アルファが僕を選ばない10の理由

田中 乃那加

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勉強会も青春ってことで

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「…………最悪だ」

 昼休みにて。
 最初に机に突っ伏してつぶやいたのは篠原だった。

「同じく」
「僕も」

 伊織と貴田も頭を抱える。
 手にはくしゃくしゃになった答案用紙。三人は見事に試験で撃沈したのだ。

「いやいやいや無理、ちょっと高校の試験ナメてたわ」

 友人のその言葉に伊織は力なくうなずいた。

 元々勉強は得意でないどころか苦手教科が多すぎてどこから手をつけていいやらって感じだったのもあって、この悲惨な結果である。

「一年の一学期で赤点で追試とか」
「普通にやばいよな……」

 そうして三人はそろってため息をついた時だった。

「伊織ちゃんっ、篠原っ、貴田ぁ! 一緒にお弁当食べよ!!」

 楽しげに教室に飛び込んできたのは稀美である。
 相変わらず人生すべてがキラキラしているのかと思うくらい明るく無邪気な少女に憂鬱沈んでいた気持ちまで軽くなるようだった。

「稀美さんは頭良さそうでいいなぁ」

 ふと出た伊織の言葉に彼女は一瞬だけキョトンとした顔をする。

「頭?」
「今日、テスト返ってきたけどもう最悪で……」
「あー、そっか。アタシ勉強好きだから」

 あっけらかんと発せられた返事に三人は顔を見合わせた。

「勉強好きってマジかよ」
「世の中にいたのか、そんなやつ」
「さすがだなぁ。才色兼備なんだね」

 もう嘆くしかない彼らを見回した稀美は小首を傾げて一言。

「勉強会、する?」

 つまり追試に向けて一緒に勉強しようという申し出だ。
 彼らは申し合わせたように全力でうなずいた。

「「「する!!!」」」

 この必死な様子に稀美はひかないらしい。むしろどこか楽しそうに笑っている。

「よしよし意欲は大事だよね。んじゃあ早速、今日の放課後から勉強会しよっか」
「「「もちろん!!!」」」
「あははっ、意欲すごーい」

 こうして追試のための勉強会が決定した。






 そしてその時は来た。

「お、おい。これどういう事だよ!」

 放課後に招かれたのはなんと稀美の自宅でドギマギする三人だったが、思いもよらぬ先客に一瞬唖然としたあとに篠原が小声で伊織につめよった。

「僕に言われても知らないってば」

 もちろん本当に知らなかった。

「や、山口」
「恭弥くん……?」

 気まずそうに目を伏せて大柄な身体を縮め込ませている山口と、どこか憮然とした表情の恭弥がいたのだ。

「あの」
 
 まず口火を切ったのが山口だった。

「二人ともすまなかった!」

 そう言って頭を下げる。

「自分でも最低なことを言ってたのは理解してたんだ。しかも意地になってずっとお前らを無視するような態度とって学校にも行かなくて」

 たしかにあれから休みがちだったし、気まずいを超えて完全シカトされていたのだが。

「すべてはオレの身勝手で八つ当たりだ。本当に悪かった」

 そう言って謝る友人のを見ながら、伊織は篠原や貴田とも視線を交わしてから口を引いた。

「顔上げてよ」

 おずおずと見せた彼の顔を見て笑いかける。

「僕こそムキになってごめんね、山口くん」
「伊織……!」

 感極まったのか、大きな身体でぶつかるように抱きすくめられた。

「わっ!?」
「お前は本当に良い奴だ!! ありがとう!」
「もう山口くんってば大袈裟だなぁ」

 呆れ半分、安堵半分。ともあれ和解出来てよかったと思った、が。

「おい」

 不機嫌極まりないない低音が響いたかと思えば、今度は強引に引き離された。

「あっ!」
「コンプラ違反だぞ」
「恭弥くん何を言って――」

 気づけば彼に後ろから抱える形で奪い去られていた。
 
「さすがにいい気はしない」
「?」

 拗ねたような声色に鼓動が跳ね上がりかけるが、彼の表情がまったく見えないからどんな反応をすれば分からない。

「恭弥くん……?」

