虐待と闇と幸福

千夜 すう

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社会人

第9話

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ある時の幼い頃の私は、咳が酷くて苦しんでいた。

「自分の欲望を優先させる最低な考えを持ってるから、風邪を引くんだ。精々、反省しなさい」
   
「パパ...」 

熱が酷くて、目が熱くなって涙が出た。

身体中は、骨の所から痛むように冷えて寒く感じ、震えが止まらなかった。

「十分、反省してるわよ。泣いちゃうくらいに辛いわよね」

母は、私の頭を撫でながら父を諌めた。

「そうかぁ?」
 
父は、疑心的な目で私を見る。

「もう、あんな事、言わないよね?自分が間違ってた事を認めるわよね?」

母は、私に聞いてきた。

「......。」    

(私は自分が間違ってると思わない)

何も言えない私に、母は呆れ返って、父はありえないという目で見られる。

「バチが当たっても反省する気はないようだな」

部屋を出ていった両親に拗ねる。

私は、自分が贅沢をしてるとは思わない。

だって、従姉妹にはあげるのに、私にはお金が無いと言って我慢をしなきゃいけないの?

やりたいって思ったゲームだけど...

同級生の中で流行っていて、友達も皆がハマってて会話の中心になってるのに、私だけがやった事が無くて話に入れない。

最近、会話が弾まないノリの悪くなったと言われる...。

ゲームって高いのは分かってる。

我儘で贅沢だって分かる。

だけど...。

思考がグルグルとなってる中でドアが開く。

「大変な事になったわ」

母が困った感じで部屋に入ってきた。

「どうしたの?」

「貴方の従姉妹が大怪我をして救急に運ばれたらしいのよ」

「それは、大変だね」

「お父さんの妹さんから助けてって、呼ばれちゃったのよ」

「えっ?」

「私、お父さんに逆らえないから行ってくるね」

「行ってくるって...待って」

「一応、貴方の事を心配してお父さんにも言ったのよ。そしたらね。たかが、風邪なんだから一晩位は大丈夫だろって...」

「そんな...」

「さっき、意地を張らなければ良かったのよ」
 
「ママ」

「次からは、逆らわない事をオススメするわ。水をここに置いておくわね。静かに休んでるのよ」

「待ってよ」

「じゃ、行ってくるわ」

ママって言葉を無視されて部屋を出ていった。

いつも、そう。

私よりも従姉妹が優先されるの。

祖父母に従兄弟のお母さんに、助けてって言われたら、父は直ぐに助けに言っちゃうの。

愛される友達が羨ましい。
愛される従姉妹が羨ましい。
なんで、私の親は私を愛してくれないの?

どうして?

どうしてよ...。

苦しくて、苦しくて....寂しい。

誰かが居るわけも無いのに手を伸ばす。

そしたら....。

「大丈夫。大丈夫だよ」

伸ばした先の手に、柔らかくて気持ち良い誰かの手で包まれている感触がした。


「1人にしない。ずっとここに居るから安心して」

「大丈夫だ。俺達はここにいる。怖いものは何も無い」


ゴツゴツとした大きな手が頭を撫でられる。

ずっと、欲しかった言葉と温もりで身体が安心するのを感じる。








私は、体調を崩して嫌な記憶を思い出して重ねたんだ...。
    
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