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第一一話 米太平洋艦隊撃滅作戦 肆
しおりを挟む米艦隊の射程距離に入るまで10分程の時間が掛かった。
しかし、米艦隊は既に満身創痍。
前衛の駆逐艦や巡洋艦はその殆どが撃沈、又は大破により戦闘継続不可能という状態であった。
残された戦力は駆逐艦8隻と巡洋艦2隻。そして、山本の意図通り攻撃に晒されなかった戦艦5隻。
それでも、米艦隊は果敢に反撃した。
戦艦5隻は日本艦隊を有効射程に捉えるや否や砲撃を開始。
結果駆逐艦3隻と重巡1隻が被弾。
しかし撃沈には至らず、山本は直ぐに長門と陸奥の戦艦2隻を残して他の艦を退避させた。
本来であれば有り得ないことであったが、ここに日米両軍の主力戦艦対決が実現したのである。
数であれば明らかに米艦隊が有利。
しかし米戦艦は真珠湾急襲で爆撃機の猛攻を受け、更に先刻は黒鉄部隊の攻撃を受け損傷していた。
それに対し長門と陸奥は未だ被害無し。
どちらが勝ってもおかしくない状況であった。
…否、たとえここで米艦隊が勝利してもそこには山本が後方に待機させた艦隊がいる。
戦艦同士の砲撃戦をした後で、そこを突破するだけの戦力が残されているとは考え難い。
この戦艦のみの攻防は、一種の情けのようなものでもあった。
状況は単縦陣と単縦陣の反航戦。
艦隊戦においては最もスタンダードな形であろう。
最初に命中させたのは長門であった。
長門の一斉射によって撃ち出された砲弾は最高尾のペンシルヴェニアを襲った。
8発のうち3発が後部に命中。1発が中央部に命中した。
「3番砲塔大破!」
「後部甲板火災発生!」
「エンジン損傷!出力低下!!」
負けじと、メリーランドとカリフォルニアが反撃する。
砲弾は2発が長門の艦橋付近に。3発がそれぞれ陸奥の前部、中央部、後部に命中した。
しかし。
「な…んだと……なんで、なんで"無傷なんだ"!?」
確かに命中したはずだった。
徹甲榴弾であったから、その爆発も確認した。
しかし長門と陸奥には破孔どころか、傷跡一つ存在しなかったのだ。
ジ式防壁。長門と陸奥もまた、これを搭載していたのである。
しかしこれは黒鉄部隊に搭載されていたものとは桁違いの出力を誇り、戦艦の砲撃をも防ぐことが出来たのだ。
「艦橋付近に2発被弾。防壁稼働率は10%です」
「ふむ…20発耐えられるかどうかといったところか」
「それでも十分過ぎるくらいです。16inch砲の20発は戦艦一隻沈めるには十分な数ですから」
「…そうだな。では、防壁が消えぬうちに敵の力を更に削いでやろう」
再び、長門と陸奥の一斉射。計16門の砲はカリフォルニアを捉える。
ドドオオオオォンッ!!!!
見事な連動射撃であった。
2隻の放った砲撃は悉くカリフォルニアの上部構造を貫き、破壊する。
更に手前の海面に着弾した砲弾の被帽が海中で外れ、砲弾自体はその進行方向を水平にする。
即ちーーー
「喫水下に被弾!!第2、第3ブロックに浸水!!」
水面下に空いた破孔から流れ込む海水はあっという間に艦内を水浸しにする。
「防水扉を閉めろ!」
「だ、駄目です…水圧が強く人力では閉められません…!」
「開閉装置はどうした!?」
「メインシステムの損傷によって作動しません!」
「くそ…!」
右舷の主要ブロックに浸水。また先の砲撃によって射撃指揮所を破壊され、戦艦カリフォルニアは沈黙。
せめて他四隻の邪魔はすまいと、左転舵し戦列を離脱した。
続いて、テネシー、ウェストバージニア、ペンシルヴェニアの3隻が一斉射を以て陸奥を攻撃した。
計32門の一斉射である。
命中弾はその内の10発。しかし陸奥の防壁はその衝撃を相殺する。
そして、再び長門と陸奥の斉射。
キンメル艦隊は長門と陸奥に大きなダメージを与えられぬまま、確実に戦力を削られていった。
日米戦艦対決の火蓋が切られてから約1時間。
カリフォルニアは浸水を止められず、右舷から転覆し沈没。
ペンシルヴェニアは機関停止により戦闘不能。
テネシー、ウェストバージニアは火薬庫爆発により大破、炎上中。
メリーランドは二番砲塔と三番砲塔を破壊され戦闘継続困難となってしまった。
それに対し、陸奥は三番砲塔が大破したものの損害は軽微。
長門に至っては後部甲板と一部副砲が破損した以外はほとんど無傷という状況。
ここに、勝負は決したのであった。
「…提督」
「……なんだね、参謀長官」
「大変申し上げ難いのですが……現状の戦力では敵包囲網の突破は不可能…かと」
「…そうか」
最早キンメルの闘志も尽きかけていた。
無謀とは分かっていながらこのまま突撃し、海軍魂に殉ずるのか。
それとも、ここで白旗を揚げるのか。
「わたしは…わたしはどうするべきなんだ…」
それは、部下達の命と名誉…そのどちらを取るかの選択でもあった。
降伏し捕虜になるのは屈辱だ。だが、戦い続けるという判断をすれば部下に「死ね」と命令するのと同じ……
とても選べるようなものではなかった。
しかし、キンメルは決断した。
「…総員に退艦命令を出せ」
「提督…?それは、どういう…」
「この艦を自沈させる。テネシー、ウェストバージニア、ペンシルヴェニアにも自沈命令を出したまえ」
キンメルの決断。それは艦を自沈させ、そのうえで降伏するということだった。
「敵艦隊、沈黙しました」
「…ふむ。そろそろ頃合いか」
「……"鹵獲作戦"、開始しますか?」
「ああ。上空待機中の艦載機隊に作戦開始命令を出せ」
「はっ!」
「て、提督!!」
「何だね?」
「敵機直上!急降下して来ます!!」
「何だと!?」
キンメルは慌ててウィングに出、空を見上げた。
確かに、10機程の航空機が急降下してきているのが目視でも確認できる。
「な、何をするつもりだ…?」
急降下する機体は数機の九九式艦上爆撃機と、一機の新開発された双発の重艦上爆撃機『夕星』である。
重量が九九式艦爆の約1.5倍重いこの機体は特殊な装甲甲板と射出機を備えた一部の大型空母でしか運用できないものの、単発のレシプロ爆撃機では搭載できない大型爆弾の搭載も可能とした。
この作戦のために、翔鶴と瑞鶴は装甲甲板と油圧式射出機を装備したのである。
『安全装置解除。爆弾切り離しよォーい……今ッ!』
パイロットがレバーを引くのと同時に、機体下部に取り付けられた爆弾が切り離される。
同タイミングで九九式艦爆も爆弾を切り離す。
爆弾はまるで吸い込まれるようにメリーランドに向かって落ち、夕星の爆弾は艦橋付近に。
九九式艦爆の爆弾は前部甲板と後部甲板に三発ずつ命中した。
しかし、
「爆発……しない…?」
大型爆弾が艦橋付近に命中したため、キンメルはその衝撃に備えて構えた。
だがその一発どころか、命中した全ての爆弾が爆発しなかったのである。
「不発…か?」
決して有り得ないことではない。
しかし、そうではなかった。
ヴウゥンッ
突如、爆発音ではない異様な衝撃音が響いた。
それに呼応するように、同様の音が複数響いた。
「全システムダウン!!」
「何だと!?」
突如として艦内の全ての電子機器が故障し、メリーランドのシステム全てが停止してしまったのである。
無線が使えないため各部署や他の艦艇と連絡を取ることも出来ず、また電子ロックされている部分は入ることも出ることも出来なくなってしまった。
「な、なんということだ…これでは、自沈すらできないではないか……」
キンメルはいよいよ大きな溜め息を吐き、座り込んでしまった。
「提督…」
「……これ以上はもう、どうにもならん。檣頭に降伏旗を掲げよ」
「降伏旗の掲揚を確認。発光信号です」
「何と言っている?」
「『我ニ降伏ノ準備アリ』です」
「…よし。メリーランドに接舷せよ。誰か交渉用の無線機を盛っていってやれ」
「はっ!!」
こうして、キンメル艦隊の降伏によって海戦は終幕を迎えた。
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