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魔力マシマシ、平和主義者
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この村には一通りそろっている。
医者から食糧品店、酒場から宿屋にいたるまで。
確かに国外れの田舎村なので、街のような大規模ではない。自給自足が基本でもある。
しかし田舎にしては、という話だ。
特に武器や防具にいたっては、もはや伝統の技に近いとオルニトは思っている。
「ただいま爺ちゃん」
熱心に作業をする祖父、リケに声をかけて鞄をおろす。
「おう」
短い返事はいつもの事で仕事中は必要最低限の会話である。しかし今日は違ったようで。
「オルニト」
「え?」
育ててる薬草に水でもやってこようかとしていた時だった。ふいに声をかけられて振り返る。
「ヴァリスから何か預かってきただろ」
「あっ」
すっかり忘れていた。
それにしても向こうから話しかけて来るのは珍しい。
頑固者で職人気質が服を着て歩いているようだ、ともっぱら有名な男。
歳をとってからも健在で、厳つい顔もあいまって村の子供たちには雷オヤジだと恐れられている。
しかし一方では情に厚く、たとえ金のない若い冒険者であっても熱意と向上心に免じて格安で超高性能の武器を作り与えることもあった。
そんな祖父を、師としても祖父としても誇らしく尊敬している。
「ごめん、忘れてた」
小瓶と手紙を差し出せば、まず手紙をひったくるようにとられた。
「これなに? 水薬っぽいけど」
教会では薬は売っていないはずだ。薬屋が手広くやっているから、それを買ってきたのだろうか。
「でもこの小瓶、なんか歪っていうか。色も不思議だし……」
「うるせぇ」
「痛っ!」
光に透かして見ていると軽く小突かれた。
「さっさと仕事に戻らんか」
「はいはい」
叱られ小瓶をうばわれたオルニトは、肩をすくめる。
怒っているように見えるが、声のトーンがやや高い。その手紙にはよほどいい事が書かれていたのだろうか。
「あ、ねえ爺ちゃん」
「なんだ」
「僕にもそろそろちゃんと武器つくらせてよ」
「駄目だ」
「えー」
即答で却下された。まあ予想した返事だったが。
「磨きひとつまだ完璧にこなせねぇヒヨッコが、偉そうにいってんじゃあねぇぞ」
磨き、とはその言葉通りで完成品を拭上げたり錆びた武器を研磨する仕事なのだが。
「そんなことないよ! だっていつも――」
「この前、完成した魔銃の先をぶち折りやがったのを忘れてねぇからな」
「うっ」
客の要望もあって極めて繊細なデザインだったそれを、仕上げでうっかり壊してゲンコツ食らったのは記憶に新しい。
しゅん、と頭をたれる彼にリケは鼻を小さく鳴らす。
「慌てるんじゃねぇよ、お前にはまだ時間はあるんだ。この老いぼれとは違ってな」
たしかにまだ自分は若いかもしれない。しかし一刻も早く祖父の技を引き継いで、一人前になりたいのだ。
「でも爺ちゃんは僕くらいの歳には、すでに腕を認められてたって」
「誰に聞いたんだ」
「村長のエラリフさんに」
「まったくあの馬鹿が……」
舌打ちと共にため息を吐く彼を見て、オルニトの心はどんどん萎んでいく。
やはり自分のような者はどこへ行っても、特になんの才能もなく生きていくのだ。
それがたとえ異世界であろうが。
ここは創作でなく、あくまで現実世界なのだと痛感させられる。
「オルニト」
下向きがちの視線が祖父の声で震えた。
「オレらの時代はな、とにかく場数踏んで無理矢理にでも腕をあげなきゃ生きていけなかった」
「……」
「だが今はちがう。だいたいそう焦る必要なんぞないだろう」
言いたいことは分かる。
しかし前世で限界社畜としてブラック企業でこき使われまくった記憶が疼くのだろう。
無能、ノロマと罵倒されて追い立てられるように働く日々。
コンプラや働き方改革なんてものは魔法の言葉にはならない。
