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5〜恋と傷跡〜
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「よーっす。ちゃんと休んでるか?」
保健室で横になっていると、柏木が賑やかな声を振り撒きながら入ってくる。
「あれ? 先生は?」
「なんか、用事があるとかで慌ただしく出てった。そのおかげで帰れねえんだよ」
体調は最悪だった。一度吐いたらスッキリするかと思ったが、そうは問屋が卸さねえ。
スミレのこととか陽影のことで頭がぐちゃぐちゃで、そのせいで身体に影響を及ぼしているらしい。
普段の俺ならば、こういうナーバスな時は、
もぉ! 俺くんの体のバカバカ! 軟弱すぎっ! マンボウかよ!
などと茶化して自分で「キメェよこのテンション」と突っ込むのだが、そんな気力もないので俺はマジモードになる他なかった。
「勝手に帰りゃいいじゃん。後で報告しといてやろうか」
「マジ?……うーん」
どうしようか。中々に魅力的な提案だが、しかし今現在家にはユリ姉ちゃんがいるはずだ。スケジュールは把握しているから間違いない。
俺が体調を崩したとなれば、あの三姉妹の良心であり過保護な姉ちゃんは、仕事を休んでまで看病しようとするだろう。
姉ちゃんに迷惑はかけたくない。
「もうちょっと寝てみるわ。そのうち治るかもしんねえし」
「晴中って変なところで真面目なんだな」
「うるせえよ。俺はいつだって質実剛健真面目ちゃんだろうが」
「いつも赤点スレスレの成績なくせに」
「うるさいな……つか、何で俺の点数知って_____ッ」
吐き気を感じて、慌ててベッドから起き上がる。
「おい、大丈夫か」
口元を押さえ、首を横に振る。
「トイレまで連れてってやる。肩貸せ」
「わ、り……」
柏木の肩を借り、保健室内に備えられたトイレに入る。ありがとうと、もう出てっていいぞの意味を込めて柏木を振り返るも、何故かこいつはトイレから出ていこうとしない。
なんだこいつ。トイレの神様にでもなるつもりか。
「……あの、柏木」
「ん? 何?」
「見られてっと、恥ずくて無理なんだけど」
「今朝俺の制服ちょびっと汚したくせに、何くだんねえこと言ってんだよ。見といてやるから、早く吐けって」
「は?」
「ゲロで窒息死したくはねえだろ。ほら、ちゃんと監視しといてやるから」
こいつなりの気遣いのつもりなのかもしれない。だが、何だか楽しそうに見えるのは気のせいか?
そういやこいつ、今朝俺が吐いた時もそんな嫌がった顔しなかったぞ。そりゃ、制服汚れた時は怒ってたけど、その後は驚くほど冷静に、テキパキと動いていた。手慣れていた。
保健室へ俺を連れて行ってくれたのもこいつだ。
ま、まさかこいつ……そういうフェチなのか?
そういう趣味のやつがいると知って一度好奇心で検索してみたことがあるが、それから数日は食事が喉も通らなかったのを覚えている。
まさか、こいつが、その? 爽やかの権化みてえな見た目しておいて? フルーティーなキスしそうな面しといて?
俺は別に特殊性癖を咎めるつもりはないが、だからって男でもOKは見境なさすぎだろ。
「大丈夫だよ。ここには俺以外誰もいないから。さ、存分に吐いていいよ!」
親指を立てるな。にこやかな笑みを浮かべるな!
