6 / 28
2話〜イケメンが俺をストーキングしてくるんだが〜
2-2
しおりを挟む「へぇ、敵に塩を送る、ねえ」
アヤメがスケキヨ顔のまま近づいてくる。怖えよ。
丁寧に整えられた人差し指の爪の先が、とん、と俺の胸を軽く突く。
「あんた、もしかして陽影くんのこと好きなの?」
ドキッと心臓が音を立てた。
いやいや、ドキッて! おかしいだろ俺の心臓。
「はあ? んなわけねえだろ。つか、好きだったらこんなに嫌がってないっつの」
「じゃあ、陽影くんがあんたのこと好きってのは気づいてんの?」
痛いところを突かれ、俺はたじろいだ。
「……それは、まあ。あんなにあからさまだったら、流石に気付く」
つか、本人に何回か告白されてるし。
「ふうん。まあ、そうだよね」
アヤメは頻りに頷いている。勝手に納得するな。
その時、アヤメの部屋の奥からアラームらしきジングル音が聞こえてきた。アヤメは「時間だ。パック取らなきゃ」とわざとらしく言って扉を閉じようとする。
待てい。
俺は己の体を扉に挟み込み、閉まるのを阻止する。
「ちょっと、何すんのよ。パックって必要以上に付けすぎると逆効果になっちゃうんだよ。あんた、あたしの顔がカサカサになったら責任取ってくれるの?」
「俺はまだ質問に答えてもらってねえんだけど。お前、あいつのこと好きじゃねえの? 何であいつに協力なんかしてんだよ」
アヤメの言葉を無視して質問を投げかけると、アヤメはムッとした顔になった。パックを指で摘んで剥がし、丸めてゴミ箱に投げ捨てる。
「何でそんな勘違いされてるのか分かんないけど、あたしと陽影くんは単なる仕事仲間だよ」
「じゃあ何であの時顔赤くしてたんだ?」
「あの時?」
「あいつを家に泊めた時。俺はてっきり、お前があいつのこと好きだから、泊めさせたんだと思ってたんだけど」
アヤメは過去の記憶を掘り起こすように視線を斜め上に向け、頭を捻り……そして、ポッと顔を赤くさせた。
「ほら、やっぱ赤くなってる!」
「いや、違うんだって! これは不可抗力っていうか……陽影くんって、妙に色っぽい時あるじゃない? 性別をも越えさせる色香を持つっていうか」
こっちに同意を求めてくんな。
でも、分からなくもない。今日まさに、陽影の微笑みに落ちるクラスメイト(男)を見たばっかりだったので。
俺は別に落ちてないけどな。落ちてたまるか。
「とにかく、あたしは本当にそんな感情は持ってないから。だからあんたは安心して陽影くんとくっつきなさい」
「安心できるか!」
マジでこいつ、勝手なことばっかしやがって……。
「ちなみに陽影くんから相談受けたり色々アドバイスしてあげてるのもあたしだから。あんたの行動は、あたしに筒抜けだと思いなさい」
俺の弱味を握ることに人生の楽しみを見出しているこの女のことだ。恐らく真の目的は恋に悩める青少年へのアドバイスではなく、俺の学校での行動を探ろうとしているんだろう。
「……どんなアドバイスしたんだよ」
陽影の突飛な行動から大体察してはいるが、ひとまず聞いてみる。
アオイは得意げに、滔々とアドバイスとやらを語りだす。
まず、日本人は奥手だから積極的にいくこと。尚、自分でもドン引くくらい積極的なのがちょうどいい。ひたすら相手をつけ回し、顔を覚えてもらうのが大切。
次に、日本人はとにかく食べ物が大好きだから、相手のハートを奪いたいならまず胃袋を掴みなさい。毎日学校に弁当を持っていきなさい。
それから、こまめに連絡を取ること。相手の連絡には可能なら1分以内に返信すること。相手が返事をする余裕も持てないくらい畳み掛けるべし。
最後に、既成事実を作ること。キスでも何でもしちゃいなさい。あいつ、ちょろいからすぐに靡くよ。
……俺は深いため息を吐いた。ああ、頭痛が痛い。