むしろ業界全体の人を減らし、逃げそびれた社畜達は重い腰でズルズルと泥舟でゆく。
それが一転してのんびり異世界生活。
たしかに望んだし享受しているのもたしかだ。
一方で焦燥感もあった。
「でも僕、爺ちゃんをはやく安心させたい」
「馬鹿野郎」
「いてっ!」
今度はゲンコツだ。
口より先に手が出るのはもう慣れっこだし、その目はいつも優しいから気にしない。
「オレを年寄り扱いするつもりか」
「だってさっき自分で老いぼれって……」
「やかましい、減らず口め」
さながら昭和のお父さんムーブだと脳天をさすりながら、でも不器用な優しさに頬が緩む。
オルニトの両親は物心つく前に死んだらしい。
というのも二人とも狩人だったが、魔獣に食い殺されたと聞かされていた。
だからリケは親代わりでもあるのだ。
両親がいない子供というのは、前世でしかも日本でなら特殊環境かもしれない。
だがここではそう珍しくもないのだ。親が出稼ぎで、普段は親戚の家に身を寄せている子どもだって少なくない。
「そういえば村にやってきた旅人がいてね。それが――」
と、ここで言葉を止めた。
魔族と言おうとしたのだ。しかし忘れていたことがある。
祖父は魔族が嫌いだった。
「どうした」
怪訝そうな反応に笑って誤魔化し、オルニトは眉を下げる。
「動植物を研究する学者さんでね、魔獣に襲われて怪我をしてたみたいなんだ」
「ふむ。しかし村によく入れたな、許可証でもあったのか」
商人ですら許可証が必要だ。それくらい厳重な扱いなのだ、この村は。
「いや、アルマが弟子にするって」
「あの娘が? ヴァリスが許すはずがないだろ」
「うん、怒ってたよ」
「だろうな」
ふ……と小さく笑みをこぼしながら小瓶を眺める。
「爺ちゃんって実は牧師様のこと嫌いじゃないよね」
「あ?」
軽口をたたくと眉間にシワを寄せて睨まれる。
「うるせぇ、さっさと行け」
「はーい」
あの二人はあまり仲が良くない、というのがこの村の共通認識だ。
たいていヴァリスの方が先手必勝とばかりに嫌味を言って、それにリケが返して口喧嘩になる。それがお約束なわけだが、身近で見てると少し違う光景も見えてくるもので。
……本当は仲良いクセに。
なんて口にしようもんなら、またドヤされてしまうだろうが。
「ある意味羨ましいけどなァ」
そっと独りごちる。
前世でも親友と呼べる者はいなかったし、悲しいことに今世にもいない。
幼い頃はそれなりに同年代もいて仲良くしていたと思うが、いかんせん大人達がどこかよそよそしかった。
それは大人になるとより顕著で、分け隔てなく親しくしてくれていたはずの者たちにも気付けばどこか距離を置かれている気がする。
やはり自分のコミュ障は前世からなのだろうか。
「ハァ……」
少し落ち込みながら、作業場を裏口から出る。
まずは仕事道具の洗浄をしてから、頼まれていたお遣いをしなければ。あと家族としての役割である家事の分担もだ。
二人きりの家族で、師弟。どうも曖昧になりがちだ。
「さて、と」
パンっと自らの顔を、両手軽く叩く。こうやって気合いれて頑張りたい。
「……綺麗な顔を叩くな」
「へ?」
ふいに声が飛んできて振り返る。
「イドラ」
黒ずくめの長身が立っていた。
「どうしたの。アルマは?」
「あの小娘……じゃなくて師匠とあの牧師は人遣いが荒くてな」
見れば手には大きなカゴが。買い物を任されたのだろう。
なんともチグハグで思わず吹き出しそうになった。
「いきなり市場へ行けと言われたんだが」
「そりゃあハードル高いね」
今日来たばかりの旅人にさせる仕事としては難し過ぎるだろう。
オルニトは少し考えてから。
「僕も一緒に行ってもいいかな」
そう言って彼の方を見あげた。
「それはありがたいが、良いのか?」
「全然。ヒマだったから」
嘘である。しかしこっちも市場に用事が無いわけでもない。
「おいで機械仕掛けの使い魔、ポチ!」
呼びかけるとどこからか、ふよふよとあの眼球型の使い魔が飛んできた。
そして身体にまとわりついてくる。さながら甘えるかのように。