 ――なんか怒ってる、とか。

 まるで嫉妬してくれているみたいだと夢見るのと同時に。

 ――そんなワケないよね。

 とすぐさま打ち消して感情の底へしまい込む。
 
 なぜなら彼が自分を好きになる理由がなくて、その逆の理由ばかりが10も20も挙げられるから。

「ていうかなんで一ノ瀬こいつがいるんだよ!」

 ジトッとした目で言ったのは誰だったか。
 しかし飲み物をお盆に乗せて戻ってきた稀美があっけらかんとした声でそれに応える。

「家庭教師は多い方がいいもん」
「家庭教師?」

 伊織が聞き返すと、相変わらず季節外れのセミのように背中に張り付く男は当然と言った様子で口を開く。

「俺はこいつ担当するからあとは稀美がやれ」
「はい却下」

 間髪いれずの即答であった。というかむしろ食い気味の却下に鼻白んだ表情と抗議の唸り声をあげる恭弥にも稀美は動じない。

「ちゃあんと平等で公正なルールは必要だと思うのよねぇ」
「そんなのいらん。俺がルールだ」

 ついにはとんでもないことを言い出す彼に、伊織も含め一同は普通にひくが彼女だけは。

「あっはっはっ! バカなこと言わないの。ほんっとに恭弥は昔からバカだよねぇ」

 なんて明るく笑い飛ばすもので、彼が険しい顔をしたのが背中越しにでも分かった。

「おい、言うに事欠いて俺をバカというのか」
「うん。おバカちゃんだよー。マジで昔から変わってないねー」
「ふざけんな、バカ女」
「それはあたしに成績で勝ってから言おうよ」
「くっ」
「うふふふ、勝った!」

 なんとあの恭弥を言い負かしたのだ。ぐうの音も出ないといった様子で口火かみしめてぐぬぬとなっている彼と、邪気のない顔で伊織にニコニコと笑いかける稀美。

 さすが幼なじみというべきか。

「おお、すげぇ」
「カッケェ……まさに完全論破だな」
「姉御!! 一生ついていきます!!!」

 友人たちの感動さえしたという空気の中、伊織は別のことを考えていた。

 ――羨ましい、なんて。

 女友達にもヤキモチ妬くようになったら終わりだと思いつつ。こんな互いを知り尽くしたような軽い喧嘩もして、しかも後腐れもないなんて。

 嫉妬さえおこがましいよな、なんて自嘲的に独りごちる。

「伊織は俺に教えられるの嫌なのかよ」
「え?」

 考え込んでいると、なんだか拗ねたような声がふってきた。
 振り向こうにも後ろから抱きつかれてる分、身動きがとれず表情は分からない。

「嫌なのかって聞いてる」
「そんなわけ……」

 あるわけない。
 いや、もしかしたら心臓がやかましくなりすぎて勉強どころではなくなるかもしれないが。

 ――でも。

 これもきっと自分のこと特別だとかそういう意味で言ったわけではないだろう、と伊織は思った。

 おおよそ俺の稀美に近づくな、とか敵意を隠さない篠原たちと絡みたくないとかそういう理由なのだろう。

 ――調子にのっちゃダメだ。

 結局それで傷付くのは自分なのだから。

「ハイハイハイ! くじ引きするよ~!!」
「はぁぁ!?」
 
 彼女が満面の笑みで、割り箸を持ってきた。
 よく見れば全部ちゃんと割られていて、その先っぽには二つの色が塗られている。

「やっぱり公平に決めないと、ね!」
「嘘だろ……」
「ぶっぶー、ウソじゃありませーん。あたしはやると言ったらやるからね」
「くそっ」

 悔しげな声なんて耳に入らない。ただこの体温にドキドキしっぱなしだから。

 ――やっぱり距離感おかしくない!?

「もしかして」

 挑戦的に上がる口角は美少女のもので。

「恭弥は自分の運に自身がないのかなぁ」
「は? 意味わかんねぇ」
「ここでビシッとキメるのが男だよ。ね、伊織ちゃん!」

 突然二人の会話からこちらに振られて、彼は戸惑う。

「へ?」
「ほら、伊織ちゃんもそう言ってるもん。ここは腹くくってくじ引きしてね」
「ぼ、僕はなんにも……」

 しかし有無を言わさず目の負けに差し出された割り箸を、二人はなんとも言えない空気のままとった――。
 
 
 
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