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#14 再び書庫、ソリスの名を胸に
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魔王城の書庫。
埃っぽい書架。揺れる燭台の光。
エレノアは重厚な机に広げられた蘇生の書の断片と、睨み合っていた。
「うぅん……古代文字は苦手なのに……鏡文字なんて……」
鏡を置き、本来の姿を現した文字の羅列から、必死に意味を探る。
デミールが、彼女の肩越しに覗き込んだ。
細い指が、ある一行をすっとなぞる。
「これが『ソリス』だ」
「! ここにも……ここにも、ソリス様の名が……」
(私の神、ソリスの名が、なぜこんな異様な書に……?)
(私の蘇生は、本当に、神の御心に沿うものだったの……?)
蘇ったはずの首筋に、今はない傷跡の幻が走る。
エレノアは、その不安を振り払うように胸元で聖印を切った。
「エレノア様、こちらを」
リレイが、概要をまとめた紙片をそっと差し出した。
「ありがとう、リレイ。でも、あなたたちはどうしてこんな本が読めるの?」
「私は書のために生きてます。
この知識を守ることが、何よりの喜びです」
穏やかな笑みが返る。
「俺は魔法を覚える時、呪文の言葉を嫌というほど叩き込まれた。そのおかげだ」
デミールのぶっきらぼうな言葉に、エレノアは小さく頷いた。
書架の隅で、セリオンが息を呑んだ。
手にしていたのは、エルフの流麗な筆跡で書かれた一冊の随筆。
「なんて美しい……魔の巣窟で、これほどの魂の調べに出会えるなんて」
銀髪を揺らし、しばしその余韻に浸っていたセリオンだったが、ふと本来の目的を思い出す。
彼女はエレノアの隣に立つと、蘇生の書を覗き込んだ。
「エレノア、見て。この呪文、エルフの古語にとてもよく似ているわ」
「だから、きっと大丈夫。これは異端なんかじゃない、神聖なものよ」
「セリオン……ありがとう。心強いわ」
セリオンの言葉に、エレノアの表情がふっと和らいだ。
その時だった。
ガサゴソッ!
書架の間から、大きな物音が響いた。
「お宝お宝~っと! 魔王の魔法陣の切れっ端でもないかしら!」
ペナミが、古い書物を次々と引っ張り出しては、床に放り出していく。
リレイの顔からサッと血の気が引く。
「ああっ! ペナミ様、その書は丁寧に……! 破れたらもう元には……!」
「堅いこと言わないの! 宝の匂いはこっちなんだから!」
「ペナミ、書庫では静かにしろ。リレイが泣きそうだぞ」
デミールが呆れたように言うと、ペナミはぺろりと舌を出した。
そこへ、書庫の扉がゆっくりと開く。
現れたのは、勇者レオナートだった。
「ペナミ、いつもの宝探しか? だが今はそれより重要な任務がある」
「ちぇー、いいところだったのに!」
「魔王の財宝庫の目録を作る。君の鑑定の目が必要だ」
「遺物鑑定!? ……まあ、それなら面白そうね!」
レオナートの笑みに、ペナミは渋々頷いた。
「じゃあ、みんな! 宝の分け前、期待しててよね!」
レオナートはペナミを促し、扉に手をかける。
だが、彼は一度動きを止め、真剣な表情で振り返った。
「……グラングとも話したんだが」
書庫の空気が、ぴんと張り詰める。
「デミールがエレノアを蘇生させた件、これは俺たちの胸にだけしまっておきたい」
「魔法使いが僧侶の蘇生呪文を使ったなんて知れたら、・・・教会が黙っていないだろう」
ゴクリ、と誰かが息を呑む。
「――そこで、こう報告する」
「『グラングとエレノアは負傷し、気絶。その間にデミールが魔王を倒した』」
「『その後、意識を取り戻したエレノアが、残る三人を蘇生させた』……と」
静寂の中、仲間たちがゆっくりと頷く。
レオナートは安堵の息を漏らし、ペナミと共に書庫を出ていった。
扉の向こうから、「え、秘密~? めんどくさーい!」という声が微かに聞こえてきた。
「……魔法使いがソリス様の呪文を使ったことは、秘密」
エレノアが、ぽつりと呟く。
「でも、この術そのものは、異端じゃ、ないのよね……?」
不安げな瞳が、デミールに向けられる。
「ああ、異端じゃねえ」
デミールは書物の埃を払い、静かに言った。
「術は、ね。でも……この書庫にある本そのものが、異端と見なされるかもしれないわ」
エレノアの不安げな声に、リレイがハッとする。
「ええ。王都で噂の焚書派が見たら、狂喜乱舞するでしょうね」
セリオンが答える。
「聖書以外は全部火にくべろってやつらか……
そんなやつらまで気にする必要はないだろう。
魔法使いにとっては本は栄養だ、焼かれてたまるか。」
デミールが残念そうにつぶやく
「本は栄養。たしかにそうかもね」
セリオンがくすっと笑って返した。
エレノアはなにも言わず、沈黙していた。
書庫の静寂の中、燭台の光だけが不穏に揺れていた。
埃っぽい書架。揺れる燭台の光。
エレノアは重厚な机に広げられた蘇生の書の断片と、睨み合っていた。
「うぅん……古代文字は苦手なのに……鏡文字なんて……」
鏡を置き、本来の姿を現した文字の羅列から、必死に意味を探る。
デミールが、彼女の肩越しに覗き込んだ。
細い指が、ある一行をすっとなぞる。
「これが『ソリス』だ」
「! ここにも……ここにも、ソリス様の名が……」
(私の神、ソリスの名が、なぜこんな異様な書に……?)
