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おまけ
嘔吐
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軽いけど嘔吐描写あり。保健室で凜に助けられた後の話。
俺、何で凜に抱きしめられてんだっけ。つか俺、何で泣いてんの?
熱でぼうっとした頭では考えるのも億劫だ。でも、やっぱり、好きなやつにギュッてされるのは嬉しい。うれしいんだけど……。
喉の奥がぎゅう、とひきつるような感覚に、俺は凜を突き飛ばす。
「楓太?」
きっと今、俺の顔は真っ青になってるだろう。汗とまんないし、息するのもつれえし、口元をおさえることで吐き気をこらえるのにせーいっぱいだ。
「楓太、もしかして調子悪いのか?」
こくこくと頷く。
「……吐きそう?」
もう一度うなずく。胃が暴れて、俺に不快感をうったえてくる。
そうだ、思い出した。ついさっきまで柏木に吐かされそうになってて、でもあいつの前で吐くのは嫌だからがまんしてて、とかなんとかしてるうちに柏木がいなくなって……なんか、柏木と凜が言い争ってた気がするけど、なにを話してたのかはわかんねえ。
ともかく、凜は俺を助けてくれた。俺はめちゃくちゃ泣いて気がゆるんだんだろう。いまさら、吐き気がぶり返してきた。
凜は「ちょっと待ってて」と言い置いて、トイレから出ていく。俺を一人にしてくれるのかと思っていたが、凜はすぐにタオルを手に持ってかえってきた。
掌をタオルでつまんで、なぜかトイレに浮かんでるスマホを救出する。
えっ、何でスマホがこんなところに? つか、誰のスマホよこれ。
「これで大丈夫だな」
……何が?
いや、そりゃ俺も誰のもんかわかんねえスマホぷかぷか浮いてるとこに向かって己の恥ずかしいもんをぶっ放すのはヤだけど、何が大丈夫なんだよお前。
何でトイレから出てってくんねえんだよ。お前も柏木の類友か? キュートアグなんとかか? 言っとくけど俺、こんなところ見られて可愛いって言われてもうれしくなんかないからな。
うう、マジ最悪、きもちわるい。
視線で凜を出ていかせようとするが、時折みょーに天然入ってるこいつは、俺のまなざしの意図にきづいてくんない。と思えば、ふと思い出したかのように、
「あ、そうか、人に聞かれるのは嫌だよな」
と言って、トイレの扉を閉め、ご丁寧に鍵をかけた。……後ろ手に。
ちげーよ、そうじゃねーよ! 何でなおさら二人きりになろうとすんだよ、お前は!
部屋せめーから、扉なんか閉めちまったら、よりいっそう音が反響すんじゃんかよ。
お前、マジで何考えてんの。バカやろう。ヘンタイ。
散々ののしってやりてえのに、今の俺にはその気力はない。
もう限界で、どうしようもなくて、しかたなく俺はすぐそばに凜のけはいを感じながら、便器に顔を近づける。
でも、人に見られてると思うと緊張して、うまく吐けない。いつも、どうやって吐いてたんだっけ。どうすればいいんだっけ。
胃の中がぐるぐるして、頭もぐるぐるして。きもちわりいのにそれを吐きだす方法がわからなくて。苦しさに涙が出てくる。
「……楓太?」
心配そうな声が聞こえてくる。深くて甘い、とろっとした声。俺の好きな声。
すぐ横を振り向くと、凜は眉を下げ、困ったように俺を見おろしている。さっきの柏木みたいに俺を馬鹿にする様子も、興奮してる様子もない。
それが普通なんだろう。体調悪そうなやつがいたら、大体のやつは心配する。だけどその普通があの柏木の後だと思うと妙に物珍しいように感じてしまう。
