贖罪のデミール

umetika

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#36 落陽の魔王城

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「俺もな、あの聖女の変わりっぷりを目の当たりにして、勉強になったよ。
 ロウメルの呪いってのは、本当にあったんだな」

 安全圏まで下がったベリオールが、どこか他人事のように言った。
「お前さんが怒りに任せて突っ込んだ瞬間、あの女は心臓をぶっ潰す気だったぜ。
 罠にハマったのはお前の方だったってことだ。冷静になれよ、魔法使い」
 ベリオールがデミールを諭す。
「…」
 熱くなった自分に気が付いたのか、デミールは沈黙する。
 静かになったデミールに、今度はペナミが口を開いた。
「エレノアは……どうしても“デミールそのまま”が欲しいんだ。
 汚れていないデミールを。だから、あんなことをする。
 でも、それが無理なら――殺して、あたしみたいに操ればいいって……そう思ってる」
「お前さんにも利用価値があるってことかねぇ?」
 あくまで他人事のように言うベリオール
「そういえば、城門側の騒ぎはどうなったんだ?
 別動隊がいるんだろ、元お仲間の?」
  ベリオールのつぶやきに全員が警戒する。

「ひっ!」
 見張りを買って出ていたリレイの短い悲鳴。
「デミール……お前は、もう手伝わなくていい」
 闇の奥から、かつての仲間の声が響いた。
 振り向いたデミールの目が見開かれた。
「グラング!生きていたのか」
 ペナミが慌てて制止する。
「違う、デミール!
 あのグラングはエレノアが蘇生させた...もう昔のグラングじゃない」
 悲しげなペナミの声に被せてグラングが怒鳴る。
「お前の助力はもういらん!
 オーク共はこいつを使って使役する」
 グラングが右腕一本で首を絞め上げているリレイを軽々と振り回す。
「ぐ…ぐ…デミール様…助けて…!」
 弱々しくリレイが訴える。
「なぁリレイ、かつてのようにわしの指示をオークどもに伝えればいいのじゃ! できるよな!」
「グラング様、のどが、のどがつぶれてしまいます
 お手をお放しください・・・」
 情けない訴えをきいてグラングはリレイを放り出す。そして足でリレイの腕を踏みつけ、逃げられないように固定する。
「オークを使役?」
 デミールは眉をひそめグラングに疑問をなげかける
 その瞬間、矢が風を裂き、続いて雷の閃光が落ちる。
 暗闇の奥で、エルフの射手セリオンが静かに弓を構えていた。
 ペナミはふたたび魔王城の仕掛けを作動させ逃げようとするが、ラチェットがひっかかり動かない。
「その仕掛けは、もう動かない」
 セリオンが城の仕掛けをすでに無効化していた。
 遠くで声がする。
「セリオーン、どこだい、デミールを足止めしてくれよー」
 レオナートの声は、戦場の緊迫にまるでそぐわない軽さだった。
「わかったー、今から退路を断つよー!」
 ガキン!
 歯車がかみ合う音がして、天井から格子のシャッターが次々と下りてくる
 退路を断たれた3人
「いや、たしかに仕掛けは無効化されたかもしれん…
 だが、この城の構造を本当に理解しているか?
 支柱をつぶせば城はもたねえんだよ!」
 デミールが短い呪文を吐くと、通路そのものが悲鳴を上げて崩れ落ちた。

 ガラガラガラッ! ドガガンッ!

 崩壊した天井の向こうに、夕刻の真っ赤な空が広がっていた。
「こんな派手な逃亡劇するのなら
 もっと報酬もらっとくんだったな」
 年齢に見合わない俊敏さでがれきを駆け上るベリオール
 粉塵の中を見つめるデミールをペナミが促す。
「リレイ、生き延びてくれよ」
 つぶやき、振り向くとペナミと共に走り出すデミール。


 夕焼けの中、砂煙を舞い上げている城を眺める3人。
「あいつらは城の天井が崩れたぐらいでくたばるはずはない。エレノアが瞬時に癒すだろう。
 リレイは…利用価値があるうちは殺さないだろう」
 強がるデミール。その声は、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
 そのデミールにすがるペナミ。
「…怖い…怖いよ、デミール
 エレノアやレオナートが殺しにくるのは耐えられないよ
 ふたりで逃げよう、デミール……魔王城をぬけて隣国まで行けばエレノアの力も及ばない…」
 ペナミの声は、弱気というより――張りつめた心が、ついに軋んで折れたようだった。
  デミールは、ゆっくりと首を振る。
「……だめだ、ペナミ。逃げたら、エレノアに“魔女”の汚名が着せられる。俺には、それが耐えられない」
 ペナミが目を見開く。
 デミールは声を少しだけ落とし、続けた。
「あいつに命を救われた。死体置き場で――心臓を壊されて、死にかけてた俺を……拾ってくれたのは、エレノアだ」
 一拍の沈黙。その背に、かすかな震え。
「今度は、俺の番だ。あいつを取り戻す。どんな手を使ってでも――
 たとえ、この心臓が、もう一度砕けることになっても」
 ペナミが悲しそうにうなずく
「……やっぱり、エレノアなんだね」
 と小さく呟き、すぐに打ち消すように首を振った。
「そうだね…仲間をもとにもどそう…ロウメルの呪いをとけば…」

 ふたりをベリオールが眺めている。気が付いたデミールが声をかける。
「割に合わないと思っているだろう、ベリオール。
 だが安心しろ。お前の報酬はちゃんと確保してある。
 すぐに払ってもいいし、成功報酬ならば三倍ははずんでやろう」
「すぐに払ってもらおう。そのうえで成功報酬もきっちりもらう。
 ……少し、考えがあるんだ」

 城を離れながら3人は今後のことを打ち合わせていた。
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