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2話〜イケメンが俺をストーキングしてくるんだが〜
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空き教室に入る。基本的に利用されていないものの掃除は常に行き届いているため、砂埃で床がざらついた感触も、独特な古臭え匂いもしない。
机と椅子は教室の後ろに詰めて置かれ、教室の前側部分はぽっかりと空白が出来上がっている。俺達は窓際の壁に背中をくっつけるようにして並んで腰掛ける。
わざわざ机と椅子を持ってくるのも面倒だった。育ちのよさそうなこいつに地べた座りを強要するのもどうかと思わないでもなかったが、陽影からは「ピクニックみたいでいいね」と好評である。
「体調はもういいのか」
「おかげさまで、すっかりよくなりました! ま、授業の時間全部睡眠に費やしたおかげってのもあるけどな」
俺は胸の前に手を当て、ウインクをする。
「つーわけで、お前にお願いがあるんだけど……ノート、貸してくんねえかな」
「別にいいけど、授業の進行度合いも違うんだし、クラスメイトから借りた方がいいんじゃないのか。それに俺も授業受けられないこと多いし」
「ああ、まあ、それはね……はは」
下足箱のあの惨状を見てもらえば分かると思うが、今現在俺には友達と呼べる人がいない。クラスメイトの奴は俺を虐めてくることこそしないが、かといってノートを借りられるほど気安い関係ではなかった。
俺が黙り込んだので全てを察したのか、陽影は小さくため息を吐く。
「放課後教室に来て。教科は?」
「恩に着るぜ! えっと……英語と数学と化学と、あと日本史!」
「これに懲りたら、夜更かししてゲームなんてするなよ」
「分かってますとも。めちゃくちゃ反省しましたとも」
何だかんだ、今日はめちゃくちゃヤバかった。あのまま放置されていたら、人目も憚らずリバースしていたかもしれない。
こいつは俺の命とプライドの恩人だ。
パン、ともう一度掌を合わせ、擦り合わせる。神様仏様、陽影様サマありがとう。お礼に今度お供物持ってこよう。落雁って今の時期も売ってんのかな。
「んじゃま、ダラダラ喋ってっと時間なくなるから、いい加減飯食おうぜ」
いそいそと弁当袋から弁当箱を取り出す。
「今日は何?……って、タコさんウインナーじゃん。可愛いな、おい」
半月前まで、サンドイッチなどの軽食を弁当箱に詰め込んでいた陽影だが、今では随分と日本に染まっている。
「楓太が喜ぶかと思って、作ってきた」
「ガキじゃあるまいし、こんなことで喜ぶかよ」
とか言いつつ、可愛らしいフォルムのそれと目が合うと、胸の辺りがソワソワして落ち着かなくなる。
子供の成長を喜ぶ親ってこんな気持ちなのかも。
陽影はフッと笑って、箸でウインナーを摘むと、俺の口元に寄せてくる。
「どうぞ」
「おお……いただきます」
ちょっとだけ口を開けると、するりと口内に入り込んでくる。黙々と食べる。普通のウインナーだ。でも焼き加減は最高。噛むたびにパリパリの皮の奥から肉汁がじゅわっと溢れ出してくる。
「美味しい?」
「ん」
俺が陽影を何だかんだと突き放すことができない理由の一つが、昼食の時間にこいつが持ってくる弁当だった。アヤメの思惑通り、俺はすっかり胃袋を掴まれてしまったのだ。
陽影は、頭がよく、顔がよく、実家が金持ちで、そのうえ料理も作れた。包丁の扱いには手慣れているのか、指先には怪我は見当たらない。
お手伝いさんが全てやってくれるんじゃないのか、と尋ねると、「向こうにいた時は、仕事で帰りが遅い親の代わりに自分で作ってた」と、何てことないように言った。
1日目、サンドイッチを「あーん♡」してこようとするこいつを俺はもちろん拒絶した。
1週間後、「日本食を研究した」と宣うこいつに食べろと圧をかけられ、観念して食べてみたところ実に美味かった。
そして今、困ったことに俺はこいつが隣にいる状況に慣れてしまっている!
だってさ、「お前のために頑張って作ったから食べてくれ」なんて言われて毎日弁当持ってこられたら、段々断りづらくなんじゃん。
そりゃもちろん何回かは「俺だって弁当持ってきてるから」って断ったけど、「だったら互いの弁当を交換しよう」と言われ、何も言い返せなくなってしまった。
俺だってそれなりに料理しなれてるとは言え、自分の味には飽きが出てくる。そんな時に美味しそうな食べ物を差し出されたら、食べるだろ。相手が俺に好意を向けているということはこの際無視してだ。
流石に、食べさせ合いっこになるとは思いもよらなかったけど。これもアヤメの差し金か?
