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恋人は影
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「言葉は分かる?」
私はボトルのワインを空け、向かいのグラスに静かに注ぐ。誕生日に貰った、良いワインだ。気に入ってくれるといいのだが。
私の向かいに座る『影』は、先程からずっと黙ったままだ。名前をおしえてくれなかったので、第一印象から安直に『影』と呼んでいる。
ただ黒いだけで、実体があるため影ではない。それでも私が先程アパートの1階で鉢合わせた時は、正直何か大きな家具の影かと思ったのだ。近づいて見れば、全然違ったけれど。
影のような生き物は初めて見たと思う。四足歩行ならぬ六足歩行だし、頭がどこに着いているのか分からない。
大きくなった小さくなったりするのに、表皮?はガラスのように硬くて、冷たいのだ。あ、顔ないのか。そりゃ口がないなら話せないはずだ。
そもそも耳も無いのなら、聞こえてない……?
彼は図体を重そうに持ち上げ、六本のうちの一本の足を引きずりながら私を追いかけ、玄関をくぐった。
では何故私に着いてきたのだろう。
答えは簡単。
「うち、来ますか……?」
と、私が言って私自ら招いたため。馬鹿野郎。
というか着いてきたってことは聞こえているのか?日本語が分かるの?
疑問の量にキャパオーバーを起こし頭を抱えるが、当の元凶は私の不振な挙動を気にする素振りもない。注がれたワインに鼻を近づけて、匂いを嗅いでいる……ように見える。その飛び出た所が鼻なの?あなたの体の至る所にあるけど!
しかし、仕方がない。私をここまで自暴自棄にした先輩が悪いのだ。先輩が私をフラなければ、私は謎生物なんて無視して家に帰って、幸せな毎日を噛み締めるはずだったのに。
もういっそ、この化け物を恋人にしてやろうか。
あれ、すごくいい案じゃないか?だって、これで先輩を嫉妬させられる!やったー!
私は、未だワインの様子を伺う影に近づき、肩を寄せ、インカメラで写真を1枚撮った。その間も影は大人しい。肌の冷たささえ、今では愛おしいものになっていた。
「恋人が出来ました」
先輩には一言そう言って、その写真を送る。
先輩びっくりするかな、私に彼氏が出来たと知ったら。
そもそもこの化け物、男なんだろうか。
私はボトルのワインを空け、向かいのグラスに静かに注ぐ。誕生日に貰った、良いワインだ。気に入ってくれるといいのだが。
私の向かいに座る『影』は、先程からずっと黙ったままだ。名前をおしえてくれなかったので、第一印象から安直に『影』と呼んでいる。
ただ黒いだけで、実体があるため影ではない。それでも私が先程アパートの1階で鉢合わせた時は、正直何か大きな家具の影かと思ったのだ。近づいて見れば、全然違ったけれど。
影のような生き物は初めて見たと思う。四足歩行ならぬ六足歩行だし、頭がどこに着いているのか分からない。
大きくなった小さくなったりするのに、表皮?はガラスのように硬くて、冷たいのだ。あ、顔ないのか。そりゃ口がないなら話せないはずだ。
そもそも耳も無いのなら、聞こえてない……?
彼は図体を重そうに持ち上げ、六本のうちの一本の足を引きずりながら私を追いかけ、玄関をくぐった。
では何故私に着いてきたのだろう。
答えは簡単。
「うち、来ますか……?」
と、私が言って私自ら招いたため。馬鹿野郎。
というか着いてきたってことは聞こえているのか?日本語が分かるの?
疑問の量にキャパオーバーを起こし頭を抱えるが、当の元凶は私の不振な挙動を気にする素振りもない。注がれたワインに鼻を近づけて、匂いを嗅いでいる……ように見える。その飛び出た所が鼻なの?あなたの体の至る所にあるけど!
しかし、仕方がない。私をここまで自暴自棄にした先輩が悪いのだ。先輩が私をフラなければ、私は謎生物なんて無視して家に帰って、幸せな毎日を噛み締めるはずだったのに。
もういっそ、この化け物を恋人にしてやろうか。
あれ、すごくいい案じゃないか?だって、これで先輩を嫉妬させられる!やったー!
私は、未だワインの様子を伺う影に近づき、肩を寄せ、インカメラで写真を1枚撮った。その間も影は大人しい。肌の冷たささえ、今では愛おしいものになっていた。
「恋人が出来ました」
先輩には一言そう言って、その写真を送る。
先輩びっくりするかな、私に彼氏が出来たと知ったら。
そもそもこの化け物、男なんだろうか。
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