『世界は救えないと知っている勇者が、それでも剣を取る理由』

夜澄 文

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第四十五話 消せないもの

 静かすぎる夜は、
 信用しない。

 風も、
 虫の声も、
 ない。

 宿の扉が、
 軋む。

 入ってきたのは、
 剣を持たない男たちだった。

 顔は、
 知っている。

 調整役の
 下にいる者だ。

「話を」

 丁寧な声。

 もう、
 交渉じゃない。

「記録は、
 処分した」

「だが、
 君が
 残っている」

 俺は、
 椅子から
 立たない。

「殺すのか」

「隔離だ」

「優しい
 言い方だな」

「世界のためだ」

 その言葉を、
 彼らは
 本気で
 信じている。

 だから、
 危ない。

「君が
 いなくなれば、
 自然に
 収束する」

「そう
 思ってるなら、
 もう
 遅い」

 外で、
 足音。

 聞き覚えのある
 声がする。

「その人を
 連れて行くなら、
 理由を
 言ってください」

 少女だ。

 記録を
 写していた
 一人。

「理由は、
 危険だからだ」

「何が」

「考え方が」

 少女は、
 一瞬
 黙り——

「考えない方が
 安全だって、
 誰が
 決めたんですか」

 調整役の男が、
 苛立つ。

「君には
 関係ない」

「あります」

「もう、
 読んだから」

 外から、
 人が
 集まり始める。

 全員、
 武器を
 持っていない。

 ただ、
 話を
 聞きに来ただけだ。

 魔王が、
 現れる。

 初めて、
 はっきりと
 姿を見せて。

「もう
 十分だ」

 調整役たちは、
 後ずさる。

「終わりの
 準備に
 入る」

「君たちは、
 役割を
 終えた」

 剣は、
 抜かれない。

 血も、
 流れない。

 だが、
 調整役は
 理解した。

 自分たちが
 不要に
 なったことを。

 夜明け。

 誰も、
 連れて行かれなかった。

 俺も、
 記録も、
 残った。

 世界は救えない。

 だが、
 消そうとしても
 消えないものが
 確かにある。
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