ニャンダリーナ国のダイヤ・サンディ

たからかた

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ニャンダリーナ国のダイヤ・サンディ 第三話

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「あの・・・、こんな感じでお洋服や宝石やお金もなくなるのですか?」
私が尋ねると、
「ええ、私が使おうと準備すると、それからなくなります。
おかげで、何から何まで二つ用意しないと使えないのです。」
ジャムプリン夫人が答えた。 

「大変ですね。」
私が言うと、ジャムプリン夫人は、にっこりと笑った。
「私が使おうとするとなくなるわけですから、使わなければいいのです。それはいいのですけど、本当に大切なものまでなくなるのは困りますから、なんとかしていただきたいの。」

私たちはお茶を飲み終えると、セバスチャンに頼んで、他の部屋を見て回ることにした。
次はジャムプリン夫人の衣装部屋だ。
中に入ると、先程震えていたジェニーが、夫人の衣装を整理していた。

「あ、すみません。すぐに出ます!」
ジェニーは、ささっと早歩きで出ようとする。
私は思わず呼び止めた。
「いいのよ、ジェニーさん。
あなたがここを担当してるの?」

ジェニーは頷いた。
「はい、お洗濯の終わったお衣装を戻すのが仕事です。」
見ると、衣装も二着ずつある。
「まだ、日が浅いようね?」
シャロンに見つめられ、少し怯えたようにジェニーは、下を向く。
「はい、こちらのお屋敷に来たばかりです。」

「さっきも怖がってらしたね。」
私が言うとジェニーが不安そうな顔をした。
「だ、だってみんなこれはアダム伯爵の呪いだというんです。
リチャード王子に乗り換えて、伯爵を捨てたからだと。」
「ジェニー!」
セバスチャンがジェニーを叱る。

ジェニーは、一瞬ひるんだが、キッとセバスチャンを睨みつける。
「執事は怖くないんですか!?いつか物ばかりではなく、私たちも消えるんじゃないかとみんな言ってるんです!
夫人は大金持ちだから補充すればいいとお考えかもしれませんが!」

セバスチャンは、困惑したようにジェニーを見つめる。
「それはないと言ってるだろ?
お客様の前で余計なことを言うんじゃない。」
ジェニーは、悔しそうに口を引き結ぶと、お辞儀をして退室して行った。

私はその様子を見ながら、衣装部屋を見回す。
シャロンはシャロンで、どの呪文にしようか思案しているようだった。
私はセバスチャンに、
「失礼ですが、宝石やお金も保管庫にあるうちは消えず、夫人が使用しようと消えるのですね?」
と、尋ねた。

「はい。
それと現金はいざ知らず、高価な服や宝石は転売の可能性があるので調べておりますが、今まで一つも行方が掴めていません。
外も中も警備は厳重なのです。我々も打つ手がございません。」
と、セバスチャンは、訴えた。

シャロンは屋敷中に探索と結界の魔法を張るといって、外に出て行った。
私はセバスチャンにジャムプリン夫人が着替える時間を尋ねると、もうすぐ出かけるのでちょうどその時間だと教えてもらえた。

私は魔道具の砂時計を取り出し、セバスチャンに事情を話して、服を選びに来るのを待った。

ジャムプリン夫人が現れ、私は砂時計を構えて衣装の側に立つ。
彼女が衣装を選び始め、どれにするか決まってから、私は砂時計を傾け、そのまま横に寝かせた状態で固定した。砂の流れが止まり、周囲の時も止まる。 

私はジャムプリン夫人の衣装を見た。
二組とも消えてない。

そのまま少しずつ砂時計を傾け、ゆっくり砂を流していく。
それに合わせて時間がスローモーションとなり、ゆっくり進み始める。
衣装は、まだ消えない。
もう少し時を進める。
それでも消えない。
誰かが盗みに来る様子もない。
念のために二組の衣装の端を掴んでみた。
どちらもまだ消えない。

ジャムプリン夫人と一緒にきたメイドが、衣装をニ組持っていこうとゆっくり触れる。
その時も、衣装は消えない。
ちゃんとそこにあるのだ。
そのままじっくり様子を伺う。
メイドが衣装を持って、ジャムプリン夫人とともに、隣の更衣室へ向かう廊下を歩き始める。
私は服の端を握ったまま、ついていくことにした。

しばらくすると、持っていた服が、何かに引っ張られ始めた。
さらに砂時計を微妙な角度に構え、よりゆっくり流れるよう調整する。
ほとんど止まったかのような時の流れの中、廊下がもう一つ見え始めた。

先に歩いているのは、ジャムプリン夫人と着替えを手伝うメイド。
もう一つの廊下にも同じ光景があった。
まるで鏡のように。
ただ、もう一つの光景では、引っ張られている服は一着だけ。
二組ある衣装の一組を分け合うように、持ち去っていく。

そしてもう一つ驚いた。
目の前のもう一つの光景の中に、私もいる。
同じように服の端を握っていた。

もう一人の自分も、同じように砂時計を傾けている。
その自分が、何かに気づいたように振り向く。
互いに顔を見合わせて驚いてしまい、手元をよく見ていなかった。
砂時計が大きく傾き、砂が勢いよく流れて、時の流れの速さが戻ってしまった。

気がつくと先程の廊下を、最初と同じように歩いていた。
しかし、衣装は一組だけになっている。

もう一度先程の時間まで戻そうか考えたが、次また同じことが起こるだろうし、その時にはっきりさせることにした。

シャロンの追跡の魔法が発動しないわけだ。
屋敷の外に持ち出されてなどいない。
同時間軸に存在する並行世界の一つ、そこに物が移動しているのだ。

私はジャムプリン夫人に、戻ってきたら話があると伝えて、シャロンを探した。
シャロンは客間に通されおり、精根尽き果てた状態でソファに横になっていた。


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