15 / 28
4話〜思わせぶりな人〜
4-2
しおりを挟む
切っ掛けは、アヤメさんとの会話だった。事務所に入ったばかりの頃、互いの認識をすり合わせるみたいに初歩的な会話の応酬を重ね、俺達は同い年であることを知った。
そして、アヤメさんの弟と俺が同じ学校に通っていることを知る。
『あいつ、学校でのこと全然話してくんないのよ。今度見かけたら盗撮しといてくれる?』
『何故盗撮を?』
『弱みを握って、こき使うために決まってんじゃん。あいつ、あたしらには頭上がんないの。居候だから』
口は悪いが、アヤメさんなりに弟さんのことを心配しているのは明らかだった。口とは裏腹に、そわそわと落ち着かない態度がそれを証明している。
流石に盗撮はできないけど、学校での様子を窺って伝えることくらいはできると思った。
それが、晴中楓太を知ることになった始まりだ。
*
放課後。ホームルームを終えた俺は机に掛けてあった鞄を持ち、立ち上がる。座席は後ろの方だ。わざわざ前に行く用もないので、黒板に背中を向け、後ろのドアから廊下に出ようとする。
そこで、地面に這いつくばっている女子の姿を見かける。
彼女は必死に何かを探しているみたいだ。
「どうかしたのか」
「ふえっ」
突然話しかけたせいで、制服を着た紺色の背中がビクッと跳ねる。恐る恐ると振り返る顔には、驚きと、羞恥と、困惑が混ざっている。
「困ってるみたいだったから。どうかしたのか」
丸縁メガネをかけたクラスメイトはか細い声で「画鋲を落としちゃって……」と言う。女子の視線が斜め上へと向かい、釣られて俺もその方を見遣れば、壁に貼り付けられた掲示物の画鋲がひとつ取れ、剥がれかかっていた。
「探しても見つからないんです。どこ行っちゃったんだろう」
女子はクラスの学級委員長であり、一度俺に告白してきたことがあった。彼女のことは嫌いじゃない。と言うよりは、好き嫌いを判断するほどの材料を俺は持っていない。
だから、断った。彼女はメガネの奥の瞳から涙をポロポロとこぼし、「そうですよね。私なんかを好きになってくれるはずがないですよね……」と卑屈に囁き、逃げるようにその場を立ち去ってしまった。
あれ以来話したことはなかったし、こうして俺の方から話しかけるまで、そういった出来事があったことすら忘れていた。
話しかけておいて今更、気まずさが立ちのぼってくる。
「……一緒に探そうか」
女子はぶんぶんと首を振った。
「いえ、大丈夫です。落ちたのは私が探しておくんで。えっと、でも……よければ、新しい画鋲を取ってきてくれませんか。見つかるまであのままというのも、何だか不恰好なので」
「分かった」
「ありがとうございますっ」
女子はぺこぺことお辞儀をする。
一緒に探すよりは気まずさも薄れるだろう。俺は黒板の方に向かった。そこにある棚に、確か画鋲のケースが入っていたはずだ。
俺は棚を覗き込んだ。しかしそこに、ケースは見当たらなかった。
そして、アヤメさんの弟と俺が同じ学校に通っていることを知る。
『あいつ、学校でのこと全然話してくんないのよ。今度見かけたら盗撮しといてくれる?』
『何故盗撮を?』
『弱みを握って、こき使うために決まってんじゃん。あいつ、あたしらには頭上がんないの。居候だから』
口は悪いが、アヤメさんなりに弟さんのことを心配しているのは明らかだった。口とは裏腹に、そわそわと落ち着かない態度がそれを証明している。
流石に盗撮はできないけど、学校での様子を窺って伝えることくらいはできると思った。
それが、晴中楓太を知ることになった始まりだ。
*
放課後。ホームルームを終えた俺は机に掛けてあった鞄を持ち、立ち上がる。座席は後ろの方だ。わざわざ前に行く用もないので、黒板に背中を向け、後ろのドアから廊下に出ようとする。
そこで、地面に這いつくばっている女子の姿を見かける。
彼女は必死に何かを探しているみたいだ。
「どうかしたのか」
「ふえっ」
突然話しかけたせいで、制服を着た紺色の背中がビクッと跳ねる。恐る恐ると振り返る顔には、驚きと、羞恥と、困惑が混ざっている。
「困ってるみたいだったから。どうかしたのか」
丸縁メガネをかけたクラスメイトはか細い声で「画鋲を落としちゃって……」と言う。女子の視線が斜め上へと向かい、釣られて俺もその方を見遣れば、壁に貼り付けられた掲示物の画鋲がひとつ取れ、剥がれかかっていた。
「探しても見つからないんです。どこ行っちゃったんだろう」
女子はクラスの学級委員長であり、一度俺に告白してきたことがあった。彼女のことは嫌いじゃない。と言うよりは、好き嫌いを判断するほどの材料を俺は持っていない。
だから、断った。彼女はメガネの奥の瞳から涙をポロポロとこぼし、「そうですよね。私なんかを好きになってくれるはずがないですよね……」と卑屈に囁き、逃げるようにその場を立ち去ってしまった。
あれ以来話したことはなかったし、こうして俺の方から話しかけるまで、そういった出来事があったことすら忘れていた。
話しかけておいて今更、気まずさが立ちのぼってくる。
「……一緒に探そうか」
女子はぶんぶんと首を振った。
「いえ、大丈夫です。落ちたのは私が探しておくんで。えっと、でも……よければ、新しい画鋲を取ってきてくれませんか。見つかるまであのままというのも、何だか不恰好なので」
「分かった」
「ありがとうございますっ」
女子はぺこぺことお辞儀をする。
一緒に探すよりは気まずさも薄れるだろう。俺は黒板の方に向かった。そこにある棚に、確か画鋲のケースが入っていたはずだ。
俺は棚を覗き込んだ。しかしそこに、ケースは見当たらなかった。
0
あなたにおすすめの小説
[BL]愛を乞うなら君でなければ。
わをん
BL
離婚歴のある子持ち主人公。人生に何の希望もなく日々を消化するかのごとく過ごしていた時に出会ったハウスキーパーの『吉野』。たとえ同性であっても、裏表のない真っ直ぐな言葉を紡ぐ彼に惹かれる気持ちは抑えられない。彼に教わる愛の作法ーー。[子持ちリーマン×新米ハウスキーパー]
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
王弟の恋
結衣可
BL
「狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない」のスピンオフ・ストーリー。
戦時中、アルデンティア王国の王弟レイヴィスは、王直属の黒衣の騎士リアンと共にただ戦の夜に寄り添うことで孤独を癒やしていたが、一度だけ一線を越えてしまう。
しかし、戦が終わり、レイヴィスは国境の共生都市ルーヴェンの領主に任じられる。リアンとはそれきり疎遠になり、外交と再建に明け暮れる日々の中で、彼を思い出すことも減っていった。
そして、3年後――王の密命を帯びて、リアンがルーヴェンを訪れる。
再会の夜、レイヴィスは封じていた想いを揺さぶられ、リアンもまた「任務と心」の狭間で揺れていた。
――立場に縛られた二人の恋の行方は・・・
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる