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文無しなのでアルバイター冒険者になってみた1
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港町クラポトス。
古い言葉の黄金の海の都のが語源となっているらしい。
「初めて来たが、なかなか栄えている町だよな」
「あっそ」
窓から見える風景に心踊らされる俺に対して、スチルの声は暗い。
「っていうか。なんで僕までこんな事に……」
「おいおい、なにしけた顔してんだよ。元気に仕事しよーぜ!」
「アンタは逆になんでそんな元気なんだ」
朝っぱらから叩き起されての皿洗いからの洗濯、その他雑用でこき使われれば疲れた顔にもなるわな。
でもあいにく、俺はその手の下済み時代には慣れてんだよ。
「仕方ないだろ、二人とも金が無いんだから」
なんと俺のみならず、あいつもまた所持金がなかったらしい。聞く所によると森に入るまで持っていたというから、財布ごと落としたのか。はたまた知らず知らずのうちにスられたのか。
どちらにせよマヌケすぎる。
「うぅ……眠いぃ」
「おいおい、シャキッとしろよ。若いんだから」
「うっさいオッサン」
「だからオッサンじゃねーっての」
朝は弱いらしいこいつは、さっきから半泣き状態だ。
二人とも金が無いと気づいた俺たちは、宿屋の主人に華麗なスライディング土下座をキメたさ。
働くんで、許してくださいーって。
それでついでに一週間のアルバイトで当面の金を稼ごうって話になったわけ。ここの主人が話がわかるやつでよかったよ。
そうでなきゃ。俺はボコられた上にヘタすりゃ殺されてたし、スチルはどこぞの変態に売られてたかもしれねえ。
反吐が出るが、子供ってやつはそれだけで色々と需要があるんだ。
あとムカつく奴だけど、お世辞ぬきにツラだけは悪くないからかえって厄介なんだよな。
いざとなったら大人としてコイツを連れて逃げなきゃならないが、それもまた大事になるしって内心ヒヤヒヤしていたところに宿屋の主人からの提案だった。
「なにちんたらしてんの! 時間は有限なのよッ」
ドアがバンッと開けられて開口一番にどやされる。俺たちは思わず首を亀みてぇにすくめた。
「エルさん……」
「先輩と呼びなさい、新人!!」
「せ、先輩」
「頭が高い! 」
洗い物部屋に入ってきた若い女性はエルさん、もといエル先輩。この宿屋に住み込みで働くベテランで、宿屋主人とともにここを切り盛りしてるらしい。
「ほら部屋のベッドメーキングがまだ残ってるのよ! 二人のどっちでもいいから、今すぐ私と来なさい」
「え、えぇ」
すでに早朝から叩き起されこき使われてるせいか、もう腹の虫も限界なんだが。ったく、一応最初は客として来たんだから少しは手加減してくれたっていいのに。
そんな不満が顔に出ていたんだろう。彼女の眉がキッと上がった。
「メイト。貴方が来なさい」
「え?」
「聞こえなかったの? さっさとついてきなさい」
「あ、はい!」
輝くような金髪を前髪ごとひっつめにして、眉間にシワをよせた彼女の言うことに逆らうことなんて出来ない。
エルさんはどこかホッとした顔のスチルに、追加で仕事をいくつか申し付けてくるりと俺たちに向かって背を向けた。
「マジかよぉ」
「くくっ。せいぜい鬼上司の下で頑張れよー」
「おま、他人事だと思って」
ニヤニヤと笑いやがるこのクソチビを少し小突いてやろうかと手を上げかけた、が。
「なにしているのッ、言ったでしょう。時間は有限であると」
「あっ、はい!! すいません!」
叱責で弾かれたようになる俺に、スチルがまた目元だけで笑う。そして口パクで。
『ザ・マ・ア・ミ・ロ』
と。
「テメェなあ――」
「メイト・モリナーガっ!」
「は、はいぃぃっ!!!」
ああちくしょう。絶対に後で泣かしてやる。
俺はそれは固く固く誓った。
※※※
「貴方と彼。どんな関係なの」
「え?」
よくよく見れば少し塗装のはげかけたベッドに真っ白なシーツを掛けてていると、彼女がポツリとそう聞いてきた。
「見たところ親子でもないみたいだし、兄弟? にしてはなにかおかしいわ」
「ええっと」
まあ確かにそうだろうな。とは言っても関係性を問われると俺も答えに窮するというか。めちゃくちゃ複雑なんだよな、正直。
「そもそも貴方たちの身分がよく分からないわ。冒険者だというけど、どこのパーティにも属していないし。それどころか武器すらない」
「あー」
それもごもっとも。もともと野良というか一匹狼での冒険者もかなり珍しいし。その上、武器ひとつもないのもありえないだろう。百歩譲って、魔法使い単独だとしても俺の出で立ちは魔法使いのそれとはかけ離れているのは自覚しているさ。
だからこそ言い訳が思いつかないというか。
「貴方が奴隷商人なら許さないから」
「へ?」
「あんないたいけな美少年をどーこーする気なら、絶対に許さない」
「!?!?!?」
俺が、アイツを? てか、奴隷商人だと思われてる!?
