あなたへ

深崎香菜

文字の大きさ
15 / 35

彼女の決意

しおりを挟む
その日の夜、僕は彼女の電話を鳴らした。
けれど数回しても出る様子がない。
なのであまり取りたくない行動だったが、
一通だけメールを送った。
飾った言葉を使わず、ただ僕の気持ちをそのまま…。
10000文字ギリギリに収まった僕の気持ちは(長すぎたな…)
少し震える僕の親指が彼女へと届けてくれた。
返信がくる様子もなく、僕はその日ゆっくりと目を閉じた…



次の日になっても彼女から返信がくる事はなかった。
何かあったんじゃ…と心配になったが
僕はメールの最後の行に書いたのだ。

―僕はあなたの返事を待ちますね。
 それまで僕はあなたを我慢します。
 だから、待ってます。返事。―

少し焦りすぎたのだろうか?
と、時間が経てば経つほど不安になっていく。
ご飯に手もつかず机の上においた携帯を一日中見つめていた。




~~~~♪♪



いつのまにか眠っていたみたいだ。
机の上の携帯が震えて音楽を鳴らしている。
少し心臓が高鳴ったのだがその音楽はアラーム音だ…。
僕はため息をつきながらアラームを止め、
顔を洗いに洗面台へと行った。
それからのろのろと用意を済ませ学校へ行く。
そうだ。
学校で会えるのだからこうなったら直接言おうか。うん。



しかし、彼女は教室にはいなかった。
保健室にも、いつもの中庭のベンチにも…。
先生の話だとしばらく休むと連絡が合ったらしい
僕は心配で具合が悪いのかなんかを聞きたかったが
自然と手が伸びる携帯を鞄の奥へとしまった。


彼女が休みだして三日目。
あんなに毎日一緒にいたのだから
僕らが付き合っていることを知らない人間はいない。
教授たちでさえ知っている仲なだけだ。
すれ違うたび、教授や先生に
「瀬戸は大丈夫なのか?もう三日だぞ。
 アイツ病欠やなんやでずっと落ちっぱなしだからな・・」
僕はただ、「あ、はい」としか答えられず…。
僕自身が知りたいくらいだ。
彼女がどうしているのか、大丈夫なのか…。

それはクラス内でも同じだった。
「明日香どうしたのかな?連絡取れなくて家にもいなくって」
その言葉で僕は彼女が実家にいるとわかった。
曖昧な返事を続けていると
一週間後には『二人は別れた?』という噂も耳にした。
この噂に対して腹を立てたのは中尾だった。

「お前、別れたんじゃないのにどうして否定しないんだ!」
「…してるよ。
 けど、最近思うんだよ。実際そうなのかなってな。
 お前と話した日にメールを送った。
 すっげー馬鹿げたことも書いたし、呆れられるかな?くらい。
 でもずっと返事こなくてさ、
 明日香さんの気持ちの整理がつくまで返事待つって。
 こっちからは何もしないで待つって約束して我慢してた。
 けど一昨日我慢できなくなってもう一通メール送った。」
「…こないのか。返事」
僕は静かに頷いた。
頷いたとき、ずっと堪えていた涙が零れそうになり慌てて上を向く。
涙は目の奥へと帰っていく。
「会いに…行かないのか」
「昨日実家に足運んだけど誰もいなかった。
 夜11時まで待ったかな…誰も」
「…そうか」

それでも僕は負けなかった。
今実際泣きそうだしかなり弱っているわけだが
やっぱり彼女が好きだ。
彼女は僕とどうなりたいのか知らないわけだが、
それでも実際会って話がしたい。
もう、彼女が解決するのを待つとか言わない。
聞き出す。
何で悩んでどうして泣いて…
僕にはそれくらいしか出来ないのだ。





彼女の家へ向う途中、一通のメールを受信した。
…彼女からだった。
僕は足早に歩きながらも携帯を覗く。
そして足がピタッと石のように固まる・・・・・・



―ごめんね、別れて下さい。
 これが私の決意…覚悟かな。―




冗談じゃない。



僕は走る。
返信なんてしないで走った。
何を言ってるんだ。
納得いかない。何がいけないんだ。
いや、僕に駄目なところがあるのなら言ってくれればいい。
別れるのなら理由が聞きたい。
とにかく僕は走った。
目に妬きつくたった一言。『別れ』という文字を忘れようと走った。



インターホンを押すと彼女の母が出た。
僕の顔がカメラに映ったのだろう。
ハッと息を呑む声が聞こえた。
「お久しぶりです。
 明日香さんと少し話がしたいのですがよろしいでしょうか。」
「りょ、亮介君…。
 明日香はね、今、家にいないのよ」
「アパートにもいませんでした。
 何処です?向います。」
