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#30 焚書の悪夢、戦いの行方
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ひんやりと湿った地下壕。蝋燭の小さな灯りが、三人の追いつめられた顔を照らしていた。
「エレノアからその魔力を吸い出しちまえば、元に戻るかもしれねえ!」
グラングが可能性を信じて独自の意見を言う。だが、デミールは静かに首を振った。
「……駄目だ。魔力を抜けば、エレノアはただの死体に戻る可能性がある」
(魔王の最期がそうだったように……)
脳裏をよぎる記憶に、デミールは目を伏せた。
「ちっ! それじゃあ何もできないのかよ!」
「待ってください!」
声を荒げるグラングを、リレイが震える声で制した。
「その力…『ダークグレイス』の正体さえわかれば、きっと解決策が……!」
ゴッ……!
言葉を切った瞬間、回廊の奥から鈍い物音が響いた。
デミールは素早く剣の柄に手をかける。
「この通路を知っているのは?」
「……セリオン様です」
リレイが顔を青ざめさせ、胸に抱いた古文書を握りしめた。
「本が……城に残してきた書物が……!」
「本は後だ、リレイ! 今は地上へ逃げるぞ!」
デミールの鋭い声に弾かれ、三人は退避壕を飛び出した。
地上の広場に出た瞬間、彼らは息を呑んだ。
エレノア、レオナート、セリオン、ペナミ。四人が、静かに待ち構えていた。
(操られている…? いや、違う! 動きが滑らかすぎる……! まるで、かつての……)
「リレイ、お前は城に戻れ! いいな、自分の命は自分で守るんだ!」
「で、でも……!」
「早く行けッ!」
リレイはデミールに背中を押され、踵を返して城に駆け戻った。四人はそれを追う素振りも見せない。
エレノアの銀色の瞳が、禍々しい輝きを放つ。その声は聖歌のように甘美で、呪いのように冷たかった。
「デミール、グラング……さあ、昔のように六人で共に戦いましょう。ソリス神の御名のもとに、この穢れた世界を浄化するのです」
「デミール、グラング。君たちも共に来ないか? 歓迎するよ」
レオナートが穏やかに微笑み、セリオンが静かに頷く。ペナミの顔にも、かつての笑顔が戻っているように見えた。だが――。
「おい! エルフやハーフリングだったてめえらが、ソリス教に帰依したのか?」
グラングが地面に唾を吐く。エレノアは悲しげに首を振った。
「ソリス神こそが絶対の正義。異教徒は、滅ぼさねばならないのです」
「そんな歪んだ正義、受け入れられるものか!」
デミールの拒絶が、戦いの合図だった。
ヒュンッ!
交渉が決裂した次の瞬間、セリオンの矢がデミールの呪文詠唱を寸断する。
「――獄炎よ! ぐっ……!」
言葉が続く前に、矢が喉元をかすめる!
(速い! 詠唱させない気か!)
ガキンッ!
グラングの戦斧が、死角から振るわれたレオナートの剣に弾かれた。
「ちくしょう、位置取りが完璧すぎる……!」
「操ってるのはエレノアだっ! 本体を叩く!」
デミールは叫び、いかずちの魔法をエレノアに打ち込む。だが、いかずちは彼女に届く前に不可視の壁に弾かれた。
「神聖力のバリアか! やはり僧侶の力が強化されて……」
「デミール!」
グラングが叫ぶ。その懐にペナミが電光石火の速さで滑り込み、短剣が脇腹を裂いた。
「ぐっ……!」
グラングが膝をつき、石畳に血が滴る。デミールは間一髪で彼を庇い、引きずるように後退した。
「くそっ…! こいつら、操られてるんじゃねえ! 自分の意思で動いてやがる……!」
グラングが息を荒げて呟く。
(洗脳じゃない……! 信じた正義が『ダークグレイス』に歪められ、狂信へと研ぎ澄まされた結果だというのか……!)
「くそっ、これ以上は無理だ! 逃げるぞ、グラング!」
デミールは左右の森に念を放ち、叫んだ。
「――倒れろッ!」
ズザザザザッ!
巨大な針葉樹が根元から倒れ、エレノアたちとデミールの間を塞ぐ壁となる。
「いそげ!」
デミールはグラングの肩を担ぎ、さらに巨木を倒して追撃を断つ。
「エレノアから切り離せば…各個撃破なら、あるいは……」
森の中で息を整えながら、グラングが苦しげに言う。
「駄目だ! 仲間の命は奪えないだろ! 別の手を考えろ!」
デミールが叫んだ。かつて魔王を滅ぼしたこの手が、今、仲間を傷つけることを拒んでいる。心が、抉られるように痛んだ。
「……そうだな」
グラングが重く頷いた。
「戦えないようにする方法を考えねえと……」
その時、空を旋回する影にデミールが気付いた。二匹のガーゴイルが、リレイを抱えて飛んでいる。
デミールが剣を掲げて合図を送ると、ガーゴイルが下降してきた。
「デミール様! ご無事で……!」
リレイは青ざめた顔で叫んだ。
「城に残した書物はもう…ほとんど焼かれていました……! あの人たちは、本気で知識をこの世から消すつもりです……!」
「落ち着け、リレイ! 今は生き延びるのが先だ!」
グラングが叱咤するが、リレイは必死に訴えた。
「王都の図書館に…! 『ダークグレイス』に関する写本があるはずなんです! あそこなら、きっと…!」
その言葉に、デミールはハッとしてグラングと視線を交わした。
「……王都か!」
「エレノアを…皆を救う手がかりは、そこにあるかもしれん!」
三人の進むべき道が決まった。
夜の闇を切り裂き、王都へ向けて走り出す。背後では、ガーゴイルの翼が不気味に響き、遠くからエレノアの祈りにも似た声が、夜を裂いてこだましていた。
「エレノアからその魔力を吸い出しちまえば、元に戻るかもしれねえ!」
グラングが可能性を信じて独自の意見を言う。だが、デミールは静かに首を振った。
「……駄目だ。魔力を抜けば、エレノアはただの死体に戻る可能性がある」
(魔王の最期がそうだったように……)
脳裏をよぎる記憶に、デミールは目を伏せた。
「ちっ! それじゃあ何もできないのかよ!」
「待ってください!」
声を荒げるグラングを、リレイが震える声で制した。
「その力…『ダークグレイス』の正体さえわかれば、きっと解決策が……!」
ゴッ……!
