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6〜しょうがないけど認めてやるよ〜
6-2
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起き上がり、近くに置いてあったスポーツドリンクを手に取る。陽影は飲ませてくれようとしたが丁重にお断りした。こいつのことだから、口移しで飲ませようとするに決まってる。
ペットボトルの半分辺りまで飲み切ったタイミングで、陽影に尋ねられる。
「体調はどう? お腹空いてない?」
その言葉に、思い出したように体が空腹を訴えた。
「めちゃめちゃ空いてる」
「分かった。ちょっと待ってて」
陽影は朝から撮影の仕事があり、午後は休みだったらしい。その貴重であろう学業の時間を俺の看病に割かせてしまったのには申し訳なさもあるが、陽影特製の卵粥を食べていると、腹の満たされて具合とともに、ぽかぽかと温かいものが胸を満たした。
幸せってこういうことを言うのかもしれない。好きな人に看病されるとか、最高なシチュすぎるっしょ。何、俺死んだの? 実はここ天国だったりする?……いや、それだと陽影も死んだということになるからよくないな。この若き天才を巻き添えで殺すわけにはいかないから、俺はまだ生きているということにしよう。
しっかり睡眠を取り、粥を何杯もおかわりして、「それだけ食えるなら大丈夫だな」と太鼓判を押され、俺はすっかり心身共に回復した。せっかくなので買ったばかりのゲームをやるかと尋ねられると、怒られてしまった。やっぱり、今回俺が体調崩した理由はバレているらしい。
仕方なく、雑談に気分を切り替える。後もう少しでコンボ技を習得しそうだったんだけどな。ゲームなんてしたことがなさそうなこいつをボコすチャンスだと思ったんだけど。でも、こいつは器用だから最初の数回は負けてもすぐに技を覚えて俺に勝つかもしれない。
「んで、さっきの話なんだけど」
迷った末に、俺は真面目モードになる。何やら俺に深い罪悪感を抱いているらしいこいつを慰めてやんねえとな。
「安心しろよな。俺、何も覚えてないからさ」
「何も覚えてない?」
「うん。俺、高熱出すと記憶なくしちまうんだよ。お前がここまで運んできてくれたんだろ? なあ、俺変なことしてなかった? 突然奇声を発したり、ベリーダンス踊り出したり、その辺の壁に話しかけたり」
「……いつもは熱出すとそんなことしてるの? ちょっと見てみたいかも」
「いつもじゃねえけど、アヤメがそんなこと言ってたから。まあ、アヤメのことだからどこまで本当か分からないけど」
流石にベリーダンスは嘘だと思う。……嘘だよな?
「ともかく、マジで俺は一切覚えてないから安心してくれ」
陽影を慰めるために言ったのだが、当の陽影は釈然としていない様子だった。
「本当に覚えてない? どこから?」
「どこからって……たぶん、朝ぶっ倒れて柏木に運ばれた辺りから?」
……ん? そういや今更思い出したけど、俺、柏木とどうやって別れたんだっけ? 保健室まで運んでくれたし、服汚しちまったし、後で何かお礼しとかないと。
確か、買ったはいいものの陽影に渡しそびれていた落雁があったはずだ。
と、俺が色々と思考を及ばせていると、陽影がぽつりと呟いた。
「そうか。本当に覚えてないんだな」
寂しそうな、それでいてどこか安堵したような表情だった。
「……なあ、本当に何かあったのか?」
「ううん。覚えてないならいいんだ」
「いや、よくはねえだろ。何かやらかしちまってるなら謝りたいし、それに_____」
「いいから。話す必要があると思ったら、その時に話すよ」
陽影は頑なだった。ここまで来ると、どうやら本当に大変なことが起きたのかもしれない。そこまで俺に知られると不味いことって何だよとか、やらかしたのは俺のはずなのに何でお前が気まずそうなんだよとか気になることはあるけど、一旦横に置いておく。
「分かった。気になるけど、今は聞かないでおく」
俺の言葉に陽影は頷いた。
「ところで、全部ってことはあれも覚えてないのか」
「あれって?」
「お前が俺を名前で呼んだこと」
えっ……エッ!?
「俺、呼んでました……?」
「呼んだ。3回呼んだ」
数えんなよ。つか、俺の馬鹿野郎! 陽影に迷惑かけたくないって言ったくせに、好意ダダ漏れじゃねえか!