ないないない、ありえない! だいたい金も持ってない商人なんているかよ。そしてアイツとは短い付き合いだが、そんな大人しくどーこーされるタイプじゃねえと思うぞ。
「可憐でか弱い愛らしい子どもを……」
「いやいやいやいや」
見た目はどーか知らんが、あいつはかなり性格も悪いクソガキなんだが。てか、大人の女に媚びるのは上手いかもしれない。
俺達がお金ないから働かせてくれって土下座した時も、スチルのおかげでまあ割とこころよく主人がOK出したんだもんな。
俺だけだったらどうなっていた事か。
その時のあざとさっつーか、やり手具合はなかったぜ。
眉を下げて悲しげに見上げるだけで、イチコロだったっぽいもんな。あいつこのまま成長したら、ぜってーロクな大人にならねえぞ。
最悪、ヒモとかジゴロになるんじゃなかろうか。なんて俺が心配することじゃないが。
「聞いてるのッ、メイト。モリナーガ!」
「ぅえっ!? あ。はいはいはい!!!」
やっべ、すっかりボーッとしてた。
しっかり仕事をしつつも、俺をどやしつける彼女に慌てて意識を向ける。
「あのですね、俺は確かに文無しだし武器もないですけど。諸事情っていうか、のっぴきならない出来事があったというか……」
パーティ追放されて冤罪かぶってボコられましたなんて言えるわけないけどな。
「とにかく貴方は私にとって要注意人物です。なにか不審な事があれば、すぐさまここから叩きだしますから」
「えっ、あ、えぇ!?」
「だいたいあの方は慈悲深すぎるのです。こんなどこの馬の骨とも知れぬ輩を住み込みで働かせるなんて――」
「あらあら~、ずいぶんと褒めてくれてるのね♡」
「!!!」
俺たちの後ろから音もなく。なんなら気配すらなく現れた存在の声に、二人揃って飛び上がらんくらいにビクついた。
「アメリア様ッ!?」
「うふふ。エルちゃんが褒めてくれるからつい嬉しくて出てきちゃった♡」
「あ、あ、そ、それは……」
さっきまで険しい顔で俺を睨みつけていた先輩が、一気に気まずそうな表情になってうつむき気味だ。
対してアメリア様と呼ばれた女は穏やか、かつ優雅に微笑んだ。
「エルちゃんってば。本当に私のことを慕ってくれるわねえ」
その口調はどこぞのご令嬢のように上品。それだけじゃなく、見た目も限りなくお嬢様だった。
やわらかな栗色の髪を巻いた、優しげな美人。ほんと、こんな町の宿屋を経営してるとは思えない気品ただよう風体に俺は思わず小さく息をついた。
「いつものツンツンなエルちゃんも可愛いけれども、今のデレた貴女も素敵だわ」
「わっ、私はデレてなんて畏れ多い……」
「うふふ♡」
悔しそうに目を伏せている先輩の顔は真っ赤だ。
気が強く仕事の鬼ですって感じの彼女の一番の弱点はこの女主人らしい。まるで貴族の伯爵夫人とその従者かよって感じの雰囲気だけども、今の俺には好都合なわけで。
「メイトさん、うちのエルちゃんが失礼いたしましたね」
「えっ!? あ、はあ……いえ……」
振り返って声をかけられ、思わず俺まで緊張しちまったじゃねえか。
