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第四章
Ⅱ
しおりを挟む彼女の顔が真っ青になる。
しまった。
「…ごめんね、あの日、僕も家にいたの。
勝手に盗み聞きしてごめん。」
あの日、二人ともあんなに泣いていたのに。
話の切り出しかたを考えるべき話題だった。
「…君があの日のこと思い出して辛くなるなら、この話はしない。」
そう言うと、彼女ははっとして一度目を閉じた。
次に目を開いたときにはさっきの動揺など消えていた。
でも、視線は机に落としたまま
「…いえ、すみません。どうぞ。」
…違うのに。
君に無理をさせたかったんじゃないのに。
辛い想いをさせたかったんじゃないのに。
とてつもない後悔が襲う。
沈黙が続く。
奏ちゃんが続きを待っている。
…続けなければ。
「…君が、夢を諦めて泣いてて…違うと思った」
「…ちがう?」
本当は、あの時傷ついた君をみて、
僕が何か出来ないかと
できれば僕がその心の隙間に入り込んで埋めてしまいたいと
そう思ったことを伝えようと思っていたけれど。
たった今、君を傷つけた僕がそれをいうのは憚られた。
…いや、君に伝えるのが怖くなった。
「芝居中に君が泣いているのは可愛かったけど、あの時君が泣くのはなんというか、耐えられなかった。」
あぁ、何を言っているのか。
ふんわりとしたことしか言えない。
だってこれは嘘じゃないけど、真実の一部だけだから。
何を言いたいのか、きっと伝わらない。
「さっき、可愛いのは自分じゃなくて役の方なんじゃって言ってたけど
僕も初めはそう思ってたよ。
役の君が可愛いから普段の君も可愛いく見えるんだと思ってた。
でも可愛いなぁだけじゃなくて…
君に、悲しい思いをしてほしくないなぁ笑ってほしいなぁって、思ったの。」
「…そう、ですか」
駄目だ、これは。
彼女に僕の気持ちは届いてない。
「…それから、君がうちに来なくなって会えなくなった。」
彼女は僕を見ているけど、見ていない。
あの頃と同じ瞳。
「会えなくなって、凄く会いたくなった。
そう思って、やっぱり君が好きなんだと確信した。」
「奏ちゃんのことが好き。付き合って。」
僕は、何をしているんだろう。
昨日の龍海を見て…
自分の気持ちをちゃんと伝えて捕まえておかないとと思ったんだ。
龍海は翠ちゃんに肝心なことはなにも言わない。
だから今すれ違っている。
何も分かってもらえないまま、打つ手がなくなるのは困るから。
だから全て言わなくてはと思ったんだ。
でも、僕は結局、自分の気持ちを君に押し付けることしかしてない。
奏ちゃんのティラミスは気づけば溶けてしまっていた。
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