Say my name.

雷仙キリト

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2話〜イケメンが俺をストーキングしてくるんだが〜

2-2

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「へぇ、敵に塩を送る、ねえ」

 アヤメがスケキヨ顔のまま近づいてくる。怖えよ。

 丁寧に整えられた人差し指の爪の先が、とん、と俺の胸を軽く突く。

「あんた、もしかして陽影くんのこと好きなの?」

 ドキッと心臓が音を立てた。

 いやいや、ドキッて! おかしいだろ俺の心臓。

「はあ? んなわけねえだろ。つか、好きだったらこんなに嫌がってないっつの」 
「じゃあ、陽影くんがあんたのこと好きってのは気づいてんの?」

 痛いところを突かれ、俺はたじろいだ。

「……それは、まあ。あんなにあからさまだったら、流石に気付く」

 つか、本人に何回か告白されてるし。

「ふうん。まあ、そうだよね」

 アヤメは頻りに頷いている。勝手に納得するな。

 その時、アヤメの部屋の奥からアラームらしきジングル音が聞こえてきた。アヤメは「時間だ。パック取らなきゃ」とわざとらしく言って扉を閉じようとする。

 待てい。

 俺は己の体を扉に挟み込み、閉まるのを阻止する。

「ちょっと、何すんのよ。パックって必要以上に付けすぎると逆効果になっちゃうんだよ。あんた、あたしの顔がカサカサになったら責任取ってくれるの?」
「俺はまだ質問に答えてもらってねえんだけど。お前、あいつのこと好きじゃねえの? 何であいつに協力なんかしてんだよ」

 アヤメの言葉を無視して質問を投げかけると、アヤメはムッとした顔になった。パックを指で摘んで剥がし、丸めてゴミ箱に投げ捨てる。

「何でそんな勘違いされてるのか分かんないけど、あたしと陽影くんは単なる仕事仲間だよ」
「じゃあ何であの時顔赤くしてたんだ?」
「あの時?」
「あいつを家に泊めた時。俺はてっきり、お前があいつのこと好きだから、泊めさせたんだと思ってたんだけど」

 アヤメは過去の記憶を掘り起こすように視線を斜め上に向け、頭を捻り……そして、ポッと顔を赤くさせた。

「ほら、やっぱ赤くなってる!」
「いや、違うんだって! これは不可抗力っていうか……陽影くんって、妙に色っぽい時あるじゃない? 性別をも越えさせる色香を持つっていうか」

 こっちに同意を求めてくんな。

 でも、分からなくもない。今日まさに、陽影の微笑みに落ちるクラスメイト(男)を見たばっかりだったので。
 俺は別に落ちてないけどな。落ちてたまるか。

「とにかく、あたしは本当にそんな感情は持ってないから。だからあんたは安心して陽影くんとくっつきなさい」
「安心できるか!」

 マジでこいつ、勝手なことばっかしやがって……。

「ちなみに陽影くんから相談受けたり色々アドバイスしてあげてるのもあたしだから。あんたの行動は、あたしに筒抜けだと思いなさい」

 俺の弱味を握ることに人生の楽しみを見出しているこの女のことだ。恐らく真の目的は恋に悩める青少年へのアドバイスではなく、俺の学校での行動を探ろうとしているんだろう。

「……どんなアドバイスしたんだよ」

 陽影の突飛な行動から大体察してはいるが、ひとまず聞いてみる。
 アオイは得意げに、滔々とアドバイスとやらを語りだす。

 まず、日本人は奥手だから積極的にいくこと。尚、自分でもドン引くくらい積極的なのがちょうどいい。ひたすら相手をつけ回し、顔を覚えてもらうのが大切。
 次に、日本人はとにかく食べ物が大好きだから、相手のハートを奪いたいならまず胃袋を掴みなさい。毎日学校に弁当を持っていきなさい。
 それから、こまめに連絡を取ること。相手の連絡には可能なら1分以内に返信すること。相手が返事をする余裕も持てないくらい畳み掛けるべし。
 最後に、既成事実を作ること。キスでも何でもしちゃいなさい。あいつ、ちょろいからすぐになびくよ。

……俺は深いため息を吐いた。ああ、頭痛が痛い。

「で、もういい? あたしこれからストレッチしなきゃだから、喋ってる暇ないんだけど」

 バン、と音を立てて扉が閉まる。最早言い返す気力もない。

 憔悴した俺に追い討ちをかけるように、ピロン、とスマホが通知を知らせる。

『ごめんなさい、これってもしかして本当に連絡先を間違えてたりしますか?』
『おかしいな、ちゃんとアヤメさんに確認は取ったんだけど』
『間違えていたら申し訳ありませんが、このトークルームは削除してください』

 意地悪な女に純情を弄ばれ、俺のストーカーとなってしまったこの男を、俺は何だか可哀想に思ってしまった。

 噂では頭いいって聞いたんだけど、実はとんでもない馬鹿なのかもしれない。ダウナー系って言ったら聞こえはいいけど、たまに何も考えてなさそうな無垢な顔してるしな。

『合ってるよ』
 
 仕方なく、白状する。仕事は既に終わっているのかもしくは休憩中なのか、すぐに返事は来た。

『そうか、よかった』 
『赤の他人に変なメール送ったかもしれないと思って焦った』

 変なことしてる自覚はあるのか。姉ちゃん、言ってたもんな。自分でもドン引くくらい積極的になれって。

 自分の言動に自分でドン引きしている陽影を想像して、ちょっと笑いが込み上げてくる。

『お前さ、あんまアヤメの言うこと信じすぎるなよ。相手が俺だからまだいいけど、他の奴にやったら普通に怒られるぞ』
『あと、そんな無理してすぐに返事しようとしなくていいから。俺だって返事遅れることくらいあるし、そんな早いと急かされてるみたいで困る』

 既読はすぐに付いた。俺の言ったことを律儀に守ろうとしているのか、単に返信内容に悩んだのか、それから返事が来たのは5分後のことだった。

『分かった』
『迷惑かけてごめん』
『でも、これからも連絡していい?』
『もっとお前と仲よくなりたい』

 画面の向こうに、じっとこっちを見つめている陽影の存在を感じる。
 顔の作りがいい人間は、黙っていると怖い。こっちを見透かすようなその透き通った目に晒されると、何故だか何でも言うことを聞いてしまいたくなる。

 だからって付き合うのは御免だけどな。

『勝手にしろ』

 そう返事をしてスマホをスリープモードにする。

 自然と上がってしまう口角を誤魔化すように、俺は咳払いをした。
 
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