あなたへ

深崎香菜

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クリスマスイヴ

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クリスマスイヴ。
今夜は子供たちがわくわくしながら暖かい布団に入り込み、
翌朝のプレゼントを期待しながら眠る夜。
中には両親の言うことを聞かないで
サンタクロースはまだかな…まだかな…と
ひっそりと息を潜めて待つのだが気づけば朝だったり…。
 
僕は今夜本当は彼女と過ごすつもりだった。
ご馳走(?)は明日に食べるが
一緒にいるだけでも…と思っていた。
 
「あ。今日は終わるの早かったんだね」
「ん…まあ、店長に
 今日は勤務時間延ばせないって言いましたからね」
「ふふ…。
 でも、今日も一緒にいてくれるんだね。
 すっごく嬉しい。ありがとう」
彼女がニッコリと笑う。
視線は僕より少しズレた右方向…。
胸がチクリと痛むがこれにも慣れないといけない。
自分に言い聞かせる。
 
「…あ…でもね、亮ちゃん…私…
 後30分もしたらリハ…検査があるの…」
「ん…
 時間かかりますか?」
「んー…わからない…」
「じゃあ、それまで一緒にいましょう」
僕がそう言って彼女の肩に毛布をかけなおすと
いつかのように彼女は僕の袖を掴んだ。
「…?」
「え…っとね、
 なんか、聞いたんだけど…
 面会時間は9時までだけど…
 付き添いとしてなら泊まることも出来る…みたいよ…」
「え…えっと…」
僕も知らなかったわけではない。
祖母が入院したときに母が付き添いで泊まっていた。
だから知っていたわけだが…
やはり無理だと思っていたのだ。
「でも…ほら、ご両親とか…」
「あ、明日ね!お母さんに言ってあるの…
 亮ちゃんが来てくれるって…だから…大丈夫」
…何が大丈夫?!
そう思っていたのだが袖をギュっと掴んでいる彼女を見ていると迷いが消える。
「…そしたら…明日は…その…」
「本当!?」
「え、はい…いいでしょうか」
「モチロンですっ」
彼女が嬉しそうに笑ってくれた。
思わず僕も笑顔になる。
 
 
彼女の検査(彼女がそう呼ぶのなら僕もそう呼ぼう。)の時間になり
僕らは別れを言う。
「じゃあ、先生に私が話しておくねッ」
「お願いします」
最後におやすみと言い合って彼女を見送る。
時計を見るとまだ午後七時。
バスに乗って町内のクリスマス会が行われている場所へと向う。
 
 
僕と目が合うなり母はとても驚いた顔をした。
「フ…フラレタノ?!」
苦笑いし、
「お楽しみは明日…かな」
と応えると安心した顔をした。
失礼な母親だな…全く。
 
「あ、りょうすけくんだぁー」
「りょうくんこんばんわー!」
「おにいちゃんきょうはおひげつけないの?」
子供たちが僕に寄ってくる。
毎年僕がサンタの格好をしてプレゼントを配っていたためだろう。
「んー…今年はね…」
「まあああああ!
 亮介君、来てくれたのねぇ!
 さ、ジュース飲む?」
今度はお母様方が押し寄せてくる。
突然の若者登場で…だろうか。
「おばさんね、今年は彼女が出来て一緒に過ごすって
 あなたのお母さんに聞いた時嫉妬しちゃった☆」
・・・・・。
「あらー
 亮君は私のよぉ?
 ねぇー^^」
・・・・母さん助けて。
笑ってみてないで助けてくれッッ
 
 
それから数十分お母様方の奇襲に耐えた僕は
ヨロヨロと母の元へと辿り着く。
「お疲れさま」
「母さん…見捨てたな?!」
「あらなにそれー。
 お母さん嬉しいわー。
 亮介が人気者なんだものぉー」
そう言って笑いながら目の前の皿に乗っているから揚げを掴んで僕に手渡す。
僕の好物なのだ…。
「あれ、子供たちはチューリップの唐揚げのが喜ぶんじゃない?」
「ん?
 なんとなくね、こっちかなぁーって思ったのよ」
…母親の勘というやつなのだろうか。
僕がここに来るとわかっていて、この普通のモモの唐揚げ…?
母は鼻歌を歌いながら子供たちがするゲームを見ていた。
僕はそれ以上何も言わず、
一緒にその光景を眺めていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
片づけをし、帰り道を二人で歩いた。
「ケーキかって帰ろうか!」
「え。父さんがまた持って帰ってきてくれそうじゃない?」
「んー…今年はそのまま帰れないかもってさー」
「浮気かもね」
「あら」
そう言って笑い合う。
「父さんは母さんしか眼中にないんだっけ?」
「あたりまえじゃなーい」
そう言って笑いながら歩いていると後ろから声が聞こえた。
「・・・・い!」
振り返ると父がこっちへ向って走ってくる。
「お、追いついたー。」
「あなた飲み会は?」
「ん。抜けてきたよ。
 いいケーキが出来てね、これはもって帰ろうと思ってさ。
 なんだ、亮介もいたのか。」
「え、見えてなかったの!?」
「ん、恵美ちゃんが歩いてるなとは思ったけど。」
父は未だに母を名前で呼ぶ。
二人の時は母も父の名で呼んでいるが…
万年新婚夫婦とはこの二人のことだろうか。
「酷い父親。」
「まあ、いいじゃないかー!
 帰って食べよう!な?」
「うん。そうしましょ」
父は母の手を握る。
少し照れながらでも母はそれを喜んでいるようだった。
一緒に歩いている僕としては恥ずかしい光景だったが
今日はクリスマスイヴだ。
…まあいっか。
 
 
 
 
 
久しぶりに過ごす
家族三人のクリスマスイヴ。
幼い頃を思い出しながら父が自身満々にお披露目したケーキを頬張る。
もしかしたら明日起きたらプレゼントがあるかも…
なんて思わず笑ってしまいそうなことでさえ
考えてしまうような夜だった…
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