家出日記

思春期少年A

文字の大きさ
1 / 1

家出日記

しおりを挟む
憂鬱な日。学生の僕の中ではテスト返却。
そんなもの憂鬱でもなんでもないと思う人もいるだろう。でも、僕には違った。











家を飛び出した、、











事の発端は勿論テストだ。学年最後のテストだから良い成績を残すと豪語した僕。結果は惨敗だった。今までとった事のない点数だった。自分ではさぼったつもりは微塵もない。肩を落とし、落胆した。ひどく重い足取りで家に帰った。親が帰るまでには時間がある。言い訳を考えることに必死になっていた。側から見れば、さぞかし哀れだっただろう。だが、そんな事僕には関係ない。何が優先されるべきか、頭では分かっている。
しかし、学生が持つ「俺はやったんだぜ~」的な根拠なんてどこにもないゴミみたいなプライドが邪魔をする。時はあっという間に流れ、ドアが開いた。親が帰ってきた。まずは、母だ。
 帰ってくるなり、テストの出来が悪いことを僕の顔を遠目に見て察したようだ。
僕は澄ました顔でかっこつけて言う。
「テストやばいわ。」
これを聞いた母は、「ふーん。」とギリギリ聞き取れるぐらいの声量で呟く。完全に呆気に取られた。予想外だ。計画ではここで食いつかせて言い訳をする予定だった。ここで気付いた。母は自分よりも何枚も上手であることに。その後の会話は一切なかった。
 
湯船に浸かり次の作戦を考えた。そう、父が帰ってくるのだ。何よりも厄介な相手だ。
               「よし、これでいこう。」
そう言って風呂を上がった。

しばらくして、父が帰ってきた。口を開いて喋ろうとした瞬間、耳に入ってきたものがあった。父の声だ。
「テスト悪かったんだな。」これまた予想外である。自分の思考回路をフル回転させて考えた。なぜ知っているんだ。
母だ、母の存在を忘れていた。ボスをどう倒すかを考えているばかりに、無防備になった背中から、ドンッと攻撃を喰らってしまった。こうなったら、ライオンに捕まったシマウマも同然。身動きを取ることは不可能だ。夕食を終えた父に呼び出されている。母は、台所で洗い物をしている。ぼくは説教を受けた。
テストよりも態度のことを言われた。
反論の隙を伺いながら、黙って耐えた。
怒りの波が治り、これをチャンスと見て、すかさず口を開いた。
「まぁ、今回は仕方ない。難しかったもん。」
この一言がまずかった。
父は見ていて新聞から目を離した、こちらを見た。そして、大きな大きな波が僕を飲み込んだ。そこからは言わなくても分かるだろう。僕が負けた。折れた、最初から勝ち目なんてなかったんだ。
「1人じゃ何も出来ないんだから威張るな。」この父が放った的の真ん中を射た
ような正確な言葉に、僕のプライドは酷く傷ついた。と、同時にやってやるよと、どこか強気の自分がいる。出来ない事は分かっている。上着を着て、財布とスマホをカバンに入れ、家を出た。
 今日は家に帰らないと心に決めていたが、歩いている内にあることに気付いた。何をしていいかわからない。そもそも、家出なんて不慣れである。やり方のマニュアルなんてどこにもない。突きつけられた現実の中の自分はあまりにもちっぽけで惨めだった。一歩を踏み出すたびにどんどんそれが分かった来る。着ている服も、持ってるスマホも、財布も、その中のお金も自力で得たものなんて、何もない、あるのは劣等感だけだった。冬の終わりかけの寒さが追い打ちをかける。そう、結局何も出来ない。裸になって家を飛び出せなかった時点で負けは確定していた。
1日に2度負けた。勝てないことを悟った日。空に煌めく星は何を意味するのかを理解するには僕には早すぎた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...