「お、お前、変態か?」
「何を人聞きの悪い。マニアと言ってほしいなぁ」
「ま、マニア?」
「そうそう。俺、人が苦しんでるのを見るのが好きで……って、あまり時間はなさそうだな」
柏木はスマホを見て舌打ちをすると、俺の頭をいきなり掴んできた。
便器に顔を突っ込むような態勢にさせられる。
「ほーら、どうぞ♡」
「う……っ」
「おら、早く吐けよ♡ お前の苦しそうな顔、俺にもう一度見せろよ♡ 朝お前の吐き顔みた時からもう、股間が痛くて痛くて仕方ねえんだよ♡ 1回抜いたけどそれでも収まんなくってさあ……はあ、どうしてくれんの、俺の体? もちろん責任取ってくれんだよなあ?♡」
な、何言ってんだこいつ。キモい、つか怖い。
「ほーんと、せっかく噂流して孤立させようとしたのに、邪魔しやがってよ、あいつ。あいつのせいで俺の努力が台無しだよ。ま、そのおかげで吐き顔なんて貴重なもん見れたのは感謝してもいいかもだけどな」
頭をぐりぐりと押され、潰れたカエルみたいな声が喉から出る。
「俺、お前の笑顔好きなんだ。ヘラヘラして、軽薄で、自分はまだ傷ついてませんって顔。その馬鹿みてえにたけえプライドを粉々に砕いて、涙流しながらお前が跪くところがみたいんだよ、俺は」
ぐるぐると、腹の中で巨大な虫がトグロを撒いているみたいだった。気持ち悪くて、吐き出したいのに、俺の矜恃がこいつの前で弱みを見せてたまるかと訴えている。
今吐いたら絶対に泣いちまうから。陽影の前以外では泣き顔を見せたくない。
つか、いい加減うるせえよこいつ。俺の笑顔が好きだとかなんとか言いやがって。
何? 俺のこと好きなの? それって告白? 残念だけど俺のハートは陽影が予約済みだから、お前の付け入る隙はねえんだよ。
それに、トイレで告白してくるような変態に俺は応えるつもりはない。
いつまで経っても我慢してる俺に痺れを切らしたのか、柏木が胃の辺りを押さえてきた。抵抗しようにも、少しでも動くとリバースしてしまいそうで、俺は何もできない。
保健室の先生戻ってきたらどうすんだよ。トイレで男子二人が組んず解れつプロレスリングって……下手したら俺まで巻き添えで怒られる展開じゃん。
つか、腰の辺りに何か固いもんが当たってんですけど!
いや! 誰か、誰か、男の人呼んで!_____
感情がぐちゃぐちゃになって、目元に涙が滲んだ、その時だった。
「……そこで何してるんだ」
低い声が降りかかる。俺は背後を振り返り、思わず笑っていた。
なあ、凜。お前ってやっぱ、俺の王子様なのかもしんない。
保健室で横になっていると、柏木が賑やかな声を振り撒きながら入ってくる。
「あれ? 先生は?」
「なんか、用事があるとかで慌ただしく出てった。そのおかげで帰れねえんだよ」
体調は最悪だった。一度吐いたらスッキリするかと思ったが、そうは問屋が卸さねえ。
スミレのこととか陽影のことで頭がぐちゃぐちゃで、そのせいで身体に影響を及ぼしているらしい。
普段の俺ならば、こういうナーバスな時は、
もぉ! 俺くんの体のバカバカ! 軟弱すぎっ! マンボウかよ!
などと茶化して自分で「キメェよこのテンション」と突っ込むのだが、そんな気力もないので俺はマジモードになる他なかった。
「勝手に帰りゃいいじゃん。後で報告しといてやろうか」
「マジ?……うーん」
どうしようか。中々に魅力的な提案だが、しかし今現在家にはユリ姉ちゃんがいるはずだ。スケジュールは把握しているから間違いない。
俺が体調を崩したとなれば、あの三姉妹の良心であり過保護な姉ちゃんは、仕事を休んでまで看病しようとするだろう。
姉ちゃんに迷惑はかけたくない。
「もうちょっと寝てみるわ。そのうち治るかもしんねえし」
「晴中って変なところで真面目なんだな」
「うるせえよ。俺はいつだって質実剛健真面目ちゃんだろうが」
「いつも赤点スレスレの成績なくせに」
「うるさいな……つか、何で俺の点数知って_____ッ」
吐き気を感じて、慌ててベッドから起き上がる。
「おい、大丈夫か」
口元を押さえ、首を横に振る。
「トイレまで連れてってやる。肩貸せ」
「わ、り……」
柏木の肩を借り、保健室内に備えられたトイレに入る。ありがとうと、もう出てっていいぞの意味を込めて柏木を振り返るも、何故かこいつはトイレから出ていこうとしない。
なんだこいつ。トイレの神様にでもなるつもりか。
「……あの、柏木」
「ん? 何?」
「見られてっと、恥ずくて無理なんだけど」
「今朝俺の制服ちょびっと汚したくせに、何くだんねえこと言ってんだよ。見といてやるから、早く吐けって」
「は?」
「ゲロで窒息死したくはねえだろ。ほら、ちゃんと監視しといてやるから」
こいつなりの気遣いのつもりなのかもしれない。だが、何だか楽しそうに見えるのは気のせいか?