陽影が俺にずいと顔を近づける。
「俺のこと好きなら名前で呼んでって言ったこと、覚えてる?」
「お、覚えてるけど……でも、意識ない時に言ったならノーカンだろ。それもなかったことにしといて」
「駄目。今ここで俺の名前呼んで」
「は? な、なう?」
「Immediately.」
わ、わあ、唐突なネイティブイングリッシュだなあ。すっげえ聞き取りやすいのに俺が馬鹿すぎて何言ってんのか全然分からん。
「ま、待て待て待て! 待ってくれ!」
「I've waited long enough.」
謎のスイッチが入ったのか、陽影は英語で喋り出す。やめてくれ、ちょっと面白いから。
近づいてくる口を掌で塞ぐが、手首を掴まれ剥ぎ取られ、仕返しとばかりに掌に音を立ててキスをされる。
「No, don’t tease me….」
「だから日本語で喋れって、つーか、心の準備が_____」
ぎゃあぎゃあ喚き散らす俺の唇は、陽影のものに塞がれる。
口移し拒否したのに、結局こうなんのかよ。
「ふっ、ん……っ」
どわーっ、エロい、こいつどエロい! 何食ったらそんな濃厚なキスできんだよ。唇噛むな、ちょ、舌入れてこようとすんな! お前は無邪気な犬か。
ペットボトルの半分辺りまで飲み切ったタイミングで、陽影に尋ねられる。
「体調はどう? お腹空いてない?」
その言葉に、思い出したように体が空腹を訴えた。
「めちゃめちゃ空いてる」
「分かった。ちょっと待ってて」
陽影は朝から撮影の仕事があり、午後は休みだったらしい。その貴重であろう学業の時間を俺の看病に割かせてしまったのには申し訳なさもあるが、陽影特製の卵粥を食べていると、腹の満たされて具合とともに、ぽかぽかと温かいものが胸を満たした。
幸せってこういうことを言うのかもしれない。好きな人に看病されるとか、最高なシチュすぎるっしょ。何、俺死んだの? 実はここ天国だったりする?……いや、それだと陽影も死んだということになるからよくないな。この若き天才を巻き添えで殺すわけにはいかないから、俺はまだ生きているということにしよう。
しっかり睡眠を取り、粥を何杯もおかわりして、「それだけ食えるなら大丈夫だな」と太鼓判を押され、俺はすっかり心身共に回復した。せっかくなので買ったばかりのゲームをやるかと尋ねられると、怒られてしまった。やっぱり、今回俺が体調崩した理由はバレているらしい。
仕方なく、雑談に気分を切り替える。後もう少しでコンボ技を習得しそうだったんだけどな。ゲームなんてしたことがなさそうなこいつをボコすチャンスだと思ったんだけど。でも、こいつは器用だから最初の数回は負けてもすぐに技を覚えて俺に勝つかもしれない。
「んで、さっきの話なんだけど」
迷った末に、俺は真面目モードになる。何やら俺に深い罪悪感を抱いているらしいこいつを慰めてやんねえとな。
「安心しろよな。俺、何も覚えてないからさ」
「何も覚えてない?」
「うん。俺、高熱出すと記憶なくしちまうんだよ。お前がここまで運んできてくれたんだろ? なあ、俺変なことしてなかった? 突然奇声を発したり、ベリーダンス踊り出したり、その辺の壁に話しかけたり」
「……いつもは熱出すとそんなことしてるの? ちょっと見てみたいかも」
「いつもじゃねえけど、アヤメがそんなこと言ってたから。まあ、アヤメのことだからどこまで本当か分からないけど」
流石にベリーダンスは嘘だと思う。……嘘だよな?
「ともかく、マジで俺は一切覚えてないから安心してくれ」
陽影を慰めるために言ったのだが、当の陽影は釈然としていない様子だった。
「本当に覚えてない? どこから?」
「どこからって……たぶん、朝ぶっ倒れて柏木に運ばれた辺りから?」
……ん? そういや今更思い出したけど、俺、柏木とどうやって別れたんだっけ? 保健室まで運んでくれたし、服汚しちまったし、後で何かお礼しとかないと。
確か、買ったはいいものの陽影に渡しそびれていた落雁があったはずだ。
と、俺が色々と思考を及ばせていると、陽影がぽつりと呟いた。
「そうか。本当に覚えてないんだな」
寂しそうな、それでいてどこか安堵したような表情だった。
「……なあ、本当に何かあったのか?」
「ううん。覚えてないならいいんだ」
「いや、よくはねえだろ。何かやらかしちまってるなら謝りたいし、それに_____」
「いいから。話す必要があると思ったら、その時に話すよ」
陽影は頑なだった。ここまで来ると、どうやら本当に大変なことが起きたのかもしれない。そこまで俺に知られると不味いことって何だよとか、やらかしたのは俺のはずなのに何でお前が気まずそうなんだよとか気になることはあるけど、一旦横に置いておく。
「分かった。気になるけど、今は聞かないでおく」
俺の言葉に陽影は頷いた。
「ところで、全部ってことはあれも覚えてないのか」
「あれって?」
「お前が俺を名前で呼んだこと」
えっ……エッ!?
「俺、呼んでました……?」
「呼んだ。3回呼んだ」
数えんなよ。つか、俺の馬鹿野郎! 陽影に迷惑かけたくないって言ったくせに、好意ダダ漏れじゃねえか!
陽影が俺にずいと顔を近づける。
「俺のこと好きなら名前で呼んでって言ったこと、覚えてる?」
「お、覚えてるけど……でも、意識ない時に言ったならノーカンだろ。それもなかったことにしといて」
「駄目。今ここで俺の名前呼んで」
「は? な、なう?」
「Immediately.」
わ、わあ、唐突なネイティブイングリッシュだなあ。すっげえ聞き取りやすいのに俺が馬鹿すぎて何言ってんのか全然分からん。
「ま、待て待て待て! 待ってくれ!」
「I've waited long enough.」
謎のスイッチが入ったのか、陽影は英語で喋り出す。やめてくれ、ちょっと面白いから。
近づいてくる口を掌で塞ぐが、手首を掴まれ剥ぎ取られ、仕返しとばかりに掌に音を立ててキスをされる。
「No, don’t tease me….」
「だから日本語で喋れって、つーか、心の準備が_____」
ぎゃあぎゃあ喚き散らす俺の唇は、陽影のものに塞がれる。
口移し拒否したのに、結局こうなんのかよ。
「ふっ、ん……っ」
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