Say my name.

雷仙キリト

文字の大きさ
8 / 28
2話〜イケメンが俺をストーキングしてくるんだが〜

2-4

しおりを挟む
 空き教室に入る。基本的に利用されていないものの掃除は常に行き届いているため、砂埃で床がざらついた感触も、独特な古臭え匂いもしない。

 机と椅子は教室の後ろに詰めて置かれ、教室の前側部分はぽっかりと空白が出来上がっている。俺達は窓際の壁に背中をくっつけるようにして並んで腰掛ける。

 わざわざ机と椅子を持ってくるのも面倒だった。育ちのよさそうなこいつに地べた座りを強要するのもどうかと思わないでもなかったが、陽影からは「ピクニックみたいでいいね」と好評である。

「体調はもういいのか」
「おかげさまで、すっかりよくなりました! ま、授業の時間全部睡眠に費やしたおかげってのもあるけどな」

 俺は胸の前に手を当て、ウインクをする。

「つーわけで、お前にお願いがあるんだけど……ノート、貸してくんねえかな」
「別にいいけど、授業の進行度合いも違うんだし、クラスメイトから借りた方がいいんじゃないのか。それに俺も授業受けられないこと多いし」
「ああ、まあ、それはね……はは」

 下足箱のあの惨状を見てもらえば分かると思うが、今現在俺には友達と呼べる人がいない。クラスメイトの奴は俺を虐めてくることこそしないが、かといってノートを借りられるほど気安い関係ではなかった。

 俺が黙り込んだので全てを察したのか、陽影は小さくため息を吐く。

「放課後教室に来て。教科は?」
「恩に着るぜ! えっと……英語と数学と化学と、あと日本史!」
「これに懲りたら、夜更かししてゲームなんてするなよ」
「分かってますとも。めちゃくちゃ反省しましたとも」

 何だかんだ、今日はめちゃくちゃヤバかった。あのまま放置されていたら、人目も憚らずリバースしていたかもしれない。
 こいつは俺の命とプライドの恩人だ。

 パン、ともう一度掌を合わせ、擦り合わせる。神様仏様、陽影様サマありがとう。お礼に今度お供物持ってこよう。落雁って今の時期も売ってんのかな。

「んじゃま、ダラダラ喋ってっと時間なくなるから、いい加減飯食おうぜ」

 いそいそと弁当袋から弁当箱を取り出す。

「今日は何?……って、タコさんウインナーじゃん。可愛いな、おい」

 半月前まで、サンドイッチなどの軽食を弁当箱に詰め込んでいた陽影だが、今では随分と日本に染まっている。

「楓太が喜ぶかと思って、作ってきた」
「ガキじゃあるまいし、こんなことで喜ぶかよ」

 とか言いつつ、可愛らしいフォルムのそれと目が合うと、胸の辺りがソワソワして落ち着かなくなる。
 子供の成長を喜ぶ親ってこんな気持ちなのかも。

 陽影はフッと笑って、箸でウインナーを摘むと、俺の口元に寄せてくる。

「どうぞ」
「おお……いただきます」

 ちょっとだけ口を開けると、するりと口内に入り込んでくる。黙々と食べる。普通のウインナーだ。でも焼き加減は最高。噛むたびにパリパリの皮の奥から肉汁がじゅわっと溢れ出してくる。

「美味しい?」
「ん」

 俺が陽影を何だかんだと突き放すことができない理由の一つが、昼食の時間にこいつが持ってくる弁当だった。アヤメの思惑通り、俺はすっかり胃袋を掴まれてしまったのだ。

 陽影は、頭がよく、顔がよく、実家が金持ちで、そのうえ料理も作れた。包丁の扱いには手慣れているのか、指先には怪我は見当たらない。
 お手伝いさんが全てやってくれるんじゃないのか、と尋ねると、「向こうにいた時は、仕事で帰りが遅い親の代わりに自分で作ってた」と、何てことないように言った。

 1日目、サンドイッチを「あーん♡」してこようとするこいつを俺はもちろん拒絶した。
 1週間後、「日本食を研究した」と宣うこいつに食べろと圧をかけられ、観念して食べてみたところ実に美味かった。
 そして今、困ったことに俺はこいつが隣にいる状況に慣れてしまっている!

 だってさ、「お前のために頑張って作ったから食べてくれ」なんて言われて毎日弁当持ってこられたら、段々断りづらくなんじゃん。

 そりゃもちろん何回かは「俺だって弁当持ってきてるから」って断ったけど、「だったら互いの弁当を交換しよう」と言われ、何も言い返せなくなってしまった。

 俺だってそれなりに料理しなれてるとは言え、自分の味には飽きが出てくる。そんな時に美味しそうな食べ物を差し出されたら、食べるだろ。相手が俺に好意を向けているということはこの際無視してだ。

 流石に、食べさせ合いっこになるとは思いもよらなかったけど。これもアヤメの差し金か?

「楓太、俺も」

 陽影は目を閉じて、口を開く。俺は自分の弁当から、手作りの卵焼きを摘み、こいつの口元に寄せる。化粧をしなくとも血色のいい唇が、卵焼きを俺の箸ごとぱくりと啄む。
 微かに濡れた箸の先に、こいつの舌が触れたのだと思うと、心臓が跳ね、体が熱くなった。

 おかしいって。おかしいよ、俺。こんなことでいちいちドキドキして狼狽えるなんて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]愛を乞うなら君でなければ。

わをん
BL
離婚歴のある子持ち主人公。人生に何の希望もなく日々を消化するかのごとく過ごしていた時に出会ったハウスキーパーの『吉野』。たとえ同性であっても、裏表のない真っ直ぐな言葉を紡ぐ彼に惹かれる気持ちは抑えられない。彼に教わる愛の作法ーー。[子持ちリーマン×新米ハウスキーパー]

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

王弟の恋

結衣可
BL
「狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない」のスピンオフ・ストーリー。 戦時中、アルデンティア王国の王弟レイヴィスは、王直属の黒衣の騎士リアンと共にただ戦の夜に寄り添うことで孤独を癒やしていたが、一度だけ一線を越えてしまう。 しかし、戦が終わり、レイヴィスは国境の共生都市ルーヴェンの領主に任じられる。リアンとはそれきり疎遠になり、外交と再建に明け暮れる日々の中で、彼を思い出すことも減っていった。 そして、3年後――王の密命を帯びて、リアンがルーヴェンを訪れる。 再会の夜、レイヴィスは封じていた想いを揺さぶられ、リアンもまた「任務と心」の狭間で揺れていた。 ――立場に縛られた二人の恋の行方は・・・

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

処理中です...