(私の蘇生は、本当に、神の御心に沿うものだったの……?)
蘇ったはずの首筋に、今はない傷跡の幻が走る。
エレノアは、その不安を振り払うように胸元で聖印を切った。
「エレノア様、こちらを」
リレイが、概要をまとめた紙片をそっと差し出した。
「ありがとう、リレイ。でも、あなたたちはどうしてこんな本が読めるの?」
「私は書のために生きてます。
この知識を守ることが、何よりの喜びです」
穏やかな笑みが返る。
「俺は魔法を覚える時、呪文の言葉を嫌というほど叩き込まれた。そのおかげだ」
デミールのぶっきらぼうな言葉に、エレノアは小さく頷いた。
書架の隅で、セリオンが息を呑んだ。
手にしていたのは、エルフの流麗な筆跡で書かれた一冊の随筆。
「なんて美しい……魔の巣窟で、これほどの魂の調べに出会えるなんて」
銀髪を揺らし、しばしその余韻に浸っていたセリオンだったが、ふと本来の目的を思い出す。
彼女はエレノアの隣に立つと、蘇生の書を覗き込んだ。
「エレノア、見て。この呪文、エルフの古語にとてもよく似ているわ」
「だから、きっと大丈夫。これは異端なんかじゃない、神聖なものよ」
「セリオン……ありがとう。心強いわ」
セリオンの言葉に、エレノアの表情がふっと和らいだ。
その時だった。
ガサゴソッ!
書架の間から、大きな物音が響いた。
「お宝お宝~っと! 魔王の魔法陣の切れっ端でもないかしら!」
ペナミが、古い書物を次々と引っ張り出しては、床に放り出していく。
リレイの顔からサッと血の気が引く。
「ああっ! ペナミ様、その書は丁寧に……! 破れたらもう元には……!」
「堅いこと言わないの! 宝の匂いはこっちなんだから!」
「ペナミ、書庫では静かにしろ。リレイが泣きそうだぞ」
デミールが呆れたように言うと、ペナミはぺろりと舌を出した。
そこへ、書庫の扉がゆっくりと開く。
現れたのは、勇者レオナートだった。
「ペナミ、いつもの宝探しか? だが今はそれより重要な任務がある」
「ちぇー、いいところだったのに!」
「魔王の財宝庫の目録を作る。君の鑑定の目が必要だ」
「遺物鑑定!? ……まあ、それなら面白そうね!」
レオナートの笑みに、ペナミは渋々頷いた。
「じゃあ、みんな! 宝の分け前、期待しててよね!」
レオナートはペナミを促し、扉に手をかける。
だが、彼は一度動きを止め、真剣な表情で振り返った。
「……グラングとも話したんだが」
書庫の空気が、ぴんと張り詰める。
「デミールがエレノアを蘇生させた件、これは俺たちの胸にだけしまっておきたい」
「魔法使いが僧侶の蘇生呪文を使ったなんて知れたら、・・・教会が黙っていないだろう」
ゴクリ、と誰かが息を呑む。
「――そこで、こう報告する」
「『グラングとエレノアは負傷し、気絶。その間にデミールが魔王を倒した』」
「『その後、意識を取り戻したエレノアが、残る三人を蘇生させた』……と」
静寂の中、仲間たちがゆっくりと頷く。
レオナートは安堵の息を漏らし、ペナミと共に書庫を出ていった。
扉の向こうから、「え、秘密~? めんどくさーい!」という声が微かに聞こえてきた。
「……魔法使いがソリス様の呪文を使ったことは、秘密」
エレノアが、ぽつりと呟く。
「でも、この術そのものは、異端じゃ、ないのよね……?」
不安げな瞳が、デミールに向けられる。
「ああ、異端じゃねえ」
デミールは書物の埃を払い、静かに言った。
「術は、ね。でも……この書庫にある本そのものが、異端と見なされるかもしれないわ」
エレノアの不安げな声に、リレイがハッとする。
「ええ。王都で噂の焚書派が見たら、狂喜乱舞するでしょうね」
セリオンが答える。
「聖書以外は全部火にくべろってやつらか……
そんなやつらまで気にする必要はないだろう。
魔法使いにとっては本は栄養だ、焼かれてたまるか。」
デミールが残念そうにつぶやく
「本は栄養。たしかにそうかもね」
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エレノアはなにも言わず、沈黙していた。
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