「また…今度は駄目かしら?」
「すみません。無理です。」
そう告げるとプツンと音がした。
切られた…のか。

しかし間もなくして玄関のドアがあいた。
お母さんがゆっくりと外へ出てくる。
「亮介君、明日香はあなたに会いたくないの言っているの。」
「僕は会って話がしたいです。」
「…えっと。どうして・・かしら」
「彼女とずっと話をしてません。
 少し納得いかないメールが届いたので理由を聞きにきました。」
「…あの子とうとう言ったのね。」
「とうとうってなんですか」
お母さんは少し寂しそうな顔をした。
「私は、あなたなら大丈夫って言ったんだけど…。
 あの子がここに戻ってきてからずっと迷ってたの。
 決心…してしまったのね」
意味がわからなかった。
何の話なんだろう?


「亮介君、あの子ね、目が見えなくなったの…」
「え?」
「もっと早く処置すれば助かったの…
 けど、あの子最後まで何も言わなかったみたいで…。
 突然電話がかかってきてね、
 朝にならないって。様子もおかしいから行ってみたら、
 緑内障って言われたの。普通なら・・・・・・・」
妙に落ち着いて僕に事情を話すお母さんとは正反対に、
僕は頭の中がパニックになりそうだった。
「それ…で、彼女は別れようと、言ったんですか…」
「ええ…あなたに…あなたのこの先の幸せを奪うことになるって…」
僕にはわかる。
彼女は普段ホワホワしてる分、人一倍気を使っていたことも…
中尾の事だってそうだ。
彼女はきっともうわかっているだろう。
けれど知らないフリをすることで中尾と接した。
今回も…僕の幸せ…を・・・・

「今の僕にとって彼女が離れることのほうが
 この先の幸せを奪われたようなものなんです。」
「でもね。亮介君…」
「青臭い。わかってます。
 けれど、この気持ちを変えるつもりはありません。
 彼女は…何処ですか」
お母さんは初めて涙を流した。
落ち着いていたんじゃない…落ち着かせていた…



お母さんが落ち着くのを待ち、僕は教えてもらった病院へと急いだ。
彼女は数週間前からそこに入院していたみたいだった。
彼女が検査入院していたときに訪れたことがあるので
顔見知りの看護婦さんに聞くと彼女の病室を教えてくれた。
ゆっくりと震える手でノックする。
「はい…」
彼女の小さな声がする。
僕はドアを開けようとするのだが鍵が閉まっていた。
「…ここ、開けてくれませんか?」
「・・・・亮…ちゃん?」
「はい。話がしたいです。あんなメールで終わらせようとして…
 僕は納得がいきません。少し話せませんか」
彼女は返事をしなかった。
僕が同じ事を繰り返し聞くと涙声だった。
「駄目…駄目!」
「何が駄目なんですか。
 廊下で話をしていたら他の患者さんに迷惑でしょう」
「ごめん…帰って…
 ここに来たなら知ってるでしょ!聞いたんでしょ!」
「…知ってますし聞きました。それが何か」
「・・・・もう、駄目なの。
 私は亮ちゃんの幸せを奪うことはできない」
「奪うって何ですか」
「奪うじゃない…私の目は回復しないの…
 ずっと変だって思ってた。
 まわりがぼんやりしてたり変な点がたまに視界に入ったり
 色がおかしく見えたり…
 怖くなって、自宅に篭ってたら朝が来なくなったの…
 小さな光しか見えないの!!!」
彼女から改めて聞かされてまた身体が震えだす。
あの時、あの時彼女はすでに・・・・



―まだ霧はあるくなぁい?―

あの時彼女には本当に霧が見えていた。
霧ではなく…ぼやけた視界・・

―どうしてわざわざありがちな色を使ったりしたの?―

彼女はあの作品、オリジナルな色なんて使わなかった。
全て見たものを描いていた…
そして、僕の作品を見てどうせ見たまま描かないなら
ありがちな緑なんかを使わないで描けば?と言いたかった…




「このまま私といたって亮ちゃんは楽しくなんかならないし
 幸せにだってなれないんだよ…?
 これ以上進行が進まないようにはしてもらうことはできたけれど、
 この視力は二度と回復しないって言われた…
 ぼんやりと光が見えるくらいの世界…
 そんなんな私なのに亮ちゃんは一緒にいて幸せになれるの?!」
何も返せなかった。
確かにそうだろう。
このまま彼女といたとしても以前を取り戻すことは決してないだろう。
彼女には僕の表情も読めず、
暗い世界の中で声や音だけを頼りとして生きていく。
以前のように週末は一緒に…なんてことももう無理だろう。
そう、以前はなくなってしまうわけだ…。

それでも・・・・・
