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レイと団長と私と棍棒と

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 勇を乗せた馬車&荷台は城下町の中でも
少し高台で街を見下ろせる場所に到着する
馬に乗っていらレイは飛び降り
勇はゆっくりと荷台から降りる
 
『う~~お尻が痛い
 石畳の道に木のタイヤって
 振動やばいな~
 車って凄い乗り物だったんだな~』

ぶつくさ言ってる勇を尻目に
レイは 騎士達に指示を出していると思われる
人物の元に駆け寄る

 『国防騎士団長ガモンド殿!!』
 
レイの言葉に振り向くガモンドという男
ガモンドはチラッとレイを見て

 『団長ってのは辞めろって
 急遽編成された国防騎士団だ
 本物の団長さんは
 国境付近にいるお嬢ちゃんだろう
 あいつ俺が団長なんて言ったら怒るぞ
 まっしばらく戻ってこれんだろうけどな』

と頭を掻きながら答え
心底団長と呼ばれるのを
嫌がっているようだった
レイはそれに意を唱えるかのように

 『姫様が此度結成された国防隊は
 正式なものだとおっしゃっられたでは
 ありませんか!
 ガモンド殿が隊長から団長への昇格だと
 それも姫様が決めた事
 国を守る防衛隊は騎士団の中で
 別働隊とし、固定しておいた方が
 訓練もしやすく、いざという時の対応が早くなると
 姫様のお考えにあなたも同意されていたでは
 ありませんか』

レイは姫様が言う事に絶対であると
言わんばかりにガモンドに喰ってかかる
やれやれという顔をしたガモンドは
 
 『あ~わかった、わかった
 んで姫様のおもりがこんな戦場の
 真っ只中になんの用だ?
 そこのお嬢ちゃんはなんだ?』

レイが待ってましたと言わんばかりに
意気揚々を答える

 『彼女こそ女神が遣わせた勇者であります』

2人のやりとりを後ろ見てた勇だったが
急に紹介されびっくりして

 『わっ!わたしっ 下御陵 勇 です!
 よろしくお願いします』

と言いながら敬礼していた
レイとガモンドのやりとりを
少し離れた場所で
後ろに手を組んでぼーっと2人のやり取りを
聞いていたので
急に話題に入れられた事に驚き
とっさに敬礼してしまったのだった
勇を紹介されて怪訝(けげん)な顔をするガモンド

 『あの姫様、本当に勇者召喚の儀なんて
 やったのか?
 蓄えていた魔力じゃ足りないって話じゃ?
 それでも決行したのか姫様は・・・
 んでこのおかしな格好の娘が勇者だって?
 この忙しいのに俺にこの娘を紹介して
 どうするつもりだ?』

少しイラッとしているガモンドの言い方に対し
レイもガモンドにイラッとしたようで

 『足りない魔力については姫様が
 ご自身の魔力にて補いましたので
 無理やり決行した訳ではありません!
 姫様が御身を危険にしてまで
 召喚の儀を行なって現れた勇者様なのです
 紹介だけしに来た訳ないでしょう!
 彼女は姫様の切り札なのです
 ぜひ戦線に彼女をお加えください
 きっと何か突破口になるはずです!』

レイも語尾が強くなる
それを聞いたガモンドは
少し悲しそうな顔をして見せた

 『バカが・・・
 自分の魔力全部使っちまったら
 今さぞお辛い事だろうに・・・
 いっつも無茶ばっかりなされる・・・』

そうぼそっとため息まじりに呟き
そしてレイにはきつい目つきで

 『バカを言うな!
 その娘を戦場につれていけだと?
 騎士団や冒険者でさえ
 怪我人が多数出ている上に劣勢な状況だ!
 すでに門は破られ街への侵入も許しちまった
 国防が効いて呆れるぜ・・・
 正直どこまで耐えられるかわからん
 そんな状態でその娘を見学でもさせろって
 言うのか?
 守りながら戦う事がどれだけ危険か
 わかんねーのか!!
 姫様の切り札って言うなら城へ帰って
 姫様の護衛にでも話相手にでもさせろバカ!!』

2人の言い合いが更に続く
段々と声が大きくなっており
怒号が続く
そんな2人を見ていた勇は
飽きてきたので高台から見下ろせる
街中に目をやった
その時すでに近くまでオーガが1体迫っていた

 あれがオーガ?
 私の倍くらいありそう
 それにあんなに大きな棍棒(こんぼう)?
 孫悟空が持っている棒のようなのかと
 思ってたけど
 あれじゃ特大野球バットじゃない!?
 あんなの振り回してる奴に
 私が言った所で殺されにいくような
 気がするんですけど・・・・アハハハ
 大丈夫なのかなわたし?

と不安になっている時だった
1体のオーガがガモンドとレイの
大声に気が付き
振り回していた棍棒を
槍投げをするかのように持ち替えた
そしてガモンドとレイがいる高台にむけて
全力で投げつけてきた
軍のリーダーを狙う、一番強い奴を狙う
本能なのか理解しているのかは謎だが
戦場でボスを倒す事は勝ちを意味する

物凄いスピードで高台に迫る棍棒
直撃すれば即死、よくて瀕死

ガモンドは街側に背を向けてしまっていた為
対になる位置にいたレイが先に
棍棒の存在に気が付きギョッとする
その顔を見たガモンドが自身が戦闘の最中で
ある事を思い出し
ふと振り返り迫りくる棍棒の存在を認識した
咄嗟の判断だった
勝手に体が動いたというべきだったのだろう
レイを蹴り飛ばして棍棒から遠ざけた
だがそれは自身が逃げる行動を
とる時間がない事を意味した
ガモンドは迫る棍棒を見て
走馬灯のごとく
景色がゆっくり流れていく

 『チッここまでなのか・・・』

ガモンドは死を覚悟した
その瞬間だった
自分の体がフワッと浮いているのに
気がついた
そしていつの間にか棍棒の直撃コースから
離れていく自分に
そして今までいた場所には勇と言われた
少女がいる事にも気が付く

棍棒の存在に気がついた
勇は横っ飛びでガモンドに飛びつき
そして後方にゆっくり放り投げた

ガモンドと勇の位置が入れかわる

スローモーションで流れる景色の中で
勇とガモンドの目があう
勇はにっこり微笑んだ
ガモンドがその笑顔を見た瞬間だった
高速で飛んできた棍棒が勇に直撃し
そのまま後ろにあった民家2軒を破壊し
瓦礫に埋もれてしまった

続く
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