「で、もういい? あたしこれからストレッチしなきゃだから、喋ってる暇ないんだけど」
バン、と音を立てて扉が閉まる。最早言い返す気力もない。
憔悴した俺に追い討ちをかけるように、ピロン、とスマホが通知を知らせる。
『ごめんなさい、これってもしかして本当に連絡先を間違えてたりしますか?』
『おかしいな、ちゃんとアヤメさんに確認は取ったんだけど』
『間違えていたら申し訳ありませんが、このトークルームは削除してください』
意地悪な女に純情を弄ばれ、俺のストーカーとなってしまったこの男を、俺は何だか可哀想に思ってしまった。
噂では頭いいって聞いたんだけど、実はとんでもない馬鹿なのかもしれない。ダウナー系って言ったら聞こえはいいけど、たまに何も考えてなさそうな無垢な顔してるしな。
『合ってるよ』
仕方なく、白状する。仕事は既に終わっているのかもしくは休憩中なのか、すぐに返事は来た。
『そうか、よかった』
『赤の他人に変なメール送ったかもしれないと思って焦った』
変なことしてる自覚はあるのか。姉ちゃん、言ってたもんな。自分でもドン引くくらい積極的になれって。
自分の言動に自分でドン引きしている陽影を想像して、ちょっと笑いが込み上げてくる。
『お前さ、あんまアヤメの言うこと信じすぎるなよ。相手が俺だからまだいいけど、他の奴にやったら普通に怒られるぞ』
『あと、そんな無理してすぐに返事しようとしなくていいから。俺だって返事遅れることくらいあるし、そんな早いと急かされてるみたいで困る』
既読はすぐに付いた。俺の言ったことを律儀に守ろうとしているのか、単に返信内容に悩んだのか、それから返事が来たのは5分後のことだった。
『分かった』
『迷惑かけてごめん』
『でも、これからも連絡していい?』
『もっとお前と仲よくなりたい』
画面の向こうに、じっとこっちを見つめている陽影の存在を感じる。
顔の作りがいい人間は、黙っていると怖い。こっちを見透かすようなその透き通った目に晒されると、何故だか何でも言うことを聞いてしまいたくなる。
だからって付き合うのは御免だけどな。
『勝手にしろ』
そう返事をしてスマホをスリープモードにする。
自然と上がってしまう口角を誤魔化すように、俺は咳払いをした。
0
あなたにおすすめの小説
[BL]愛を乞うなら君でなければ。
わをん
BL
離婚歴のある子持ち主人公。人生に何の希望もなく日々を消化するかのごとく過ごしていた時に出会ったハウスキーパーの『吉野』。たとえ同性であっても、裏表のない真っ直ぐな言葉を紡ぐ彼に惹かれる気持ちは抑えられない。彼に教わる愛の作法ーー。[子持ちリーマン×新米ハウスキーパー]
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
王弟の恋
結衣可
BL
「狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない」のスピンオフ・ストーリー。
戦時中、アルデンティア王国の王弟レイヴィスは、王直属の黒衣の騎士リアンと共にただ戦の夜に寄り添うことで孤独を癒やしていたが、一度だけ一線を越えてしまう。
しかし、戦が終わり、レイヴィスは国境の共生都市ルーヴェンの領主に任じられる。リアンとはそれきり疎遠になり、外交と再建に明け暮れる日々の中で、彼を思い出すことも減っていった。
そして、3年後――王の密命を帯びて、リアンがルーヴェンを訪れる。
再会の夜、レイヴィスは封じていた想いを揺さぶられ、リアンもまた「任務と心」の狭間で揺れていた。
――立場に縛られた二人の恋の行方は・・・
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる