォルムを崩したくなくて、そのまま持って行く事にした。

 店の外の飲食スペースに移り、ウッドテーブルに着く。早く食べたい気持ちを抑えながら、茶色いパウダーに包まれたりんご飴を写真に収める。
 りんごとシナモン。定番の組み合わせの安心感。
 お上品に食べる事は諦め、思い切って大きな曲面に歯を立てる。
 ジャリリ……!
 シナモンと飴が砕けて広がった後、瑞々しいりんごの果汁が口の中いっぱいに溢れ出す。

「……んん~~♡」
 ああ、なんて、幸せな味なんだろう。

 飴はサッと溶けて、りんごの甘酸っぱい果汁の旨味を邪魔せず、しっかりと引き立てている。
 舌を僅かに刺激するシナモンの辛味と鼻に抜ける香りが、単体でも美味しいりんごを、至福のスイーツの領域まで引き上げていた。
 なるほど。この幸福感と満足感は、食べてみないと判らない。

 気がつけば、りんごは種と芯を残すだけになっていて、対照的に、私の胸とお腹はしっかりと満たされていた。
 どれだけ辛い出来事があっても、甘い物を食べれば、また頑張ろうって気分になれる。力の源だ。

 ……だから、もう一個、買ってこようかな。

                             了
しおりを挟む

処理中です...