俺を助けてくれるのはこいつだけなんじゃないかって思って思っちまう。
「……けて」
凜の服の裾をつかむ。
「たすけて。はきてーのに、うまく、はけねえ」
凜がしゃがみ込む。俺とまっすぐに目を合わせて、俺を安心させるみてえにちょっと笑って、髪を撫でてくる。
「分かった。ちょっと嫌かもしれないけど、我慢してて」
俺は何度もコクコクと頷いた。凜が俺の背後に回り、体をぴったりと包みこむようにかさねる。
「口、ひらいて」
「ん……」
戸惑いがちに口元に伸ばされた指が、奥へと入っていく。誰にも触れさせたことのない場所に。喉仏のしたの辺り、舌の付け根のへんを軽く押される。拒絶反応で体がビクッとふるえた。それを押さえつけるように凜は俺をだきしめて、もう片方の手を鳩尾のあたりに持っていく。
そして、舌の付け根と鳩尾を同時におされるとだめだった。決壊する。
「う、ぇ」
朝吐いたから出るもんなんてないと思ってた。それでも体は胃液やら水分やらがごちゃごちゃに混ざったものを吐き出していく。
どれだけ吐いても気持ちわるさは収まんなくて、胃がぎゅうって引きつるような感覚がして。そのたびに凛が喉をやさしく、だけど確実に押してくるから。喉から、ごぽっ、とやな音がする。
きもちわるい。いやだ、みるな。だめだ、おまえのてが、よごれる。
それらの思念は涙になって俺の目からあふれる。
嫌だ、いやなのに。凜がそばにいてくれるとおもうと安心する。
「大丈夫だよ、楓太」
凜が俺のぐちゃぐちゃな部分をみてもはなれていかない。俺をなぐさめてくれる。
全てを吐き出し、もう出るものがないってなったとき、喉につっこまれてた手がずるっと抜き出される。
「頑張ったな、楓太」
魂まで吐き出しちまったみたいに、俺の体には力が入らなかった。
たおれそうになるおれを、楓太が片手で抱きかかえる。
どこかで声が聞こえる。
あら、陽影くん、どうしたの?
晴中が体調が悪いみたいで、付き添ってました。熱もあるみたいなので、このまま早退させても大丈夫ですか? 俺が連れて帰ります。
水が流れる音と共に、俺のいしきはとおざかっていく。
俺、何で凜に抱きしめられてんだっけ。つか俺、何で泣いてんの?
熱でぼうっとした頭では考えるのも億劫だ。でも、やっぱり、好きなやつにギュッてされるのは嬉しい。うれしいんだけど……。
喉の奥がぎゅう、とひきつるような感覚に、俺は凜を突き飛ばす。
「楓太?」
きっと今、俺の顔は真っ青になってるだろう。汗とまんないし、息するのもつれえし、口元をおさえることで吐き気をこらえるのにせーいっぱいだ。
「楓太、もしかして調子悪いのか?」
こくこくと頷く。
「……吐きそう?」
もう一度うなずく。胃が暴れて、俺に不快感をうったえてくる。
そうだ、思い出した。ついさっきまで柏木に吐かされそうになってて、でもあいつの前で吐くのは嫌だからがまんしてて、とかなんとかしてるうちに柏木がいなくなって……なんか、柏木と凜が言い争ってた気がするけど、なにを話してたのかはわかんねえ。
ともかく、凜は俺を助けてくれた。俺はめちゃくちゃ泣いて気がゆるんだんだろう。いまさら、吐き気がぶり返してきた。
凜は「ちょっと待ってて」と言い置いて、トイレから出ていく。俺を一人にしてくれるのかと思っていたが、凜はすぐにタオルを手に持ってかえってきた。
掌をタオルでつまんで、なぜかトイレに浮かんでるスマホを救出する。
えっ、何でスマホがこんなところに? つか、誰のスマホよこれ。
「これで大丈夫だな」
……何が?
