『世界は救えないと知っている勇者が、それでも剣を取る理由』

夜澄 文

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第三十九話 壊れ始める音

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 青年の声が、
 掠れていた。

 広場での裁定が、
 三件目に入った頃だ。

「……次は」

 言葉が、
 途切れる。

 誰も、
 助けない。

 助ける理由が、
 ないからだ。

 彼が、
 決める存在に
 なっている。

 争いは、
 増えていた。

 彼を
 呼べば、
 解決する。

 だから、
 考えなくなる。

 その夜、
 宿の裏で
 青年が
 蹲っていた。

「眠れない?」

 声をかける。

「……期待される夢を
 見るんです」

「起きると、
 胸が
 苦しい」

 原因は、
 単純だ。

 判断が、
 集まりすぎている。

「俺は、
 助言はできる」

「でも、
 決めない」

 青年は、
 顔を上げる。

「……それでも
 いいんですか」

「ああ」

「それなら、
 壊れない」

 翌日。

 俺は、
 広場に
 張り紙をした。

 裁定依頼の
 条件。

 一、
 当事者同士が
 最低二案を
 持ち寄ること。

 二、
 青年は
 どちらも
 選ばない。

 三、
 決定は
 記録に残し、
 署名すること。

 ざわめき。

「それじゃ、
 意味がない」

「意味がないなら、
 来るな」

 俺は、
 名も名乗らず
 言う。

 青年は、
 戸惑いながらも
 従った。

 揉め事は、
 減った。

 青年は、
 少しずつ
 眠れるように
 なった。

 だが——

 調整役たちが、
 動いた。

「象徴が
 弱くなった」

「再調整が
 必要だ」

 魔王が、
 告げる。

「時間が
 ない」

「次で、
 決めろ」

 青年を、
 守るか。

 象徴を、
 壊すか。

 世界は救えない。

 だが、
 壊れる音を
 聞こえないふりは
 できない。
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