虐待と闇と幸福

千夜 すう

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社会人

第6話

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新社会人になって、慣れない生活で大変だった。

当たり前だけどバイトの時と感覚が違う、勉強してた資格も全然使い物にならなかった。 

学生ではない社会人になって、私は緊張して変な焦りもあった。

知ってたはずなのに...分かる...出来る...なのに、初めて聞いた様な知識の感覚になるのが不思議な現象が起きた。

覚えることが沢山あって、教わった事は一言一句逃さずに必死にメモ帳に記した。

中には、メモを取る行為を嫌がった人も居た。

嫌がる人から説明されたのが、メモする事に気を取られ過ぎて、大事な所を聴き逃したり見れなくなるから、目と耳でちゃんと覚えて欲しいと言われた。

分かるけども、記憶力に自信があった私でも覚えきれずにいるから難しい事で...その人が居なくなった後に忘れない内に書き記した。

教わった事を記したメモを、家でキチンと見直して覚えながらイメージトレーニングもする。

資格も勉強して受かるくらいには頭の中に入っても、実践に使うには知識が足りないと実感して、勉強をし直す。

平日は、仕事から家に帰ると家事を疎かにしながら机に向かっていた。

休日、遊びに行く暇もなく時間が足りないと感じながら勉強をする。 

学生の時に培われた体力と根気で、新社会人の慣れない環境でも、挫けずに踏ん張る。
ここまで、必死になれるのはお金を貰うからには役に立ちたいと思ってるからだ。


環境に慣れたのか、私の努力が実を結んだのか、或いは両方なのか...少しずつ仕事を覚えていって仕事をしてる実感が湧いてきた。

教えてもらう事を必死に覚えてやる時に比べると、やる事が分かり始めて仕事のスピードが上がった。
 
出来る範囲が徐々に広がっていった。

社会人になって1年目で、完全に慣れたとは言えないが入社したばかりを思い出すと、あの時よりかは余裕があった。

それでも、まだまだ覚える事が沢山あって必死だ。

そんな、新生活の中で両親との関係は悪化していた。

前から前兆の様な物はあった。

ただ、決定打になったのは両親の頼みを断ったからである。


「有名な大企業に就職したんだから給料良いのだろう?」

普段は、安否の連絡もしないのに珍しく電話をしてきたかと思えば、金の話でゲンナリとする。

「新人だし、そんなに貰えないよ」

「大変なんだ。少しは援助してくれないか?」

「申し訳ないけど、こっちも精一杯なの」

「両親が困ってるのに助けないのか?」

「それを言われても難しいよ」

「昔から思ってたけど、お前は冷たい子だな。悪魔みたいだよ」

「父さん...」

母さん、あいつはダメだ。血も涙もない子に育ってるぞ。お前の教育の仕方に問題があるんじゃないのか?

電話の向こうで父は母に話しかけた。

父から母に電話が変わった。

「ねぇ、ほんとに少しだけでいいの」

半分、泣きそうな声で語りかけてきた。



私は、両親のお金が無い理由を知っていた。

従姉妹が既婚の人と不倫関係になって、奥さんにバレて慰謝料を請求されたからだ。

従姉妹が慰謝料を払う事は無く、祖父母と従姉妹両親が私の両親に泣きついてきて、代わりに支払ったのだ。

最初は、従姉妹が私が代わりに慰謝料を払えと上から目線でお願いしてきたのであった。

当然、そんな義理も義務も無く、即答で無理と返した。

払ってもらうのが当然と思っていた従姉妹は、驚いた後に怒り狂って怒鳴られた。

私と従姉妹の関係で、借金でも躊躇うのに払って貰って当たり前な言動に、ドン引いてしまうのは自然であろう。

勿論、断った事を私の両親に告げ口をして叱られても、お金が無いと言って断った。

結局、私の両親が貯金を切り崩して払う事になったけど、生活が苦しくなったようで私に援助をして欲しいと申し出たのだ。

従姉妹の件と今回の件で、私と両親の関係は悪化してまったのだ。

生活が苦しくなったといっても、普通に生活はしていけるのだ。
ただ、祖父母達の援助する余裕が無くなった話である。

家族との仲は、最悪になっても大丈夫だと思った。

それでも...何処かで期待してた部分があったのか分からない。

大丈夫ではなかった。
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