でもアメリアはふんわりと微笑んで。
「それはそうと。少し頼み事をしたいのですけどよろしくて?」
「え」
『よろしくて?』
なんて聞いてるが、その目は思っきり圧掛けていたと思う。
なんつーか。
『逆らったらどうなるかわかるよな?』
的なやつを。
俺だって曲がりなりにも冒険者として色々と世渡りしてきたからかもしれないが、この一見貴婦人のような彼女に妙な感じを覚えてしまうんだよな。
まあ、俺たちが文無しで宿泊費として金借りてる立場だっていうのもあるが。
「は、はあ……」
「アメリア様! まさかあの仕事を彼らにさせるおつもりですか!?」
俺が口ごもりながら返事する横で、先輩が声をあげた。
おいおいおい。気になるじゃねえか、その言い方。
思っきりフラグっつーか、やばい匂いしかしないぞ。あの仕事ってそうとうヤバいことやらされるのか、俺たち。
「あら、新人研修としては少し早いかしら?」
「僭越ながら、彼らにはまだ荷が重いかと――」
「……エルちゃん♡」
「!」
ニコニコとした彼女が先輩の言葉を遮る。
「また悪い癖が出ているわねぇ」
「も、申し訳ありません」
あくまで穏やかに。
別に激しく叱責されたわけでもないのに、一気にシュンと肩を落とす先輩。それがもう、この女主人の大物感というか貫禄を物語っているというか。
「ということでお願いね♡」
アメリアの笑顔に、俺は戦々恐々としてうなずくしか出来なかった。
古い言葉の黄金の海の都のが語源となっているらしい。
「初めて来たが、なかなか栄えている町だよな」
「あっそ」
窓から見える風景に心踊らされる俺に対して、スチルの声は暗い。
「っていうか。なんで僕までこんな事に……」
「おいおい、なにしけた顔してんだよ。元気に仕事しよーぜ!」
「アンタは逆になんでそんな元気なんだ」
朝っぱらから叩き起されての皿洗いからの洗濯、その他雑用でこき使われれば疲れた顔にもなるわな。
でもあいにく、俺はその手の下済み時代には慣れてんだよ。
「仕方ないだろ、二人とも金が無いんだから」
なんと俺のみならず、あいつもまた所持金がなかったらしい。聞く所によると森に入るまで持っていたというから、財布ごと落としたのか。はたまた知らず知らずのうちにスられたのか。
どちらにせよマヌケすぎる。
「うぅ……眠いぃ」
「おいおい、シャキッとしろよ。若いんだから」
「うっさいオッサン」
「だからオッサンじゃねーっての」
朝は弱いらしいこいつは、さっきから半泣き状態だ。
二人とも金が無いと気づいた俺たちは、宿屋の主人に華麗なスライディング土下座をキメたさ。
働くんで、許してくださいーって。
それでついでに一週間のアルバイトで当面の金を稼ごうって話になったわけ。ここの主人が話がわかるやつでよかったよ。
そうでなきゃ。俺はボコられた上にヘタすりゃ殺されてたし、スチルはどこぞの変態に売られてたかもしれねえ。
反吐が出るが、子供ってやつはそれだけで色々と需要があるんだ。
あとムカつく奴だけど、お世辞ぬきにツラだけは悪くないからかえって厄介なんだよな。
