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番外編

※ランヴァルト視点 追及

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・・・真っ暗だ。
何も見えない、何も感じない。

やらかしてしまった。
まさか、邪眼を本人が身につけていたなんて。

邪眼の気配もしなかったから、油断してしまった。

フェレミスは無事だろうか。
俺は・・・?

目を開けたら、あのイバリンが上に乗ってたりしないよな。

それは、一生もののトラウマになる。

「・・・ルト。」

・・・誰かの声がする。
温かく柔らかい何かが、俺に触れてる。

この感触は・・・この声は・・・。

「・・・ヴァルト!!・・・きて!!」

1番愛しい、彼女の・・・。
俺の視界が、徐々に開けてくる。

「ランヴァルト!!」

シルヴィアの顔が、目の前にあった。
・・・ほ。イバリンの野郎じゃなくてよかった。

シルヴィアは、寝台に仰向けになった俺の顔を、必死に叩いている。

「シルヴィア・・・俺・・・は?」

まだクラクラする頭を抱えて起き上がると、フェレミスが寝台の下で気絶しているイバリンを覗き込んでいた。

「フェレミス?」

「おぅ、目を覚ましたか。大変だったんだぜ?お前は操られて、イバリンの野郎に身を捧げようとしたんだからな。」

「な、何!?」

「お前、シルヴィアの前であられもない姿に・・・。」

嘘だろ!?

俺が動揺していると、シルヴィアが、はぁ、とため息をついた。

「もう、からかわないの、フェレミス。」

シルヴィアはそう言うと、俺にそっとキスをしてくれる。
ほっと心が安らいだ。でも、気になって仕方がない。

「シルヴィア、俺・・・。」

唇が離れた彼女に、恐る恐る聞くと、シルヴィアは首を横に振って、

「大丈夫よ。あなたの目は、私が後ろから塞いだの。でも、少しだけタイミングが遅れて、生気を吸われたから、気絶しただけ。ごめんなさい。」

と言った。俺は深呼吸して、シルヴィアを抱き締めると、

「いいんだ。ありがとう。」

と、言って、辺りを見回す。
妖婆ドゥリュテンの邪眼は?