そういやこいつ、今朝俺が吐いた時もそんな嫌がった顔しなかったぞ。そりゃ、制服汚れた時は怒ってたけど、その後は驚くほど冷静に、テキパキと動いていた。手慣れていた。
保健室へ俺を連れて行ってくれたのもこいつだ。
ま、まさかこいつ……そういうフェチなのか?
そういう趣味のやつがいると知って一度好奇心で検索してみたことがあるが、それから数日は食事が喉も通らなかったのを覚えている。
まさか、こいつが、その? 爽やかの権化みてえな見た目しておいて? フルーティーなキスしそうな面しといて?
俺は別に特殊性癖を咎めるつもりはないが、だからって男でもOKは見境なさすぎだろ。
「大丈夫だよ。ここには俺以外誰もいないから。さ、存分に吐いていいよ!」
親指を立てるな。にこやかな笑みを浮かべるな!
「お、お前、変態か?」
「何を人聞きの悪い。マニアと言ってほしいなぁ」
「ま、マニア?」
「そうそう。俺、人が苦しんでるのを見るのが好きで……って、あまり時間はなさそうだな」
柏木はスマホを見て舌打ちをすると、俺の頭をいきなり掴んできた。
便器に顔を突っ込むような態勢にさせられる。
「ほーら、どうぞ♡」
「う……っ」
「おら、早く吐けよ♡ お前の苦しそうな顔、俺にもう一度見せろよ♡ 朝お前の吐き顔みた時からもう、股間が痛くて痛くて仕方ねえんだよ♡ 1回抜いたけどそれでも収まんなくってさあ……はあ、どうしてくれんの、俺の体? もちろん責任取ってくれんだよなあ?♡」
な、何言ってんだこいつ。キモい、つか怖い。
「ほーんと、せっかく噂流して孤立させようとしたのに、邪魔しやがってよ、あいつ。あいつのせいで俺の努力が台無しだよ。ま、そのおかげで吐き顔なんて貴重なもん見れたのは感謝してもいいかもだけどな」
頭をぐりぐりと押され、潰れたカエルみたいな声が喉から出る。
「俺、お前の笑顔好きなんだ。ヘラヘラして、軽薄で、自分はまだ傷ついてませんって顔。その馬鹿みてえにたけえプライドを粉々に砕いて、涙流しながらお前が跪くところがみたいんだよ、俺は」
ぐるぐると、腹の中で巨大な虫がトグロを撒いているみたいだった。気持ち悪くて、吐き出したいのに、俺の矜恃がこいつの前で弱みを見せてたまるかと訴えている。
今吐いたら絶対に泣いちまうから。陽影の前以外では泣き顔を見せたくない。
つか、いい加減うるせえよこいつ。俺の笑顔が好きだとかなんとか言いやがって。
何? 俺のこと好きなの? それって告白? 残念だけど俺のハートは陽影が予約済みだから、お前の付け入る隙はねえんだよ。
それに、トイレで告白してくるような変態に俺は応えるつもりはない。
いつまで経っても我慢してる俺に痺れを切らしたのか、柏木が胃の辺りを押さえてきた。抵抗しようにも、少しでも動くとリバースしてしまいそうで、俺は何もできない。
保健室の先生戻ってきたらどうすんだよ。トイレで男子二人が組んず解れつプロレスリングって……下手したら俺まで巻き添えで怒られる展開じゃん。
つか、腰の辺りに何か固いもんが当たってんですけど!
いや! 誰か、誰か、男の人呼んで!_____
感情がぐちゃぐちゃになって、目元に涙が滲んだ、その時だった。
「……そこで何してるんだ」
低い声が降りかかる。俺は背後を振り返り、思わず笑っていた。
なあ、凜。お前ってやっぱ、俺の王子様なのかもしんない。
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