それでも・・・・



「先…はわかりません。
 明日香さんの言う通りになるかもしれない。
 けど、…子供みたいなこと言いますが…。
 明日香さんがいなかったこの数日間。
 僕はすごく絶えられなかった…
 あなたにメールを送ったあと、決心したのに我慢できなかった。
 すごく、不安で怖くて仕方なかった…。
 あなたがあの夜言ったように
 僕も怖い…あなたを失ってしまうんじゃないかって怖くて仕方がなかった。
 あなたがあの夜言った僕を失うって言うのは
 僕が見えなくなるという意味ですか?
 それとも別れの日がやってくるとでも?
 僕は無理です。
 以前のような幸せが予想できないのなら
 新しい幸せを探せばいい。
 僕はあなたから離れる気、ありません。
 僕にとってあなたが離れることが幸せを奪われることです。」

僕が言うと彼女は震えながら笑った。
「本当…ワガママで青臭い子供みたいだね…。」
「ですよね…」
「でも・・そんな言葉がすごく嬉しいなんて…私変…」
「…変なのは前からですよ」
扉は未だに開かない。
けれど僕にはわかった。
彼女はこの扉の丁度向こう側にいるということ。
こじ開けたいものだが彼女が開けてくれるのを待つ。

「・・・ック・・・ぅッ・・・ひっく・・・」
扉の向こうから漏れる彼女の泣き声。
僕はなんだか申し訳ないような気分になりつつゆっくりと扉にもたれかかる。

・・・もたれ・・・・かかる・・・・





「・・まぁ、映画のような、ドラマのようなで
 素敵でいいのですが・・・
 他の患者さんの迷惑になるので喧嘩・・・はお静かにお願いします。」
名前も知らない医者が僕を見て言う。
その周りには僕を批判の目やなんだか妙に暖かい眼差しで・・・・


「あああああっすかさん!
 中、とととりあえず中に入れてください!!
 明日香さん!?あすかぁぁ?!!!!」
彼女は何事かと慌てて扉を開けてくれた。
お。こういう作戦があったのかーなんて調子のいい事を考えつつ
彼女の顔が見えるか見えないかのタイミングで僕は中へと滑り込む。


お互い顔を見ないで気まずい空気が流れる。
そして彼女が沈黙を破ってくれる。
「あ・・・の、ベッドに戻っていい?」
「あ、はい。」
彼女は床に膝をつけて進む。
右手は下に、左手は空中に・・・ぶつからないためだろうか。
その姿を見て僕は急いで駆け寄り彼女を立たせた。
「え?」
「さ、そのまま歩いてください」
彼女は何も言わず僕に体を預けてくれる。
そう、これでいいんだ。
こうやって助け合えばいい。

彼女をベッドに寝かせると、また涙を流し始めた。
「・・・どうしたんですか?」
僕はそういうと近くにあったタオルで涙を拭いてあげる。
「本当・・・に、いいの?私、なんかで・・・
 もう、まともに、歩けなく・・・って、
 今リハビリしてるけど、うまくいかなくて・・・
 そんな、私でも・・・・・・・」
それ以上彼女が何も言えなくなるように僕は彼女の口を塞ぐ。
彼女はもう何も言わなくなり僕に手をギュっと回してくれた。


甘い考えかもしれない。
けれど今は僕が少しでも支えになれる。
そう信じてはいけないだろうか・・・? 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

#秒恋9 初めてのキスは、甘い別れと、確かな希望

ReN
恋愛
春休みが明け、それぞれに、新しい生活に足を踏み入れた悠里と剛士。 学校に向かう悠里の目の前に、1つ年下の幼なじみ アキラが現れる。 小学校時代に引っ越した彼だったが、高校受験をし、近隣の北高校に入学したのだ。 戻ってきたアキラの目的はもちろん、悠里と再会することだった。 悠里とアキラが再会し、仲良く話している とき、運悪く、剛士と拓真が鉢合わせ。 「俺には関係ない」 緊張感漂う空気の中、剛士の言い放った冷たい言葉。 絶望感に包まれる悠里に対し、拓真は剛士に激怒。 拗れていく友情をよそに、アキラは剛士をライバルと認識し、暴走していく―― 悠里から離れていく、剛士の本心は? アキラから猛烈なアピールを受ける悠里は、何を思う? いまは、傍にいられない。 でも本当は、気持ちは、変わらない。 いつか――迎えに来てくれる? 約束は、お互いを縛りつけてしまうから、口にはできない。 それでも、好きでいたい。 いつか、を信じて。

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...