言葉を切った瞬間、回廊の奥から鈍い物音が響いた。
デミールは素早く剣の柄に手をかける。
「この通路を知っているのは?」
「……セリオン様です」
リレイが顔を青ざめさせ、胸に抱いた古文書を握りしめた。
「本が……城に残してきた書物が……!」
「本は後だ、リレイ! 今は地上へ逃げるぞ!」
デミールの鋭い声に弾かれ、三人は退避壕を飛び出した。
地上の広場に出た瞬間、彼らは息を呑んだ。
エレノア、レオナート、セリオン、ペナミ。四人が、静かに待ち構えていた。
(操られている…? いや、違う! 動きが滑らかすぎる……! まるで、かつての……)
「リレイ、お前は城に戻れ! いいな、自分の命は自分で守るんだ!」
「で、でも……!」
「早く行けッ!」
リレイはデミールに背中を押され、踵を返して城に駆け戻った。四人はそれを追う素振りも見せない。
エレノアの銀色の瞳が、禍々しい輝きを放つ。その声は聖歌のように甘美で、呪いのように冷たかった。
「デミール、グラング……さあ、昔のように六人で共に戦いましょう。ソリス神の御名のもとに、この穢れた世界を浄化するのです」
「デミール、グラング。君たちも共に来ないか? 歓迎するよ」
レオナートが穏やかに微笑み、セリオンが静かに頷く。ペナミの顔にも、かつての笑顔が戻っているように見えた。だが――。
「おい! エルフやハーフリングだったてめえらが、ソリス教に帰依したのか?」
グラングが地面に唾を吐く。エレノアは悲しげに首を振った。
「ソリス神こそが絶対の正義。異教徒は、滅ぼさねばならないのです」
「そんな歪んだ正義、受け入れられるものか!」
デミールの拒絶が、戦いの合図だった。
ヒュンッ!
交渉が決裂した次の瞬間、セリオンの矢がデミールの呪文詠唱を寸断する。
「――獄炎よ! ぐっ……!」
言葉が続く前に、矢が喉元をかすめる!
(速い! 詠唱させない気か!)
ガキンッ!
グラングの戦斧が、死角から振るわれたレオナートの剣に弾かれた。
「ちくしょう、位置取りが完璧すぎる……!」
「操ってるのはエレノアだっ! 本体を叩く!」
デミールは叫び、いかずちの魔法をエレノアに打ち込む。だが、いかずちは彼女に届く前に不可視の壁に弾かれた。
「神聖力のバリアか! やはり僧侶の力が強化されて……」
「デミール!」
グラングが叫ぶ。その懐にペナミが電光石火の速さで滑り込み、短剣が脇腹を裂いた。
「ぐっ……!」
グラングが膝をつき、石畳に血が滴る。デミールは間一髪で彼を庇い、引きずるように後退した。
「くそっ…! こいつら、操られてるんじゃねえ! 自分の意思で動いてやがる……!」
グラングが息を荒げて呟く。
(洗脳じゃない……! 信じた正義が『ダークグレイス』に歪められ、狂信へと研ぎ澄まされた結果だというのか……!)
「くそっ、これ以上は無理だ! 逃げるぞ、グラング!」
デミールは左右の森に念を放ち、叫んだ。
「――倒れろッ!」
ズザザザザッ!
巨大な針葉樹が根元から倒れ、エレノアたちとデミールの間を塞ぐ壁となる。
「いそげ!」
デミールはグラングの肩を担ぎ、さらに巨木を倒して追撃を断つ。
「エレノアから切り離せば…各個撃破なら、あるいは……」
森の中で息を整えながら、グラングが苦しげに言う。
「駄目だ! 仲間の命は奪えないだろ! 別の手を考えろ!」
デミールが叫んだ。かつて魔王を滅ぼしたこの手が、今、仲間を傷つけることを拒んでいる。心が、抉られるように痛んだ。
「……そうだな」
グラングが重く頷いた。
「戦えないようにする方法を考えねえと……」
その時、空を旋回する影にデミールが気付いた。二匹のガーゴイルが、リレイを抱えて飛んでいる。
デミールが剣を掲げて合図を送ると、ガーゴイルが下降してきた。
「デミール様! ご無事で……!」
リレイは青ざめた顔で叫んだ。
「城に残した書物はもう…ほとんど焼かれていました……! あの人たちは、本気で知識をこの世から消すつもりです……!」
「落ち着け、リレイ! 今は生き延びるのが先だ!」
グラングが叱咤するが、リレイは必死に訴えた。
「王都の図書館に…! 『ダークグレイス』に関する写本があるはずなんです! あそこなら、きっと…!」
その言葉に、デミールはハッとしてグラングと視線を交わした。
「……王都か!」
「エレノアを…皆を救う手がかりは、そこにあるかもしれん!」
三人の進むべき道が決まった。
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