ニャンダリーナ国のダイヤ・サンディ

たからかた

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番外編

ニャンダリーナ国のダイヤ・サンディ ジャクリーヌ中編

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ダイヤ・サンディを、ジャムプリンの名前で呼びつけた。
噂通り綺麗な猫。
礼儀正しく物腰も柔らかい。
少しすましてるけど、無礼というわけではない。

あまりこちらのやることに口を出さぬよう、
契約書に明記してサインさせる。

支払われる報酬の額に驚いていたけれど、大人しくこちらのやることに従ってくれた。

もう一匹の私をメイドに変装してサポートしていく計画は、思ったより上手くいった。

そして少しくらいのミスなら、ダイヤ・サンディを使えば取り戻せた。

彼女が砂時計を使って時を操る時、彼女に触れていれば記憶の巻き戻しの影響を受けない。

あの砂時計ほしい。
でも、彼女にしか使えないそうだ。
彼女以外が使っても時は動かないし、何より彼女以外触れることができない。
一度触れようとしたことがあったが、すり抜けて掴むことができなかった。

そして、あの不思議な色をしたスプーン。
彼女が魔法を使う時さりげなく出し入れしているのをみるが、どう使うのかイマイチわからない。
・・・、まあいい。

このまま時が経てば、この魔法は成就するのだから。

100日目を迎えて、『入れ替わりの法』がもうすぐ成就する時が近づいていた。

しかし、ここで思わぬ反撃に遭う。
ダイヤ・サンディが時を戻すことを拒否し、こちらのやることを邪魔し始めたのだ。

どうやら、こちらの意図に気づいたようだ。もはやこの魔法は破られるだろう。
私はもう一匹の私を逃して、悔しさに震えながら新たな世界に飛んだ。

新たな世界でも、この世界の私は一匹で泣いていた。
私は彼女の前足を握り絶対に幸せにすると誓う。

今度こそ、上手くやらないと。

そう思って望んだのに・・・。

ジャムプリンの屋敷にマッシュ王子、リチャード王子、アダム伯爵まで、あれよあれよという間に押しかけ、一悶着あった。

成り行きでもう一匹のこの世界の私は、ジャムプリンに思いの丈をぶつけている。

その時のジャムプリンの顔、今でも忘れない。
何言ってんの?という顔。
理解する気もなければ、考える気もない顔。

ああ、届かないわけだ。
この雌猫に何を言おうと、壁に話してるかのように虚しいだけ。

そのうち強盗団まで来た。
捕まえられた後、人質が多すぎると追い出されたけど、この世界の私が心配で、こっそり中を覗いていた。

中では、この世界の私がアダム伯爵にプロポーズされていた。

でも、見ている私も少しも嬉しくなかった。
死にたくない、助けてくれというメッセージにしか聞こえなかったからだ。

ちゃんと愛されたいのに、こんな扱い。
そんな時、強盗団の一匹の雄猫にこの世界の私が乱暴されそうになった。
流石に緊張したが、マッシュ王子が必死に庇ってくれていた。

ボロボロにされているのに、決して己の身を守ろうとはせず、私の盾になってくれている。

私は知らぬ間に涙が流れていた。
やがてジャムプリンが、強盗団のイケメン雄猫に乗り換える事態となり、強盗団はジャムプリンと彼女のお金を持って退散して行った。

相変わらずモテる猫。

中では、この世界の私とマッシュ王子が楽しそうに話していた。アダム伯爵が外に出ていくが追おうとはしない。

私はこの世界の私の幸せそうな顔を見て、心底嬉しくなった。
新しい恋がここに誕生したのだ。

おめでとう、そう言いたいのに、なぜか嫉妬心が起きて外に出る。

通りをあてどなく歩いていると、シャロンとダイヤ・サンディが出てきた。

全部こいつらの仕業!?

私はダイヤ・サンディをひっぱたきたくて、身構えた。
そんな私に彼女は、驚くほど優しく接してくれた。
元の世界に戻れば、私はマッシュ王子に愛されているはずだと、言ってくれた。

耐えきれず涙が溢れる。
無理。
もう一度渡れば死んでしまう。
そのくらい大きな代償を必要とするのだ。

そんな私を抱きしめて、解決したのもダイヤ・サンディだった。
私の母に頼み込んで、元の世界に戻れる手伝いをしてくれた。

母が2匹だけで部屋で話したいというから、シャロンと外にいたけれど、声が大きくて何を話しているのかだだ漏れだった。

驚いた。
彼女は奴隷階級の魔法使いで、偽名を名乗っていたこと。
その現実を、変えて欲しいと切実に願っていること。
あの澄ました顔に、こんな苦悩があったなんて・・・。

私のしたことは許されないことなのに、私を罰するのではなく、新しい幸せを掴ませようと計画したのもダイヤ・サンディだと、シャロンから教えてもらった。

私のこと・・・わかってくれる猫もいるんだ。
力を貸そうと、手を差し伸べようとしてくれる猫もいるんだ。

そう思ったら、これまでとは違う意味で涙が溢れた。
私も、私もいつかこんな猫になろう。
ちゃんと相手を理解して、力を貸せるように。

元の世界に帰る時、私はダイヤ・サンディの本当の名前を教えてもらった。

バニラ・ヴァジュ・アダマス0101。

少し緊張した様子で、答えてくれた。
私は彼女の名前を呼んで、元の世界へと渡った。

元の世界の屋敷の近くに降り立つ。
ぽつんと一匹。
誰も待ってなんかない。
わかっていたことだけど、やはり寂しい。

きっと、これも私が受ける罰のうちなんだろうと、自分の屋敷に戻ろうとした時、マッシュ王子の一行がいた。

さっきの世界では恋が始まったけど、こちらの世界で私たちは上流階級のパーティーで顔を知ってる程度の関係。

挨拶くらいしか交わしたことはない。
バニラがこちらの世界でもマッシュ王子に愛されると言ったけど、きっかけも何もなく恋は始まらないはず。

なのに、何してるんだろう。














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