いざとなったら大人としてコイツを連れて逃げなきゃならないが、それもまた大事になるしって内心ヒヤヒヤしていたところに宿屋の主人からの提案だった。
「なにちんたらしてんの! 時間は有限なのよッ」
ドアがバンッと開けられて開口一番にどやされる。俺たちは思わず首を亀みてぇにすくめた。
「エルさん……」
「先輩と呼びなさい、新人!!」
「せ、先輩」
「頭が高い! 」
洗い物部屋に入ってきた若い女性はエルさん、もといエル先輩。この宿屋に住み込みで働くベテランで、宿屋主人とともにここを切り盛りしてるらしい。
「ほら部屋のベッドメーキングがまだ残ってるのよ! 二人のどっちでもいいから、今すぐ私と来なさい」
「え、えぇ」
すでに早朝から叩き起されこき使われてるせいか、もう腹の虫も限界なんだが。ったく、一応最初は客として来たんだから少しは手加減してくれたっていいのに。
そんな不満が顔に出ていたんだろう。彼女の眉がキッと上がった。
「メイト。貴方が来なさい」
「え?」
「聞こえなかったの? さっさとついてきなさい」
「あ、はい!」
輝くような金髪を前髪ごとひっつめにして、眉間にシワをよせた彼女の言うことに逆らうことなんて出来ない。
エルさんはどこかホッとした顔のスチルに、追加で仕事をいくつか申し付けてくるりと俺たちに向かって背を向けた。
「マジかよぉ」
「くくっ。せいぜい鬼上司の下で頑張れよー」
「おま、他人事だと思って」
ニヤニヤと笑いやがるこのクソチビを少し小突いてやろうかと手を上げかけた、が。
「なにしているのッ、言ったでしょう。時間は有限であると」
「あっ、はい!! すいません!」
叱責で弾かれたようになる俺に、スチルがまた目元だけで笑う。そして口パクで。
『ザ・マ・ア・ミ・ロ』
と。
「テメェなあ――」
「メイト・モリナーガっ!」
「は、はいぃぃっ!!!」
ああちくしょう。絶対に後で泣かしてやる。
俺はそれは固く固く誓った。
※※※
「貴方と彼。どんな関係なの」
「え?」
よくよく見れば少し塗装のはげかけたベッドに真っ白なシーツを掛けてていると、彼女がポツリとそう聞いてきた。
「見たところ親子でもないみたいだし、兄弟? にしてはなにかおかしいわ」
「ええっと」
まあ確かにそうだろうな。とは言っても関係性を問われると俺も答えに窮するというか。めちゃくちゃ複雑なんだよな、正直。
「そもそも貴方たちの身分がよく分からないわ。冒険者だというけど、どこのパーティにも属していないし。それどころか武器すらない」
「あー」
それもごもっとも。もともと野良というか一匹狼での冒険者もかなり珍しいし。その上、武器ひとつもないのもありえないだろう。百歩譲って、魔法使い単独だとしても俺の出で立ちは魔法使いのそれとはかけ離れているのは自覚しているさ。
だからこそ言い訳が思いつかないというか。
「貴方が奴隷商人なら許さないから」
「へ?」
「あんないたいけな美少年をどーこーする気なら、絶対に許さない」
「!?!?!?」
俺が、アイツを? てか、奴隷商人だと思われてる!?