いや、そりゃ俺も誰のもんかわかんねえスマホぷかぷか浮いてるとこに向かって己の恥ずかしいもんをぶっ放すのはヤだけど、何が大丈夫なんだよお前。
何でトイレから出てってくんねえんだよ。お前も柏木の類友か? キュートアグなんとかか? 言っとくけど俺、こんなところ見られて可愛いって言われてもうれしくなんかないからな。
うう、マジ最悪、きもちわるい。
視線で凜を出ていかせようとするが、時折みょーに天然入ってるこいつは、俺のまなざしの意図にきづいてくんない。と思えば、ふと思い出したかのように、
「あ、そうか、人に聞かれるのは嫌だよな」
と言って、トイレの扉を閉め、ご丁寧に鍵をかけた。……後ろ手に。
ちげーよ、そうじゃねーよ! 何でなおさら二人きりになろうとすんだよ、お前は!
部屋せめーから、扉なんか閉めちまったら、よりいっそう音が反響すんじゃんかよ。
お前、マジで何考えてんの。バカやろう。ヘンタイ。
散々ののしってやりてえのに、今の俺にはその気力はない。
もう限界で、どうしようもなくて、しかたなく俺はすぐそばに凜のけはいを感じながら、便器に顔を近づける。
でも、人に見られてると思うと緊張して、うまく吐けない。いつも、どうやって吐いてたんだっけ。どうすればいいんだっけ。
胃の中がぐるぐるして、頭もぐるぐるして。きもちわりいのにそれを吐きだす方法がわからなくて。苦しさに涙が出てくる。
「……楓太?」
心配そうな声が聞こえてくる。深くて甘い、とろっとした声。俺の好きな声。
すぐ横を振り向くと、凜は眉を下げ、困ったように俺を見おろしている。さっきの柏木みたいに俺を馬鹿にする様子も、興奮してる様子もない。
それが普通なんだろう。体調悪そうなやつがいたら、大体のやつは心配する。だけどその普通があの柏木の後だと思うと妙に物珍しいように感じてしまう。
俺を助けてくれるのはこいつだけなんじゃないかって思って思っちまう。
「……けて」
凜の服の裾をつかむ。
「たすけて。はきてーのに、うまく、はけねえ」
凜がしゃがみ込む。俺とまっすぐに目を合わせて、俺を安心させるみてえにちょっと笑って、髪を撫でてくる。
「分かった。ちょっと嫌かもしれないけど、我慢してて」
俺は何度もコクコクと頷いた。凜が俺の背後に回り、体をぴったりと包みこむようにかさねる。
「口、ひらいて」
「ん……」
戸惑いがちに口元に伸ばされた指が、奥へと入っていく。誰にも触れさせたことのない場所に。喉仏のしたの辺り、舌の付け根のへんを軽く押される。拒絶反応で体がビクッとふるえた。それを押さえつけるように凜は俺をだきしめて、もう片方の手を鳩尾のあたりに持っていく。
そして、舌の付け根と鳩尾を同時におされるとだめだった。決壊する。
「う、ぇ」
朝吐いたから出るもんなんてないと思ってた。それでも体は胃液やら水分やらがごちゃごちゃに混ざったものを吐き出していく。
どれだけ吐いても気持ちわるさは収まんなくて、胃がぎゅうって引きつるような感覚がして。そのたびに凛が喉をやさしく、だけど確実に押してくるから。喉から、ごぽっ、とやな音がする。
きもちわるい。いやだ、みるな。だめだ、おまえのてが、よごれる。
それらの思念は涙になって俺の目からあふれる。
嫌だ、いやなのに。凜がそばにいてくれるとおもうと安心する。
「大丈夫だよ、楓太」
凜が俺のぐちゃぐちゃな部分をみてもはなれていかない。俺をなぐさめてくれる。
全てを吐き出し、もう出るものがないってなったとき、喉につっこまれてた手がずるっと抜き出される。
「頑張ったな、楓太」
魂まで吐き出しちまったみたいに、俺の体には力が入らなかった。
たおれそうになるおれを、楓太が片手で抱きかかえる。
どこかで声が聞こえる。
あら、陽影くん、どうしたの?
晴中が体調が悪いみたいで、付き添ってました。熱もあるみたいなので、このまま早退させても大丈夫ですか? 俺が連れて帰ります。
水が流れる音と共に、俺のいしきはとおざかっていく。
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