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リンゴカン ソノヨン
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二週間ぶりのフリーな休日に、ふと思い立ち、やってきたのは県内一の広さを誇る、大きなショッピングモール。
新しくオープンした、地方初出店のりんご飴専門店が、今日の目的地だった。
スイーツは良い。私の経験上、失恋に一番良く効く薬は甘い物だ。
……まあ、つまりは、そういうこと。
とはいえ、実はそこまでの期待はしてない。
割り箸を突き刺したりんごを、赤い飴に潜らせただけの食べ物が、いくらか高級になったとして、そんなにもてはやされるなんて、というのが正直な感想だ。
数分後。
ショーケースに並んだりんご飴を前に、私は一転、うっとりと息を漏らしていた。
そこには赤い飴でコーティングされた定番以外にも、ココアや抹茶、ヨーグルトなど、様々なフレーバーのシーズニングがくまなく塗された物があって、お腹とお金に余裕があれば、全部食べ比べてみたいくらい美味しそうだった。
……ここにもう一人居れば、はんぶんこできたのに。
物悲しい気分を振り払って、私はシナモンシュガー味を注文する。
食べやすくカットして容器に入れてもらう事もできたが、りんご飴のフォルムを崩したくなくて、そのまま持って行く事にした。
店の外の飲食スペースに移り、ウッドテーブルに着く。早く食べたい気持ちを抑えながら、茶色いパウダーに包まれたりんご飴を写真に収める。
りんごとシナモン。定番の組み合わせの安心感。
お上品に食べる事は諦め、思い切って大きな曲面に歯を立てる。
ジャリリ……!
シナモンと飴が砕けて広がった後、瑞々しいりんごの果汁が口の中いっぱいに溢れ出す。
「……んん~~♡」
ああ、なんて、幸せな味なんだろう。
飴はサッと溶けて、りんごの甘酸っぱい果汁の旨味を邪魔せず、しっかりと引き立てている。
舌を僅かに刺激するシナモンの辛味と鼻に抜ける香りが、単体でも美味しいりんごを、至福のスイーツの領域まで引き上げていた。
なるほど。この幸福感と満足感は、食べてみないと判らない。
気がつけば、りんごは種と芯を残すだけになっていて、対照的に、私の胸とお腹はしっかりと満たされていた。
どれだけ辛い出来事があっても、甘い物を食べれば、また頑張ろうって気分になれる。力の源だ。
……だから、もう一個、買ってこようかな。
了
新しくオープンした、地方初出店のりんご飴専門店が、今日の目的地だった。
スイーツは良い。私の経験上、失恋に一番良く効く薬は甘い物だ。
……まあ、つまりは、そういうこと。
とはいえ、実はそこまでの期待はしてない。
割り箸を突き刺したりんごを、赤い飴に潜らせただけの食べ物が、いくらか高級になったとして、そんなにもてはやされるなんて、というのが正直な感想だ。
数分後。
ショーケースに並んだりんご飴を前に、私は一転、うっとりと息を漏らしていた。
そこには赤い飴でコーティングされた定番以外にも、ココアや抹茶、ヨーグルトなど、様々なフレーバーのシーズニングがくまなく塗された物があって、お腹とお金に余裕があれば、全部食べ比べてみたいくらい美味しそうだった。
……ここにもう一人居れば、はんぶんこできたのに。
物悲しい気分を振り払って、私はシナモンシュガー味を注文する。
食べやすくカットして容器に入れてもらう事もできたが、りんご飴のフォルムを崩したくなくて、そのまま持って行く事にした。
店の外の飲食スペースに移り、ウッドテーブルに着く。早く食べたい気持ちを抑えながら、茶色いパウダーに包まれたりんご飴を写真に収める。
りんごとシナモン。定番の組み合わせの安心感。
お上品に食べる事は諦め、思い切って大きな曲面に歯を立てる。
ジャリリ……!
シナモンと飴が砕けて広がった後、瑞々しいりんごの果汁が口の中いっぱいに溢れ出す。
「……んん~~♡」
ああ、なんて、幸せな味なんだろう。
飴はサッと溶けて、りんごの甘酸っぱい果汁の旨味を邪魔せず、しっかりと引き立てている。
舌を僅かに刺激するシナモンの辛味と鼻に抜ける香りが、単体でも美味しいりんごを、至福のスイーツの領域まで引き上げていた。
なるほど。この幸福感と満足感は、食べてみないと判らない。
気がつけば、りんごは種と芯を残すだけになっていて、対照的に、私の胸とお腹はしっかりと満たされていた。
どれだけ辛い出来事があっても、甘い物を食べれば、また頑張ろうって気分になれる。力の源だ。
……だから、もう一個、買ってこようかな。
了
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