「ホーホゥ。」

モーガンが、邪眼を咥えたまま、シルヴィアの肩にちょこんととまった。

「!!」

「大丈夫、ランヴァルト。邪眼はモーガンにくわえられたら、何もできない。」

「え!?」

「モーガンはね、フクロウを天敵とする動物系魔物全てを無抵抗にできるの。蛇、ネズミ、ウサギ、カエル、虫たちも。妖婆ドゥリュテンは蛇系の魔物なんですってね。」

「あ、あぁ。」

「モーガンは、お養父様が私のために見つけてきてくれた、特別なフクロウ。モーガンのくちばしや爪に捕らえられた魔物たちは、大人しくなる。」

そうだったのか。だから、イバリンはシルヴィアに、フクロウを連れてくるなと言っていたんだな。

モーガンの力は知らなくても、危険を察知した邪眼が奴に言わせていたかもしれない。

モーガンに咥えられた邪眼は、大人しくなっている。

すごいフクロウだな。
あの、ヴァン伯爵が見つけてくるくらいだから、相当特別な存在なんだろう。

さて、イバリンの野郎はまだ、おねんねしてるのか?
奴は、床に伸びたまま、ピクリともしない。

「イバリンは、フェレミスが気絶させたのか?」

と、俺がフェレミスに聞くと、

「いや?モーガンが邪眼をくわえた途端に、気絶しやがった。おーい、起きな!」

と言ってイバリンの顔をペチペチと叩く。

よく見ると、彼はもう一つペンダントを下げていた。

「法王府の紋章の入ったペンダント。イシュポラがしていたやつだ。」

俺はそう言って、イバリンのペンダントを外す。
これが、邪眼の気配まで抑えていたんだな。

まったくろくなことに使わないな。

「うーん・・・。」

イバリンが目を覚ました。

そして俺たちに気づくと、目をパチパチさせて、ゆっくりフェレミスの方を見る。

「レミス・・・んー!」

イバリンは真っ直ぐキスをしようとしたので、フェレミスはすぐに顔を抑えて、遠ざけた。

「はいはあい。もう、レミスはいませーん。」
「なぬ?」

フェレミスも俺も、その場で変装を解いた。

「フハ!?な、何!?お前ら!」

イバリンは目を白黒させている。
俺は、奴の胸ぐらを掴んで立たせた。

「騒ぐなよ。お前はシルヴィアを利用して、ギルドとハンターから、金を巻き上げるつもりだったんだろ?」

俺が言うと、イバリン不敵に笑う。

「フハハ!なんのことやら!」

「ふざけんな。邪眼の力を使って、ギルドの内部の人間を操ってたんだろ?ギルドマスターや事務長以外の奴らを。」

「フハ!さぁてなぁ。」

「それに、シルヴィアを酷使して、ハンターを飛び級させては、報酬をもらってたな」

「フハ、あの吸血鬼が、勝手に成果を譲っていただけだ!『人の役に立ちたい』とな。俺は何も強制なんてしてないぞ。」

「その割に、お前彼女を酷使してたよな。」

「フハハ、コンサルタントとして、適正な指示を与えていただけだ。」

「散々トラップにかけさせて、戦闘まで1人でやらせる。これが適正な指示だと?」

「フハハ、クライアントに怪我をさせるわけにいかんだろ。それに吸血鬼は不死身で、体力も無制限。『持つ者』が『持たざる者』のために能力を使うのは悪いことじゃない。」

出た。こいつの得意技。
シルヴィアも、俯いてしまっている。

「シルヴィア、言葉に囚われるな。事実だけを見ろ。」

俺はシルヴィアに声をかけた。
シルヴィアは、俺の方を見つめる。

「こいつのしたことは、シルヴィアの言葉をいいように解釈して、自分の金儲けに利用しただけなんだよ。」

イバリンは、ふん!とふんぞりかえる。

「フハハ、証拠は?吸血鬼の指名はあくまで、パーティの代表者が行い、私と吸血鬼との間に金銭の授受はない。『居合わせただけ』の私に罪はない。」

「シルヴィアと何回同行した?おそらく数十回を超えるはずだ。それが、全て居合わせただけだと?」

「フハハ、人の縁はわからんものだなぁ。」

「ほぉ、それじゃ、シルヴィアが同行しなくなっても、『縁』だから仕方ないな?」

俺の言葉に、イバリンの顔が引きつる。
揚げ足取りが、自分だけの特技だと思うなよ、この野郎。

イバリンは、居直ろうと必死だ。

「フハ・・・は!私はかまわんが?
おい、吸血鬼。やっぱりお前、恋人に泣きついたな。」

「!!」

「フハハ、私1人じゃ解決できないのぉ、なんとかしてぇー、てか。女はいいな!そうやって泣きつけば、守ってもらえる。だがな!」

イバリンは俺の手を振り払って、シルヴィアを睨みつける。

「フハン!バラしたらどうなるか、言っていただろうが!!お前と組んだハンター全員降格させてやる!!」

「!!」

イバリンは、自信満々に胸に手を当てる。
でも、邪眼がないことがわかると、あたふたしだした。

やっぱり邪眼の力で、ギルド関係者を操ってたな。

「・・・どうやって?」

俺が腕を組んで聞くと、イバリンは考え込んでしまった。
でも、すぐに顔を上げて、ビシッとシルヴィアを指さす。

「フハン!プランBだ!」

・・・はぁ?往生際の悪い。
屁理屈でもこねる気か?

「フハ!お前の力で飛び級した連中のほとんどは、実力不足のヘタレどもだ。だが、奴らはそのクラスを手にした以上、低ランクの仕事ばかり引き受けられない。人目があるからな。」

「・・・。」

「フハハン!これからも、お前が支えてやらんと、奴らは魔物に狩られて死ぬぞ?生き残った仲間や家族は、見捨てたお前を恨むだろう。」

「・・・!」

「フハ、『人のために』というお題目を掲げるなら、途中で投げ出すのは、無責任だ!そうだろう!!お前はこれからも、奴らのようなハンターの消耗品であり続けるしかないんだ!!」

シルヴィアが、悔しそうな顔になる。一人で来させなくてよかった。

ここまで言われたら、呑まれてしまう。
俺は、奴を睨みつけた。

「彼女は、誰にも泣きついてない。俺たちは、自分たちの意志で動いただけだ。」

「フ、フハ?」

「あんた、『人のために』という彼女の信念を、舐めてんのか?何度命を助けられた?何度彼女の後ろに隠れた?無傷で生還するありがたさを、どこまで理解してる?」

こんな野郎に彼女は潰させない。
絶対に。


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