本当に、愛してる

双子のたまご

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第六章

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舞台の話題は細々と続いていた。

「やっぱりハッピーエンドは観ていて安心します」

途中で勧めた酒のお陰か、緊張はほぐれたようだった。

「そうか。」

「あんなにまっすぐ想いを伝えられたら、素敵ですよね。」

そして、酒で気持ちが緩んでいたのは彼女だけではなかった。

「…ああいう男が好きなのか。」

そんなことを口走っていた。
俺も、あんなふうに思いを伝えたなら…

「えっ。そういうわけではないですが…」

…彼女は俺の質問を生真面目に受け取ったようだった。
そのまま何か考えている彼女に次の質問を投げ掛ける。
俺も少しだけ酔いが回ってきたらしい。
自分の言動を彼女がどう思うかより、彼女のことを知りたい気持ちが勝っていた。

「最後のシーン、納得できなかったか。」

「あ…」

「そんな顔をしていた。」

彼女は少し気まずそうな顔をして、口を開いた。

「…マリーがアレクをすんなりと受け入れたことが、凄いな、と。」

「恋人は家族を失った穴を埋められるものなのか、と。」

頭をガツンと殴られたような衝撃。
遠回しに、俺では彼女の生きる理由にはなれない、と言われているようだった。
何も言えずにいると、

「恋なんて、縁がなかったので。
恋人ができたら分かることなのかな。」

彼女はそう言って笑った。
次は心臓を掴まれたような衝撃。

「恋をしたことが、ない、のか?」

「お恥ずかしながら。」

…彼女は、まだ誰のものにもなったことがない。

「そう、なのか…」

のどが、渇く。
水分を求めグラスの中の液体を飲み干す。
…しまった、酒の方だった。

「龍海さんは恋をしたことはありますか。」

一人動揺していると、次は彼女に質問される。
周りの景色が少しぼんやりしてきた。
彼女の、酒で潤んだ瞳だけが店内の照明に反射してきらめいている。

「…ああ。」

素直に肯定する。

「俺も、初めて恋をしたのは、最近だ。」

君を、

「そうなんですか?お相手の方とは?」

君に、恋をしている。

「…まだ、何も。」

「そうなんですか…良い結果になるといいですね。」

「…あぁ。」

君が、好きなんだ。













「ご馳走さまでした。」

「あぁ。家まで送る。」

「…はい。」

今日は会計の時、いつもほど払う払わないの押し問答はなかった。
送ることも素直に受け入れられた。
彼女は隣で少しぼーっとしつつ歩き続けている。
そう、そのまま、赤信号を渡ろうとした。

「おい。」

「っあ。」

慌てて腕をつかむ。

「す、すみません。」

「気を付けろ。」

「はい…」

酒で少なからず気が大きくなっている俺は、もういつもの俺じゃないらしい。
彼女の驚きと恥じらいの混じった横顔をみて、この手を離すのが惜しくなった。

「っ、え。」

彼女の腕から手を下にすべらせ、彼女の手をつかむ。
手を繋ぐのは、彼女が変な男に絡まれたとき以来だ。

「えっと、龍海さん…」

「なんだ。」

彼女の戸惑いに気づかないふりをして返事をする。

「手…」

「また、赤信号を渡ろうとされたら困る」

もっともらしい理由をつける。

「う、でも…」

「まだ何かあるのか。」

食い下がる彼女。
次は何を言われるのか。
何を言われようと、今この手を離すつもりはないが。

「龍海さん、好きな人がいるのに、他の人と手を繋ぐとか…」

どこまでも彼女は真面目だった。

「それは気にしなくていい。」

俺の好きな人は、君だから。
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