「うぅ、やっぱり怖い……」
名前も様子も犬ころみたいだが、やはりバレーボール大の眼球だ。しかも尻尾みたいにフリフリしてるのは視神経を模したモノ。
なかなかクセの強めなデザインに、どうにも馴染めないのだ。
「そうか? 丸いし可愛いのだろう、こういうのは」
「その感性がわかんないんだよなぁ」
イドラもまた首をかしげている。そんな反応されると、必要以上に苦手意識持ってるこっちがおかしいみたいではないか。
しかし今はそこを気にしている場合じゃない。
はしゃいで飛び回る眼球、ポチを努めて優しく手にして (乱暴にするのもまた怖い) 話しかける。
「あのね、ポチ。ちょっと出掛けたいから仕事お願いしていい?」
そうしていくつか簡単な用事を言いつけた。
ポチはまるで頷くように揺れると、ヌチャァという奇妙な粘液質な音とともに二本の腕が生えてくる。
「ゔっ」
いよいよ気持ち悪そうに顔を歪める持ち主にはお構い無しに、その腕をブンブン振ってご機嫌な様子。
「面白いデザインだな、これは」
「面白いというかなんというか……」
本人 (?)の前で言うのははばかられるが、やはりグロテスクだと思う。
しかしグッとこらえて。
「よ、よしよし。頑張ってこれるかな?」
と懐いてくる使い魔を覗き込む。
ポチはクゥゥン、とこれまた犬のような声をあげてなにか要求しているらしい。
「わかったよ。ちょっと待ってて」
「エサでもやるのか」
「ううん。そうだったらいくらか気楽なんだけどね」
イドラにぎこちない笑みを向けてから息を吸う。気合いを入れるため。
「ご褒美、ね?」
ところどころ血走った青白い球体に、そっと口付けたのだ。
きっちり三秒。これがポチにとってのご褒美である。
【キュ゙ウゥゥ゙ゥンッ! 】
うれしそうに鳴く。ぷるぷる震えて、今にも嬉ションでもしそうだ。
「じゃあ行こっか、案内するね」
向き直り今度は満面の笑み。
だがそこに影が覆いかぶさった。
「んぅッ!?」
舌で唇を舐められる。しかしそれだけであっさり離れていき。
「……消毒だ」
と何故か憮然としているイドラのことを、オルニトは呆然と見つめていた。
医者から食糧品店、酒場から宿屋にいたるまで。
確かに国外れの田舎村なので、街のような大規模ではない。自給自足が基本でもある。
しかし田舎にしては、という話だ。
特に武器や防具にいたっては、もはや伝統の技に近いとオルニトは思っている。
「ただいま爺ちゃん」
熱心に作業をする祖父、リケに声をかけて鞄をおろす。
「おう」
短い返事はいつもの事で仕事中は必要最低限の会話である。しかし今日は違ったようで。
「オルニト」
「え?」
育ててる薬草に水でもやってこようかとしていた時だった。ふいに声をかけられて振り返る。
「ヴァリスから何か預かってきただろ」
「あっ」
すっかり忘れていた。
それにしても向こうから話しかけて来るのは珍しい。
頑固者で職人気質が服を着て歩いているようだ、ともっぱら有名な男。
歳をとってからも健在で、厳つい顔もあいまって村の子供たちには雷オヤジだと恐れられている。
しかし一方では情に厚く、たとえ金のない若い冒険者であっても熱意と向上心に免じて格安で超高性能の武器を作り与えることもあった。
そんな祖父を、師としても祖父としても誇らしく尊敬している。
「ごめん、忘れてた」
小瓶と手紙を差し出せば、まず手紙をひったくるようにとられた。
「これなに? 水薬っぽいけど」
教会では薬は売っていないはずだ。薬屋が手広くやっているから、それを買ってきたのだろうか。
「でもこの小瓶、なんか歪っていうか。色も不思議だし……」
「うるせぇ」
「痛っ!」
光に透かして見ていると軽く小突かれた。
「さっさと仕事に戻らんか」
「はいはい」
叱られ小瓶をうばわれたオルニトは、肩をすくめる。
怒っているように見えるが、声のトーンがやや高い。その手紙にはよほどいい事が書かれていたのだろうか。
「あ、ねえ爺ちゃん」
「なんだ」
「僕にもそろそろちゃんと武器つくらせてよ」
