仕掛けるコイゴコロ

流リカナ

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駆け引き

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「想像していた高校生活と違うって思わない?ケイちゃん」
校内に併設されている食堂で、日替わり定食の麻婆豆腐を口に運びながら晴悠が問うてくる。
「別に。こんなもんじゃないの?」
晴悠と同じものに視線を落としつつ、答える。
「高校生になったら、お仕事優先になって、学校に通えなくて……出席日数、単位足りてない、どうしよう!みたいなことを想像してたのにな……」
「ほぼ毎日通えてますね。今のうちに稼いでおけば後で楽だろう?」
「そうなんだけど……机に向かってじっとしているのが苦手なんだよ。だから、学校に通えないほどの忙しさに憧れる」
「不服な理由が短絡的だな」
「中学時代の方が、よっぽど学校に通えなくてって感じだったよ」
「今だけだって。俺たち、デビュー勝ち取るんだろう?」
「勝ち取るよ絶対!」
「だったら焦るなよ。今のうちに学校での生活を堪能しておけって」
「……そうだねケイちゃん」
まだ納得できないような表情を浮かべてはいるが、意識は一転して食べることへと向かっている。
「学校に通う唯一の楽しみは学食だよ。芸能人がたくさん通うだけあって、栄養バランス考えてるんでしょ?この麻婆豆腐もお肉使ってないって言うけど、そんな気がしないもん!」
小さめな作りの口を目一杯開けてスプーンを咥える晴悠を一瞬見やる。
「口の端付いてる」
右人差し指を口端に持っていき、拭う仕草を見せる。
「逆だから」
未使用の紙おしぼりに手を伸ばして、晴悠の左口端に付いたソースを拭う。
「ありがとう」
とびっきりの笑顔を向けられる。
(無自覚なタラシだ)

「ケイちゃん、スタジオ入る前にドラッグストアに寄っていっても良い?」
「どうした?どこか痛いのか?」
「欲しいのは薬じゃなくて、洗濯用の柔軟剤」
「俺が使っているやつ、ストックあるし、やるよ」
「ケイちゃんと同じ匂いはちょっと……別のが良い」
「俺と同じ匂いは嫌なのか?シャンプートリートメントも同じ匂いが嫌だって言って変えてたっけ?」
「なんか……同じ匂いだと意識するんだって、だから嫌だ」
 (意識してくれているんだよな)
「わかったよ。ハユ一人だと洗剤間違いそうだから、付き合ってやるよ」
「そうなの!洗剤用洗剤と柔軟剤?入れるのは母さんから聞いてたけど、今まで洗剤と洗剤で洗ってたっぽい。洗い上がりのシャツがパキパキしてるし、匂いがあまりしないし変だと思ったんだよね」
「ようやく気づいたか」
「もしかして知ってた?」
「液体洗剤とボール状の洗剤と入れてるのは知ってた」
「えー知っていたなら教えてよ」
「生活力身につけるには自分でやって、失敗しながら気づいていくのが大事じゃないか?」
「確かにそうだね。母さんの偉大さ実感している最中だよ。そしてケイちゃんの大人っぷりを、一緒に生活してみて日々痛感しております」
「大人っぷりね……」
「本当に同じ歳なのかな?って感じるぐらい、ケイちゃんはいつも俺の先を行ってる」
「早く大人になりたいからな」
「えーそんな早く大人にならないで!置いていかないでよ」
「ハユは自分のペースでゆっくり焦らずだな。俺は目的があるから悠長には出来ないけど」
「目的か……」
(気になるような言い方をしたのが気になるんだな)
「俺より早く大人になるケイちゃんか……悪くない!」
「はぁ?」
「ケイちゃんは大人な感じのアイドルの方が合うと思ってたし。ミステリアスって感じの?」
「なんだよそれ」
「今度俺の理想とするアイドルグループ構想を教えるから聞いて?」
「そろそろ昼飯の時間が終わるし、そうだな今度聞く」
 (こいつはホント手強い)
席を立ち、食べ終わった食器の乗せたトレーを返却スペースに置いて、食堂を後にする。
三十分にも満たない時間の中でも、佳大と晴悠の関係性は会話の中で目まぐるしく変化する。
他のモノが立ち入れないぐらいとはまだ言い切れないかもしれないが、隙は与えないように警戒はしている。
自然に愛嬌を振り撒く子の活動範囲が広がれば、接する人の数も増える。
口端を拭ってあげた時の晴悠の笑顔を思い出しながら、教室に戻る佳大の足取りをどう捉えよう。
(誰にも負けはしないよ。そう努力するのみ)
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