世界を救った勇者ですが童帝(童貞)の嫁になるようです

田中 乃那加

文字の大きさ
53 / 94

路地裏の機械仕掛けの逆向き時計

 それを人は過去の遺物として、忘却の鉄屑オルビー・メタル と呼んでいた。
 これはかつて、ここが魔法の存在しない世界であった時代にさかのぼる。
 岩ひとつ動かすのにも、人は知恵と労力を使っていた。
 空も飛べないし、地を駆けるのも恐ろしく遅い。
 あらゆる動物や種族の中で、人間が一番愚鈍で弱い存在であった。
 しかし人間は、進化した。魔力を持つ者との交配や突然変異などによって、彼らは魔法を手に入れたのだ。
 いまや魔力を完全に持たない者は希少で、アレックスのように魔法対してアレルギー反応起こすのも大変珍しいこととなっている。

「……あリが、とウ……」

 すらりとした足。眩しいほどに白い肌に、恐ろしいほどに整った血の気のない容姿。
 華奢な少女が妖精のように、たたずんでいた。
 が可憐で優雅な仕草でお辞儀をした時、ほんのわずかに金属が軋む音がした。

「アレッ……ク……ス」
「っ、なにヨ。その女! まさか――機械仕掛け人形オートマタ!?」

 呆然と立ち尽くすアレックスの代わりに、ミナナが驚愕の声をあげた。
 首元に、大きく刻まれた数字は黒い刺青。製造番号。
 この少女が人間でなく、鉄で出来た自動人形だという証だ。
 
「わた、シの……名、前、は……アリス」

 ぎこちないまばたきを繰り返し、口調も抑揚が不自然だ。
 やはり、古の機械人形といったところか。
 それは同じ人工物である、ゴーレムとも様子が違っていた。

「思い出したのか」
「は……い。わたし、記憶と、姿形を……奪われまシタ。正式名称、ALICE:36752917……型番――」

 自らの個体情報を滔々とうとうと語り始める少女に、ミナナとアレックスは顔を見合わせる。
 
「ちょ、待つネ! コイツ、人間じゃなかったのか!?」
「そうみたいだな」

 彼に自分を殴って直させたのも、無意識下で分かっていたのかもしれない。
 本当の姿を。
 少女の名はALICE――ここではアリス、としておこう。
 彼女はいにしえに造られた自動人形。つまりアンドロイドである。
 その形を変え、記憶をも奪ったのは誰か。その事を問うと。

「わ……たしは、捕獲、されまシタ。魔王、と名乗っタ、男に……」
「魔王?」

 彼は首を傾げた。
 ステラが最初に言ったではないか。
『大臣の命令で』と。
 しかも彼女は王城仕えのメイドなのだ。膨れ上がる疑問に、顔を険しくする。
 そんな時であった。

「アリス! アリスじゃあないか!! 君はアリス! 迷い子のアリス!!!」
「ギャッ!?」

 突然叫んで飛び上がったのは、ヘンリー・マクトウィプス。存在感の薄いんだか濃いんだが分からない、バニー男である。
 支えていたミナナをあっさりと放り出し、少女の元に駆け寄った。

「ちょっ、なにするヨ! この変態兎男!!!」
「アリスアリスアリスアリス。君は本当にアリスなのかい!?」
「……聞いてないヨ。この野郎」

 当然飛んでくる彼女の罵声など、聞こえないらしい。
 アリスの足元にうずくまると、大きな泣き声をあげてわめき始めたのだ。

「あぁっ、会いたかった、我が水先案内人! 大切な道標みちしるべ。永遠の時を超えるカカシのお嬢さん!!!」
「な、なんなの、コイツ……」

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら号泣するバニーガール男に、ドン引きするのはミナナだけではない。
 しかもその間、アリスは微動だにせずジッと彼を見下ろしている。

「ヘンリー・マクトウィプス。ハート味のタルトを盗んだ者」
「あれは自分ではない! あの忌々しい王子ジャックの仕業だ。君だって裁判を見てただろう、自分は布告役なのに!」
「裁判は再び行われた。判決の後に刑を、と」
「ああっ、もう一度お慈悲を……」
「女王様は、首をねろ、と」
「なんてこと!! せっかく時計が直ったのに!」
 