「駄目だ」
「えー」
即答で却下された。まあ予想した返事だったが。
「磨きひとつまだ完璧にこなせねぇヒヨッコが、偉そうにいってんじゃあねぇぞ」
磨き、とはその言葉通りで完成品を拭上げたり錆びた武器を研磨する仕事なのだが。
「そんなことないよ! だっていつも――」
「この前、完成した魔銃の先をぶち折りやがったのを忘れてねぇからな」
「うっ」
客の要望もあって極めて繊細なデザインだったそれを、仕上げでうっかり壊してゲンコツ食らったのは記憶に新しい。
しゅん、と頭をたれる彼にリケは鼻を小さく鳴らす。
「慌てるんじゃねぇよ、お前にはまだ時間はあるんだ。この老いぼれとは違ってな」
たしかにまだ自分は若いかもしれない。しかし一刻も早く祖父の技を引き継いで、一人前になりたいのだ。
「でも爺ちゃんは僕くらいの歳には、すでに腕を認められてたって」
「誰に聞いたんだ」
「村長のエラリフさんに」
「まったくあの馬鹿が……」
舌打ちと共にため息を吐く彼を見て、オルニトの心はどんどん萎んでいく。
やはり自分のような者はどこへ行っても、特になんの才能もなく生きていくのだ。
それがたとえ異世界であろうが。
ここは創作でなく、あくまで現実世界なのだと痛感させられる。
「オルニト」
下向きがちの視線が祖父の声で震えた。
「オレらの時代はな、とにかく場数踏んで無理矢理にでも腕をあげなきゃ生きていけなかった」
「……」
「だが今はちがう。だいたいそう焦る必要なんぞないだろう」
言いたいことは分かる。
しかし前世で限界社畜としてブラック企業でこき使われまくった記憶が疼くのだろう。
無能、ノロマと罵倒されて追い立てられるように働く日々。
コンプラや働き方改革なんてものは魔法の言葉にはならない。
むしろ業界全体の人を減らし、逃げそびれた社畜達は重い腰でズルズルと泥舟でゆく。
それが一転してのんびり異世界生活。
たしかに望んだし享受しているのもたしかだ。
一方で焦燥感もあった。
「でも僕、爺ちゃんをはやく安心させたい」
「馬鹿野郎」
「いてっ!」
今度はゲンコツだ。
口より先に手が出るのはもう慣れっこだし、その目はいつも優しいから気にしない。
「オレを年寄り扱いするつもりか」
「だってさっき自分で老いぼれって……」
「やかましい、減らず口め」
さながら昭和のお父さんムーブだと脳天をさすりながら、でも不器用な優しさに頬が緩む。
オルニトの両親は物心つく前に死んだらしい。
というのも二人とも狩人だったが、魔獣に食い殺されたと聞かされていた。
だからリケは親代わりでもあるのだ。
両親がいない子供というのは、前世でしかも日本でなら特殊環境かもしれない。
だがここではそう珍しくもないのだ。親が出稼ぎで、普段は親戚の家に身を寄せている子どもだって少なくない。
「そういえば村にやってきた旅人がいてね。それが――」
と、ここで言葉を止めた。
魔族と言おうとしたのだ。しかし忘れていたことがある。
祖父は魔族が嫌いだった。
「どうした」
怪訝そうな反応に笑って誤魔化し、オルニトは眉を下げる。
「動植物を研究する学者さんでね、魔獣に襲われて怪我をしてたみたいなんだ」
「ふむ。しかし村によく入れたな、許可証でもあったのか」
商人ですら許可証が必要だ。それくらい厳重な扱いなのだ、この村は。
「いや、アルマが弟子にするって」
「あの娘が? ヴァリスが許すはずがないだろ」
「うん、怒ってたよ」
「だろうな」
ふ……と小さく笑みをこぼしながら小瓶を眺める。
「爺ちゃんって実は牧師様のこと嫌いじゃないよね」
「あ?」
軽口をたたくと眉間にシワを寄せて睨まれる。
「うるせぇ、さっさと行け」
「はーい」
あの二人はあまり仲が良くない、というのがこの村の共通認識だ。
たいていヴァリスの方が先手必勝とばかりに嫌味を言って、それにリケが返して口喧嘩になる。それがお約束なわけだが、身近で見てると少し違う光景も見えてくるもので。
……本当は仲良いクセに。