ないないない、ありえない! だいたい金も持ってない商人なんているかよ。そしてアイツとは短い付き合いだが、そんな大人しくどーこーされるタイプじゃねえと思うぞ。
「可憐でか弱い愛らしい子どもを……」
「いやいやいやいや」
見た目はどーか知らんが、あいつはかなり性格も悪いクソガキなんだが。てか、大人の女に媚びるのは上手いかもしれない。
俺達がお金ないから働かせてくれって土下座した時も、スチルのおかげでまあ割とこころよく主人がOK出したんだもんな。
俺だけだったらどうなっていた事か。
その時のあざとさっつーか、やり手具合はなかったぜ。
眉を下げて悲しげに見上げるだけで、イチコロだったっぽいもんな。あいつこのまま成長したら、ぜってーロクな大人にならねえぞ。
最悪、ヒモとかジゴロになるんじゃなかろうか。なんて俺が心配することじゃないが。
「聞いてるのッ、メイト。モリナーガ!」
「ぅえっ!? あ。はいはいはい!!!」
やっべ、すっかりボーッとしてた。
しっかり仕事をしつつも、俺をどやしつける彼女に慌てて意識を向ける。
「あのですね、俺は確かに文無しだし武器もないですけど。諸事情っていうか、のっぴきならない出来事があったというか……」
パーティ追放されて冤罪かぶってボコられましたなんて言えるわけないけどな。
「とにかく貴方は私にとって要注意人物です。なにか不審な事があれば、すぐさまここから叩きだしますから」
「えっ、あ、えぇ!?」
「だいたいあの方は慈悲深すぎるのです。こんなどこの馬の骨とも知れぬ輩を住み込みで働かせるなんて――」
「あらあら~、ずいぶんと褒めてくれてるのね♡」
「!!!」
俺たちの後ろから音もなく。なんなら気配すらなく現れた存在の声に、二人揃って飛び上がらんくらいにビクついた。
「アメリア様ッ!?」
「うふふ。エルちゃんが褒めてくれるからつい嬉しくて出てきちゃった♡」
「あ、あ、そ、それは……」
さっきまで険しい顔で俺を睨みつけていた先輩が、一気に気まずそうな表情になってうつむき気味だ。
対してアメリア様と呼ばれた女は穏やか、かつ優雅に微笑んだ。
「エルちゃんってば。本当に私のことを慕ってくれるわねえ」
その口調はどこぞのご令嬢のように上品。それだけじゃなく、見た目も限りなくお嬢様だった。
やわらかな栗色の髪を巻いた、優しげな美人。ほんと、こんな町の宿屋を経営してるとは思えない気品ただよう風体に俺は思わず小さく息をついた。
「いつものツンツンなエルちゃんも可愛いけれども、今のデレた貴女も素敵だわ」
「わっ、私はデレてなんて畏れ多い……」
「うふふ♡」
悔しそうに目を伏せている先輩の顔は真っ赤だ。
気が強く仕事の鬼ですって感じの彼女の一番の弱点はこの女主人らしい。まるで貴族の伯爵夫人とその従者かよって感じの雰囲気だけども、今の俺には好都合なわけで。
「メイトさん、うちのエルちゃんが失礼いたしましたね」
「えっ!? あ、はあ……いえ……」
振り返って声をかけられ、思わず俺まで緊張しちまったじゃねえか。
でもアメリアはふんわりと微笑んで。
「それはそうと。少し頼み事をしたいのですけどよろしくて?」
「え」
『よろしくて?』
なんて聞いてるが、その目は思っきり圧掛けていたと思う。
なんつーか。
『逆らったらどうなるかわかるよな?』
的なやつを。
俺だって曲がりなりにも冒険者として色々と世渡りしてきたからかもしれないが、この一見貴婦人のような彼女に妙な感じを覚えてしまうんだよな。
まあ、俺たちが文無しで宿泊費として金借りてる立場だっていうのもあるが。
「は、はあ……」
「アメリア様! まさかあの仕事を彼らにさせるおつもりですか!?」
俺が口ごもりながら返事する横で、先輩が声をあげた。
おいおいおい。気になるじゃねえか、その言い方。
思っきりフラグっつーか、やばい匂いしかしないぞ。あの仕事ってそうとうヤバいことやらされるのか、俺たち。
「あら、新人研修としては少し早いかしら?」
「僭越ながら、彼らにはまだ荷が重いかと――」
「……エルちゃん♡」
「!」
ニコニコとした彼女が先輩の言葉を遮る。
「また悪い癖が出ているわねぇ」
「も、申し訳ありません」
あくまで穏やかに。
別に激しく叱責されたわけでもないのに、一気にシュンと肩を落とす先輩。それがもう、この女主人の大物感というか貫禄を物語っているというか。
「ということでお願いね♡」
アメリアの笑顔に、俺は戦々恐々としてうなずくしか出来なかった。
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