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第五章
Ⅰ
しおりを挟む「こんにちは。」
「…あぁ。」
龍海さんとの舞台鑑賞の日になった。
あの日、龍海さんが席を外している間の獅音さんとの会話を思い出す。
『獅音さん…』
『なぁに?』
『龍海さん、私と舞台鑑賞なんて嫌がってると思います。』
『どうして?』
『獅音さんが舞台の話出したとき、龍海さん困ってたじゃないですか…
獅音さんが言ったから仕方なく、』
『お迎えもそうだったけどさ、あいつは僕に言われたからやってるわけじゃないよ』
『それは、今なら分かりますよ。龍海さんが優しい人だからだって。』
『それに誰にでも優しいわけじゃない。いいから楽しんでおいでよ。
…あ、龍海、来たよ。そろそろ帰ろうか。』
最後まで獅音さんとの会話は噛み合わなかった。
あれから龍海さんから舞台のチラシの写真が送られてきた。
結構大きな劇場で、最近人気が出てきた舞台女優が主演らしい。開演は14時。
ファンタジーな世界観での恋愛もののようだ。
待ち合わせの場所と時間を決めましょう、と連絡すると、迎えに行くと返事が返ってきた。
食い下がったけど、結局押し切られた。
「迎えに来てくださってありがとうございます。」
「気にしなくていい。行こう。」
「はい。」
龍海さんはいつものスーツじゃなかった。
でもカジュアルフォーマルなコーディネートだった。
やっぱりちゃんとした舞台なんだ。
綺麗めなワンピース、持ってて良かった。
「龍海さんは舞台鑑賞、良く行くんですか?」
「知り合いが出た時だけだ。」
「今日出演されるのは龍海さんとも知り合いの方なんですか?」
「あぁ。」
「凄いですね…あれから調べたんです。
今回の舞台、ロングラン公演だし有名な役者さんばかり出るって」
「そうか。」
ハッとする。
何をしているんだ、私は。
龍海さんは私と舞台に行くのは乗り気じゃない。
初めての舞台鑑賞になんだか緊張して浮わついているのだろうか。
「…すみません。」
「なぜ謝る。」
「いえ、なんだか緊張で口数が多くなってしまって。
うるさかったですよね。ごめんなさい。」
「そんなことはない。」
龍海さんには気を遣わせてばかりだ。
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