なんて口にしようもんなら、またドヤされてしまうだろうが。
「ある意味羨ましいけどなァ」
そっと独りごちる。
前世でも親友と呼べる者はいなかったし、悲しいことに今世にもいない。
幼い頃はそれなりに同年代もいて仲良くしていたと思うが、いかんせん大人達がどこかよそよそしかった。
それは大人になるとより顕著で、分け隔てなく親しくしてくれていたはずの者たちにも気付けばどこか距離を置かれている気がする。
やはり自分のコミュ障は前世からなのだろうか。
「ハァ……」
少し落ち込みながら、作業場を裏口から出る。
まずは仕事道具の洗浄をしてから、頼まれていたお遣いをしなければ。あと家族としての役割である家事の分担もだ。
二人きりの家族で、師弟。どうも曖昧になりがちだ。
「さて、と」
パンっと自らの顔を、両手軽く叩く。こうやって気合いれて頑張りたい。
「……綺麗な顔を叩くな」
「へ?」
ふいに声が飛んできて振り返る。
「イドラ」
黒ずくめの長身が立っていた。
「どうしたの。アルマは?」
「あの小娘……じゃなくて師匠とあの牧師は人遣いが荒くてな」
見れば手には大きなカゴが。買い物を任されたのだろう。
なんともチグハグで思わず吹き出しそうになった。
「いきなり市場へ行けと言われたんだが」
「そりゃあハードル高いね」
今日来たばかりの旅人にさせる仕事としては難し過ぎるだろう。
オルニトは少し考えてから。
「僕も一緒に行ってもいいかな」
そう言って彼の方を見あげた。
「それはありがたいが、良いのか?」
「全然。ヒマだったから」
嘘である。しかしこっちも市場に用事が無いわけでもない。
「おいで機械仕掛けの使い魔、ポチ!」
呼びかけるとどこからか、ふよふよとあの眼球型の使い魔が飛んできた。
そして身体にまとわりついてくる。さながら甘えるかのように。
「うぅ、やっぱり怖い……」
名前も様子も犬ころみたいだが、やはりバレーボール大の眼球だ。しかも尻尾みたいにフリフリしてるのは視神経を模したモノ。
なかなかクセの強めなデザインに、どうにも馴染めないのだ。
「そうか? 丸いし可愛いのだろう、こういうのは」
「その感性がわかんないんだよなぁ」
イドラもまた首をかしげている。そんな反応されると、必要以上に苦手意識持ってるこっちがおかしいみたいではないか。
しかし今はそこを気にしている場合じゃない。
はしゃいで飛び回る眼球、ポチを努めて優しく手にして (乱暴にするのもまた怖い) 話しかける。
「あのね、ポチ。ちょっと出掛けたいから仕事お願いしていい?」
そうしていくつか簡単な用事を言いつけた。
ポチはまるで頷くように揺れると、ヌチャァという奇妙な粘液質な音とともに二本の腕が生えてくる。
「ゔっ」
いよいよ気持ち悪そうに顔を歪める持ち主にはお構い無しに、その腕をブンブン振ってご機嫌な様子。
「面白いデザインだな、これは」
「面白いというかなんというか……」
本人 (?)の前で言うのははばかられるが、やはりグロテスクだと思う。
しかしグッとこらえて。
「よ、よしよし。頑張ってこれるかな?」
と懐いてくる使い魔を覗き込む。
ポチはクゥゥン、とこれまた犬のような声をあげてなにか要求しているらしい。
「わかったよ。ちょっと待ってて」
「エサでもやるのか」
「ううん。そうだったらいくらか気楽なんだけどね」
イドラにぎこちない笑みを向けてから息を吸う。気合いを入れるため。
「ご褒美、ね?」
ところどころ血走った青白い球体に、そっと口付けたのだ。
きっちり三秒。これがポチにとってのご褒美である。
【キュ゙ウゥゥ゙ゥンッ! 】
うれしそうに鳴く。ぷるぷる震えて、今にも嬉ションでもしそうだ。
「じゃあ行こっか、案内するね」
向き直り今度は満面の笑み。
だがそこに影が覆いかぶさった。
「んぅッ!?」
舌で唇を舐められる。しかしそれだけであっさり離れていき。
「……消毒だ」
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