実は魔王だった俺が、一般人として勇者パーティに入ったら、いつの間にか熱狂的な推しになってしまい、正体がバレないか毎日ヒヤヒヤする件

夜澄 文

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【第4話】合理性の崩壊と、推しのための献身

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1. 推し活の指針と魔王の分析
魔王ヴァルザックことザックは、勇者パーティの拠点である小さな一軒家の屋根裏で、ランプの微かな光の下、メモ帳を開いていた。表紙には、殴り書きで**『勇者ライナスとその仲間たち:推し活計画』**とある。
(ゾルディアが再び刺客を送り込んでくるのは時間の問題だ。バルゼスの魔力の残滓から察するに、次回はより強力な、四天王直属の者になるだろう。ライナスたちの成長速度では、間に合わない)
ザックは、もはや「観測者」ではない。彼は、この物語の展開を誰にも壊させない**「裏の守護者」**だ。彼の推し活の指針は、魔王としての膨大な知識と理論に基づいている。

「よし。まずは、最も警戒心の強いシルフィからだ。彼女の合理性を利用すれば、拒否されるリスクは最小限になる」
ザックは、魔王としての精密な思考を、推し活の計画へと転用し始めた。この献身は、全てがライナスという「希望」の光を守るためにある。
2. シルフィへの献身(合理的推し活)
翌朝。シルフィは、自分の部屋で、今日も魔導書を前に唸っていた。魔力の消費効率は、彼女の魔法における最大の課題だった。
「どうして私の火魔法は、ライナスの光魔法に比べて、これほど魔力効率が悪いのかしら……理論上は問題ないはずなのに」
ノックの音と共に、ザックが顔を出す。
「シルフィさん、その魔力の循環について、少々お伺いしてもよろしいでしょうか」
シルフィは即座に警戒した。「何よ。見習いのあなたが、高位魔法の理論に口を出すつもり?」
「いえ。ただ、ふと思い出した知識がありまして」ザックは、嘘を混ぜて冷静に説いた。
「シルフィさん。貴女の魔力は強力ですが、詠唱時に無意識に**『魔力の漏洩回路』を作ってしまっています。これを解消するには、貴女が今使っている基礎詠唱術に、『第三種逆循環理論』**の概念を取り入れる必要があります」
『第三種逆循環理論』。それは、魔界の魔法使いの間では基礎とされる理論だが、人間界の魔導書には記載されていない、魔王城の高度な魔力循環理論の基礎の基礎だ。
ザックは、それを極限まで単純化し、「ただの集中法の改善」としてシルフィに教えた。
「これを、呪文の最後に組み込むだけで、詠唱時間が短縮し、消費魔力が理論値に近づくはずです」
シルフィは、最初こそザックを軽蔑した目で見つめたが、その場で半信半疑で試してみた。
――(驚異的な魔力効率の改善)――
「な……! なにこれ? 詠唱時間が半分以下に!? 魔力の漏洩が、計算通りに止まっているわ!」
シルフィの顔から、一瞬にして冷徹な表情が消え、純粋な驚愕が浮かび上がった。彼女の合理的判断は、ザックの成果を認めざるを得ない。
「ザック、これはいったい、どこで学んだの? この技術は、人間界では最上位の魔法学院でも教えていないはずよ!」
「あ、ああ……それは、私が幼い頃、行商人から買った古びた魔導書に書かれていた、ガラクタのような知識です。まさか、役に立つとは」
(行商人から買ったガラクタ……! これは最高の言い訳だ。まさか魔王城の基礎理論だとは、誰も思うまい)
ザックは、魔王の知識で彼女の欠点を補完することに成功した。シルフィは、警戒心を捨てたわけではないが、ザックに対し**「解析不能な、しかし有益な情報源」**として、新たな認識を持つに至った。
3. ティアへの献身(精神的推し活)
次に、ザックは聖女ティアの自己肯定感の低さに着目した。
ティアは、治癒魔法で誰かの命を救えるにも関わらず、料理が苦手な自分を心底責めていた。
「ザックさん……今日も、ライナスが焦げた朝食を美味しいって言ってくれたけど、本当は私が作った料理で誰かが死ぬんじゃないかって、毎日怖いんです」
ザックは、ティアの隣で、彼女の不器用な料理練習に付き合った。
「聖女様。料理の不器用さは、あなたの心の優しさの裏返しですよ」
「え……?」
「治癒魔法とは、自らの魔力と精神力を削って、他者の痛みを和らげる、究極の献身です。貴女の心は、常に他者に向いており、自分のこと、自分の五感を通じた『味覚』や『効率』といったものに、意識が向かないのです」
それは、魔王としての冷徹な分析だったが、ティアにとっては、初めて自分の「欠点」を「優しさ」と結びつけて肯定された瞬間だった。
「私の不器用さが……優しさ……?」
「その通りです。だからこそ、料理の練習は、自分を大切にすることだと思ってください。ライナスさんを喜ばせるのも、貴女自身が食べるものを楽しむのも、全ては貴女自身のためです。貴女が心身ともに健康でなければ、ライナスさんを守ることはできません」
【ザックの心境】: 「完璧な聖女ではない、この『脆さ』こそが、推せる要素だ。俺の役割は、彼女の自己肯定感を高め、過剰な献身(自己消耗)を抑制すること。推しには、長く、健やかに活躍してもらわねばならない」
ティアは、ザックの言葉を聞き、涙ぐんだ。彼女は、ザックに「料理ができない自分も受け入れられた」と感謝し、ザックへの信頼度が、ライナスに匹敵するほど跳ね上がった。この瞬間、ザックは「推しを褒めて伸ばす喜び」という、魔王時代にはあり得ない感情を初めて獲得した。