 奇妙な会話の後、また泣き崩れる姿を見てもその表情にはなんの色も浮かばない。
 ただ無機質な美しい顔を傾けているだけだ。

「おい、お前たち」

 うんざりした声で、アレックスは割って入る。
 いい加減、話が見えなくてイライラしてきたのだ。
 するとアリスが、機械的な笑みと共に丁寧な仕草で頭を下げた。

「我ガ、女王陛下の、元ヘ、お越シください」

(やれやれ、魔王の次は女王かよ)

 肩をすくめたが仕方ない。

「分かった。その女王陛下とやらの所へ連れて行け。その前に、この死神の鎌を――って!?」

 先程まで暴れ尽くしていた大鎌は、まるで持ち主の元へ帰るかのようにあっさりと彼女の手の中へ降りてきたのだ。
 いつの間にか、ぶら下がっていたステラの姿はなく。その刃の煌めきは、先程より精彩を放っている。
 これが本来の死神の鎌だ、と言わんばかりで。

「これは、わたシのもの、です」

 この魔道具の所有者は彼女。
 どうやら魔王に奪われ、さらに記憶と姿かたちを変えられてしまったらしい。
 
「魔王、恐ろシイ男……わたシの、すべてを、奪っタ……」

 長いまつ毛を伏せてつぶやく。
 
「魔王を、倒さなけれ、ば。危険な、男。だから、女王陛下に――」
「分かった……って、まぁ正直良く分からんが。とりあえずその女王陛下ってヤツに会えばいいんだな?」

 アレックスは大きく息を吐いて、うなずいた。
 不明な事が多すぎる。
 まずはアレンが倒したはずの魔王が生きている、ということ。
 そして魔王も彼を狙っていて、どうやらそこへ王国側も絡んでいる。
 言わば三つ巴の修羅場であるが、その上に魔王をもう一度倒そうとする『女王陛下』という存在がいる。

(色々と盛り込み過ぎだぜ)

 彼はただ、愛する人にプロポーズをしたいだけなのに。
 
(モテる奴を妻にするのは、苦労するな)


 今更ながら、とんでもない相手に恋をしたものだ。
 それだけ彼が魅力的だと言われたら、何も言えまい。しかしライバルが多いのも、考えもの。
 
(アレンは今、どうしているのだろう)

 魔王側に囚われているのか。酷い仕打ちをされていないだろうか。
 一番心配なのは、彼も洗脳されていないかということだ。
 助け出したのはいいが、自分のことを完全に忘れていたら。

(それは……病む)

 ヤンデレの自覚はないが、こればかりは参ってしまうだろう。
 こんなことなら、さっさと結婚しておくんだった。
 次にその顔を見たら、もう離してはやれない。ずっと手元においておくだろう。
 そのためなら、どんな手段も厭わない。
 あとアレン自身にも、しっかり教えこまなければならない。
 心でも身体でも。何度も何度も。

「まずは監禁して調教するか」
「アレックス。その変態思考、口に出てるネ」
「うむ」

 ミナナの呆れたような声も届いていない。
 妄想状態に入った彼の頭の中は、ピンク一色。
 愛しい人との再会セ〇クスから、監禁と調教プレイ、最後は愛の溢れるイチャイチャ。ついには彼の妊娠発覚と子育てまで思い描く始末だ。
 
(最初は女の子が望ましいな……いや、男の子は母親に似るというから……いやいや、息子と言えどアレン母親に惹かれちまうかもしれねぇ。親子での泥沼は避けなければ……しかし最低、五人は産んで欲しいしな……こりゃあ楽しみだ)

「ふふふふ」
「うわっ、キモッ! アレックスがキモいよォォッ!!!」

 思わず漏れた笑いに、ミナナが顔を引きつらせ叫ぶ。

「……まずは挙式だな」
「テメーはいっぺん死んでこい!!!」

 キリッとした顔で親指を立てる彼に、彼女がケガ人とは思えぬフットワークで飛び蹴りを食らわせた。

感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。