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第十章
Ⅵ
しおりを挟む「…獅音さん、よく泣くんですね。」
奏ちゃんの指が僕の目元にふれる。
そこで、自分が泣いていることに気づいた。
「…気が、抜けた。」
泣いているところを見られたくないとか、もうどうでもよくなっていた。
「…僕たち、別れないよね?」
「はい。」
「奏ちゃん、僕のこと好きなの?」
「…はい。」
「ぎゅってさせて」
「は、ぃ…」
奏ちゃん。好き。
奏ちゃんも僕のことが、好き。
もう、抱き締めてもいい?って訊かなくても、抱き締めさせてくれるんだ。
「奏ちゃん、今度から辛いことがあったら僕に言うんだよ。
頼ってくれることが一番嬉しい。
僕、琥珀にも嫉妬してたんだよ。」
「そう、だったんですか…」
「毎日電話したり、毎週末会うの、しんどくなかった?
あれは僕の我が儘だったね。ごめんね。」
「いえ…声を聞けたり顔を見れたりするのは嬉しいです。
電話に出れない日は、私も残念です。」
「そっかぁ…」
可愛い。可愛い。
ずっとずっと可愛かったけど、僕のことが好きな奏ちゃんは何倍も可愛い。
「…私は、獅音さんのこともっと知りたいです」
「…うん。
ごめんね、ずっとそう言ってくれてたのに…」
「獅音さんのこと聞いても、あんまりはっきり答えて貰えないなと思っていたんですけど…
はぐらかしてました?」
「そんなつもりじゃなかったんだけど…
まず、奏ちゃんが僕のことを知りたがってるなんて思いもしなかった。
僕のことなんてどうでもいいから君の話が聞きたかった。」
最後の一言に関しては、今も変わらないけれど。
「獅音さん」
「うん」
「これから沢山お話しましょう」
「…うん」
「何かしたいことあります?
獅音さんがしたいこと。」
彼女はまだ、僕になにかしたいと思ってくれている様子。
でも、
「ん~…
…ごめん、本当に思い付かない。
奏ちゃんが僕のことを好きになってくれたことが今一番幸せだから。」
「そうですか…」
しょんぼりする奏ちゃん、可愛い。
あ、チューしたいかも。
「したいこと、思い付いたら教えてくださいね。」
…まぁ、また今度でいいか。
「わかった。
…あとね、」
それよりも、伝えたいことがある。
「…ずっと、隣にいてね。」
「…はい。」
奏ちゃんが微笑む。
…スポットライトが、当たっている。
君しか見えない。
劇場の客席。
プラネタリウムのカップルシート。
奏ちゃんの家のソファー。
どこにいたっていい。
ただ、その隣はこれからもずっと僕にちょうだい。
夢に焦がれる綺麗な君の横顔を、隣でずっと見つめさせて。
隣の席の、あなた
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