「楓太、俺も」
陽影は目を閉じて、口を開く。俺は自分の弁当から、手作りの卵焼きを摘み、こいつの口元に寄せる。化粧をしなくとも血色のいい唇が、卵焼きを俺の箸ごとぱくりと啄む。
微かに濡れた箸の先に、こいつの舌が触れたのだと思うと、心臓が跳ね、体が熱くなった。
おかしいって。おかしいよ、俺。こんなことでいちいちドキドキして狼狽えるなんて。
机と椅子は教室の後ろに詰めて置かれ、教室の前側部分はぽっかりと空白が出来上がっている。俺達は窓際の壁に背中をくっつけるようにして並んで腰掛ける。
わざわざ机と椅子を持ってくるのも面倒だった。育ちのよさそうなこいつに地べた座りを強要するのもどうかと思わないでもなかったが、陽影からは「ピクニックみたいでいいね」と好評である。
「体調はもういいのか」
「おかげさまで、すっかりよくなりました! ま、授業の時間全部睡眠に費やしたおかげってのもあるけどな」
俺は胸の前に手を当て、ウインクをする。
「つーわけで、お前にお願いがあるんだけど……ノート、貸してくんねえかな」
「別にいいけど、授業の進行度合いも違うんだし、クラスメイトから借りた方がいいんじゃないのか。それに俺も授業受けられないこと多いし」
「ああ、まあ、それはね……はは」
下足箱のあの惨状を見てもらえば分かると思うが、今現在俺には友達と呼べる人がいない。クラスメイトの奴は俺を虐めてくることこそしないが、かといってノートを借りられるほど気安い関係ではなかった。
俺が黙り込んだので全てを察したのか、陽影は小さくため息を吐く。
「放課後教室に来て。教科は?」
「恩に着るぜ! えっと……英語と数学と化学と、あと日本史!」
「これに懲りたら、夜更かししてゲームなんてするなよ」
「分かってますとも。めちゃくちゃ反省しましたとも」
何だかんだ、今日はめちゃくちゃヤバかった。あのまま放置されていたら、人目も憚らずリバースしていたかもしれない。
こいつは俺の命とプライドの恩人だ。
パン、ともう一度掌を合わせ、擦り合わせる。神様仏様、陽影様サマありがとう。お礼に今度お供物持ってこよう。落雁って今の時期も売ってんのかな。
「んじゃま、ダラダラ喋ってっと時間なくなるから、いい加減飯食おうぜ」
いそいそと弁当袋から弁当箱を取り出す。
「今日は何?……って、タコさんウインナーじゃん。可愛いな、おい」
半月前まで、サンドイッチなどの軽食を弁当箱に詰め込んでいた陽影だが、今では随分と日本に染まっている。
「楓太が喜ぶかと思って、作ってきた」
「ガキじゃあるまいし、こんなことで喜ぶかよ」
とか言いつつ、可愛らしいフォルムのそれと目が合うと、胸の辺りがソワソワして落ち着かなくなる。
子供の成長を喜ぶ親ってこんな気持ちなのかも。
陽影はフッと笑って、箸でウインナーを摘むと、俺の口元に寄せてくる。
「どうぞ」
「おお……いただきます」
ちょっとだけ口を開けると、するりと口内に入り込んでくる。黙々と食べる。普通のウインナーだ。でも焼き加減は最高。噛むたびにパリパリの皮の奥から肉汁がじゅわっと溢れ出してくる。
「美味しい?」
「ん」
俺が陽影を何だかんだと突き放すことができない理由の一つが、昼食の時間にこいつが持ってくる弁当だった。アヤメの思惑通り、俺はすっかり胃袋を掴まれてしまったのだ。
陽影は、頭がよく、顔がよく、実家が金持ちで、そのうえ料理も作れた。包丁の扱いには手慣れているのか、指先には怪我は見当たらない。
お手伝いさんが全てやってくれるんじゃないのか、と尋ねると、「向こうにいた時は、仕事で帰りが遅い親の代わりに自分で作ってた」と、何てことないように言った。
1日目、サンドイッチを「あーん♡」してこようとするこいつを俺はもちろん拒絶した。
1週間後、「日本食を研究した」と宣うこいつに食べろと圧をかけられ、観念して食べてみたところ実に美味かった。
そして今、困ったことに俺はこいつが隣にいる状況に慣れてしまっている!
だってさ、「お前のために頑張って作ったから食べてくれ」なんて言われて毎日弁当持ってこられたら、段々断りづらくなんじゃん。
そりゃもちろん何回かは「俺だって弁当持ってきてるから」って断ったけど、「だったら互いの弁当を交換しよう」と言われ、何も言い返せなくなってしまった。
俺だってそれなりに料理しなれてるとは言え、自分の味には飽きが出てくる。そんな時に美味しそうな食べ物を差し出されたら、食べるだろ。相手が俺に好意を向けているということはこの際無視してだ。
流石に、食べさせ合いっこになるとは思いもよらなかったけど。これもアヤメの差し金か?
「楓太、俺も」
陽影は目を閉じて、口を開く。俺は自分の弁当から、手作りの卵焼きを摘み、こいつの口元に寄せる。化粧をしなくとも血色のいい唇が、卵焼きを俺の箸ごとぱくりと啄む。
微かに濡れた箸の先に、こいつの舌が触れたのだと思うと、心臓が跳ね、体が熱くなった。
おかしいって。おかしいよ、俺。こんなことでいちいちドキドキして狼狽えるなんて。
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