Say my name.

雷仙キリト

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4話〜思わせぶりな人〜

4-2

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 切っ掛けは、アヤメさんとの会話だった。事務所に入ったばかりの頃、互いの認識をすり合わせるみたいに初歩的な会話の応酬を重ね、俺達は同い年であることを知った。

 そして、アヤメさんの弟と俺が同じ学校に通っていることを知る。

『あいつ、学校でのこと全然話してくんないのよ。今度見かけたら盗撮しといてくれる?』
『何故盗撮を?』
『弱みを握って、こき使うために決まってんじゃん。あいつ、あたしらには頭上がんないの。居候だから』

 口は悪いが、アヤメさんなりに弟さんのことを心配しているのは明らかだった。口とは裏腹に、そわそわと落ち着かない態度がそれを証明している。

 流石に盗撮はできないけど、学校での様子を窺って伝えることくらいはできると思った。

 それが、晴中楓太はれなか ふうたを知ることになった始まりだ。


 *

 
 放課後。ホームルームを終えた俺は机に掛けてあった鞄を持ち、立ち上がる。座席は後ろの方だ。わざわざ前に行く用もないので、黒板に背中を向け、後ろのドアから廊下に出ようとする。

 そこで、地面に這いつくばっている女子の姿を見かける。
 彼女は必死に何かを探しているみたいだ。

「どうかしたのか」
「ふえっ」

 突然話しかけたせいで、制服を着た紺色の背中がビクッと跳ねる。恐る恐ると振り返る顔には、驚きと、羞恥と、困惑が混ざっている。

「困ってるみたいだったから。どうかしたのか」

 丸縁メガネをかけたクラスメイトはか細い声で「画鋲を落としちゃって……」と言う。女子の視線が斜め上へと向かい、釣られて俺もその方を見遣れば、壁に貼り付けられた掲示物の画鋲がひとつ取れ、剥がれかかっていた。

「探しても見つからないんです。どこ行っちゃったんだろう」

 女子はクラスの学級委員長であり、一度俺に告白してきたことがあった。彼女のことは嫌いじゃない。と言うよりは、好き嫌いを判断するほどの材料を俺は持っていない。
 だから、断った。彼女はメガネの奥の瞳から涙をポロポロとこぼし、「そうですよね。私なんかを好きになってくれるはずがないですよね……」と卑屈に囁き、逃げるようにその場を立ち去ってしまった。

 あれ以来話したことはなかったし、こうして俺の方から話しかけるまで、そういった出来事があったことすら忘れていた。

 話しかけておいて今更、気まずさが立ちのぼってくる。

「……一緒に探そうか」

 女子はぶんぶんと首を振った。

「いえ、大丈夫です。落ちたのは私が探しておくんで。えっと、でも……よければ、新しい画鋲を取ってきてくれませんか。見つかるまであのままというのも、何だか不恰好なので」
「分かった」
「ありがとうございますっ」

 女子はぺこぺことお辞儀をする。

 一緒に探すよりは気まずさも薄れるだろう。俺は黒板の方に向かった。そこにある棚に、確か画鋲のケースが入っていたはずだ。

 俺は棚を覗き込んだ。しかしそこに、ケースは見当たらなかった。
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