4. ライナスへの献身(物理的推し活)
そして、勇者ライナス。彼の「泥臭い努力」を、ザックは最も尊いものだと感じていた。
ザックは、ライナスの古い剣に細工を施した。それは、魔王城の技術で鍛造した**「超軽量・高強度な秘密の補助具」**を、剣の柄と刃の接合部に極秘で仕込むというものだ。
この補助具は、ライナスのスイングの遠心力を、剣の強度を保ちつつ、微細に増幅させる。外見からは全く分からない。
「ライナスさん。その剣、古くなっていますね。少し私が調整しておきましょう」
ザックが剣をライナスに返すと、ライナスはすぐに素振りをした。
「おお!なんだか、剣が軽くなったのに、切れ味が上がった気がするぞ!」
「気のせいですよ。ライナスさんの努力が、ようやく剣に馴染んできたのでしょう」
ライナスの剣技は、その日から急激に向上した。彼の泥臭い努力が、ザックの補助具によって、最大限に効率化されたのだ。
「ザック! おかげで才能が開花した! 俺、もっと強くなれる!」
ライナスは大喜びする。ザックは、推しの成長を間近で見ることの喜び、**「プロデューサー」**としての快感に打ち震えた。
【ザックの心境】: 「そうだ。推しは、努力するほどに輝くのだ。この世界を征服するよりも、この輝きを見る方が、遥かに価値がある。俺は、この物語の展開を、最高に盛り上げる『黒衣の裏方』となる!」
5. シルフィの本格的な疑念と危機一髪
ザックの献身的な推し活は、勇者パーティの能力を短期間で飛躍的に向上させた。しかし、それは同時に、最大の監視役であるシルフィの警戒心を最高潮に高めた。
(おかしい。ザックが来てから、ライナスの剣技は急激に洗練され、ティアの自己肯定感は高まり、そして私の魔力効率は、師匠の知識を遥かに超えている。この『偶然』は、合理的にありえない)
シルフィは、ザックの「行商人から買った古びた魔導書」という言い訳を信じていなかった。彼女は、ザックの全てが「合理的ではないほど完璧」であることに気づき始める。
ある日の午後。ザックが薬草採取で家を空けた隙を狙い、シルフィはザックの部屋(屋根裏)に無許可で侵入した。
シルフィの目的は、ザックの「推し活メモ帳」だ。
ザックは、魔王の力で、事前にシルフィの微細な魔力波動の変化(侵入の企図)を察知していた。
(まずい! シルフィめ、やはり俺を疑っている! メモ帳を隠さなければ!)
ザックは、超高速で屋根裏に戻ると、メモ帳を瞬時に、**「異次元収納(アビス・ストレージ)」**に隠蔽した。シルフィが扉を開け、警戒しながら部屋に入ったとき、ザックは既にそこで座禅を組んでいた。
「あ、ザック。丁度良かった。あなたに聞きたいことがあったのよ」
「どうぞ、シルフィさん。部屋の整理でもしていただけるのですか?」ザックは、完璧な平静を装う。
シルフィは、部屋の中を鋭い目で見渡したが、何も見つからない。彼女は、自分の勘違いだったのかと、初めて動揺した。しかし、彼女の直感は、ザックが何かを隠していると訴え続けていた。
6. 新たなヒヤヒヤの種
その日の午後。ギルドの依頼で、パーティは、最近出現した**中級魔族(バルゼスの手下)**の討伐に向かう。
中級魔族は、ライナスたちを偵察するために送られた、知能と戦闘力を兼ね備えた魔族だった。
「勇者どもめ、我らがゾルディア様の秩序を乱すな!」
戦闘が始まった。ライナスは、ザックの補助具によって強化された剣技で果敢に挑む。シルフィは、ザックの簡易補助によって効率化された火魔法を放った。
――(想定外の効率)――
シルフィの魔法は、バルゼスたちが想定していた威力を遥かに超えていた。魔王城の高度な理論の応用は、シルフィの魔力と合わさることで、中級魔族を一瞬で燃やし尽くすほどの破壊力を発揮したのだ。
「ぐっ……! まさか、この人間が、これほどの魔力を……! これはヴァルザック様の理論……!」
魔族は断末魔に、ザックの正体を示す決定的なヒントを残して消滅した。
その言葉は、ライナスには届かなかった。しかし、シルフィには、はっきりと聞こえていた。
7. 第4話の引き:合理性の終焉
中級魔族の断末魔を聞いたシルフィは、顔から血の気が引いた。
(ヴァルザック様の理論……? 魔王の、理論? 行商人のガラクタではない!)
シルフィは、全ての辻褄が合わないことに気づいた。異常な技術、完璧なサポート、そして、今聞いた魔族の断末魔。
彼女は、静かにザックに向き直った。その目は、もはや警戒心ではなく、真実を求める冷たい光を宿している。
「ザック」
「はい、シルフィさん」
「あの魔族が言った**『ヴァルザック様の理論』**とは、一体何を意味するの?」
シルフィは一歩踏み出し、ザックとの距離を詰めた。
「そして、あなたが私たちにする過剰なまでの献身は、何のためにあるの?」
ザックは、完璧な笑顔を維持したまま答える。「ただの仲間です」
しかし、シルフィは納得しなかった。彼女は、ザックの瞳の奥に、かつてないほどの**緊張と、そして何かの『決意』**が宿っているのを見て取った。
「貴方、一体何者なの?」
合理性の魔法使いが、解析不能な特異点に初めて到達した瞬間。ザックは、最大の危機に立たされたまま、物語は次へと続く。
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